暗殺者の報復
初陣だという実感はない。
きっと、この不思議な端末の前の持ち主の記憶があるからなのだろう。彼が経験した戦いを全て知っているから、この戦いを初陣だと思う事ができない。
銃身の長いライフルを抱えたまま、砲撃で薙ぎ倒された黒焦げの倒木の脇を通過する。メインアームのルベルM1886は、現代のアサルトライフルと比べると非常に銃身が長い。長距離狙撃用のスナイパーライフルからスコープを取り外して装備しているようなものだ。銃剣があるから接近してきた敵を返り討ちにすることはできるけれど、塹壕に突入すればあまり役に立たないに違いない。
塹壕で白兵戦をすることになったら、ナイフ、スコップ、コルトM1911を使うことになるだろう。
姿勢を低くしたまま、戦場から轟いてくる音に耳を傾ける。
砲撃の爆音。銃声。兵士たちの断末魔。火薬の臭いや血の臭いと一緒に戦場を埋め尽くす、”戦場の音”。実際に戦場の音を耳にするのが初めてだというのに、やっぱり俺はその戦場で聞く羽目になる音も知っている。
砲弾が直撃したのか、屋根と壁が吹き飛ばされて半壊した小屋が見えてきた。呼吸を整えながらルベルM1886を背中に背負い、革製のホルスターの中からコルトM1911を引っ張り出す。腰の後ろにあるホルダーの中からスコップも取り出して姿勢を低くし、息を呑んでから小屋へと一気に駆け寄る。
砲弾の爆発で穿たれた大穴から、そっと中を覗き込んだ。ここはウェーダンへと侵攻しているヴァルツ帝国軍の側面だから、こんなところで敵兵が待ち伏せしているとは思えない。けれども、いるわけがないだろうと高を括って発見されたら元も子もない。今の俺は転生者の能力を使うことはできるが、ステータスは残念なことに初期ステータスのままなのだ。力を付けたり、素早く動き回るためには、訓練で自分の肉体を鍛えるしかないのである。
小屋の中には誰もいなかった。キッチンらしき部屋を見渡しながら息を吐き、スコップをホルダーの中に戻す。土埃で汚れたテーブルの上にコルトM1911を置き、ポーチの中から折り畳んでいた地図を引っ張り出してから、自分の今の位置を確認する。
諜報員が調査した帝国軍の侵攻ルートの側面だ。帝国軍から見れば、今の俺の位置は4時の方向と言ったところだろうか。
炎と黒煙に覆われた焼け野原の向こうから、銃声や兵士たちの絶叫が聞こえてくる。おそらく、セシリアたちはもう既にウェーダンの防衛ラインへと到着して、高を括っていたフランギウス軍に加勢している頃だろう。兵力ではこっちが勝っているが、兵士の戦闘力では帝国軍側がはるかに上だ。しかもこっちの兵士は実戦経験が殆どない新兵ばかりで、装備もバラバラである。
とっとと指揮官を暗殺し、敵を瓦解させる必要がある。
爆炎でぶっ壊された窓の中から双眼鏡を突き出し、焼け野原の向こうを覗き込む。どうやら帝国軍は、転生者部隊だけではなく通常の歩兵部隊も投入するつもりらしく、敵陣の後方には鉄条網や重機関銃を設置した塹壕と、ボルトアクションライフルを抱えた敵部隊が見える。
転生者たちで前衛部隊を編成し、彼らの撃ち漏らしを歩兵部隊で掃討するという作戦か。人数は不明だが、その歩兵部隊も転生者部隊の撃ち漏らしを掃討することを前提に編成されているらしく、人数はそれほど多くないようだ。
塹壕の後方には、灰色のコンクリートで造られた建物が見えた。割れた窓の向こうには、鎖にぶら下がっているピンク色のでっかい肉が見える。肉を加工する工場なのだろうか。当たり前だが、そのぶら下がっている肉は放置されていたせいで腐敗しているらしく、周囲にはハエらしき虫が飛び回っていた。
敵は拠点にあの施設を使っているのだろう。屋上にはライフルを持った見張りの兵士がいるし、門の近くには土嚢袋が積み上げられていて、その後方には数名の兵士たちと機関銃が見える。
