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少女皇帝一代記  作者: タカセ
序章 惑星調査報告
4/8

奴隷市場調査報告

 馬車から降ろされ縄付きの手かせをつけられたガイナスリュートは、他の少女達と共に一列に並んで、高い石壁沿いの未舗装の道を進んでいく。


 45メートルあるガイナスリュートでさえ見上げるほどに高い石壁は、厚さは最小30メートルから最大で倍の60メートル超。


 高さは物見櫓の部分を除いても、平均で500メートルほど。この超重力惑星においてガイナスリュートが重力制御及びブースターを併用して一度で飛べる最大跳躍の倍近くもある。


 石壁の反対側には、同じ石で組み上げられた倉庫らしき建物がいくつも立ち並んでおり、倉庫間の広い通路には、様々な奇怪な容姿をした種族や、野生生物らしき動物たちが同じように手かせをつけられたり、檻に入れられている。


 やはり道中での推測通りどうやら奴隷や家畜を扱う市場に連れてこられたらしい。規模から見て活発な取引が行われている常設市場のようだ。


 そんな奴隷市場の端を進むリオ達の隊列の一番先頭と、最後尾には、リオ達をここまで連れてきた御者達に変わり、彼らから引き渡された身長100メートルを超え額から角を生やした筋肉質の大巨人達が、それぞれ縄の端を持って目を光らせている。


 看板に書かれた形式の違う三種類の文字や、明らかにこの市場で見られる角付き達と違う背中に翼を生やした者や、鱗の生えた大きな尻尾を持つ者など、様々な情報がここには溢れている。


 本船とのダイレクト情報リンクは問題無く稼働中。ガイナスリュートが集めた情報はすぐに分類、解析に回され、蓄積されていく。


 今はどんな些細なことでも、情報がほしい。


 リオとしては立ち止まって周囲をつぶさに観察したい所だが、人買いの巨人達はうつむいて歩く少女達の歩幅に合わせているのか、その歩みはゆっくりではあるが、立ち止まることを許してはくれない。


 誰かの足が止まりそうになると、その度に先頭の角を生やした男が強く縄を引き、最後方の者が鋭い声でひと言叫ぶからだ。


 どうやら御者達とは種族や見た目だけでは無く、言語体系も違うのか、聞き覚えのない発音と言葉だが、状況的には『止まるな』か『歩け』といったところか。


 こういった状況が限定されて短い言葉は、翻訳の為の切り込み口としてありがたい。


 男達が発した言葉に優先指定をしつつ、本船へとリアルタイムで周辺情報を次々に送っていく。


 店先に立つ店番らしき人売り達と、その横に繋がれた商品以外に目に付くのは、通りを行き交う小綺麗な服を身につけ買い付けに来たとおぼしき大勢の奴隷商。


 他にも通りのあちこちには、紋章らしき物が刻まれた鎧を身につけ、額から角が飛び出ている屈強な警備兵らしき者達が歩哨として配置されている。


 兵隊達が鎧に刻んでいる紋章は、城壁の上で翻る旗にも刻まれている物と同じだ。


 旗を見れば上半分に剣らしい意匠を象った豪華な印が配置され、下半分には角が生えた骸骨を意匠とした印が置かれていた。

 

 望遠モードで観察してみれば、兵士達の鎧には書かれていないが、旗の方には文字らしき記述が縫い込まれていた。あれは国名や街名を書いた物だろうか?


 そこからわかる事実は2つ。


 この街の支配者階級は、角付き達という事だろうと、そしてこの奴隷市場は、城塞都市の所有者であろう角付き達から公に認められた物ということだ。



「もう少し色々情報が集めたいところだね……ミーさん。いざって時は壁を破壊して逃走は可能?」



 直接的な監視は二人。それ以外には衛兵が無数。だがガイナスリュートの戦闘機動モードなら、街中を逃走しつつ情報収集もさほど無理な話でも無い。


 しかし問題は、都市の全容を確かめたわけではないが、ここ高い壁にぐるりと囲まれている城塞都市だった場合。


 飛び越えるのが困難なほど高い壁である以上、街の外に逃げ切れるかどうかは極めて難しくなる。



『対艦戦闘装備でしたら破壊は可能と思われます。外壁に用いられている物質は民生用外宇宙船の外装基準を満たしていると解析班は推測しています。当機の防御能力であれば至近距離での対艦兵装の直撃も数発までであれば、活動に問題はありません』



