表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十章 第二次ブラスベルグ攻勢
134/744

捕虜のいない戦果

風邪は完治しました。ご心配をおかけしました。


 9年前と同じだ。


 煉獄の業火が巨大な要塞砲の砲身から噴き出し、真っ赤になった金属片が炎を纏いながら周囲へと飛び散っていく。冷却液を注入するための配管が千切れ飛び、砲身を冷却するための冷却液が、想定外の高熱に飲み込まれて純白の蒸気と化していく。


 健在だった他の薬室も立て続けに爆発し、火柱をどんどん成長させていった。


 数多の火柱が砲身を包み込んでしまえるほどの大きさに成長したかと思いきや、何度も爆風と衝撃波を浴び続け、胴体にいくつも装着された薬室を誘爆させられていた砲身がへし折れ、火の海の中へと倒壊していく。


 真っ赤に染まった岩山を見つめながら、私と姉さんは息を呑んだ。


 タンプル搭は周囲を岩山に囲まれていて、中心部にある大きな穴の中にタンプル砲などの要塞砲が配備されている。周囲を岩山で覆われているからなのか、傍から見れば火山が噴火したかのような火柱が岩山の中心部の穴から噴き上がっていた。


 薬室の中の魔力が暴発しただけではなく、発射寸前だった超高圧の魔力の塊が噴き出してしまった事によって、タンプル搭の地上は火の海と化すことになってしまったのだろう。


 黒煙に覆われつつあるタンプル搭上空から退避してくる航空隊を出迎えながら、私はあの要塞砲の破壊に成功した優秀なパイロットが乗っている筈の、真っ赤なBf109を探していた。けれども、戻ってくるのは機体のいたるところに焦げた跡がついたYak-9Tや、爆弾を投下し終えたIl-2ばかりである。中にはBf109も混じっていたが、主翼の先端部や垂直尾翼の先端部だけが赤く塗られたアーサー隊の隊員の機体ばかりだ。


 全体を真っ赤に塗装された”レッドバロン”の機体は、見当たらない。


「くっ………」


 やはり、あの爆発に呑み込まれてしまったのだろうか。


 火柱を見つめる他の兵士たちも、まだ歓声は上げていない。タンプル砲の破壊に成功したという喜びよりも、最強のエースパイロットが戻って来ないという不安の方が心の中で勝っているのだ。だから、まだ喜ぶ事ができないに違いない。


「アーサー1、応答せよ。こちらタンゴ1。応答せよ」


 傍らにいる通信兵が、アーサー1を何度も呼ぶ。けれども、無線機から彼の低い声が聞こえてくる事はなかった。


 死亡してしまったと判断したのか、若い通信兵が私の方を見上げ、悲しそうな顔で首を横に振る。あの爆炎がタンプル搭を包み込み、恐ろしい要塞砲が破壊されたという喜びを感じた頃から彼はずっとアーサー1が無事かどうか確認するために呼び続けていたのだろう。


 なのに、返事はない。


 もう戻ってくる航空機は見当たらなかった。一足先に戻ってきた他の航空機たちも、そのまま飛行場に撤退せずに私たちの頭上でぐるぐると旋回し、まるで遅れてやってくる筈の親を待つ子供のように火柱の方を見つめている。


 ダメなのだろうか。


 彼は燃え尽きてしまったのだろうか。


 そう思いながら姉さんの方を振り向いたその時だった。


『――――――ら、アー………………タンゴ1、聞こ………か―――――――』


 無線機が発し続けていたノイズを、低い声が微かに突き破る。


 通信兵もその声を聴いたのか、ぎょっとしながら無線機の方を振り向いて「こちらタンゴ1、聞こえます!」と嬉しそうに言った。


 やがて、火柱の真上に居座る黒煙に小さな穴が開いた。中から飛び出した1機の戦闘機が、黒煙の中から躍り出たのだ。


 首に下げていた双眼鏡を取り出し、その機体を凝視する。


 黒煙の中からやってきたのは、ボロボロになったBf109だった。真っ赤に塗装されている機体はいたるところが真っ黒に焦げていて、主翼の先端部は衝撃波のせいで少しばかり欠けている。垂直尾翼も先端部が削り取られていて、傍らに撃墜マークが描かれているキャノピーも割れているようだった。


