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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十一章 殺しの遺伝子、滅びの遺伝子
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 タンプル搭の奪還に成功し、施設の復旧が進んで総司令部として辛うじて機能し始めたことで、今まで本拠地として使用していたジャック・ド・モレー級戦艦の準同型艦『キャメロット』は役目を終えた。


 艦橋の周囲に搭載されていた高角砲や対空機銃は既に取り外されているからなのか、未完成の戦艦なのではないかと思ってしまうほどシンプルな外見に変わってしまっている。艦内に住んでいた兵士や彼らの家族たちもタンプル搭の居住区に移り住んだため、艦内の居住区も閉鎖されているという。


 上層部では、この艦をこのまま記念艦として保存するのは勿体ないということで、新兵のための練習艦に転用するか、武装して戦艦として再び就役させるという案が出ているという。セシリアとサクヤさんはこの艦に古代文明の装備を搭載させ、実験に使うという案を提唱しているらしい。


 個人的にはこの艦も戦艦として再び就役させる案か、セシリアたちが提唱している実験に使うという案を支持したいところだ。新兵の錬度を上げるのも重要だが、いくら何でも虎の子のジャック・ド・モレー級戦艦を練習艦にしてしまうのは勿体ないと思う。


 防波堤から全長304mの巨体へと伸びるタラップを駆け上がり、静かになった甲板の上を見渡す。かつてはこの甲板の上でCQCの訓練をやったり、スペツナズに志願した連中の入隊試験を行っていたんだが、今ではそういった訓練用の設備もタンプル搭の方へと移されているので、この甲板を使う物は誰もいない。


 ジェイコブがサクヤさんに投げ飛ばされて海に落ちた時の事を思い出しながら、反対側の防波堤の近くに停泊している戦艦たちの方を見た。


 巨大な防波堤の周囲に、4隻のジャック・ド・モレー級戦艦が停泊している。主砲以外の武装はまだ搭載されていないし、船体に塗装もされていない。


 おそらくあれは、今回のクレイデリア侵攻作戦に協力してくれたアスマン帝国への”お礼”だろう。進軍に協力してくれた上に、アスマン帝国を通過しようとしていたヴァルツ帝国軍に通過許可を出さずに足止めしてくれたおかげで、今回の攻勢を成功させる事ができたのだ。そのお礼に、虎の子のジャック・ド・モレー級戦艦を4隻もアスマン帝国へと供与するという。


 アスマン帝国が保有する艦艇は旧式の艦ばかりらしいからな。シュタージのエージェントの話によると、辺境の艦隊では信じ難い事に未だに帆船が現役だという。


 ジャック・ド・モレー級戦艦が4隻もプレゼントされれば、アスマン帝国海軍の軍人たちは大喜びするに違いない。


 そう思いながら、ハッチを開けてキャメロットの艦内へと入っていく。


 設備の大半がタンプル搭へと移されたことによって役目を終えた艦だが、艦内にはまだ残っている設備がある。


 ――――――捕虜の収容所だ。


 今はタンプル搭の方へと様々な設備が移っているので、役目を終えた艦の内部ならば誰も見に来ることはないからな。基本的に捕虜を受け入れないテンプル騎士団が行う尋問は、非人道的としか言いようがない。平然と人体実験も捕虜を使って行っているので、これが全部公になれば世界中の先進国から非難されることだろう。


 簡単に言うと、テンプル騎士団の”闇”だ。


 だが、テンプル騎士団は先進国の弱みも握っている。


 捕虜を使って人体実験を行ったり、当たり前のように拷問を行う事ができたのは、テンプル騎士団が大半の国際条約に批准していなかったからだ。そのため、列強国たちは極秘裏にテンプル騎士団に捕虜を預け、拷問を行って彼らに情報を吐かせるように依頼することも多かったという。


 未だにどの国がクライアントだったのかという記録も残っているので、テンプル騎士団が裏で行っているこれを公にするという事は、列強国からすれば自分のこめかみに拳銃を突き付け、トリガーを引く行為に等しいというわけだ。


 今は、この役目を終えた艦の中にある部屋が”ブラックサイト”と化している。


 艦内へと入ると、トンプソンM1928を背負った2人のホムンクルス兵が見張りをしていた。黒い制服に身を包んでいるが、一般的な制服とはデザインが違う。左肩には表紙に髑髏が描かれた分厚い本のエンブレムが描かれている。