 先ほど送った情報の解析が終わり、最新レポートが表示されるが、外壁や倉庫に使われているのは一見苔むしたただの石のようにも見えるが、ある種の合金に近いようで、音波探査による分子構造解析をしてみれば、極めて強固で複雑な構造をしていると記されていた。


 

「じゃあ却下で。対艦用兵器の地上使用で、後々酷いことになるのはもうたくさんだしね……しかしそうなるとだ、ここの人達はこれをどうやって切り出して加工しているんだか」



 衛兵達の装備している剣や槍などは、巨体に比例してリオ達から見れば馬鹿げているほどに巨大だが、その材質は変哲無い鉄製と解析されている。


 石もどきの合金を切り割るのは不可能だと、専門外のリオでもすぐに判断が下せる。


 この街を作ったのは彼ら角ありではない? 


 それか別の都市に切り出し加工、もしくは製造が出来る種族がいる?


 1つ判れば、10の疑問点が浮かび、その答えを求めるにはさらに100の情報がいる。


 考える事が多すぎるのは困り事だが、それが未知の文明を解き明かしていくとなればリオとしてはそれが楽しい。


 少なくとも、大地が目の前で割れて、人が消し炭となっていく思い出したくも無い記憶を浮かべるよりは、建設的で健全だ。


 そう願ったリオがいつも通りの気の抜けた笑みを浮かべようとした、次の瞬間その記憶を呼び覚ますかのように、聞き慣れない言語で交わされる雑踏のざわめきが色を変える。



『%#&)&'%#$)'!?』 『"()='((&&&$~!?』



 言葉の意味は判らない。だが生命を持つ者ならば、人ならならばわかる声が、スピーカー越しに響く。


 それは恐怖と絶望を感じた生命体があげる悲鳴に他ならない。


 絶叫が響いた方向に自動で機体カメラが向けられ、モニターに映し出される。声の出所はリオ達が移動している路地から少し奴隷市場の中に入った倉庫の前だった。


 慌てふためいた角付き男が数人、倉庫の中から転がり出るように飛びだしてきて、次の瞬間に、飛びだしてきた眩いばかりの閃光が入り口からあふれ出す。


 自動閃光防御で光度が落ちたときには、光は男達のみならず周囲の者をその痕跡を一切残さず消失させていた。


 無事なのは、光があたっても何事も無いようにそびえ立つ向かいの倉庫くらいだ。


 一瞬の静寂。その直後に最初の悲鳴よりも、さらに大勢の絶叫が響き、アリの子を散らすかのように、誰もが取る物もとりあえず逃げ出し始めた。


 繋がれた奴隷や家畜達を残して。


 少女達の手かせを縛っていた縄を握っていた前後の巨人も、先ほどまでは絶対に放そうとしていなかった縄を投げ捨てて、逃げようとしている。


 先ほどまで鋭い目線を通りに向けていた衛兵達だけが、逃げようとする人の波に逆らい、異常が起きた倉庫を目指そうとしているが、押し返されまともに進めていない。


 最初の閃光から10秒ほどで、あっという間に市場全体にパニックが広がりかけ、



【!!!!!!!!!!!!!】



 全てのざわめきも、悲鳴も、怒号も、打ち消し、かき消す、金切り音が高く激しく空間を支配した。



『緊急警報! エネルギー急速増大反応及びアクティブレーダーを感知!』



 普段は冷たさを感じさせる機械音声しか発しないミルドレッドが、異常事態を搭乗者に自覚させるために設定された緊迫観を伴う警告音声を発する。


 警告から一拍の間もなく、先ほどよりもさらに強く濃厚な光の粒子が、堅牢なはずの倉庫の屋根を消し去り、天に向かって打ち放たれる。


 まるで光の柱が地上に降りてきたかのように辺りが、白銀色の光りに染まった。


 

