第二十四回.カデナ・ルールーの説法
久々の更新です。多少更新予定を変更しましたが、ひとまず更新分の執筆が出来ましたので更新です。
「そこの子供、お待ちなさいですのっ!」
驚愕に立ち尽くす町人。呆然と目の前を通過する赤い毛。そりゃまぁ妥当な反応のはずだ。
「止まりなさいと言っているのですわっ! 止まりなさいったら止まりなさいっ!」
洗濯物を干す建物同士の網を揺らし、地を抉る爪痕。これはこれで往来の通行妨害ではないのか? そう思う俺は、相変わらずこのクソ狐の走行バランスの錘と化している。もはや誰も俺を訝しむ者はいない。目を引くこいつらの目立ちようには、所詮は尾の飾りだろう。
「止まれと言われて止まる馬鹿は、犯罪者にいるわけがないだろう」
ガキ相手に怒声轟かせて巨体で追えば、そりゃ逃げるだろ。マニュアルを地で行くのか、こいつは。
「煩いですわねっ! ここで無理をすれば人や建物に被害が出るではありませんのよっ」
ならば、フォックシスから降り、自らの足でそいつを追えばいい。誰も怪我はしないだろう。そう言うことにも気づけんのか、こいつは。……気づきはしないんだろうな。
「そこの子供、止まりなさいっ! 逃げるばかりでは罪が重くなるだけですのよっ。大人しく事情を話し、罪を認め、罰を受けることこそがっ、最良の更生なのですわっ」
言っていることは全うなのだろう。俺にはそれすらが面倒でしかないんだが。しかし、逃げる側の気持ちは同じだろう。処罰を恐れるならば罪は犯さん。色能者でない限りはな。
「あぁっ、もうっ、なんてちょこまかと……」
この人ごみだ。図体がデカイ奴が不利だろう。さっきの子供は、もう俺の視界には映らん。
「私は大法廷が白位監制官ですわ。緊急事態につき道を開けなさいっ!」
自らの権限を大いに吐露するか。この辺りはララミンとは異なる点らしいな。目立つことで犯人へ市民の関心を集める、か。
「ガスイ。貴方も何をしているのです? 義務更生期間中であるなら、犯罪者の取り締まりにも協力するべきですわ」
本来の能力を発揮出来ないフォックシスのトロさに憤慨でも抱いているのか、いちいち俺にまで八つ当たりか。短気も良い所だな、この女。
「お前は俺を見て何とも思わんのか?」
全身に纏わりつく熱気。揺れに揺られ、少しばかり酔いを感じる。能力を封じられている俺に何をしろと言うのか? 犯罪者に犯罪者を捕らえろと? そんな馬鹿なことをいちいちこの俺がすると思うのか、こいつは。
「それは貴方が勝手にしたことですわ。監督官への尽力は義務解消の考慮にもなるのですわ。どうするのです?」
果たしてこいつの言葉を信じても良いのだろうか? ルールーの言葉に、考えてしまう。しかし、答えは一つ。
「お前の口添えでララミンが義務を解消するために一つ様なことをすると思うか?」
第一、俺の義務以外、俺は何も制約を受けてはいなかった。ララミンがこの程度のこと
で義務のランクを下げるとは到底思えん。ルールーの言葉など聞きはしないだろう。
「うっ……」
図星か。
「だが、この拘束を解くというのであれば、考えてやらんでもないぞ」
自分でどうこうするつもりがないのであらば、動けるものの拘束を解くべきだろう。ララミン曰くが正しいのであらば、ルールーはこういう事態を経験したことがないのだろう。フォックシス自身の行動力もババ以下だ。
「し、仕方ありませんわね。フォックシス、下ろしなさい」
熱さからようやく解放される。外気はこうも涼しいものだったのか。そんなことすら気づいてしまえるほどに、フォックシスの能力が今は俺を束縛している。
「これも解放してもらうぞ」
フォックシスに拘束される事態については大したことではない。問題はこのバングル。
「これを解放した時点で能力による逃走、監督官への反逆行為に及んだ場合、現時点であなたの義務監督官である私、ルールーの名において……」
本当にマニュアル人間だな。現場のララミンがこの場にいればどれほどの毒を浴びることになるのか。
「良いから外せ。逃げられるぞ」
「煩いですわねっ、これも形式なのですわよっ」
「くどいことに拘るから、お前はララミンに小馬鹿にされていると言うことに気づいているのか?」
「んなぁっ!? そ、そんなことはありませんわよっ! これは監督官、監制官にとっては形式上必要な手続きなのですわよ」
そうだったのか。ララミンのやつ、そう言うことをしたことは一度もないぞ。
「まぁララミンがどこにいるかも分からん中で、アホはしない。だから外せ」
両手を差し出す。周囲の目がフォックシスに向いているうちに解放してもらいたいものだ。