 シュタージのエージェントだ。


「お疲れ様であります、同志”大尉”」


「お疲れ様。捕虜に会いに来たんだが」


「念のため身分証明書を」


「はいはい」


 内ポケットから身分証明書を取り出し、ホムンクルス兵に提示する。2人はそれを確認してから返却すると、「どうぞ、一番奥です」と言ってから俺を通してくれた。


 今回のタンプル搭奪作戦とアルカディウス奪還作戦で戦果をあげたからなのか、作戦に参加したスペツナズの兵士たちはみんな階級が上がった。俺は転生者を生け捕りにしたからなのか、中尉ではなくいきなり大尉になってしまっている。


 義手で頭を掻きながら奥の部屋へと向かうと、扉の向こうからホムンクルス兵が捕虜を問い詰める声が聞こえてきた。


『吐きなさい。春季攻勢の実行はいつ? 戦力は?』


『………』


 シュタージのエージェントは、入隊する時に拷問の研修も受けるという。なので、全盛期のテンプル騎士団では捕虜の尋問や拷問を担当するのもシュタージであったと言われている。


 彼女に任せるのが正解なのかもしれないが、俺もあの女(美海)に聞きたいことがある。


 扉をノックして中に入ると、机の向こうに置かれている椅子の上に縛られている美海を問い詰めていたホムンクルス兵がこっちに向かって敬礼した。彼女に敬礼しながら尻尾でドアを閉め、机の反対側にいる美海の方を見下ろす。


 ホムンクルス兵から暴行を受けたからなのか、可愛そうなことに彼女の顔にはいくつか痣があった。殴るだけでは甘いのではないかと思いながら机の上を見てみると、ペンチ、釘、ハンマーがずらりと並んでいる。これから”使う”ところだったのだろうか。


「お疲れ様であります、同志大尉」


「お疲れ。調子は?」


「はい、何も吐きません。これから爪でも剥がしてやろうと思ってたのですが」


「おー、ならもうちょっと遅れて来ればよかったかな?」


 そう言いながら肩をすくめると、拷問を担当していたホムンクルス兵は笑った。


「ええ、その方が良かったかも」


「今後は遅めに来るようにするよ。………後は任せてくれ」


「お願いします。あなたなら全部吐かせてくれるでしょう」


 どうでしょうねぇ。


 以前に生け捕りにした霧島姉妹に拷問を行い、様々な情報を吐かせたからなのか、最近はシュタージの拷問の研修に講師として呼ばれることが多くなった。なので、シュタージに所属するエージェントには教え子や知り合いも多い。


 かぶっていた赤いベレー帽を机の上に置き、ニコニコしながら美海の方へと歩いてから、唐突に彼女の顔面を義手でぶん殴る。金属製の義手でぶん殴られた美海が頭を大きく揺らし、鼻血が部屋の中に飛び散った。


「おはよう。起きてる?」


 まるで最愛の妹を起こす時のように語りかけながら、机の反対側にある椅子の上に腰を下ろす。いきなり顔面をぶん殴られた美海は、目を見開きながら鼻血を流し、こっちを見つめた。


「ああ、起きてたか。それは良かった」


「こ、この野蛮人………いきなり女子の顔面を殴るなんて………っ!」


「捕虜に男とか女は関係ない。情報を吐くか否かだ」


 ニコニコしながらそう答え、彼女の顔を凍り付かせる。


 とりあえず、普通に質問してみるとしよう。どうせ何も答えてくれないどころか罵倒されるだろうが、そうなったらいつも通りの作戦で行けばいい。徹底的に絶望させて心を折り、そこで希望をちらつかせる。それに縋ってきたら、最悪なタイミングで更に突き落とす。


 希望は、絶望のためのスパイスなのだ。


「春季攻勢が予定されるのは知ってるよな? いつ実施する?」


「教えるわけないでしょ。バカじゃないの?」


「貴様ッ、いい加減にしろ!」


 バンッ、とホムンクルス兵が外殻で覆った両手で机の上を思い切り叩く。ずらりと並んでいた釘が飛び散り、それを打ち込むために用意されていたハンマーが机の上から落下する。


「同志、落ち着け」


「しかし、同志大尉――――――――」


「研修で教えた筈だ。こういう尋問では冷静さが大事だってな」


「は、はい………」


 憎悪を剥き出しにするのは終わらせる時だけでいい。


 冷静さを維持していれば、効果的な方法を色々と思い付くものだ。


「教え子が失礼した。………………なあ、教えてくれないか? じゃないと、お前を拷問しなきゃならん」


「何よ、やりたければやればいいんじゃない? 言っておくけど何も吐かないわよ?」


「そうか………参ったな、こりゃ長くなりそうだ」


「同志大尉、もう爪を剥ぎましょう。そうすればこの愚か者も大人しく吐きます」


「それもいいが、もっと効果的な方法がある。………同志、悪いがタンプルソーダの紅茶味を買ってきてくれないか」


 確か、タンプルソーダの自販機はまだ艦内に残っていた筈だ。居住区の隅に大型のやつが置かれており、甲板の清掃を行っている新兵たちが休憩の際によくそこでタンプルソーダを購入しているという。


