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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第十章 第二次ブラスベルグ攻勢
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トンネルからの潜入


 浜辺に、灰色の軍服に身を包んだダークエルフたちが並んでいる。背中にはヴァルツ製のボルトアクションライフル――――――同盟国であるため供与されたのだろう――――――を背負っているが、アスマン帝国の領土へと我が物顔で上陸した私たちを迎え撃つために背負っているわけではない。


 テンプル騎士団陸軍の兵士たちが次々にボートから降り、アスマン帝国の浜辺を黒いブーツで踏みしめた瞬間、浜辺に整列していたアスマン帝国の兵士たちが一斉に背中のボルトアクションライフルへと手を伸ばした。ライフルには既に銃剣が装着されている。


 それを見た数名の兵士が慌ててモシンナガンM1891/30を彼らへと向けたが、すぐにサクヤ姉さんが彼らの銃を掴んで下ろさせ、首を横に振る。


 彼らは敵ではない。


 アスマン帝国はヴァルツ帝国やヴリシア・フランセン帝国の同盟国であり、連合国からすればれっきとした敵国である。だが、クレイデリア国防軍やテンプル騎士団からすれば、彼らは敵国ではなく身内のような存在だ。


 すると、ボルトアクションライフルへと手を伸ばしたアスマン兵たちはライフルの銃口を私たちにではなく、天空へと向けた状態でぴたりと静止した。


「――――――予定通りの到着ですな、セシリア・ハヤカワ殿」


 銃を抱えて整列している兵士たちの奥から、灰色の軍服と軍帽を身に纏ったダークエルフの男性がゆっくりと歩いてくるのが見えた。他の兵士たちが民族衣装をアレンジしたようなデザインの軍服であるのに対して、彼が身に纏っているのは他の列強国の将校が身に纏っているようなデザインの軍服と軍帽である。


 腰に下げているのはヤタガンだろうか。


 左手で自分の顎髭に触れながら歩いてきた将校は、上陸したテンプル騎士団の兵士たちを見渡しながら微笑むと、私とサクヤ姉さんの方を見つめながら微笑んだ。


「本当に、立派な女性になられましたな」


「久しぶりだな、”ケマル”元帥」


 彼の名は『ムスタファ・ケマル』元帥。アスマン帝国軍の総司令官であり、元テンプル騎士団陸軍スペツナズの副隊長だった男だ。


 そう、アスマン帝国がクレイデリアから独立する寸前まで、ウラル教官の副官を担当していたベテランの兵士なのである。最前線で戦闘を経験した猛将だからこそ、圧倒的な兵力を誇るオルトバルカ連合王国軍を何度も退ける事ができているのだろう。


 彼に敬礼していると、近くにいたウラル教官が懐かしそうに微笑みながら前に出た。


「元気だったか、ケマル」


「ええ。隊長こそ、相変わらず昔と容姿が変わらない。羨ましいものですな」


「何を言う。寿命が長いのも辛いものだぞ」


 昔の副官と握手をしたウラル教官は、銃を抱えたまま微動だにしないアスマン兵たちの隊列を見渡した。


 テンプル騎士団に志願してスペツナズに入隊し、若き日のウラル教官と共に激戦を経験してきたケマル元帥が育て上げた兵士たちなのだろう。ダークエルフはエルフの中ではそれほど身体能力が高くないため、銃や剣を持って戦うのには向いていないと言われている筈なのだが、整列しているダークエルフたちはまるで肉体が強靭なハーフエルフのようにがっちりとしている。


「…………立派な兵士たちだ」


「手塩にかけて育てた兵士たちです。オルトバルカの野蛮人共には負けませんよ」


 そう言ってから、ケマル元帥は兵士たちに合図を送った。銃を抱えていた兵士たちが一斉に再び銃を背負い、整列した状態でくるりと後ろを振り向く。


「…………滅んだはずのテンプル騎士団の皆さんが再びクレイデリアとアスマンへやってきたのですから、出来るならば盛大に祝いたいところなのですが………残念なことに、国内にもヴァルツの連中がいます」


「ああ、分かっている。勘付かれる前に済ませたい」


「ええ。基地と燃料の手配は済んでいます。さあ、どうぞ」


 アスマン帝国とヴァルツ帝国が同盟関係である以上、アスマン帝国内にもヴァルツ軍の将校はいるだろう。もし彼らにアスマン帝国軍がテンプル騎士団の上陸やクレイデリアへの侵攻に関与していたという事がバレれば、アスマン帝国はヴァルツ側から同盟を解除され、攻撃を受けることになるだろう。


