第二十六回.調査 開始
遅くなりました。
今回は本当はもう少し書きたかったのですが、予定日を過ぎている以上、一旦ここまでとしました。
「ねぇ、ティドゥ」
「ワフ?」
私を乗せて歩くティドゥ。スズライに比べてこの町は、嫌な声が聞こえてこない。慣れている。そんな空気を肌に感じる。それはそれで過ごしやすいから別に良いんだけどね。
「どうしようか?」
「ワフゥ……」
でも、そんなことはどうでもいい。感じている赤。明らかに行動が不穏。もしかしたらルールーも感じているかもしれないけど、あっちはあっちでガスイの義務を遂行中だから、まず動かないはず。ルールーは一つのことしか片付けられないし。ガスイのことだから、さっきのオンブルで気づいてる。間違いなく、赤を気にしてる。でも、動かないだろうね。ガスイって実はマゾだしね。
「警戒だけしとこっか。別にまだ何もしてないみたいだしね」
「ワンッ」
動いていない以上は、何もこっちから手を出すわけには行かないし、第一、私の管轄外。興味ないし。
「私たちはトゥルーティアーの情報集めよっか」
「ワンッ」
それよりも重要なのは、私とガスイの義務。
「とりあえず、支部所に聞いてみようかな。ティドゥ、支部所、分かる?」
「ワンワンッ」
私は見えないし、来たことないから分からない。だったらティドゥの鼻を頼りにした方が楽。スズライみたいに自分の足で出歩くのって、疲れるんだもん。
「じゃあ、ティドゥ、ゴーッ!」
「ワンッ」
体が大きく揺れて、浮遊感にティドゥの毛をしっかり持つ。別に急がなくてもいいのに、わざわざ飛び上がるんだもん。ちょっとびっくり。ほんと、ガスイと違って忠実すぎるんだから。
「いいものがあるといいね」
「ワフッ」
別にガスイの義務を早く解消してあげたいわけじゃない。それは同時に私の義務の発動になるから。でも、期待はしてる。だって、何事も期待したほうがそれを超える喜びはほとんどないし、落胆した方が次への切り替えが早いもん。
ティドゥが建物の屋根を飛び上がるたびに吹きぬける風に心地良さを感じながら、ハーティス王国最大の法廷支部へ向かった。見えないからどこら辺を行ってるのか分かんないけど。
「ワンッ」
トン、と衝撃があって、ティドゥが止まる。
「着いた?」
「ワフ」
ティドゥが返事と同時に体を落とす。さりげなく私がおりやすいようにしてくれる辺り、どっかの馬鹿犯罪者とは違うよね、この子。
「じゃ、行くよ、ティドゥ」
杖を頼りに隣にティドゥの気配を感じながら歩く。
「聖獣ティドゥ・ババ? あなたはもしかして、ハウン・リスティア・ララミン最高義務監督官ではありませんか?」
唐突にかけられる声。見えないから誰が話しかけても唐突、なんてことは分かってるけど、誰か声をかけてきた。
ティドゥは警戒してない。なら、支部の人間かも。だから愛想よく返事する。第一印象は大事なんだよ。人間、第一印象の九十%は顔と声色で決まるんだから。
「はい、そうですが、あなたは?」
「申し遅れました。私はガクラ法廷支部義務監督所第七義務監督室長、エーダ・レイルハートと申します」
長ったらしい肩書き。早口言葉? とか思ったけど、言っちゃダメダメ。我慢我慢。
「エーダね。私のことは知っているみたいだから、紹介はいらないよね?」
ティドゥから私を連想するのは、ちょっと珍しい。いつもなら、私の愛らしさから、私に気づく法廷の人間がいるのに。
「様々な功績は存じております。昨年、大法廷での義務監督官定例報告会でも一度お見かけしておりましたので、こうして合間見えることが出来たこと、まことに嬉しく思います」
「そうなんだ。こちらこそ、丁寧な挨拶、ありがとうございます」
なんて言いながら、去年の定例報告会を思い出す、けど、何となく感じる雰囲気に、優しさと凛々しさを感じるけど、会ったことがある記憶はない。ここはとりあえず合わせておくほうが良いのかもね。というか、誰? ぜんっぜん、記憶にないよ。
「あの時は私たち支部の人間たちに、犯罪者の更正についてのご指導を承り、改めて義務監督という立場に立つことへの責任を覚えました」
それは良かった。―――なんて言ってみたけど、内心、そんな話をしたことなんて、ぶっちゃけ覚えてないんだけど。あの時はおじいちゃんにお前なりに犯罪者更正について講義をしなさない、なんて言われて、適当に良いこと言ったくらいじゃなかったかな。
「単に法廷という権力に基づいて、犯罪者への強権を発揮するだけではなく、義務を背負うという認識を犯罪者に説き、それに相応する見解と認識を与えることにより、更正を早める判断を下すということは、さすがは最高義務監督官であられるのだと痛感いたしました」
