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異世界で復讐者が現代兵器を使うとこうなる   作者: 往復ミサイル
第九章 ユヌバランド沖海戦
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クレイデリア侵攻作戦 ブリーフィング


「作戦を説明する」


 薄暗い会議室の中でセシリアが言うと同時に、サクヤさんが円卓に内蔵されている装置のスイッチを入れ、魔力を注入した。彼女の魔力によって目覚めた装置が中央部のレンズにも似た装置から小さな蒼い六角形の結晶を吐き出して、円卓の上にクレイデリア周辺の地図を形成する。


 下の方に少しだけ映っているのは、おそらくヴリシア大陸だろう。


 円卓にある席に腰を下ろしているのは、テンプル騎士団の上層部だけではなく、陸軍、海軍、空軍、海兵隊の最高司令官たちばかりだった。中にはジャック・ド・モレーで指揮を執るヴィンスキー提督もいる。


「一週間後、我が騎士団の全戦力を投入し、クレイデリア連邦(祖国)を奪還する。まず、海軍の主力打撃艦隊及び機動艦隊でウィルバー海峡の第三主力艦隊を撃滅し、海兵隊を乗せた輸送艦と共に河へと突入する。その間に陸軍と空軍はアスマン帝国側より上陸し、タンプル搭へと進軍する」


 説明を聞いた数名の将校が目を見開いた。9年前のタンプル搭陥落の後に将校となった連中だった。しかし、タンプル搭陥落以前から円卓の騎士のメンバーとなっている将校たちは微動だにせず、立体映像を注視している。


 アスマン帝国はヴァルツ帝国の同盟国である。連合国からすれば立派な敵国であり、そこへと陸軍や空軍を進軍させるという事は、普通の軍隊であればタンプル搭攻撃の前に一戦交えることを意味していた。


 新人の将校がその理由に気付いていないことを察したのか、サクヤさんが説明を始める。


「アスマン帝国は確かに帝国軍の同盟国だけど、あの国は元々クレイデリア連邦から独立して建国された”身内”よ。建国の際にはちょっとした紛争もあったけれど、それ以降は関係は改善されているわ」


 そう、アスマン帝国はテンプル騎士団の身内だ。実際に、ヴァルツ帝国は連合国軍やテンプル騎士団と交戦しているが、アスマン帝国は国内の資源を奪うために攻め込んできたオルトバルカ連合王国軍としか交戦しておらず、他国への侵攻を要請されても断っているという。


「それに、もう既にこちらのエージェントがアスマン帝国軍と接触しているわ。アスマン帝国軍最高司令官『ムスタファ・ケマル』元帥もこれを承認し、空軍のための飛行場を用意すると申し出てくれているのよ」


「空軍は進軍の際にそこで燃料補給を行い、陸軍と共にタンプル搭へと侵攻することになる。分かったか?」


「は、はっ!」


 もちろん、テンプル騎士団に飛行場を貸し出した挙句、クレイデリア侵攻の手助けをするためにテンプル騎士団の素通りを許したことをヴァルツ帝国軍が知れば、アスマン帝国は帝国軍から攻撃を受けることになるだろう。


 だが、元々アスマン帝国はヴァルツ帝国やヴりしあヴリシア・フランセン帝国とは距離を置いている。もしその2ヵ国から攻撃を受けたとしても、すぐに連合国軍に寝返るだろう。オルトバルカは猛反対するだろうがな。


「上陸した海兵隊と挟撃してタンプル搭を制圧した後、陸軍と海兵隊は合流し、空軍と共にクレイデリア連邦首都『アルカディウス』を奪還する。なお、アルカディウス市内ではこちらが密輸した武器で武装したレジスタンスも武装蜂起の準備をしており、我が軍の進軍を確認した後に攻撃を開始する予定となっている。我々はレジスタンスと協力して首都の内外から攻撃を行い、ヴァルツ帝国軍総督府を制圧する。総督府を制圧した後は、国内に残っている帝国軍の残存部隊を殲滅する予定だ」


「こ、降伏勧告はしないのですか」


 また新人の将校が質問したが、セシリアは冷たい声で「ああ、いつも通りだ」と答えた。


 テンプル騎士団は殆ど捕虜を受け入れない。国際条約には一切批准していないため、敵兵を皆殺しにしたり、降伏した敵兵を人体実験に使うのは日常茶飯事だ。


 以前からエージェントたちが首都へと潜入しており、占領された首都アルカディウス市内でレジスタンスたちに武器を届けていたという。レジスタンスの規模はそれほど大きくはないらしいが、SMGサブマシンガンで武装した敵兵がいきなり市内で武装蜂起を始めれば、首都を防衛するために集結していた敵の守備隊は確実に混乱するだろう。