 機首に搭載されているプロペラもひしゃげているらしく、1枚だけ他のプロペラとは異なる残像を描いている。更にエンジンも損傷したらしく、黒焦げになったBf109は何度もふらつきながら私たちの真上を通過していった。


 いつ墜落してもおかしくないほど損傷した機体を見上げながら、陸軍の兵士たちが歓声を上げる。かぶっていた軍帽を天空へと放り投げ、砂まみれのヘルメットを大きく振って英雄を出迎える兵士たちを見つめてから、私は姉さんの方を見た。


「無茶する人が多いわね、この騎士団は」


「…………ああ」


 祖先の代から、ずっとそうだった。


 テンプル騎士団の兵士たちは、平然と無茶をする。下手をすれば自分が死んでしまうかもしれないというのに、平然と無茶な作戦を実行し、戦果をあげて戻ってくる。


 この悪癖が治ることはないだろうな、と思いながら、私も帰還していくBf109を見送った。












 中央指令室の周囲は死体だらけだ。


 とはいってお、喜ばしい事に死んでいるのはヴァルツの連中ばかりである。黒い制服とバラクラバ帽を身に着けたスペツナズの兵士は1人も死亡していない。何名かは被弾して負傷したものの、ジェイコブがすぐに弾丸を摘出し、エリクサーを注射して治療して遅れたおかげで、負傷した兵士たちもすぐに戦闘を続行する事ができた。


 弾切れになったトンプソンM1928を肩に担ぎながら、ちらりとジェイコブの方を見る。負傷した兵士の肩から弾丸を摘出したジェイコブは、血まみれになったライフル弾を放り投げ、ポーチの中から緑色の液体が入った注射器を取り出す。


 あの液体も治療用のヒーリング・エリクサーの一種だ。現在のエリクサーは錠剤なんだか、一部のエリクサーは未だに液体のままになっている。液体のタイプのエリクサーは飲み物のように飲んでも問題はないんだが、血管に注射することによってより効果を増幅する事ができるという。


「ほら、しっかりしろ。すぐ治るから」


「す、すいません、軍曹………」


 被弾した兵士の肩の傷が、あっという間に塞がっていく。完全に傷が塞がった事を察知したその兵士は、立ち上がって肩をくるくると回すと、もう一度ジェイコブに礼を言ってから自分の銃を拾い上げ、ポーチの中から弾丸を取り出す。


「まだエリクサーはたっぷりある。被弾したら遠慮なく言えよ」


「そりゃどうも」


 この世界には一瞬で傷口を塞いでしまえる治療魔術が存在するし、服用するだけで魔術と同じく傷を塞いでしまえる回復アイテムも存在する。だが、だからと言って衛生兵が不要になるというわけではない。魔術は誰でも使えるわけではないし、回復アイテムも使い果たしてしまえば治療できなくなってしまう。


 そこで、テンプル騎士団では創設時から回復アイテムをたっぷりと携行した衛生兵を歩兵部隊などに編入することで、負傷した兵士の応急処置を行わせ、兵士たちの生存率を向上させたのである。


「キャメロット、こちらアクーラ1。陸軍と海兵隊はどうなっている?」


『こちらキャメロット。陸軍はタンプル搭内部に突入し、守備隊の殲滅を開始した模様。軍港にも海兵隊が上陸し、守備隊との戦闘を開始している』


「了解した」


「相棒、俺たちはどうする?」


 コルトM1911に新しいマガジンを装着し、スライドをコッキングしながらジェイコブは尋ねた。


「決まってるだろ、同志」


 端末を取り出し、メインアームが弾切れになってしまった仲間たちに新しい武器を支給する。とはいっても、以前までテンプル騎士団の兵士に支給されていた少しばかり古い銃ばかりだが。