うわぁ……罪悪感感じちゃう。エーダの声が感激してる。本心でそう言っているみたいだけど、私、そんな義務更正やったことないし。本音と建前ってあるよね? だから、エーダのその言葉、何だか哀れに思っちゃった。建前は所詮、建前でしかないんだもん。。
「私は私なりに思ったことを話しただけだから、それが役に立つことになるなら、それでいいと思うし、そこから自分なりの判断を考えるともっと良いかもしれないよ」
「はい、ありがとうございます」
あぁ……そんなに感激されると、心が痛い、かも。別にそんなことはないんだけど。
「それよりも、用があって今回ここに来たの」
そろそろ本題に入りたい。何だか、エーダ、話し始めると止まらなそうだし。
「あ、し、失礼しました。まさかこうしてお話できるとは思わなくて、つい……」
赤面、してるのかな。少し声色が変わる。どうでも良いんだけど。
「トゥルーティアーについて調べてるの。ここに何か情報がない?」
「トゥルーティアーですか? えっと、それでしたら、第五義務監督所内部資料室に何かあるかもしれませんけど……」
何故、そんなことを? みたいな声。確かにそうだろうけど、これは私の管轄する義務。
「じゃあ、そこに案内して。ティドゥは、ここでお留守番だよ?」
「ワウゥ……」
ティドゥはどうせ建物の中には入れない。大法廷みたいに巨大じゃないだろうし、ここ。最近ティドゥには留守番ばかりさせちゃってるけど、しょうがないよね。おっきんだもん。
「えっと、では、ご案内します。お手をお貸ししますか?」
「ううん、いい。音で分かるから」
私の杖と、私のことを知っているからの気遣い。甘えても良いんだけど、そうするとエーダから色々とまた話を聞かされて疲れそうだから。
「あの、ひとつ、お聞きしても宜しいでしょうか?」
「何?」
前を歩くエーダの足音はヒール音。義務監督所に勤務しているなら、もう少し動きやすいものじゃないと、犯罪者の逃亡の際に邪魔になるんだけど、室長って言ってたから、管理職なんだね、エーダ。私は閉じ込められた仕事は嫌い。飽きるし。
「確か情報では、ハウン最高義務監督官は、現在S級犯罪人、ガスイ・アデルリア・マダイの義務期間中ではありませんでしたか?」
「そうだよ?」
大法廷から情報が出てるんだね。義務監督官の活動状況は逐一国内外に発信されてるし、そのおかげでこうして支部に赴いてももてなしを受けられるんわけだし、紋章で市民からの補助を受けられる。これだけ尽くされていることって、ガスイ理解してないよね。馬鹿だし。
「ですが、さきほどから姿が見えませんが、もしかして、死亡、しましたか?」
何がもしかしてなのかな? 私が担当した犯罪者が全員死亡しているから、それが当たり前だとでも思ってる? それは何かな? 私は死神だと思ってる? 失礼しちゃうなぁ、もぉ。
「カデナ・ルールーと一緒に別の義務を背負わせてるから、私は別行動なだけだよ」
女の子にさ、死神って言うのはひどくない? 私だって別に好きであんな義務を課してるわけじゃないんだから、傷ついちゃうって。別に私は傷つかないけどね。相手は私よりずっと下級の人間だし。
「カデナ・ルールー……ですか? あっ、も、もしかして、白位監制官ですか? この町にカデナ監制官も来られているのですかっ?」
私が来ているよりも驚いてるよね? それってどうなの? 見習うべき義務監督官の頂にいるのが、私。エーダはそれよりも、自分を審査する側のルールーの方が気になっちゃうんだ。ちょっといらっと来るかもね。こんなに可愛い私より、口うるさいルールーを選ぶのは、そのセンスを疑っちゃうんだけど。
「……自由な発言って難しいよね」
「はい?」
「ううん。何でも。ルールーは来てるよ。今は別件の捜査で動いてるだけだから、心配しなくて良いよ。ルールーには私が仕事をさせてるだけだもん」
にっこり笑う。そうですか、なんてとたんに安堵した声を漏らすあたり、やましいことがあるって言ってるようなものじゃない? 私の笑顔の裏にあるストレスを知らないでそんな声を漏らすなんて、私の嗜虐心を刺激しちゃうよ?
「あ、ハウン最高義務監督官、もうすぐ内部資料室のある第五義務監督所です」
「はぁーい」
そのまま足音が空に消えていく外から、響く室内に入った。静かな所内。管理は行き届いているみたいで、特に問題がある感じはしないね。まぁ、エーダもルールーの厳しい監督のうわさを聞いているから、臆しただけかもしれないし。
実際のルールーの監督は口うるさいだけなんだけど、恐れているならそのまま噂は消さないほうが面白そう。
しばらく杖の音、エーダの靴音を感じながら歩く。お疲れ様です、と時々声をかけてくるのはここの職員だろうけど、私に挨拶なしってのは、ちょっとつまんない。エーダもそうだったけど、ティドゥで私を判断してる?