 とはいっても、アスマン帝国側も隙を見てヴァルツとの同盟を解消する予定らしいので、これがヴァルツにバレてもそれほど大きな影響はないとは思うが。


 しかし、アスマン帝国軍の装備の大半はヴァルツ製である。装備しているライフルもヴァルツ帝国軍に支給されている物と同じ銃だし、艦艇や飛行機はヴァルツ軍が退役させた旧式の兵器が支給されている。ライセンス生産なども行っているだろうが、同盟を解消されればそういった装備を生産するのも難しくなるだろう。


 そのため、同盟を解消することになったらアスマン帝国軍の装備はテンプル騎士団が支給することになっている。


 それに、今回の侵攻作戦に協力してくれた”お礼”も用意しておかなければな。


 銃を背負った兵士たちが、ケマル元帥と共に歩き始める。私も同志たちに「彼らに続け」と命じると、陸軍の兵士たちを引き連れて彼らの後について行った。












 かつて、テンプル騎士団の兵士たちは攻勢を仕掛けてくる敵に対して攻勢を敢行し、クレイデリア――――――当時は”カルガニスタン”と呼ばれていた――――――に攻め込んできた吸血鬼共に圧勝したことがあったという。


 創設された時から、テンプル騎士団は防衛戦よりも攻勢を得意としていた。弱体化した現代でもその得意分野だけは健在らしく、未だに攻勢に失敗したことは一度もないらしい。


 ランタンで暗いトンネルの中を照らしながら、スペツナズの兵士たちと共に進む。足元には鉄道用の巨大なレールがあり、かつてはこのトンネルの中を地下鉄や軍用の装甲列車が走っていた事が分かる。けれどもレールは錆び付いている上にいたるところのボルトが外れているし、トンネルの壁面は亀裂だらけだ。中には剥離して線路の上へと降り注ぎ、ちょっとしたバリケードと化している瓦礫も見受けられる。


 天井には照明らしきものもあるが、レンズは割れているし、それに電力か魔力を伝達するケーブルも断線している。このトンネルが使われていないのは火を見るよりも明らかだ。


「エレナ、現在位置は?」


「ポイントGゴルフを通過」


 小型のランタンで地図を照らしながら歩いているエレナに尋ねると、彼女は歩きながら淡々と現在位置を教えてくれた。作戦会議で確認したルートを思い出しながら現在位置を確認し、ボロボロのトンネルの中を見渡す。


 ここはもう既にクレイデリア連邦の領内だ。


 かつて、タンプル搭の地下にはこのようなトンネルが用意されており、東西南北にある要塞と繋がっていた。もしその要塞が敵の攻撃を受けて陥落した場合、脱出用の装甲列車に負傷兵や生き残った兵士を乗せて脱出させるためだ。


 やがて、そのトンネルは重要拠点や要塞だけでなく、偵察部隊が偵察を行うルートやクレイデリア国内の街にも繋がるようになり、軍用の装甲列車だけでなく地下鉄も走るようになったという。最終的にトンネルや駅はどんどん拡張され、前世の世界の地下鉄のようになっていったのだ。


 トンネルの構造が非常に複雑化していた事と、中には存在が秘匿されているトンネルもあるため、クレイデリアを占領したヴァルツ帝国軍もこの地下トンネルを完全には調べていないのだろう。迂闊に調査部隊を派遣すれば、トンネルの中で迷子になってしまう恐れもあるからな。


 だが、かつてこの国で活動していたテンプル騎士団ならばトンネルのルートや構造をすべて把握している。


 俺たちが移動しているトンネルも、存在が秘匿されたトンネルのうちの一つだった。民間人を乗せた地下鉄ではなく、がっちりとした複合装甲と戦車砲を搭載した装甲列車を走らせ、即座に地上の敵を迎撃するために掘られたトンネルである。


「まもなくポイントHホテル


「よし。同志諸君、Q-71ルートに乗り換えだ。切符を用意しておけ」


 しばらく歩いていると、左側の壁にハッチが見えた。ハッチにはオルトバルカ語で”Q-71”と記載されているのを確認してから、錆び付いたハッチを義手で掴んで少しずつ開けていく。9年以上使われていなかったハッチがトンネルの中に軋む音を響かせながら開いていき、強烈なカビの臭いがする小さな通路があらわになる。


 メンテナンス用の通路なのだろう。壁際に置かれている棚には工具が置かれているのが分かるが、9年間も放置されているせいでスパナやラチェットが錆び付いていた。


 棚の下から這い出てきた小さな虫や鼠を見たコレットが、顔をしかめながらマリウスの手を握る。彼女に手を握られると思っていなかったらしく、マリウスは顔を赤くしながらちらりとこっちを見てきた。