「わ、わたくしが今は監督官なのですから、わたくしに誓って頂きたいものですわね、全く」
そう言いつつも外すのか。しかし、これで能力を取り戻せたわけだ。
「キュオォ」
「フォックシス? どうしましたの?」
フォックシスが俺を見る。明確な疑惑と敵意だな、その目の色は。
「案ずるな。敵対する気はない」
フォックシスはババ以上に有能そうだ。あの命令に従うことを幸せと考える変態犬と箱いつは違うらしい。
「さて、俺はあのガキを捕らえれば良いのか?」
「そ、そうですわね。フォックシスにはこの狭い販路は不得手ですわ」
やはり自分がと言う認識はないのか。行動力に関しては明確にルールーとララミンの事務と現場が出ているな。
「で、ですが、だからといって、民間人への危害を加えた場合、どうなるか分かっていますわねっ?」
「なら、とっと済ませるぞ」
人が多かろうと少なかろうと、問題ではない。
「ちょっ、な、何をしているのですっ!?」
歯で指を噛み、血を俺の影に落とす。
「これが俺の能力発動だ。黙ってみていろ」
数滴を影に染み込ませる。ルールーに限らず、近場にいる一般人の視線があるのはいささか不愉快ではあるが、この現状においては従うことが賢明だろう。従い、大人しく仕事をこなせばバングルの抑制を回避できるかもしれない。今はその自由を求めることが賢明そうだ。
「オンブル」
影の領域を治める。どれほどの人間がいようが、その判別は容易い。
「え? 影が飲み込まれているのですわ……」
当然ながら、ルールーもフォックシスも既に俺の闇に影を剥奪されている。このまま葬ってやろうと思ったが、止めた。
「おい、狐。尾を巻きつけようとするな。邪魔だ」
警戒してのことか、俺の体へ尾を数本翳してくる。それだけで顔が熱い。人を信用しないことは同意を示すが、過度の警戒も鬱陶しい。
「随分と人間が多いな、この辺りは……」
影を飲み込み、その中から俺の記憶にあるガキの影を辿る。
「当然ですわ。交易の盛んな町なのですわ。これでも少ないほうですわよ」
これでも少ない方か。これ以上多いと、さすがにぶっ倒れそうだな。
「それで、まだですの?」
「待つことも出来んのか、お前は。これだけ人間がいれば容易いわけがないだろう」
ガキの影は特定しやすい。小さいからな。しかし、記憶にあるガキの影を追うにはその小さい影から探す。それはそれで手間がかかる。大人であれば大抵特徴が明確に出ているが、個性の乏しいガキはどれも同じにしか見えん。
「ん?」
「何ですの? 見つけましたの?」
人間の影の中に、それとは異なる影を感じた。
「色能者がいるぞ。赤だ」
俺の陰に気がつきやがった。
「フォックシスならここにいるではありませんの」
「違う。人間の色能だ。不穏だぞ?」
色能者に関しては、どうも無意識に敵対認識が湧く。俺の力に気づき、かつこちらを伺っている。用はないが、妙に警戒されているな。
「問題を起こしているわけではありませんので、法廷からどうすると言うことは致しません。それよりも、先ほど泥棒とはまだ見つかりませんの?」
何故人に探せといっておいて、俺が責められるのか。ララミンも短気すぎるが、ルールーも同じか。何もしないで言うだけ言う辺りはたちが悪いのはこちらだな。
「しかし、妙な奴だったな……」
どうも俺に対してなのか、色能力に対してなのか過敏に俺を警戒している。しかし、ルールーがそう言うのであれば、気に掛けるべきではないのだろう。ガキの影を追うことに少しばかり気を払った。
「いたぞ。裏路地で数人のガキと落ち合っている」
「やはりストリートチャイルドですのね。行きますわよ」
フォックシスに乗り、再び歩き出す。道が自ずと出来るが、スズライと言い、この街といいその驚きには、このデカ物たちの行動に対して法廷が処置をとらないことに問題があるだろう。
「早くしなさい。どちらにいるのですのっ?」
「そっちだ……」
所詮はマイペースな奴か。マスクを被りなおし、軽く止血措置を施し、九本の尾を揺らすフォックシスと、その上に乗るルールーの後を追う。
「ルールー」
「何ですの?」
その後姿に一つ、疑問を抱いた。
「お前は、熱くないのか?」
火傷に及ぶまでとはいかずとも、サウナのような熱気を持つこの狐。その上に跨るルールーはそれを感じないのか?
「熱い? 何を言っているのです? わたくしとフォックシスは一心同体も同然。フォックシスの熱は、わたくしには影響いたしませんの」
それはそれで新たな疑問が生まれる。ララミンの話ではルールーは色能力を持たない普通の人間だと聞いている。ルールー自身もそれを認めていたはずだが、どういうことだ?