「ここが内部資料室です。担当のものに連絡を取ってきますので、少々お待ちいただけますか?」
「いいよ」
それから扉の開く音。園奥へ消えていくエーダの靴音。しんと静まり返る私の周りには、退屈という言葉だけが浮かんでくる。
「トゥルーティアーの調査をしてるような空気はないよね。やっぱり何かあるのかな?」
酒場の子に聞いた話とは、雰囲気が違う。
「あ、そう言えば、ストリートチャイルドの弟君を探すのも頼まれてたっけ?」
すっかり忘れてた。あの人……えっと、名前忘れちゃったけど、弟君を探してるんだったね。たぶん、そっちには関われないから見つからなかった、とかしたいけど法廷の人間としてはそれは信頼の問題になっちゃうから、ルールーとガスイに頼んじゃおう。
「お待たせしました。では、どうぞお入りください」
「その前に、ちょっと代筆してくれない?」
「……はい?」
ドアが開いてエーダの声がした。自分で字は書けないから、ついでに頼んじゃおう。そう思って私はにっこりとエーダに笑いかけた。笑えてたかは分かんないけど、大丈夫でしょ。私、可愛いもん。
「それにしても、狭い道ですのね。小汚いですし」
開口一番から、ルールーの紡ぐ言葉は愚痴ばかりだ。気持ちはわからんでもないが、たいていストリートチャイルドは裏の廃屋、下水道が寝屋だ。俺もガキの頃は廃工場や路地裏がそうだった。向けられる視線の冷たさに、黒に目覚めた。良いのか悪いのか微妙なところだ。
「まだ着きませんの?」
「もうすぐだよ」
ガキのもうすぐという言葉は、事実だろう。だが、ルールーには不快極まりないのか、園返答にため息だ。いちいちその反応が若干イラつく。
「ガスイ、あなたは平気ですの?」
「問題ない。懐かしいくらいだ」
むしろ俺はこういう場であれば昼間であろうと目が冴える。
「何だ? お前、俺たちと一緒だったのか?」
ガキが生意気に口を利いてくる。今の俺なら簡単に消すことも可能だが、内心を悟ってか、フォックシスが俺とガキの間に尾を垂らしやがる。ババよりは利口って主張か?
「同じにするな。お前らのような馴れ合いなどするか」
俺は一人で生きてきた。仲間なぞ不要。足手まといになるばかりだ。
「寂しいやつだな」
「死にたいのか?」
「子供相手にむきになってどうするのですわ」
かすかににらみを利かせると、そう言った子供が視線を前方に逃がし、かつ、ルールーの止めが俺に入る。何だ、この扱いは。
「こっから下に入るけど、行くの?」
やがて、路地裏のマンホールにガキが立つ。なるほど、やはり下水道ってわけか。
「ルールー、お前、行くのか?」
「当然ですわ。フォックシス。わたくしを降ろしなさい」
こういう場合、ルールーのような奴であれば、踏み込む気すらわかないと思っていたが、フォックシスがしゃがみこみ、ルールーが降りた。少々意外な光景といえば、そうだ。
「さぁ、案内するのですわ。フォックシスは、このまま警戒を続けるのですわよ。何かあれば、一般市民に迷惑をかけないように行動するのですわ」
「キュオ」
ババとは違い、具体的支持ではないんだな。あくまでも行動権利はフォックシスに委ねる。ババよりは頭脳指数が高いと見る。一方の主人はそうではないみたいなのが、こいつが哀れなところと言ったところだろう。
降り立つルールーがガキが空けるマンホールに息を呑んだ。
「うっ……す、すごい匂い、ですのね」
空けた瞬間に漂う下水臭。俺は元から顔を覆い隠している分、匂いも軽減しているが、ルールーはマスクも何もない。まともに臭うだろう。哀れだな。
「行くぞ」
ガキの先導でマンホールの狭いはしごを降りる。
「ガスイ、あなた、先に降りなさいですわ」
ガキが降り、ルールーが降りるかと思ったんだが、俺に先に行けという。
「良いのか? 見えるぞ?」
俺が先に下りれば、ルールーの下着が見えるだろうな。何しろ法廷装束はロングとはいえ、女はスカートだ。
「わたくしが先に降りれば、あなたが逃走する可能性がありますでしょう。それに、ガスイの考えていることは、見上げなければ問題ないことですわ。仮に除いたところでこれをつけさせていただくだけですわ」
そう言い、俺に見せるはバングル。なるほど。ただそれだけのこととはいえ、俺にとってはそれはそれで、大きな罰というわけか。
「あいにくだが、俺ははしごなど使う必要がない。下水に光はない。ここらか先に行かせてもらおう」
無駄なことに手を汚す必要はない。うっするらと直りかけた指の傷を刺激し、血をたらす。
「先に行くぞ。転移」
己だけ先に路地裏の影に身を沈める。ここ最近は闇に沈んでいなかった分、すべてを闇に覆われると、音も光もなく、無意味に息が漏れた。だが、その落ち着きの闇もすぐに覚める。
「うわっ」
「おわぁっ! いつの間に……」
「あれ? 何で?」
