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金器

 コウの一族とテイの一族は一つになった。

 このことは双方にとって良い結果をもたらすことになる。コウの一族にとってはこれまで人手が足りなくてできなかった様々なことに挑戦することができるようになったし、テイの一族にとってはそれまで持たなかった農耕や牧畜などの新たな技術を教わることができた。

 当初は言葉の壁により上手くいかないことも少なくなかったが、その度にテイが両族の橋渡しとなり仲裁に尽力した。テイはそれほど身体も大きくなく力も弱かったが、コウに劣らず聡明で物覚えが良かった。コウたちの言葉をどんどん覚えていき、数年のうちにはほとんど不自由なく会話ができるほどにまでなっていた。そして覚えた言葉を一族の者たちに教え、両族の言葉の壁も徐々になくなってきている。

「テイのおかげで全てが上手くいっている」

「そんなことはない。コウが色々教えてくれたおかげだ」

 コウとテイの友情も変わりはない。

 今なら何でもできる気がした。

――この調子ならばいよいよアレができそうだ。

 それはこの地に着いたときから考えていたこと。金器の材料となる金属の採掘だった。


 コウとテイは邑の若者のうち、特に体力に優れる者たちを集めて山に入った。

 どこをどう掘れば何が出るのか。故郷の山ならばすぐにわかるが、この地ではわからない。とにかく闇雲にでも掘ってみる以外になかった。

 テイの指揮で若者たちが山を掘り、掘り出した石をコウが確認する。金器の材料になる金属を含む石かどうか。

「コウ、これはどうかな。この部分が光ってる」

 テイが持ってきた石を確認すると、確かに光沢のある部分が見えた。

「これは……。確かに光沢があるが、この色は私の知っている金ではないな。しかし普通の石でもない気がする」

 コウが知っている金属の色はやや赤みがかったものであるが、この石は黒っぽい色をしている。しかし普通の石にはない光沢があり、重さも同じ大きさの石と比較しても重いように感じた。

「違う種類の金なのかな」

 テイが呟いた言葉に、コウは驚いて顔を上げる。

「違う種類……?」

「だって、石にも色々な種類があるだろう。金にだって色々あってもおかしくないんじゃないか」

 言われてみれば確かにそうかもしれない。

 故郷の山で採れた金は全て赤い色をしていたが、その色の程度は物によってまちまちであったし、硬さも一定ではなかった。ならば、色が異なる金があってもおかしくないのではないか。

――そもそも故郷とは違う土地なんだ。全く違う金が出てもおかしくはないのではないか。

 その黒っぽい金のようなものを持ち帰ったコウはさっそく加工を試みることにした。土を焼いて作った土器・坩堝(るつぼ)を火にかけ、その中に金のようなものを入れて加熱する。

――この坩堝で溶かすことができるだろうか。

 コウは故郷において幾度となく金を溶かして加工することを行ってきたが、この地に来てからは初めてのことである。金が溶けるのに十分な温度が得られるだろうか。その温度に坩堝が耐えられるだろうか。

 祈るような想いで坩堝を加熱する炎に薪をくべる。

「コウ、何か様子が変わってきた」

 坩堝の中を興味津々に凝視していたテイがその変化を告げる。

「まさか……!?」

 まだ十分な加熱に至ったとは思えない。故郷で金を溶かしたときは、もっと激しい炎でもっと長時間過熱していたはずである。

 ということは、坩堝の質が悪く熱に耐えきれずに割れたのか。

 慌てて坩堝を覗き込んだコウが見たのは、溶けて流れ出し始めた金だった。

「そんな、もう溶け始めたなんて」

 炎の勢いや加熱時間はコウの記憶違いだったのだろうか。そんなはずはない、と心の中で否定しつつも、目の前の坩堝の中で起こっている事実は否定できない。

――やはり異なる種類の金なのか……?

 溶けた金を型に流し、冷えて固まったものを取り出す。光沢のある表面は確かにコウのよく知る金に似ていたが、色は全く異なり白っぽい。試みに力をかけてみると、カリッという不思議な音を立てて簡単に曲がってしまった。

「柔らかい。やはり私の知る金とは別物だ。それにこの柔らかさは武器はもちろん農具にも使えない」

 落胆がコウの両肩に圧し掛かる。

「面白い音が鳴るね」

 コウの落胆を余所にテイが白っぽい金を曲げて遊び始めた。

「テイ、それはもう使えない。やはり赤い金を探しに行こう」

「でもせっかく掘ったのに使えないのはもったいないね。何かに使えないかな」

「それだけ柔らかいと難しいな。赤い金ほどではなくとも、せめてもう少し硬くないと」

「じゃあ、混ぜてみればどうかな」

 軽い調子で投げかけられたテイの提案に、コウは雷に打たれたような衝撃を受けた。

「赤い金はまだ見つかってないけど、壊れた道具があるだろ。それを直すときにこれを混ぜてみればどうだろう。赤い金ほどの硬さにはならないかもしれないけど、その中間くらいの硬さにはなるかもしれない。土器みたいにね」

 テイたちの一族は土器を盛んに作ってきた。土器は使う土によって出来上がる土器の硬さが変わってくる。硬い土器を生み出す土もあれば、柔らかい土器にしかならない土もある。そしてそれらを混ぜ合わせると中間の硬さを持つ土器が生まれる。

 それが上手くいけば、それほど強度のいらない道具を直すのに、必要な金を少なくできるかもしれない。その分強度の必要な道具を多く直すことができる。

「やってみるか」

 壊れた赤い金の道具の欠片と白い金の欠片を共に坩堝に入れ熱する。が、上手くはいかなかった。赤い金が溶けるよりも早く白い金が溶けだし、混ざり合う前に流れ出てしまったのだ。そして赤い金が溶ける前に、坩堝に亀裂が入り壊れてしまった。坩堝の質が悪く、熱に耐えられなかったのだ。

 そこからは試行錯誤の連続だった。

 より強度の強い坩堝を作るために、土器の製法を見直した。テイたちの一族が知らないことを数多く知っていたコウたちだったが、土器に関しては逆にテイがコウに教えることも少なくなかった。土器を作るには、その土地の土を熟知していなければならないからである。

 次に赤い金を溶かす温度を得るための工夫。これはコウの故郷での様子を思い出し、それを再現した。炎に強い風を当てると強く燃え上がる。その強い風を得るため、山からの吹き下ろしを受ける位置に炉を作り、強い炎を得ることに成功した。

 そして異なる温度で溶ける二つの金を混ぜ合わせる方法。これは誰も知らない未知の挑戦だった。

 コウとテイ、双方の一族の知識と経験を併せ、それらを超える挑戦を重ねて、ついに二つの金属を混ぜ合わせることに成功したとき、彼らが得た成果は想像を遥かに超えるものだった。

「硬い! 硬いぞ、テイ!」

「すごい! 赤い金だけよりもずっと強いよ!」

 試しに二つの金を併せたその新たな金を故郷から持ってきた赤い金で打ち据えてみると、新たな金は変形することなく、対して赤い金はすっかり曲がってしまった。

 硬い素材に柔らかい素材を合わせることで、元の硬さ以上の物が生まれる不思議に、コウもテイも他の一族の皆も驚いた。

 それはまるで神の力による奇跡のようであった。


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