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創世の神と始まりの王

 太古の時代。

 世界が現在の形となる以前のこと。

 その頃の世界は、天と地の境が混じり合い、東西南北の区別が曖昧で、夜と昼とが混淆し、世界は混沌に支配されていた。

 その混沌の世界へ、一柱の神がどこからともなく現れた。天地四方の別がはっきりしないため、その神がどこから来たのかはわからない。わかっていることは、その神は巨大な神獣に跨り、神聖な棍を携えていたということ。そしてその神が酷く疲れていたということだけである。

 混沌の世界に辿り着いた神は、この地で休息することに決めた。そのため、この地を居心地の良いように創り変えることにした。

 神はまず最初に、この地を支配する混沌を追い出した。手に持った棍を大きく振り回すと辺りにいた混沌を残らず絡め取り、そのまま混沌を遠くへ放り投げてしまったのである。

 次に乗っていた神獣の甲羅を剥ぎ取ると、それで足元に蓋をし地とした。続いて骨を組み、それを頭上に突き上げ天とした。こうして天地の境がはっきりするようになった。

 切り取った神獣の脚で四方に天地を支える柱を立てた。こうして東西南北の区別が生まれた。

 神獣の右目と左目とを光に変えると、それが月と太陽となった。こうして夜と昼とが分かれることとなった。

 神獣から流れ出した血は東へ流れて海となった。

 神獣の尾は西へ投げ捨てられ山脈となった。

 神獣の肉片や鱗は、各地へ飛び散り様々な獣や虫となった。

 こうして出来上がった天地に、神は大変満足した。

 そして最後に残った神獣の心臓から獣を創り、神の寝所を護るよう命じた。

 神は天地の中心で永き眠りに就いた。


 心臓から創られた獣は、神の命に従い神の寝所を護り続けていた。

 神の力を求めた(よこしま)な獣や虫が幾度も神の寝所を荒らしに現れたが、心臓の獣は神の命に忠実にその全てを噛み殺した。

 当初、心臓の獣は知恵や知性を持たぬ獣でしかなかった。しかし永らく神の寝所を護り常に神の寝言を聞き続けていたため、いつしか知恵と知性を得るようになっていた。

 知恵と知性を得た心臓の獣は、神の寝所を襲い来る外敵をただ噛み殺すことに飽くようになった。

 そしてついにある思い付きに至った。それは神の真似事をしてみるということだった。

 その思い付きを心臓の獣はすぐに実行に移した。神が神獣を素に天地を創ったように、襲い来る獣を素に新たなものを創造したのである。心臓の獣がこれまで噛み殺してきた獣たちの骨や牙や皮などが山のように積みあがっていたため、材料に困ることはなかった。

 最初に創ったのは、武器となる斧だった。その巨大な刃は、襲い来る外敵の対処を容易にした。斧の出来に気を良くした心臓の獣は、その後も槍や剣や弓などの武器をいくつも創り出した。

 次に神が心臓の獣を創ったように自身の命令を聞く忠実な眷属を創った。

 心臓の獣はその眷属に武器の扱い方を教え、神の寝所を護るよう命じた。心臓の獣は、この眷属を斧の子と呼んだ。

 斧の子の数が増え彼らに戦いを全て任せられるようになると、心臓の獣は今度は自身が快適に暮らせるように身の回りの世話をする眷属を創った。新たな眷属は、細々したことにもよく気付けるように大きな目を備えていた。心臓の獣は彼女らを目の子と呼んだ。

 そしていつしか、心臓の獣は王という称号で自身を呼ばせるようになった。

 それ以降、彼は始まりの王「始王」と呼ばれた。


 戦闘を斧の子に、身の回りのことを目の子に任せたため、始王は自身でやることは新たな眷属を創ることだけとなっていた。

 やがて始王は斧の子と目の子とを区別して創ることが面倒になってきた。

 そこで双方どちらの役割にも耐えうる新たな眷属を創ることにした。このころには豊富にあった獣の骨などは数が少なくなっていたため、代わりに獣の肉や様々な木の実や花などを組み合わせて新たな眷属を創り上げた。

 こうして生まれた新たな眷属に、始王は「(えん)」という名を与えた。この円こそが史上最初の人間である。

 円は始王の想像以上によく働いただけでなくその容貌も大変美しく、始王は大変満足した。そしてこれ以降、始王は人間以外の眷属は創らなくなった。

 始王が多くの人間を創りその数が増えてくると、始王は最後となる神の真似事をしようと思い立った。

 それはこの地を人間に任せて、眠りに就くことであった。

 そのためには人間が人間を創り出せなければならない。人間は神や始王と異なり不滅の存在ではなかったのである。

 そこで始王は、始王が最後に創った人間である(かん)に人間を創らせてみることにした。環は人間の子を創ることを試みたが、最初に生まれたのはとても醜く不完全なものだったため、名を与えられるよりも前に始王に殺されてしまった。