そして俺が再び姿を現すと、そこにははしごを降りてきたガキたちの驚きの声が響いていく。
「気にするな。これがお前たちとの差だ」
俺を驚きの表情で見てくるが、そんなものに興味はなく、その後、はしごを降りてくるルールーの声が響いた。
「ガスイ、あなた、自分ひとりだけで行くなら、わたくしも連れて行ってくださってもよくはなくて? 全く、せっかくの服が汚れてしまいましたではありませんのよ」
第一声から不満か。ついでにいつの間にかルールーは明かりを携えていやがる。薄暗い中で、その明かりは目に毒。俺は視線を合わせない。
「頼まれてもいないからな」
ルールーへの奉仕が更生への助長になる、だと先ほど言ったが、到底そうは思わない。だからこそ、言われたことしか俺はしないぞ。
「使えませんわね、ほんと」
それはこちらの台詞だが、余計な面倒を増やすわけにもいかず、流した。
「さて、どちらへ行けば宜しいのですの?」
話題を取り戻し、再びガキの先導で下水道を歩く。ルールーもハンカチだかで鼻を押さえ、声がくぐもっている。
「ずいぶん、手が加えられていないのですわね。足元はぬめりますし、流れも緩い。これではいつ疫病が起きてもおかしくありませんわ」
ルールーが怪訝そうに言うが、確かにこの下水道は臭う。その上足元も滑りやすいほどにカビだかでぬめりがある。
「下水道の管理は基本的に保険検疫所のはずですが、何をしているというのですの?」
そこまでは知らんが、機能していないのは間違いないだろう。壁に指を触れさせてみると、なにやら奇妙な滑りのある物体が付着し、背筋に嫌な震えを感じてしまった。不用意に物を触らないほうが、ここでは良いらしい。いっそのこと、この全てをデプラッセで消し去っても良いくらいだが、下水は広い。その全てをとなると、さすがに力が足りんだろうな。
「ここは俺たちのアジトだからな。そんな奴ら、来ねぇよ」
「誰かが来ても、みんなで追い返すから、もう、何年も誰も来ません」
ガキの答えに、ルールーが声を上げる。
「はい? あなたたち、そのようなこともしてますの? それは公務執行、ならびに業務妨害に抵触しますわよ。どのような方法かは存じ上げませんが、職員への業務妨害は窃盗以上に罪が重くなります。あなた方はここを住処として利用しているようですが、この場は公共施設に値する、国の管轄による管理地です。現段階において罪であること、そして罪を重ねること、これは合わせるとBランクに抵触するほどになるのですわ。さすがに検証だけでは済みそうにありませんわね」
ガキたちに説教したところで、生活の場がない連中には無駄な説法だろう。そうしなければ生きてはいけない。
「なら全員を保護出きるのか?」
率直な疑問。そういう犯罪に手を染めるべき人間がここには溢れているだろう。なら、それを更生へと導くのであれば、法廷にそれほどの余裕がると言えるのか?
「それはおそらく困難でしょう。法廷には支部を合わせても収容可能人数というものが設定されているのですわ。児童保護施設にしても、このハーティス王国だけにしてみても、限界地はあるのですわ」
「じゃあ、さっきと言ってる事違うじゃんか」
ガキが先ほどのルールーの言っていたことの矛盾を突く。
「わたくしは、あなた方を救済したいと言っただけですわ。その救済法が全てのストリートチャイルドの解決になるとは、一言も言ってはおりませんでしてよ?」
うっ、とガキが沈黙する。弱いな、こいつら。ルールーは調子付かせれば調子に乗っていくだけだ。言葉を選べばそんなことを約束させるのも簡単だろうに。
「なら、どうする?」
「難しいことではありません。わたくしは白位監制官ですわ。わたくしの働きかけ次第で支部から各国本部を動かすことも可能なのですわよ。手はまだいくらでもありますわ。ですが、その為には情報も必要ですの。ですので、今回はあくまでも参考資料として罪状は計らせていただきますが、罪に科すことは、先ほどの現行犯のみとしますわ。あなた方がこの後に犯罪を犯さなければ、ですけれども」
あくまでも現状調査というわけか。まぁ、こいつらがどうなろうと知ったことではないが、下らないことになればなったで、ララミンの毒を浴びることになるんだろう。なら、俺はまともに行動できるルールーの様子を見ていれば問題はないはずだ。
「別に俺たちだって好きでやってんじゃねぇからなっ」
ガキの一人、名前を忘れたが食いつく。
「分かっているのですわ。ですが、決して許されるものではないことは認知しておくべきことなのですわよ。ストリートチャイルドから凶悪犯になるケースは多いのですわ」
そう言いながら、明かりに照らされるルールーが俺を見る。
「なんだ?」
「S級すら出てしまうのは、本格的に訴えていかなければならない事象かもしれませんわね」