『対艦レベル3クラス光学兵器と同等の破壊力を測定。本船より現任務即時放棄許可! 撤退命令が発令されました!』



 光が徐々に収まっていくと、瓦礫さえ残さず天井が消え去った倉庫の中から、のそりと一匹の巨獣が姿を現す。


 母星と共に滅んだ数多くの動物の中の1つ。オオカミを連想させるシルエットをしているが、色々と異なる部分の方が目に付く。


 大きさはこの星の生物に見合っており、尾まで含めれば全長200メートル超はあると、計測機ははじき出している。


 何よりその全身を覆う毛が明らかに金属の光沢と質感を持っている。


 口から覗かせるのは、動物の舌では無く、同じように赤色に染まるが、発熱により熱された巨大な砲口にしか見えない。


 機械で半分出来た生体兵器。そう表現するしか無い生物がそこにいた。


 今の光線兵器によって発生した廃熱を処理をしているのか、機械狼の全身の至る所からスリットが開き、蒸気を吐きだす。


   

「派手な倉庫解体とかじゃないよねこりゃ……ミーさん。よく判らないんだけどレベル3クラスの光学兵器って、何発くらいまで耐えられる?」



『電磁シールドを集中的に重ねた防御部位なら半永久的に可能です。シールド防御部位以外に当たれば撃墜される可能性は極めて高くなります。即時退避を推奨します』


 

「僕もできればそうしたいんだけどね。さすがにそういうわけにもいかないでしょ」



 モニターに映るのは、リオの目に映るのは、突然の化け物の出現に腰が抜けたのか、うずくまっている奴隷として売られるはずの少女達。


 そして逃げることも出来ず、檻に閉じ込められ、繋がれた奴隷や家畜たちだった。


 この世界の奴隷制がどういう物か判らないので、少女達の未来がどうあれ、とりあえず傍観するというのがリオのスタンス。


 仕事がきついかも知れないが、寝るところと、食事もあるのなら、自由意思のない奴隷の身であろうとも、生きていけるなら上出来。


 ましてや自分達は事故によって偶然この星に落ちた異邦人。


 その後の保証などできもしないのに、助け続けるなどできもしないのに可哀想だからと助けない。


 あと先考えないヒーロー気質の幼馴染みなら、後々面倒になる事など考えず、思いつかず、少女達が、馬車で泣き叫んでいた段階で助けていただろう。


 でもリオは違う。


 どんな形でも、状況でも生きているなら、死ぬよりはいくらでもマシ。


 それがリオの本心。


 だから死ぬのはいけない。それはダメだ。目の前で誰かが死ぬのは……もう見飽きた。


 理不尽に迎える死を悲しむのも、いつまで続くんだと怒るのも、もう十分だった。


 どんな状況も楽しんで、喜ぶだけでいい。それだけでいい。


 誰かが死ぬなら、もう諦めるしか無い状況だったら、一緒に死のうかと、笑えて終えてもいい。


 しかし今は何の因果か、それとも幼馴染みの陰謀、もしくはお節介というべきか、この状況をどうにか出来るかも知れない手がある。


 色々と考えてからで無いと動けない、動かない、自分にはヒーローは似合わない。


 ただそこにやることがあるから。やれる手段があると判断した。やるしか無いと思った。


 

「調査対象”達”を貴重なサンプルと判断して、最悪でも生体細胞の採取のため戦闘に入るって本船に伝達……というわけで戦闘サポートを頼んだよ。ミーさん」



『……了解しました。マイマスター。それと私はミルドレッドです』



「ミーさんのほうが親しみあって良いと思うんだけどね」



 気が抜けたと幼馴染みに何時も怒られていた、自分では判らなくなったが、子供の時と変わらないであろう笑みを浮かべつつ、リオはとりあえずやれることをやることにした。

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