 自分の分のMP18を用意してから、俺は答えた。


指揮官()を潰す」


了解ダー


「エレナ、魔力が集中しているポイントは分かるか」


 空っぽになっちまったドラムマガジンをポーチから引っこ抜き、代わりにMP18の予備のマガジンをポーチの中にぶち込みながら彼女に尋ねる。明日花にそっくりな容姿のホムンクルスの少女は、先ほどまで座っていた椅子から立ち上がると、天井を見上げながら目を見開いた。


 彼女の黄金の瞳の中で、複雑な模様で構成された術式が次々に組み上げられていく。魔術を発動する際に形成される魔法陣にも似た模様が出来上がった直後、エレナはこっちを振り向きながら答えた。


「ポイントAアルファBブラボーのどちらかかと。おそらく、Bブラボーの方が可能性は高いと思われます。こちらの方に多数の生命反応を検知」


「よし、案内しろ」


「了解」


 非人道的だとは思うが――――――戦闘用のホムンクルスは、非常に合理的な存在だとは思う。


 淡々と答えてからハンドガンを引き抜き、先頭を走り始めた小柄な少女の後について行きながら、俺はそう思った。感情がないのであれば、戦場で恐怖を感じて精神を病む恐れがないし、敵の弾丸がすぐ近くに命中しても怯えることはない。


 普通の人間の兵士を戦場で戦わせるのは、非常にハードルが高い行為なのだ。ライフル弾が命中すれば動かなくなってしまうし、砲弾が近くに着弾すれば肉片になってしまう。仮に戦場から生還する事ができたとしても、精神を病んで(PTSDになって)しまう恐れがある。


 だが、調整を受けて感情をオミットされたホムンクルスならば、一気にハードルは低くなる。


 戦わせるならば理想的な存在だ。だが――――――”非人道的だ”という気持ちが、それを肯定する事を許さない。


 何故なのだろうか。


 どうしてそう思ってしまうのだろうか。


 このようなホムンクルスを大量生産すれば、この戦争には確実に勝てる。なのに、どうしてそれを肯定する事ができないのだろう?


 そんな事を考えながら、曲がり角で立ち止まったエレナを見て後続の仲間に合図を送る。MP18を構えながら曲がり角の向こうをちらりと確認し、数名の敵兵が大慌てで武器庫からライフルを取り出しているのを確認してから、真っ先に曲がり角から躍り出た。


「て、敵兵――――――」


 慌てながら叫んだヴァルツ兵の眉間を、第一次世界大戦で猛威を振るったSMGサブマシンガンから放たれた9mm弾が貫く。がくん、と頭を揺らしながら崩れ落ちていこうとする敵兵の胴体にも何発か襲い掛かった獰猛な弾丸たちは、小さい風穴を穿ちながら血肉を周囲へと飛び散らせ、武器庫からライフルを慌てて取り出していたヴァルツ兵たちに俺たちがやってきた事を告げた。


 悪いが、これがスペツナズの挨拶だ。帽子を取り、ぺこりとお辞儀をしながら挨拶する礼儀正しい奴はこの部隊にはいない。


 MP18は第一次世界大戦にドイツ軍が投入した旧式のSMGサブマシンガンである。現代のSMGサブマシンガンと比べると命中精度は低いが、至近距離でハンドガン用の9mm弾を連射すれば容易く敵兵をズタズタにできる。


 俺が2人目の敵兵を蜂の巣にすると同時に、後続の兵士たちも曲がり角から躍り出た。姿勢を低くしながらすさまじい速度で俺を追い越したジェイコブが、2丁のコルトM1911で立て続けに3人のヴァルツ兵へ.45ACP弾をお見舞いする。空になった薬莢が回転しながら落下するよりも先に、武器庫の中から飛び出してきたヴァルツ兵の頭が吹き飛んだ。


 水平二連型のショットガンを持ったコレットが、散弾で敵兵の頭を撃ったのだ。小さな散弾たちがお構いなしに敵兵の頭の皮膚を抉り、無数の肉片や骨の破片を周囲に飛び散らせる。真っ赤に染まった頭を揺らしながら武器庫の中へと敵兵が倒れていったかと思うと、ガスマスクと防火型の制服を身に着けた小柄な獣人の少女が、ニヤリと笑いながら恐ろしい得物を武器庫の中の兵士たちへと向ける。