 タンプル搭制圧後は市街地戦になる。ボルトアクションライフルより、SMGサブマシンガンとかアサルトライフルが欲しいところだ。


 スペツナズの隊員たちに支給する武器を考えていると、セシリアの隣に海軍の制服に身を包んだリョウがやってきた。


「では、ウィルバー海峡での作戦を説明します」


 世界地図を構築していた小さな蒼い結晶たちが崩れ去り、ウィルバー海峡が蒼い結晶たちによって再構築される。


 このウィルバー海峡での海戦が、クレイデリア侵攻作戦を左右すると言ってもいいだろう。もし海軍がこの海峡から河へと突入し、海兵隊を上陸させる事ができなければ、一足先に上陸する陸軍と空軍は海兵隊と敵軍を挟撃する事ができなくなる上に、海軍に艦砲射撃で支援してもらう事ができなくなってしまう。


 是が非でも、ウィルバー海峡から河へと突入してもらう必要があるのだ。


 しかし、迂闊にウィルバー海峡へと突入すれば――――――艦隊がタンプル砲の餌食になる。


「海戦が始まる前に、機動艦隊から艦載機を出撃させ、ウィルバー海峡で待機している敵主力打撃艦隊をひたすら攻撃します」


「艦載機で攻撃するのか?」


「敵の戦闘機が迎撃してくるのではないか?」


「敵は艦隊だぞ。対空砲火で撃ち落とされるのが関の山ではないか?」


 やはり、反論するのは新人の将校ばかりだった。ベテランの将校や提督たちはこの作戦を選んだ理由を理解しているらしく、腕を組んだまま立体映像を注視している。


「敵艦隊に”空母”という概念は存在しません。ヴァルツ帝国の連中は、海戦の主役は戦艦だと思い込んでいるようです。それに、我が軍で採用している艦載機ならば敵の航空機よりも高性能ですし、弾幕も回避できます」


 ヴァルツ帝国が採用している航空機は、未だに第一次世界大戦で空を飛んでいたような複葉機ばかりである。それに対し、こっちが採用しているのは旧日本軍やドイツ軍に大損害を与えたアメリカ軍の艦載機だ。仮に敵機と空戦を始めることになったとしてもすぐに勝負はつくだろう。


「それに、敵が模倣したタンプル砲では航空機を攻撃する事は不可能です。敵がウィルバー海峡に居座り続けるのならば、こちらは航空機と潜水艦で何度も攻撃を行い、敵艦隊に損害を与えればいい」


「――――――そして、敵艦隊を炙り出すというわけか」


 立体映像を見つめながらそう言ったのは、主力打撃艦隊の指揮を執るセルゲイ・ヴィンスキー提督だった。かつて、テンプル騎士団海軍の名将であるイワン・ブルシーロフ提督と共に激戦を経験してきたベテランの将校である。


 本当ならば9年前に退役する予定だったらしいが、タンプル搭陥落の影響で戦力不足となってしまったため、彼の退役は取り消しになり、主力打撃艦隊の指揮官という事になった。


 人間で言うともう69歳ほどだといわれている。


「その通りです。航空機はタンプル砲では狙えませんし、敵艦の対空兵器は重機関銃程度ですから航空機を撃墜するのは極めて困難でしょう。航空機と潜水艦で攻撃を行い、大損害を被った敵艦隊が海峡を出てきたところで、こちらも主力打撃艦隊を前進させて艦隊決戦を行います。観測データの送信も兼ねている敵の主力打撃艦隊が壊滅すれば、敵もタンプル砲を使えなくなります」


 敵艦隊はタンプル砲でこっちの艦隊を撃滅するために、ウィルバー海峡に居座っている。海峡の中にいるのであれば、航空機で集中攻撃を行う事は容易い。しかも敵艦は強力な対空兵器を殆ど装備していない上に、艦隊を護衛する航空機も存在しないため、爆弾や魚雷を搭載したこちらの航空機からすれば非常に簡単な作戦になるだろう。


 海峡に居座っていれば艦載機に撃沈されることを理解した敵艦隊は、タンプル砲による攻撃を諦め、海峡の外での艦隊決戦を行わざるを得なくなる。海峡から出てきてくれれば、艦艇の性能で勝っているこちらの艦隊の圧勝は確定すると言っていい。


 艦隊が壊滅し、観測データを送る事ができなくなれば、タンプル砲でウィルバー海峡へ突入するテンプル騎士団艦隊を砲撃することはできなくなる。


「我々は9年間も海を彷徨い続けた」


 愛用の扇子を取り出しながら将校たちの顔を見渡し、ゆっくりと扇子を広げるセシリア。リョウはぺこりと頭を下げてから一歩後ろへ下がり、他の将校たちと一緒に団長を見つめる。


「――――――取り戻すぞ、我々の全てを」


 そして、皆殺しにしてやろう。


 あそこに居座るクソ野郎共を。






海戦はもう少し後になります。

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