機関銃が設置されている場所や、鉄条網が張られている範囲を暗記してから、双眼鏡と地図をポーチの中に戻し、テーブルの上に置いたコルトM1911を掴み取る。出来るのであればサプレッサーを装着したいところだが、まだこいつにサプレッサーを装着することはできなかった。サプレッサーをアンロックするには、フィオナ博士が用意したサブミッション『静かに抹殺せよ』をクリアしなければならない。
条件は、”気付かれずに敵を5人倒す”必要があるらしい。
残念なことに、投げナイフやクロスボウは持ってきていない。静かに敵を始末できる飛び道具があればあっという間にクリアできそうなんだが、今の装備でこれをクリアするには、敵兵に忍び寄ってナイフで切り裂くか、スコップで殴り殺す必要があるというわけだ。
舌打ちをしてから小屋を後にし、小屋の外から匍匐前進を開始する。
ある程度匍匐前進してから停止し、土まみれになった手をポーチの中へと伸ばす。双眼鏡で敵陣を確認してみるが、どうやら敵兵たちも高を括っているようだ。攻勢の最中に敵兵が側面から回り込んでくるわけがないと思っているらしく、見張りの兵士はあくびをしたり、他の兵士と雑談をしている。
機関銃や鉄条網は面倒だが、警備兵はノーガードだ。
匍匐前進をしながら、塹壕の側面から回り込む。ちらりと施設の周囲に掘られている塹壕の中を覗き込んでみたが、中にいる敵兵は眠っているか、起きている兵士とトランプをしているようだった。中には真面目にライフルを持って見張りをしている兵士もいるが、集中力を使い果たしているらしく、ただ単に地面の向こうを見つめているだけである。
潜入の難易度はかなり低そうだ。
そのまま塹壕の脇を匍匐前進で通過し、コンクリートで造られた施設に肉薄する。周囲には乗り越えられそうな高さの塀があるが、厄介なことに塀の上には有刺鉄線が設置されていた。
くそったれ、検問所から行くしかないのか。
塀の近くで、ボルトカッターを持ってくればよかったと思いながら忌々しい有刺鉄線を睨みつける。今度からはボルトカッターを持ってくるとしよう。鉄条網を切断して侵入できれば、潜入の難易度も一気に下がる筈だ。
検問所以外の侵入経路は無いのだろうかと思っていると、検問所から焼け野原へと続いている道の向こうからエンジン音が聞こえてきた。前世の世界で何度も耳にした車のエンジン音と比較すると、少しばかり甲高い音である。
確か、魔力を使って動いていた機関車もこういう音を発していた。
ちらりと道の向こうを見てみると、2つの丸いライトを煌かせながら1台のトラックが接近してくるのが見えた。どうやらこの施設に用事があるらしく、検問所へと真っ直ぐに走ってくる。
ニヤリと笑いながら、検問所の方をちらりと見た。やっぱり検問所の連中も敵兵が攻め込んでくる事を想定していない。ここに敵兵が1人侵入しているというのに、敵兵が来るわけがないと決めつけて油断している。
トラックが検問所へとやってきて、兵士たちの傍らで停車した。運転手の方へと1人の兵士が歩いて行ったのを確認してから、機関銃の近くにいる2人の敵兵をチェックする。機関銃が近くにあるというのに、その射手たちは呑気にコーヒーを飲んでいるところだった。
油断し過ぎだ。
足音で気付かれませんようにと祈りながら、姿勢を低くしてトラックへとダッシュする。機関銃の射手たちがコーヒーを飲みながら雑談していたおかげで、機関銃の真正面を堂々と通過する事ができた。そのままトラックの車体の下へと回り込み、金属製の配管を両手で掴む。
『戦況は聞いてるか?』
『我が軍が有利だそうだ。テンプル騎士団の連中も敵に加勢したらしいが、転生者様たちが捻りつぶしてくれるだろう』
勝利するのは喜ばしいが、敵に勝利したという実感は警戒心を侵食していく。