人の顔を見てのため息か。つくづく苛立つ女だな。
「ここだよ」
しばらく歩かされた影響か、若干下水のにおいに慣れてしまった。そしてたどり着く、通路脇に不自然に備え付けられた扉が通路に若干突き出ていた。
「これは違法改造を施していますわね」
ルールーもその不自然さに表情を険しくしている。
「これは僕らじゃないよっ」
「そうだっ。これはリーダーがやったんだからな」
責任のなすり付けか。醜いが下らなく、面白いな。まだ何も言っていないだろうに。
「それにしては溶接が雑ですわね」
「知識のない色能者を使ったかで、無理やりにこじつけたんだろう」
扉といっても目の前にあるのは、金庫に使うであろう重厚な扉。それを無理やりくっつけでもしたんだろう。ガキが開くが、途中で異音を発し、人二人分ほどから開かない。
「財力があるのか、窃盗団なのかは分かりませんが、このようなことをする組織はそうはありませんでしてよ。ガスイ、何かありましたらわたくしを守るのですわよ」
「は……?」
唐突な命令に、思わず疑問が浮かぶ。
「当然ですわ。何度も言いましたが、監督官の義務更生を受けている以上、監督官を守護することもまた、罪人には他者を守るという、人にとって当然である感情を取り戻すことになりますのよ。それに今のわたくしには、わたくしを守護すべくのフォックシスもおりませんの。なればこそ、わたくし以上に力のあるあなたが、監督しているわたくしを守ることが当然ではなくて?」
何たるわがままだ。ララミン並みだな。しかし、自分の弱さを主張するのはララミンとは異なる点だな。あいつの言葉は基本的に信用しないことが正しい。何しろ、俺の黒を塵のように消し去るほどのものを持っている。あれほど恐怖を覚えることも、今となってはない。
だが、ルールーは弱い。なぜかフォックシスの熱を受け付けないのは疑問ではあるが、俺が恐れるほどのものではない。オンブルにすらルールーは効果がある。いくらでも謀反を働けるという思いが、今は自制にもなるのだろうな。
「下らんことに俺を使うな。弱いとは言え、お前は法廷の人間だろう」
「承知しておりますわ。これでも多少は技というものは得ておりましてよ」
技、か。気にはなるが聞くだけ無駄だろう。
「行かないのかよ?」
「早くしろって」
ガキが扉の向こうから呼ぶ。ルールーが先にとおり、その後に俺も続いた。何かしらの不穏さはあるが、この空間は基本が闇。俺のテリトリーである以上、過度の警戒はすることがなかった。
「みんなぁ、戻ったぞーっ」
響く声に、ドアの向こうは再び通路になっていた。違和感を覚えるのは、先ほどまでなかったゴミや拾ってきたであろう家具のようなものがあるからか。ガキのアジトといえばアジトらしいが、汚いもんだ。
「よくこのような衛生環境下で生活できますわね」
ルールーが足元に落ちていた汚れ、破れたシャツをつまみ、眺めた後に捨てた。
「大概こういうものだ」
どこへ行っても下の人間の生活など。
「おー、おかえり……って、何だよっ、そいつらはっ」
出迎えらしくガキ共が姿を見せた瞬間、劈く声がわずらわしかった。
「大丈夫だよ、落ち着いて。この人たち、調査に来ただけなんだ」
俺たちに敵対する声に、なだめようとする声。いちいちうるさいもんだ。オンブルマルシェで封じるか?
「落ち着きなさい、あなたたち」
そう思った瞬間、ルールーが声を響かせ、血を垂らそうと思った手が止まった。
「わたくしは大法廷所属白位監制官が第一席、カデナ・ルールーと申しますわ。今回、あなた方の生活環境の視察に来ただけですわ。無駄な抵抗をせず、わたくしの指示に従いなさいですわ」
大した威厳はないが、ガキ共がその声に声を静めた。
「う、うそ言うなっ! 俺たちを追い出しに来たんだろっ」
「そうよ。きっとそうだわ。今までだって何人も連れて行かれたんだもんっ、帰ってっ。ここは私たちのお家なんだからっ」
少女までいるか。多種多様というか、徐々にガキが集まり、帰れコールが耳障りだ。
「帰れだとよ。じゃあ、帰るか」
「何言ってますのよっ。馬鹿でなくて? 子供の言葉を真に受けないで頂きたいですわ」
背を向ける俺の首根っこをルールーが掴む。別に真に受けたわけではなく、単に面倒だからなんだが、と言い返す間もなく、続ける。
「何を言われようと、わたくしは大法廷の人間。わたくしには強制執行権も有されている以上、わたくしへの冒涜行為は厳しく裁かせていただきますわよ」
権力を振るうとガキはだんまる。
「大人しく指示に従えば、わたくしはあなた方を救済すべく対策を打ちますの。あなた方もこのような汚らわしい場所にいつまでも住まいたくはありませんでしょう?」
言いたい放題だな。こいつらは現に生活の場として生きているというのに、法廷の人間がそれを無碍にするか、普通。