 環一人では難儀するだろうと思った始王は、旺姫(おうき)に環を手伝わせることにした。

 そうしてできた子はとても美しい姿で生まれ、伯と名付けられた。

 伯という美しい子が生まれたことに始王は大変満足し、後のことを環に託して神と同じように永き眠りに就いた。


 始王に天地を託された環は、王の称号を引き継ぎ王朝を建てた。この王朝は始王が創った最初の人間の名を冠し円王朝と号した。

 これ以降、天地は人間が支配することとなった。

 円王朝を建てた環が最初に行ったことは、自身の次に王朝を支える後継者となる太子の選定だった。その候補となったのは、環と旺姫が最初に創った子である伯と、その次に生まれた仲の兄弟だった。

 伯は「自分が生まれたために、始王は安心して眠りに就くことができたのだ。次の王は私にこそ相応しい」と主張した。

 仲は「狩りでも戦でも私は伯よりも優れている。私が次の王になるべきだ」と主張した。

 円王朝は伯派と仲派に別れ、激しい争いの渦に陥った。そして長きに渡る戦の末、ついに伯は仲を討ち果たし勝利を収めた。しかし伯もその戦により傷付き、間もなくこの世を去った。

 代わりに王の座に就いたのは、伯や仲の末弟である季だった。季は二人の兄と違い、自らの優秀さを殊更に主張することはなかった。二人の兄のどちらも王に相応しいとし、先の戦の間もどちらが王になったとしても変わらぬ忠誠を誓い補佐していくと宣言していた。その謙虚さを知った伯は、死の間際に「次の王位は季に継がせよ」と遺言したのだった。

 そのことに感激した季は「この王位は長子の伯より預かっているものであり、本来は長子が継ぐべき位である」と宣言し、季の次の王は季の長子が継いだ。

 これにより、今日に至るまで王の位は長子相続が常となったのである。


 円王朝の治世は数百年続いた。

 その間に文明を発展させ、支配地域を拡大させていった。政治の中枢は天下の中央に置かれ、支配域の東端は東海にまで達し、西端は西壁にまで至った。

 隆盛を極める円王朝を支えていたのは、二つの大貴族だった。

 その二大貴族とは、玄氏と孤氏。玄氏は西方の蛮族を討った功績により、孤氏は東方の未開の地を開拓した功績により、それぞれ栄えた勢力である。やがて玄孤両氏は円王家すらも凌駕する力を保持し、それぞれが王朝内の覇を争うようになっていった。

 そしてついに決定的な対立を生む出来事が起きた。そのきっかけは円王が行う祭祀における創世の神と始王の序列についてであった。

 これまで円王の祭祀においては、創世の神と始王は同列に置かれていた。両者は共に至尊の存在であり序列はない、というのが円王朝の立場である。

 これに対し、孤氏が異を唱えた。

「始王も所詮は創世の神の創造物に過ぎず、神と同等に置かれる存在ではない。創世の神は唯一無二の尊い存在でなければならない」

 これに対し玄氏はこう反論した。

「我々人間の創造主である始王は最上位にあるべきであり、最上位には神と始王の両者が並び立つものである」

 両者はどちらも譲ることはなく、このころの円王には既に両者を仲裁する力はなかった。

 そしてついに、両氏の対立は東西に別れての戦に発展していった。

 しかしその戦は長く続くことはなかった。玄孤両氏の戦の騒々しさに、天地の中心で眠る創世の神が怒りを発し天変地異を起こしたのである。

 混沌を討ち果たした棍を突き上げ大地を突き破ると、それによって生じた穴に水が流れ込み海と見紛うほどの巨大な湖ができた。後に偽海と呼ばれることになるこの湖の底に円王朝の朝廷が置かれた地は沈み、円王朝は王朝としての機能を維持できなくなった。

 呆然とする玄孤両氏の前に始王の寝所の世話をする斧の子と目の子が現れ、始王の伝言を伝えた。


 我、始王が人間に託した役割は、地上を安定させ我と神の寝所を守ることである。

 それを人間同士が争い寝所にまで響くほどの騒ぎを起こすとは何事であるか。

 本来であれば玄孤両氏は共に滅ぼしてしまうところであるが、両氏の主である円王が自身の非力を詫び、自らの身をもって両氏の贖罪を願っている。

 それに免じ今回は見逃すこととするが、今後再び両氏が争うことになれば、そのときは厳罰を持って対処することになると肝に銘ずるがいい。


 その言葉に玄孤両氏は恐縮し矛を収めた。

 そして両氏は偽海の東西に分かれ、それぞれに弦王朝と弧王朝を建て、未来永劫争わぬことを誓い合った。


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