圧勝であれば、警戒心は一気に腐敗してしまうのだ。逆に、何度も敗北している者の方が油断することはない。何度も強敵に惨敗しているのだから、その強敵を打ち破るための手段をこれでもかというほど用意しているのである。
帝国軍の兵士たちは、勝利の美酒によって警戒心を腐敗させられてしまっているらしい。
やがて、トラックがゆっくりと走り出した。そのまま検問所を通過して、塀の向こう側へと入っていく。途中で飛び降りようかと思ったが、飛び降りてトラックに置き去りにされた瞬間に見張りに見つかったらとんでもない事になるし、ここに用事がある以上はどこかで停車する筈だ。停車した後にトラックの下から周囲を確認し、施設に潜入した方がいいだろう。
トラックが駐車場らしき場所で止まった。息を吐きながらボウイナイフを鞘の中から引き抜き、トラックから手を離す。周囲に運転手以外の敵がいないことを確認してから、トラックの下から這い出した。
ボウイナイフを逆手持ちにしながら、運転席から離れようとする運転手へと左手を伸ばす。そのまま口を押えてこっちに引き寄せると、運転手は呻き声をあげながらあっさりと引き寄せられてしまった。自分が運転するトラックに敵兵がしがみつき、施設内に潜入してくるとは思っていなかったのだろう。
驚愕している運転手の喉にナイフを突き立て、刀身を強引に引っ張り出す。首から血を流し始めた運転手をトラックの下に隠してから、ナイフの刀身に付着した鮮血を制服の袖で拭き取り、鞘の中へと戻す。
たった今殺した男が、人生で初めて殺した人間だ。
普通の人間だったら、きっと人間を殺すことに躊躇するに違いない。けれども、どういうわけなのか俺は全く躊躇することはなかった。
頭の中に前任者の記憶があるからなのだろうか。それとも、妹を殺した帝国軍を憎んでいるからなのだろうか。
だが、この世界で最も不要な”前世の常識”をもう捨てる事ができたのは喜ばしい事だ。戦場の真っ只中にいるのだから、敵は殺さなければならない。「敵を殺すのは良くない事だ」と言っている奴は、とっとと敵の弾丸で撃ち抜かれて死んでしまえばいい。
正義感など不要なのだ。
建物を見上げつつ、溜息をつく。
きっとここに来栖がいる筈だ。おそらく、建物の中で転生者部隊の指揮を執っているに違いない。
つまり、建物の中に突入しなければならない。
舌打ちをしてから入り口のドアへと向かう。出来る事ならばドアもろとも爆薬で吹っ飛ばし、慌てふためく無様な敵兵たちを銃で撃ち抜いてやりたい。銃で反撃してくる敵兵を射殺しながら最深部へと向かい、復讐するために俺が戻ってきたことを知って驚愕する来栖を惨殺する事ができたのならば、きっと天国にいる明日花も喜んでくれる筈だ。
けれども、今はステータスが初期ステータスから上昇することがない。端末を強引に再起動したせいなのか、データが破損しているのだ。だから100人の敵兵をぶち殺したとしても、レベルが上がることはないし、ステータスは1も上がってくれない。
要するに、常に格上の転生者と戦い続けることになる。
真っ向からの勝負は自殺行為だ。相手の防御力を無視できるスキルがある以上、不意打ちで仕留める必要がある。だから扉を爆薬で吹っ飛ばし、強行突破をする事は許されない。
呼吸を整えながら、錆び付いたドアノブにそっと手をかける。右手に持っているコルトM1911をぎゅっと握りしめながらドアノブを捻り、静かに建物の中へと突入する。
もし敵兵が中にいたのならばすぐに.45ACP弾をプレゼントする予定だった。もちろん、この銃にはサプレッサーを装着していないから、そんな事をすれば強行突破する羽目になってしまう。その時は敵兵を強引に排除しながら来栖を探し出し、フィオナ博士に用意してもらった”切り札”を使うことになるだろう。
ちらりと右手を見下ろしてから、通路を静かに進む。
この切り札に”予備の弾薬”はない。もし仮にこの一撃を外せば、防御力を無視できる”問答無用”で転生者をぶち殺すしかないのである。