「リ、リーダーに、言ったほうが良いんじゃないのか?」
「だな。お前ら、リーダーを連れて来い」
「う、うんっ」
後方にいたガキが数人奥へと走っていく。響く足音にこっそりも何もないが、ルールーが追わないのであれば、俺もその必要はない。
「ざっとみただけでも二十名近くはいますのね。他に子供はいませんの?」
「この区は俺たちだけだ。あとは時々リーダーが来るくらいだよ」
区? そんな区切りがあるのか、ここには。
「そのリーダーという方はどこにいるのですの?」
「今、呼びに行ってる。言っとくけどな、リーダーはめちゃくちゃ強ぇんだからなっ!」
「余計なことしたら、お前らなんかけちょんけちょんにしちゃうんだぞっ」
この俺をけちょんけちょんにか。実に面白い話だな。それほど強いのならば、ぜひとも殺し合いをしてみたいもんだ。
「なめられたものですわね。しかし、わたくしもそう簡単にやられるほど、やわというわけではありませんでしてよ」
俺からすれば、ルールーの力というものは、フォックシスを操るくらいしか思い当たる節はなく、酒場でのルールーのひ弱な態度を見ている以上、はったりでしかない。もしや、俺が守護するからということなのか、その言葉は? そんなもののためにララミンに命じられてこいつに従っているわけではないのだがな。
「では、リーダーと呼ばれる方が到着するまで、あなた方の生活の場を視察させていただきますの。ガスイ、ついてきなさいですわ」
「いちいち俺に命令するな」
靴音を響かせ歩くルールーから距離をとり、歩く。ガキが俺たちを囲うようについてくるが、目障り極まりないな。ここで面倒を一気に闇に消せば済むものを、そうする気が湧かないのは、俺自身に呆れるな。
「あ、そこ、虫がいっぱいいるから」
不意にガキの一人が足場がゴミになっている所で声を漏らす。
「……へ? っ!?」
そしてその言葉を聞きながら歩いていたルールーが何かしらに踏み込んだのか、足音が若干変わる。
「きゃああああああああっ!」
「ぅおっ!?」
と同時に今日一番の悲鳴が轟く。そして俺の体が重くなった。だが、悲鳴はルールーだけではなかった。
「やっべぇっ! そいつが踏んだから一気に出てきたっ! 潰せ、早く潰せ」
ワーキャーとガキたちがいっせいに騒ぎ出し、何かを踏んでいく。
「何だ、いきなり。人に抱きつくな」
だが、俺はそれ以上に鬱陶しい。叫んだと思った途端のルールーが俺に抱きつくように身をぶつけてきやがった。衝撃によろめきそうになるが、耐える。
「だっ、だだだだって、む、むむむしっ! 変な虫がわんちゃか出てますのよっ!」
わんちゃか? わんさかのことか? 今の今までの凛々しさはどこへ行ったのかのそのおびえっぷりに、無理やり首に回る腕を解き、離した。
「ガッ、ガスイっ! なんとなするのですわよっ、早くっ」
「何なんだ、揃いも揃って」
ルールーに限らずのガキ共の騒がしさに、足元へ視線を落とす。
「ただの虫けらだな」
足元には、何やらかさかさと音を立て、走り回る無数の虫がいた。一瞬はさすがにその気持ち悪さに怖気を感じたが、すぐに正体が見え、そんな恐怖もどこへやら、だ。
「い、いいいい良いから、早く何とかしてくださいですわっ! と言うより早く消し去りなさいっ!」
「自分の技とやらで何とかしろ」
ガキでさえ、叫びながら踏み潰している。誰一人として恐れているものはいない。茶飯事だからな、こういう不衛生な場所においては。
「わたくしの体術で殺生をすれば、わたくしが汚れてしまいますでしょうっ!」
ルールーの予期せぬカミングアウト。技というものは体術のことか。つまりは、護身術という感じだろう。確かにそれで足元にはびこる虫けらを殺すのは嫌だな。俺も直接触れたくはないのも、正直な感想だ。
「デプラッセ」
血を足元に垂らし、一気に足元を覆いつくす影の中へそいつらを全員転送した。
「これで良いか」
先ほどの喧騒はどこへやら。一瞬にして場は静寂を取り戻すが、慌てようにルールーが一人肩で息をしていた。何を興奮していたんだか。
「はぁ……はぁ……た、助かりましたわ……。まさか、あれほどまで湧いて出てくるなんて、不衛生すぎますわっ」
調子を戻せば、すぐに怒鳴る。だが、その原因だった虫けらは、一匹もいないだろう。確認するのも面倒だ。
「って、あ、あら? ストリートチャイルドはどうしたのです?」
そして異変に気づかれる。
「お前が消し去れと言ったから全て消し去ったが?」
言われた通りに俺は消し去った。だからこその下水道の静寂。かすかに流れる汚水の音と、俺たちの声しかしなくなった。
