グラビリティアシステム初実戦投入報告
『物質選定斥力引力干渉システム【グラビリティア】ロック強制解除』
ミルドレッドのコールと共に、移民船メインコンピュータシステムは最低限の生体維持機能だけを残し、ガイナスリュートが送信した大量の敵機データの解析を最優先指令として動き出す。
全長10㎞を越える移民船の上位空間経由の空間跳躍を可能とするだけの、膨大な計算能力をもって、僅か数秒で敵機の構成素材や、その主機関たるエネルギー物質を特定。
情報リンクによって解析結果は即座に、ガイナスリュートに送信。
取得した解析情報を喰らい、左右肩部の重力制御機関はリミッターを越え最大稼働状態となり唸りをあげ、その隠していた牙をむき出しにした。
左腕部は肩から指先まで眩い発光色に染まりながら細かく振動し、その光の中で陽炎が揺らめきはじめる。
右腕には伸ばした人差し指と中指によって剣指が作られ、その先端部には掌サイズの漆黒の球体を産み出す。
ガイナスリュートが見据える視線の先にはオオカミにも似た四つ足の敵対生体兵器。
敵機はガイナスリュートが足を止めたを幸いにとばかりに、自身も足を止め全身を強く発光させた高威力砲撃準備態勢にはいっている。
逃げ回るガイナスリュートには、単発のブリットタイプでは埒が空かないと判断し、高出力広範囲攻撃が可能なランス状粒子砲で一気に勝負をつけるつもりなのだろう。
当たれば、全てが消滅するほどの高威力兵器。
しかしガイナスリュートは、感情を感じさせない人造の表情のまま、左足を前に出し、右足を引いた前傾姿勢となった。
同時に浅黒い肌色の背部偽装生体装甲の一部が左右に割れ、折りたたまれていた緊急用加速ブースターが展開。
敵機の攻撃態勢に対して、一切怯まず相対するガイナスリュートの両碗部に生まれた、白と黒が、機体の残存エネルギーを激しく消費しながら最大まで輝き始める。
左腕に生まれし力は斥力。右腕に生まれし力は引力。
この世の理を司る自然界の四つの力。基本相互作用をもって、全ての素粒子を、すなわち万物を己の支配下とする。
その力はガイナスリュートをこの世の王とする。
万物を支配し君臨する絶対神として君臨させる。
王には、神には、負けなど無い。ただ突き進む、己の意思のまま、己の求めるままに。
絶対たる確定された未来。
勝利をつかむために。
『グラビリティアシステム放出座標方向固定。システム発動します』
システム発動と共に背部ブースターが点火。
左手を前方に突き出したガイナスリュートが撃ち出された矢のように、地表スレスレを一直線に敵機に向かって突き進む。
その勢いは先ほどまでの敵機の速度の比では無い。敵機が疾風であるならば、今のガイナスリュートはまさに雷光。
左手に宿る斥力を持って、前方に立ちふさがる見えない壁。分厚い大気を弾き、切り裂き、轟風と共に突き進む。
重力、大気、偽装、全ての頸木からから解き放たれ、宙間機動兵器としての本来の加速性を取り戻したガイナスリュートにとって約5000メートルはある敵機との距離など、あってないような物。
重力制御機関とブースターの力を持って、僅か1秒弱で駆け抜ける。
急速接近してきたガイナスリュートに対して、砲撃準備体勢に入っていた敵機の反応は遅れる。
先の先を制したガイナスリュートの左手が、今まさに粒子砲を放とうとしていた口内の砲口に打ち込まれた。
『浸透』
コールと共に左手に宿った発光が接触を介し敵機の全身へと広がり、ガイナスリュートの左腕と同様に陽炎に包まれたかのように揺らぐ。
ガイナスリュートが打ち込んだのは斥力。互いを遠ざけようとする力。
だが打ち込んだ光には、敵機を斥力によって吹き飛ばすほどの力はない。ばらばらに引き裂くほどの威力などない。
ただ結びつきを弱めるだけ。か弱い力。敵機を構成する物質構造を、原子の結びつきを、僅かに広げほんの一瞬だけ弱める力。
ほんの一瞬。刹那の時間。だが王にはそれで……十分。
『収奪』
敵機の身体から光が飛びだし、次々にガイナスリュートの右指先に産み出された漆黒の球体へと吸い込まれていく。
右手に宿る力は引力。互いを近付けようとする力。
ガイナスリュートの持つ本来の力は、完全なる重力制御。重力子と反重力子を自由自在に操る力。
リミッターを外した試作型重力制御機関は、全てを引き寄せるの万有引力では無く、特定の物質のみを引き寄せる固有引力現象を起こすことさえ可能とする。
移民船の膨大な計算能力を元に導き出したガイナスリュートが引き寄せるのは、敵機を動かす動力源。エネルギーとなる物質。
斥力によって緩められた分子結合の隙間。
隙間を通り固有引力能力によって引き寄せられたエネルギーである分子構造体が、ガイナスリュートの右指先の剣指に産み出された漆黒の球体へ、マイクロブラックホールに吸われ、圧縮されていく。
だがここで奇妙なことが起きる。敵機から光が抜けるごとにその巨大な体躯が、まるで空気が抜けた風船のように一気にしぼんでいくのだ。
みるみるうちにしぼんでいく敵機から、全ての光が抜けた後に残ったのは、全長5メートルほどの獣の死骸だった。
その姿形は、今倒した敵機によく似ているが、金属的な部分はみられない、生体その物。
強く気になる疑問をミルドレッドは覚えるが、今はそちらに解析している時間は、残りエネルギーはない。
ガイナスリュートの右手の指先にあるマイクロブラックホール内に押し込められたのは、高濃度のエネルギーの塊。
極度に圧縮されたそれがこの場で解放されれば、ガイナスリュートはもちろん、この巨人都市もただではすまない。
『重力仮想バレル展開。解放』
剣指を天に向かってガイナスリュートは突き上げながら、右腕部の電磁シールドも使って磁場形状を変形させ、マイクロブラックホールの天頂部に穴を開ける。
すさまじい圧力で凝縮されていた自由エネルギーは、解放された穴から一気に噴出。
濃厚な大気の中に漂う粒子と反応しながら上昇していったエネルギーの奔流が、天と地をつなぐ光柱となって、まるで地上に太陽が生まれたかのような輝きを産み出す。
5秒、10秒、15秒……産み出された光の柱は30秒以上も、巨人都市の隅々まで照らし出してからようやく消え去った。
『エネルギー全放出確認……転換炉緊急メンテナンスのために停止。予備バッテリーに切り変え。重力機関一式緊急冷却。二式最低出力運転を絶対維持。予測再起動まで82時間……マスター生き……』
問いかけに返事はなく、今のミルドレッドには、リオの安否を確かめる時間さえ許されない。
今のガイナスリュートの残存エネルギーでは、機体AIであるミルドレッドを万全に動かすだけの出力もだせない。予備バッテリーでも動くメンテナンス用プログラムへと自動で切り変わってしまう。
緊急生体維持モードが発動されたガイナスリュートは、最低限のパイロット生命維持機能と、緊急メンテナンス用の余力だけを残し、休眠状態へと入っていた。
これにて序章終了。
次章からはちょっと赴きかえて、巨人世界の参与観察な、ほのぼの奴隷ライフ予定です。
戦闘シーンが躍動感少ないかなと納得がいってない所あるので、色々書き足すかも知れませんが……後他作品も書きたいなと思っていますw