この右腕と両足は、お前らを殺すために移植してもらった鋼鉄の手足だ。
復讐を果たす事ができるというのなら、この肉体が全て鋼鉄になってしまっても構わない。感情や自我が剥奪され、セシリア・ハヤカワによって制御される操り人形と化してしまってもいい。明日花を苦しめ、絶望させてから殺したお前たちに復讐できると言うのであれば、どんな対価でも差し出してみせよう。
俺の存在意義は、復讐なのだから。
「惨殺あるのみ」
復讐するためだけに蘇った。
復讐するためだけに戦場へとやってきた。
通路の脇にある部屋の中から、男性たちの話し声が聞こえてくる。ドアは開けっ放しにされていて、そのドアの向こうからはランタンの明かりとラジオの音声と思われる女性の歌声が漏れ出ている。部屋の中から漂ってくるのは何かの肉料理の匂いなのだろうか。
部屋の中は食堂として使われている場所らしく、数名の兵士がラジオから聞こえてくる歌声を聞きながら、通路に背を向けて座って雑談をしている。ライフルは近くの壁に立てかけられているが、仮に彼らが俺を発見したとしても、ライフルを手にする前にコルトM1911の餌食になるような距離である。
とはいっても、発見されない方がいいだろう。
フォークでスープの中のソーセージを串刺しにし、口へと運ぶ敵兵たち。このままここを横切ったとしても発見されることはないだろう。あの兵士たちが優先しているのは侵入者がいないか確認することではなく、仲間との雑談や食事なのだから。
通路の奥には階段があった。来栖は上にいるのだろうかと思いつつ、階段を上がろうとしたが――――――その隣に下へと伸びている階段を発見した俺は、その下へと伸びている階段を降り始めた。
地下室付きの2階建ての建物で、司令部として使用するのに最も適しているのは地下室だからだ。
2階は確かに見晴らしがいいけれど、逆に言えば窓の向こうから狙撃手に狙撃されやすい。圧倒的なストッピングパワーと貫通力を誇るライフル弾を窓ガラスで防ぐことは不可能なのだ。帝国軍がここまで狙撃手がやってくるわけがないだろうと高を括っているなら話は別だが、すぐに補充できる普通の兵士と違って、大部隊を指揮する指揮官は補充が難しい。
人命は重い――――――クソ野郎は除外させていただく――――――とは思うが、戦術的な価値では、兵士よりも指揮官の方が命は随分と重くなる。
それゆえに、指揮官の暗殺を防ぐために、敵が指揮官を暗殺する際に選べる選択肢を排除しておく必要がある。地下室ならば窓がないから外部から狙撃するのは不可能だし、仮に爆弾や砲弾が落ちてきても、その爆風の餌食にならずに済む。
というわけで、仮にデブがこの地下室を指令室に使っていた場合は、わざわざ施設内に潜入して直接ぶち殺さなければならないのである。
溜息をついてから、そっと地下室へと続く階段を下りていく。念のために左手をボウイナイフの柄へと伸ばし、左手で逆手持ちにしておく。もし仮に兵士に発見されて飛び掛かられても、こいつですぐに喉を切り裂いてぶち殺せるからな。
階段の向こうには、錆び付いた扉があった。
扉の上には何かの文字が書かれたプレートが埋め込んである。一見するとオルトバルカ語に見えるが、見たことのない文字も混じっている。きっとフランギウス語なのだろう。元々は何のために使われていた部屋なのだろうかと思っていると、錆び付いた扉の隙間から生臭い臭いが漏れ出してきた。
前世の世界でも嗅いだことのある臭いだ。確か、近所の肉屋の前を通り過ぎた時にいつも嗅いでいた。店のカウンターの奥に見えた、皮と内臓を取り除かれたでっかい豚肉の臭い。俺はいつもそれを見て美味そうだと思っていたけれど、明日花はいつも顔をしかめていた。
そう、肉屋の中にある生肉の臭いだ。この部屋は肉の加工に使われていた部屋なのだろうか。