辺りを見回し、足元を見下ろし、ルールーが何やら様子を伺っているが、そこに先ほどまでいた虫けらの姿は一匹たりともいない。いや、厳密にはこの空間は全てが闇。だからこそ、俺がデプラッセで転送したものは、その影の上にあるもの全て。俺とルールーを除いてだが。だからこそ、足元には先ほどまで散乱していたゴミすらなくなった。ふみ心地の悪かった足元がすっきりすると、歩きやすい。以下に汚れていたのかがよく分かるな。
「って! 子供たちまで消し去ってどうするのですわよっ!」
耳を劈く声に、一瞬頭が耳鳴りのようなものに貫かれた。
「お前が消せと言ったから消しただけだ。文句を言われる筋合いはない」
まぁ、虫けらだけを消せということくらいは分かっていたが、ガキもうるさかったからついでに消した。ついでであれば、全てをルールーの責任に押し付けられるだろう。
「馬鹿じゃありませんことっ? 常識的に考えて分かることですわよっ!」
こうなるとは思ったが、まさしく予想していた通りの声。
「案ずるな。殺してはいない。転送しただけだ」
消滅ではなく、転送。だからこそ、闇に落ちた全ては死んではいない。
「て、転送? どこにやったのですわ?」
「さぁな。どこぞの建物の影からでもガキは出てくるだろ」
あいにくと、この町の地理には詳しくはない。闇に落としたガキたちがどうなるかは、俺の記憶にあった建物の影のどこかから忽然と出てくるだけだ。ついでに虫けらの大群も出てくるだろうがな。
「殺害しては、いないのですわね?」
「信用ないな」
「あ、当たり前ですわっ! あなたはS級罪人。信じる言葉などどこにありまして?」
そう俺に言い寄るが、なら、その俺がお前を守るという保障などどこにもないということは自覚しているのか、という俺の疑問は闇の中へ吐き捨てた。口論をするのも面倒だ。こういう女は。
「これで静かにさっさと視察とやらを終わらせられるだろ」
「話を聞く相手がいませんではありませんのよっ」
やれやれだな。だれもいないのであれば、さっさと状況確認だけすれば良いだろう。どうするかはどうせ支部の役目なんだろうからな。
「……まぁ、子供たちが戻る前に、環境下だけでも視察しますわよ」
切り替えが早いのか、諦めたのか、ルールーが俺のオンブルの影響を受けていない場所まで向かい、散乱している用品やらをチェックする。俺はそれを見ているだけだ。
「衣類はサイズが大人ものですわね」
「盗んだ以外に手に入るわけがないだろ」
持ち上げる服は、当に着古されたのだろう。ボロボロだ。雑巾かと思ったほどだ。
「食器も現れた痕跡がありませんのね。これでは食中毒の原因になりますわ」
「ここで水洗いが出来る場所があるなら聞きたいもんだな」
「…………」
一瞬ルールーが振り返るが、何も言わずに勝手に物色を続ける。俺も何かしらめぼしいものが内科と見るには見るが、所詮はガキ。大したものなど何もない。
「この食品、これは去年の賞味期限ではありませんのよ。……しかも、今でも食べているなんて、体調を崩す原因ですわね」
「食えりゃ何でも良いんだろうがよ。食い物すらろくにねぇんだからな」
「……」
俺の言葉を聞いてはいないのだろう。全て無視の上でチェックを続けている。
「この家具類はいったい何をするために置いてあるのか分かりませんわね」
「金にするために決まってるだろ。下手な手が修繕の後くらい一目だ。それじゃあ、金にはならんがな」
「うるさいですわねっ! さきほどから人の独り言に文句ばかりっ! 言いたいことがあるならはっきりと仰れば宜しいでしょうっ」
急にルールー吼えた。何だいきなり? 思わず少しばかりびびったぞ。
「見れば分かることばかりだろ。ララミンでもそれくらいの把握は出来ると思うぞ」
「なっ!? ハ、ハウンとわたくしを一緒にしないで欲しいですわねっ!」
ララミンであれば、ここまで来ずとも言い当てるだろう。それが出来ない上に、予想も立たないのであれば役にも立たないだろうに。ララミンに踊らされているようにしか、俺には見えん。
「ん? ……っ」
ふいに背後に感じる気配に、身を避けさせる。
「ったぁっ!?」
その瞬間、俺の目の前を何かが通過し、ルールーの拍子抜けする声が通り抜けた。
「いたたた。ちょ、ちょっとガスイッ! 唐突に何をしますのよっ!」
だが、後頭部を抑えるルールーが振り返ると俺に吼える。持っている明かりが不気味にルールーの顔を浮かばせ、怒りを見せるのがよく分かる。
「何の話だ? 俺は何もしていない」
「嘘仰いっ! 現にこんなものがあなたから飛んできたじゃありませんのよっ!」
一度屈み、足元にあったミルクパックらしい箱を俺へと突きつけるが、そんなものを俺は持たない。
「勘違いも甚だしいな。俺は背後の気配に身をかわしただけだ」
こんな感じでな、と先ほどと同じように体を壁につけるように交わしたことをルールーに示した瞬間、一瞬明かりの中を何かが通過した。
「何をおっしゃぶっ!?」
