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少女皇帝一代記  作者: タカセ
序章 惑星調査報告
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近辺国家報告

『リオマスター。馬車外の生体反応増加を感知しました』



 本船へと送る調査報告を纏めていたリオに、機体AIのミルドレッドが索敵モニターに生体反応を表示したのは、馬車に乗せられてから母星時間で20日目。現地時間では1日と少し経ってからのことだった。


 モニターを見れば今から馬車が進む方向に、数え切れないほどの生体反応が表示されている。

 

 個別に数えるのがバカらしくなるほどの規模は、別調査で確認が出来ていた他の村や町とは段違い。巨人達の都、もしくはそれに準ずる大都市と考えるのが自然だ。



「ミーさん。位置特定。本船に伝達して情報リンク。情報収集密に。とくに音は拾えるだけ拾って全部本船で解析してもらって。戦闘出力に移行」


 

 書きかけの報告書を閉じたリオは、凝っていた肩をひとつならし、情報収集のために主機出力を戦闘モードへと移行させる。



『現位置は本船より西南方向に約4500㎞と推測されます。リアルダイレクト情報リンクを開始。本船との接続を完了。機体エネルギーは70%まで回復。外装部の修理は完了しています。通常活動ならば無限行動が可能。戦闘機動モード時は30分前後の維持が可能となります』



 待機モードだったコクピットに次々にモニターが立ち上がり、アイドリング状態だった主機である二式物質転換炉は戦闘出力稼働へと移行し、機器の出力が跳ね上がる。


 ガイナスリュートの売りは、その巨体に反した高機動性能で、重力制御機関を使用した大気圏内無限飛行さえ可能。だがそれは今は無き母星や植民星での話。



『当惑星の高重力影響により、一時的な跳躍ならば大気圏内用ブースター並びに重力制御機関併用で可能ですが、飛行は不可となります』



 平均20Gを越える高重力惑星のこの星では、重力制御機関最大出力でも低高度短時間跳躍しか出来ず、飛行など夢のまた夢。


 そしてこの出力不足問題は本船も変わらない。銀河を旅する船である移民船は、重力井戸の底に縛り付けられ、今は飛翔するための翼を失っていた。


 もっとも正規軍人ではないリオの場合は、それ以前の問題。


 有人機による周辺環境特別調査に志願した際に、地上移動の基本操作を習っただけなので、高度な技能が必要な飛行機能等は使える訳も無く、むしろ墜落必死なので使う気も無い。


 リオにとってガイナスリュートは、高重力惑星において重力緩和のための移動の足兼フィールドワークのための拠点、そして観測機器感覚だ。

 

 幼馴染みが今のガイナスリュートの使い方を聞いたら、


 『せっかく書き換え不能搭乗者登録にしてやったのに、なに宝の持ち腐れにしてんのよ!?』



と怒るだろうか。それとも、



『飛行操縦が出来るようになるまでシミュレーター特訓!』


 

 となるだろうか?


 

「……一番ありそうなのは怒りながら教えるかな」



 リオ的にはそろそろあの怒り顔が懐かしくなってきたが、もう少し周辺状況を確かめてから起こすのが一番というのが本船上層部の判断で、リオもそれには両手を挙げて賛成している。


 エースを出すには、些か早い。なにも判っていないのに今起こすと十中八九、無茶をしだすのは目に見えていた。



『マスター。命令が不明瞭です。もう一度お願いします』



「あー気にしないで、ミーさんの本当のマスターに対しての愚痴だから、記録抹消しておいて」



 締まりが無いと幼馴染みが怒る気の抜けた笑いを浮かべたリオは、ガイナスリュートが拾い上げた音のサンプルを本船へと送る傍らで、重要度の高い物を見極めるために目を閉じ、耳慣れない音にのみ集中していく