床は警備兵が掃除したらしいが、亀裂の入った床には微かに茶色い液体がこびり付いた跡がある。おそらく、ここで解体された家畜の血なのだろう。この扉の向こうはかなり強烈な臭いがするに違いない。
まあ、お前の死に場所にはうってつけだよ。
銃とナイフを降ろし、扉に耳を押し当てて向こうの音を聞いてみる事にした。少しばかり錆び付いた扉は予想以上にひんやりとしていて、耳を押し当てた瞬間に錆び付いた金属の臭いが鼻孔に入り込んでくる。錆び付いた金属の臭いと血の臭いはそっくりだという事を痛感していると、扉の向こうから話声が聞こえてきた。
『ウェーダン守備隊、要塞まで後退しました。現在は我が軍が優勢です』
『ひひひっ、当たり前だよ。貧弱な野蛮人共が抵抗したとしても、転生者の力は彼らを容易く踏み潰せるほど圧倒的なんだからな』
報告した兵士にそう言った男の声を聞いた途端、看守から牢屋の鍵を受け取って明日花の牢屋へと歩いて行ったデブの姿がフラッシュバックする。
《やだやだぁっ!! 放してよぉっ!》
《にっ、兄さんッ! 助けてッ!》
「来栖ゥ………………」
唯一の家族を犯しやがったクソ野郎。
絶望と一緒に産声をあげた憤怒が、再び心の中で肥大化する。妹の絶叫や、前世の世界での思い出すら食い破って、怒りが心を突き破る。
彼女は何もしていないというのに、なぜ犯された挙句殺されることになってしまったのか。
彼女に理不尽な事をしたのはお前らだ。だから、俺もお前らに理不尽な報復をする権利がある。
端末をポケットの中から取り出し、武器を生産しておく。武器の生産のメニューをタッチし、ずらりと並んでいる武器の種類の中から『グレネード』を選択してから、現時点で生産できる手榴弾をタッチして3つほど生産する。
生産したのは、かつてドイツ軍が第一次世界大戦と第二次世界大戦に投入した『M24』と呼ばれる手榴弾である。黒い弾頭に木製の長い柄を取り付けたような外見をしており、非常に高い攻撃力を誇る。基本的には対人用の代物だが、戦時中はこの手榴弾をいくつも巻き付け、敵の戦車に向けて投げつけたことも多いという。
柄の底にある蓋を外し、中に収まっている紐を引っ張り出す。これを思い切り引っ張ってから投擲すれば、この手榴弾は忌々しい敵兵を吹っ飛ばしてくれるというわけだ。かなり旧式の手榴弾とはいえ、室内にこいつを投擲されれば転生者でも大きなダメージを負うことになるだろう。
しかも、俺は転生者の防御力を無視できるスキルの問答無用を装備している。だからこの手榴弾は、きっと転生者の厄介な防御力を無視して、常人と同じように大ダメージを与えてくれる筈である。
コーヒーを飲みながら高を括っているクズ共が血まみれになるのは、きっと素敵な光景に違いない。
明日花もあの世で見ているだろうかと思いながら3つの手榴弾の紐を引っ張り出した俺は、呼吸を整えながらドアノブへと手を近づけた。
部屋のスペースは分からないが、もし肉の加工に使われていた部屋を司令部に使っているのならばそれなりに広いだろう。だが、さっき盗み聞きした声の大きさならば、部屋の奥ではなくドアの近くにいる筈である。
ニヤリと笑いながらドアを開けた俺は――――――唐突に開いたドアの方を見てぎょっとする帝国軍の兵士たちを見ながら、手榴弾の紐を引っこ抜き、その手榴弾を部屋の中へとぶん投げた。
案の定、部屋の真ん中に白い制服に身を包んだデブがいた。あの白い制服は転生者に支給される制服らしく、他の兵士たちが身に纏うオリーブグリーンの軍服と比べるとかなり豪華な装飾が付いているのが分かる。
だが、その華やかな軍服は持ち主もろとも爆炎と血飛沫で滅茶苦茶になる。
「お、お前――――――――」
強制収容所で死んだ筈の男と目が合ってぎょっとする来栖を見て嗤いながら、地下室のドアを閉めた。
次の瞬間、室内に投げ込まれた3つの手榴弾が炸裂し、爆音と衝撃波で部屋の中を支配した。