 羨ましいな。


 やがて、別のハッチが見えてきた。先ほどのハッチと同じく錆び付いたハッチを強引に開けると、列車用のでっかいレールやケーブルが断線しているせいで機能を停止した照明があらわになる。


「運転手さん、終点はまだかな?」


 エレナが見ている地図をちらりと見下ろしながらジェイコブが尋ねた。


「まだまだ先ですよ、お客さん。あと3時間くらいは歩くことになる。”乗り換え”もあるから間違えんようにな」


 武器を持った状態で3時間も暗いトンネルの中を歩き続けることになる。だが、スペツナズに入隊する事ができた連中は、全員入隊試験に合格してきた連中だ。次の日の朝までランニングを続ける事ができるほどの体力と精神力があるんだから、たった3時間だけトンネルの中を歩き続けるのはお手の物だろう?


 それに、休む余裕はあまりない。


 既にセシリアたちはアスマン帝国へと上陸している事だろう。そしてアスマン帝国の飛行場で空軍と合流し、空軍の将校たちと作戦会議を行ってから、いよいよタンプル搭へと向けて進軍を開始することになる。


 俺たちはその前に、タンプル搭へと潜入してタンプル砲を無力化しなければならない。


 主力打撃艦隊がヴァルツ帝国海軍の第三主力艦隊を打ち破ったことによって、ウィルバー海峡へ突入してもタンプル砲による攻撃を受ける恐れはなくなった。だが、あくまでも観測データを送信する艦艇がいなくなったことによって主力打撃艦隊を”狙えなくなった”だけであり、タンプル砲そのものはまだ生きている。


 もし観測手がこちらの部隊の座標を中央指令室へと伝えれば、再びタンプル砲が火を噴くことになるのは想像に難くない。


 だから、味方が決戦兵器で大打撃を被る前に完全に潰す必要がある。


 そこで、スペツナズは秘匿されているトンネルを利用して地下からタンプル搭へと潜入し、中央指令室を制圧してタンプル砲を使用不能にすることになったのだ。


 たった12人の兵士で敵の拠点へ潜入するため、下手をすれば包囲されてしまう恐れがある。出来るならば中央指令室を制圧してタンプル砲を使用不能にするまでは発見されないことが望ましい。


 100年以上前の吸血鬼たちの攻勢を打ち破った際も、こうして少数の兵士が地下トンネルを通って占拠された要塞へと奇襲をかけたといわれている。とはいっても、当時は強力な爆弾を地下で爆破してから突入したらしいが。


 今回の攻勢の名称は『第二次ブラスベルグ攻勢』。吸血鬼たちとの戦いの最終局面で実施された攻勢を参考にしているため、その攻勢を立案したナタリア・ブラスベルグの名前を冠したのだろう。


 重機関銃をぶっ放したり、銃剣付きのライフルで敵の塹壕へと突撃するのは陸軍の兵士たちに任せるとしよう。俺たちはサプレッサー付きの銃でこっそりと敵を仕留めつつ潜入し、味方を支援する特殊部隊なのだ。


「まもなくポイントJジュリエット


「お客さん、そろそろ乗り換えだ」


 俺たちが進むことになるルートは全て存在が秘匿されているトンネルだ。このトンネルはシュタージが情報を管理しているため、当時のテンプル騎士団でも上層部の将校くらいしかこのトンネルを知らなかったらしい。


 通常のトンネルを使うという選択肢もあるが、そちらは既にヴァルツ側が把握していたり使っている可能性が高い。タンプル搭に辿り着く前にヴァルツ軍の装甲列車と遭遇する羽目になったら、俺たちはこのトンネルの中で全滅する羽目になるだろう。


 だから、何度もトンネルを”乗り換え”しながら進軍しなければならないのだ。


 壁にあるハッチを開け、通路の奥にある錆び付いたタラップを降りていく。冒険者が使っていた物をベースにしたがっちりとしたブーツで踏みしめる度に、タラップが軋む音を上げ、剥がれ落ちた金属片がコンクリートの床へと落下していった。


 ちなみに、このトンネルを造った当時はトンネル内にトラップを仕掛けて侵入者を迎撃するという計画もあったらしいが、侵入者よりもメンテナンスに向かう作業員の方が足を踏み入れる回数が多く、トラップが存在すると彼らが危険であるために見送られたという。


 本当にトラップが設置されていなくてよかった。瓦礫だらけで足元がはっきりと見えない上に真っ暗なのだから、トラップを仕掛けられていたら厄介なことになっていたに違いない。


 更に濃くなったカビや埃の臭いを嗅いで顔をしかめながら、俺はそう思った。



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