「え………わ、分かりました」


 財布を取り出して銀貨をホムンクルス兵に渡すと、彼女は部屋を出ていった。


「ああ、勘違いするなよ? お前の分じゃなくて俺の分だけだ」


「ふんっ」


「………ところで、三原くんはどこにいるのかな?」


 問いかけると、強気だった美海はびくりと震えた。


 個人的には春季攻勢とか帝国軍の作戦よりも、こっちの方を聞き出したい。明日花を殺した可能性がある三原の居場所を聞き出し、あいつにも復讐がしたい。あいつが殺したのであればこれ以上ないほど残酷な報復をするし、殺していなかったとしてもあいつも明日花を殴ったり犯していたクソ野郎だからしっかりと報復するが。


 もちろんお前にもな、美海。


 お前は明日花に手は出さなかったが、彼女が苦しんでいるのを嗤いながら見ていた。


 手を差し伸べずに。


「な、何で三原くんの事を聞くのよ」


「お前ら恋人同士なんだろう? 情報をちゃんと吐いた後にお前を開放した時、彼に引き取りに来てもらおうと思ってね」


「う、嘘………」


「本当だ。俺は悪魔じゃない」


 悪魔ですが。


「もちろん、情報を吐いてしまったという事も公表しない。もし帝国軍に粛清される恐れがある場合は、我々が――――――――」


「嘘よ………っ!」


 唐突に彼女はぶるぶると震え始めた。先ほどまでは問いかければ罵倒してきたというのに、今はまるでお化けに怯える小さな子供のように怖がっている。


 三原の話をしたのは失敗だったかと思いながら目を細めると、彼女は震えながら言った。


「私、知ってるわ………! あの双子を死なせたのもあんたなんでしょ………?」


「………」


「そうやって嘘をついて、最後に全部を奪って殺したんでしょ………!?」


「そんな事はしない」


「嘘つかないでよっ! この悪魔!!」


 分かってるじゃないか。


「三原くんにも復讐するつもりなんでしょ!? そんな奴に情報を教えるわけないじゃないッ!!」


「………そうか、残念だ」


 本当に残念だ。


 教えてくれたら少しばかりは楽に殺してやろうと思ったんだがな。教えてくれないというのであれば、霧島姉妹にも使った手を使わなければならない。


「またいつか会いに来るよ」


「………二度と来ないでよ、この悪魔」


 机の上に置いていたベレー帽をかぶり、椅子から立ち上がって部屋のドアを開ける。拷問に使う事になる部屋の外に出てからドアを閉めると、通路の向こうから先ほどタンプルソーダを買いに行ったホムンクルス兵が戻ってくるのが見えた。


 彼女は2人の警備兵にめんどくさそうに身分証明書を提示してから通してもらうと、こっちへと駆け寄ってきてタンプルソーダを手渡してくれた。


「どうぞ、同志大尉」


「どうも」


「何か吐かせられましたか?」


「いや、嫌われちゃった」


「………どうします? いっそのこと、指を切り落としますか?」


「あのまま放置だ。拷問はせずに放置する。その代わり、食事も与えるな。しばらくあの部屋には立ち入り禁止だ」


 何もされないというのも辛いものだ。


 薄暗くて時計すらない部屋の中で、食事を与えられずに放置される。もちろんシャワーは浴びられないし、トイレにも連れて行ってもらえない。手足を縛りつけられているというストレスと、何もされないという平穏が、彼女の心をゆっくりと壊していく。


 十分に亀裂が入った頃には、エレナが”あれ”を用意してくれることだろう。それを使えば彼女の心は完全にぶっ壊れる筈だ。


 そこで希望をちらつかせ、全てを吐かせる。


 それに美海は三原の彼女だ。既にシュタージには美海を生け捕りにした事と彼女がまだ生きていることを帝国軍に察知させるように指示を出している。これを耳にすれば三原の方も動き始めるだろう。


 今は美海を釣針に引っかけ、海の中へと放り込んだ状態だ。それを知れば(三原)は是が非でも彼女を取り戻そうとするに違いない。


 本当に使いやすいよな、敵の親しい人間を人質にしているとさ。



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