 一見すると銃のように見えるが、よく見ると後部にあるストックの辺りから真っ黒なホースが生えていて、彼女が背中に背負っている大きな燃料タンクへと繋がっている。


 彼女が愛用する得物は、『M2火炎放射器』と呼ばれる、アメリカ軍が第二次世界大戦に投入した恐るべき兵器だった。日本軍との戦闘で猛威を振るった兵器であり、日本軍とアメリカ軍との戦闘では数多の日本兵を焼き殺している。


 その恐るべき得物が、異世界の戦場でも”火を噴いた”。


「うわぁぁぁっ!」


「熱いっ………がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 火達磨になったヴァルツ兵たちが、絶叫しながら次々に武器庫の中から飛び出してくる。中には大慌てでエリクサーを取り出し、口の中へと放り込んで治療しようとする兵士もいたが、真っ白な錠剤が黒焦げになった口の中へと入るよりも先に、9mm弾や.45ACP弾が彼らに止めを刺す。


 黒焦げになった敵兵を踏みつけながら、通路の奥へと向かって突っ走る。


 ジュリア・タッカーは、幼少の頃に家族を皆殺しにして自分を犯した憲兵を焼き殺して以来、クソ野郎を焼き殺すことに性的興奮を感じるようになってしまったド変態である。突っ走りながら恐る恐る後ろを見てみると、ガスマスクをかぶったままジュリアは幸せそうにニヤニヤ笑い、防火服としても機能する制服の後ろから伸びている尻尾を振りながら最後尾を走っていた。


 なぜこの部隊に入隊する事ができたのだろうか。


 確かに、スペツナズは試験に合格した優秀な兵士しか入隊できない精鋭部隊である。なので、仮にド変態でも優秀な兵士ならば問題はないのだが、もし彼女に匹敵するド変態が何人も入隊して来たら、ド変態だけで構成されるド変態部隊と化してしまうのではないだろうか。


 そんな部隊になっちゃったら辞表をセシリアに渡しちゃおう、と思いつつ、ヴァルツ語で『第二指令室』と書かれたプレートがある部屋の前で立ち止まる。


 ショットガンを肩に担いだコレットが素早く爆薬を設置し、他の隊員たちが手榴弾を準備する。安全ピンを引っこ抜く準備をしながらコレットに合図した直後、彼女は素早く起爆スイッチを押した。


 爆薬が緋色の閃光を生み、第二指令室の分厚い扉を吹き飛ばす。装甲車の装甲すら引き千切ってしまうほどの破壊力がある爆薬に蹴破られた扉が第二指令室の床を打ち据えると同時に、カツン、と安全ピンを引っこ抜かれた手榴弾が7個も部屋の中へと放り投げられた。


 オーバーキルじゃないかと思った直後、7つの手榴弾が立て続けに起爆し、中にいた兵士や指揮官たちをミンチに変貌させてしまった。












 タンプル搭へと進軍したテンプル騎士団によって実施された『第二次ブラスベルグ攻勢』は、今までテンプル騎士団が実施した攻勢の中では大規模なものとなった。あらゆる種族の兵士たちが、9年前に失った祖国を取り戻すために枯れた花畑を進撃し、タンプル搭の奪還に成功したのである。


 虎の子のガルゴニス砲を失ったタンプル搭の軍港から上陸した海兵隊と、アスマン帝国方面から進軍した陸軍に挟撃された挙句、基地内部に侵入したスペツナズの奇襲によって大損害を被ったヴァルツ帝国軍は翌日の午後3時に降伏を打診したが、彼らの祖国を踏み躙り、全てを奪ったヴァルツ軍をテンプル騎士団の兵士たちは許さなかった。


 最終的に降伏は拒否され、テンプル騎士団による徹底的な殲滅戦が行われたことにより、守備隊全員が戦死し、捕虜は1人も受け入れられることはなかった。


 タンプル搭の奪還に成功したテンプル騎士団は、かつての本部で部隊の再編成を行い、クレイデリア連邦首都『アルカディウス』への攻勢の準備を始めた。


 揺り籠(クレイドル)の奪還は、近付きつつあった。



そろそろアサルトライフル出したい(血涙)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