何を仰るとでもいいたかったのかもしれんが、それを紡がせないように、ルールーの顔面に何かが直撃し、カランカランと金属音が足元に転がっていった。
「空き缶か? まだ誰かいたのか?」
振り返るが姿は闇に覆われている以上、確認は出来ない。闇を好む俺ではあるが、目の前にわずかにルールーの持つ明かりがある以上、闇に目が馴染みにくくなっている。何もなければよく見えたんだが。
「ガースーイー……」
「だから言っただろう。背後から何か飛んできているから、俺は避けただけだと」
背後に感じるルールーの声に弁明という感情は持ち合わせていないが、理由くらいは説明してやった。被るもののない罪まで着せられてはたまらんからな。
「自分だけ避けず、わたくしを庇うべきでしょう! それか普通は一言くらい言いませんでしてっ!?」
キッと俺を睨み付けるが、それは自己責任というものだろう。俺は少なくとも関与してはいない。そして、自身の身を守ることを優先しただけだ。何ゆえに他人の犠牲にならなければならない。そんな面倒まで背負うとは一言も口にはしていないぞ。
「言ったところで反応出来なかっただろう?」
俺も目の前に来て気づいたことだ。忠告した時点ですでに物体は眼前。回避する余裕もなければ、忠告している間に衝突がオチだ。
「全くもぉ……何なんですのよっ! 誰ですのっ!? このわたくしの顔に物を投げつけたのはっ! 厳しく裁いて差し上げますわよっ」
ルールーが俺の仕業ではないと理解したのか、俺の背後にそう吼えた。
だが、敵も馬鹿ではないと言う事らしい。途端に物体の投てきは収まり、静けさだけがルールーの声をどこまでも響かせる木霊として戻ってくる。それを知ってか知らずか、ルールーは挑発する。なんとも愚かな行為だ。
「そうですの。素直に顔を出すことが怖いのですわね。身を隠さねば何も出来ないような愚か者ということですわね。ですから地上の懸命に働き、稼ぎを得て、家を構え、家庭を作ることも出来ないのですわよ」
言いすぎだろう、法廷の人間としては。
「ん!? デプラッセッ」
そして不意に気づく風切音。それが今までのようなゴミではないことを直感で感じ、とっさに目の前に闇を呼び寄せ、それを闇へ吸い込ませた。
「な、何ですの? 急に?」
何も気づいていないルールー。やはりお前はララミン以下であると確信しつつも、闇へ葬った何かしらの物体を、投てきしてきたであろう付近に再びデプラッセでそいつに向けて放った。
「何っ!?」
その瞬間、俺たちの視線の先が明るく燃えた。
「え……?」
何が起きたのかと声を漏らすルールーを他所に、俺は警戒の眼差しでそこを見る。
「も、燃えてますわよ」
「ああ、どうやらリーダーとやらのお出ましのようだ」
その炎は突発的に噴出した。炎というものは突発的には燃え盛りはしない。小さな火種を媒体へ点火することで激しさを増す。しかし、距離を置いた向こうで燃えた炎はその様子がない。だとすれば、答えは一つ。
「赤の色能者だ」
自ら炎を発し、操る能力を有するのは、色能者であり、そいつが持つ色は炎の色、赤。先ほど俺が感じていた不穏の赤か、の特定は出来ないが、可能性は高いかもしれない。まさか向こうから現れてくれるとは思わなかったんだが。
「ストリートチャイルドのリーダー格が色能者ですの? そんなはずはありませんわ……」
ルールーとて感じているのだろう。俺以上に色能者の知識はあるはずだ。だからこそ、その驚きの呟きは、分からないでもない。何しろ赤は法廷により保護されし色のはずだ。聞いた話でしかないが、赤の能力は活用需要が多い。それは青の水と同様。生活に関して大々的に必要となる熱源、火力を操るにはもってこいだからな。法廷が保護することでその能力を収め、生活の助けとして熱水や火力により配給する。その利益を色能者も功労金として受け取るはずだ。俺のような大した利用のない色は使われないが、求められる者は多いはずだ。
「さて、こういう場合はどうするんだ?」
「落ち着きなさい。まだそうと決まったわけではありませんでしてよ。事情を伺うことが優先ですわ」
だが、一度振り返ると、ルールーの表情から驚きは消えていた。まぁ、こいつの場合は炎を使役するフォックシスを従えている分、炎に関しては知識も長けている。だからこその余裕なのだろう。ともあれ、俺としては奴が敵であり、こちらに挑んでくるほうが、ルールーの守護という名目で久々に色能者同士で殺し合いが出来る。俺は少々興奮も覚えていた。
閲覧ありがとうございました。
次回はハウンとガスイが目指すトゥルーティアーやルールーとの問題について詳しく書ければ、と思います。
では、次回更新予定作は、「とある事務所のテトテトテン(仮題)」です。
なかなかこの作品はタイトルが決まらないのですが、そのうち正式名称が決められたらと思います。
更新予定日は6月10日前後を予定しています。