 重要度の高い音。それは数多の会話の中で多くあがる音。繰り返される音は、地名かも知れない。あるいは人名かも知れない。


 0からの未知の言語翻訳に必要なのは、ともかくサンプル数を集め、状況を当てはめ、1つずつコツコツと意味を特定していくしかない。


 断片を1つずつ埋めていくパズルのようなもの。その先に姿を見せる物が何か。リオにとってそれが一番の興味事であり、始まりの一歩だ。










 名も無き大陸。住まう者達はただ大地と呼ぶ、この巨大星においてただ1つの大陸。


 その名も無き大陸の西方域から中央部に僅かに食い込む形で支配域を確立させているのが、ライディア連合と呼ばれる国家連合となる。


 連合旗の縁に描かれた17の剣は、西方域に存在する連合を形成する大、小17の国家を指し示す。


 鬼族、獣人族、龍族、水棲族など、種族、生息域が全く違う者達が1つの旗の下に集うその最大の理由は、覚醒魔獣と呼ばれる害獣への対処の為だ。


 野山奥深くにすむ元々凶暴な野生獣だけでなく、大陸のどこでも見かける比較的大人しい小型獣や、人に飼われていた家畜が、さらには各種族の者達まで。


 この世界に住まう生命は、ある日突如凶暴化し、その姿や大きさまで変貌し、命が尽きるまで暴れ狂う現象を起こしてしまう、それが覚醒魔獣事変とよばれる一連の災害だ。


 さらに覚醒した魔獣は、周囲の同種をも覚醒させる事が広く知られており、大陸の歴史を紐解けば、覚醒魔獣の群れへの対処が遅れ、比較的規模の大きな街や、堅牢な城塞都市のみならず、国が滅びたという話もあながち珍しくはない。


 魔獣の早期発見、駆逐は、国家存亡にも関わる一大事。正確で素早い情報共有や、比較的手薄になりやすい森深い国境近辺での、軍や冒険者による行動補助などの為に結ばれた、相互援助条約という意味合いが強い国家連合となる。


 そんなライディア連合の最東端国家ヤシロ国は、優れた体躯と高い治癒能力を誇り、額から生えた角が種族的特徴となる鬼族を中心とする。


 その性質は良く言えば、細かい事にこだわらず勇猛果敢で実直。


 口悪く言えば粗暴で命知らずで融通が利かない。


 国主となる王も、前王崩御後に国を挙げて行われる追悼大会戦において、もっとも多くの兵を集め、他の兵団を叩きつぶした者が王となるという、実に単純明快な物だ。


 骨が折れても戦っているうちに治り、腕や首が千切れても、くっつけて包帯を巻いてしばらく安静にしていれば問題無いという、鬼族特有の高い治癒能力があるからこそだが、その野蛮さに眉を顰める者も少なからずいる。


 そして眉を顰める者の筆頭といえば、ヤシロ国よりさらに東。


 【帰らずの森】と呼ばれる大森林地帯を挟んで、反対側にあるエルフと呼ばれる魔術師による国家『聖ロカリア神饌国』だろう。


 ロカリアは、その名が示すとおり自分達は神によって選ばれ、神に捧げられる一族であるという教義を持つ宗教国家。


 実際にエルフ達は、大陸に住まう全種族の中で唯一【魔術】と呼ばれ、雲1つ無い空からから雷を落としたり、翼も無いのに空を自由に飛んで見せたり、地を揺らしてみたりと不可思議な能力を持っている。


 そして何より、彼らが自分達を特別視する理由は、歴史をいくら探してみてもエルフから魔獸化した者が出たという事実がない事だ。


 彼らは老いも若くも容姿端麗で、透き通るように白い肌を持ち強い魔術能力をもつホワイトエルフと呼ばれる若者達を、老化現象なのか肌が黒く染まり魔術を操る力を失いはしたが英知を誇るダークエルフと呼ばれる長老集団が纏めている。


 そんなロカリアは、他国と交わらず血を混ぜずを国是とし鎖国状態を維持し、特に隣国だというのにヤシロに対しては蛮族の集ったまがい物など国として認めぬという態度を隠そうともしていない。


 これは太古の昔にヤシロの主種族となる鬼族の一部の者達が、魔獣化した際にロカリアに攻め入り、大きな被害をもたらしたことも深く関係している。


 一説によれば全ての魔獸の進行方向を図にすれば、ロカリア、または帰らずの森を目指しているという話もあるが、それに当てはまらない不可思議な動きをする魔獸もいるので、未だその確証は得られていない。


 とにかく両国家の関係、さらにいえば鬼族とエルフ両種族は、常に最悪の一歩手前の険悪な関係を、記録に残る限りでも既に数百年は続けていた。 

 

 大規模な国家間戦争にならないのは、その間に広がる大陸有数の大森林地帯にして、覚醒魔獣達が住まう森【帰らずの森】があるからにほかならない。


 他種族と交わり生まれた不義の子であり神の怒りに触れ魔術を失った者達、ハーフダークエルフと呼ばれる者達の住まう森こそが帰らずの森であり、森にもっとも近いヤシロ国セルト奴隷市場。


 セルトの街に残る奴隷取引記録こそが、後の世に大陸統一という偉業を成し遂げる少女皇帝リオ・ガイナスリュートこと幼名リオの名が最初に記された地であった。    

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