「今はそのようなこと、関係ありませんわ。ガスイ、早く案内しなさい」
「その角を曲がった先だ」
やはり俺の言葉は無視か。俺はどうも、自分勝手な監督者様に恵まれる罪の星に生まれたらしいな。能力を自在に使役した頃が懐かしくもあり、生活において食住の保障がある今とのどちらが良いのか、分からんな。
「あれだな、捕縛するか?」
「いいえ。法廷は確証なきことをこちらから手を出すことを許してはいないのです。まずはそれとなく事情を伺いますわ」
こういう相手に対話は無意味だろうが、ルールーには聞こえはしないだろう。こっちも話を聞かない女だからな。
「そこの少年たち」
唐突にルールーが裏路地の一角でなにやら窃盗品らしきものを物色しているガキに声を掛けた。真正面からぶつかった所で逃げられるだけだろう。こいつはそう言うことにすら気が回らないのか。
「っ!?」
「だ、誰だっ!?」
「誰とはわたくしをご覧になってお分かりにならないのですか? わたくしは大法廷所属白位監制官第一席、カデナ・ルールーですわっ」
目が見えている以上、フォックシスから飛び降りた所で着地に失敗することはなかったが、いちいち言うことが威圧的だ。対話をするはずじゃなかったのだろうか。
「法廷の人間っ!?」
「何で? ちゃんと撒いたのにっ」
「馬鹿っ、そんなこと言ってる場合じゃないって。逃げるぞっ」
言わんこっちゃない。言った傍からガキ共が背を向けて逃げ出した。
「あぁっ!? ちょっと、お待ちなさいっ!」
逃げる子供に追いかけるルールー。それを追いかけるフォックシス。馬鹿なのかよく分からん構図が俺の視界の先に広がり、俺は呆然とそこを動かなかった。
「ガスイッ! あなたも追いなさいっ! フォックシスッ!」
「キュオォォォッ!」
俺はこれから、このストリートチャイルドとやらの問題をどうにかするまで、このような茶番に付き合わなければならないのか? そう考えると、気が重くなるばかりだった。
「影踏み」
面倒だ。逃げるならば追う。愚行と言うものに他ならない。血を落とし詠唱する。
「うわっ!」
「あ、あれ……どうなってんだよっ!?」
「う、うごけねぇ……っ」
ガキごときにこんなものを使うとは、俺も落ちたものだな。自嘲が止まらんぞ。
「って、ちょっとぉっ! ガスイッ! どういうつもりですのっ!? 反逆ですのっ?」
「は……?」
耳を劈く煩い怒声に、何事かと思った。
「キュオオォォ」
尾の熱に留まらず、視界に飛び込む口からの赤き焔。殺るのか? そう直感に覚えるが意味が分からん。
「う、うごけねぇよ……」
「な、何がどうなってるんだ?」
「な、なんなんだよ、これ」
ガキ共が初めて経験する色能力に焦りを見せる。そうだ。そう言う顔をもっと見せろ。それこそが俺を癒す最上に近いものだ。
「って、わたくしを無視しないでいただけますっ!?」
「だからどうした? ガキは押さえてやっただろう?」
目の前で四肢の自由を剥奪されたガキ。とっとと煮るなり焼くなり好きにすればいい。俺の役目は終わりのはずだ。
「何でわたくしまで拘束されるのかって言っているのですわよっ!!」
はたと気づく。ガキに混じり、ルールーにまでオンブルマルシュが伸びていた。
「……裏路地は影が多かったみたいだな」
どうやら久々と言うほどではないが、力を抑制されていた分、解放した力量を多少間違えたらしい。表通りとは異なる狭い路地。建造物の影が思っていた以上に割合を占めていたか。
「だな、ではありませんっ! 早く解きなさいですわっ!」
「キュオオ」
しかし、フォックシスは影響を受けてはいない、か。目の前に焔を滾らせ、俺を脅しに来る。故意ではないが、フォックシスもやはり赤とは言え、白を兼ねているのか。ババと言い、厄介な獣を作り出したものだな、法廷は。仕方がなく、ルールーの部分だけ影を開放する。
「……はぅ。本当に四肢の自由を奪われるのですわね……全く、次からはきちんと制御して下さいますっ? 次に同じ事を犯したならば、バングルは二度と外させはしませんでしてよっ?」
「……肝に銘じておこう」
あのバングルだけは勘弁だな。闇を奪われると俺の意味が消失してしまう。俺に普通の人間になれと言う方がおかしい。
「しかし、一応は容疑者の確保に至ったわけですから、協力には、その……か、感謝いたしますわ」
「止めろ。気味が悪いことを言うな」
ルールーごときに礼を言われると怖気が走る。
「んなぁっ?! しっ、失礼ですわよっ! このわたくしが罪人ごときの為にわざわざ感謝を申したのですわよっ! 言葉の意味を理解し、受け止めるべきではありませんでしてっ?」
知るか、そんなことは。たとえララミンに礼を言われても同じ反応しか返さんぞ、俺は。
「それよりもだろ、ルールー」
未だに俺に対し憤慨しているようだが、相手にするのは面倒だ。さっさと事をしてもらいたいものだ。俺には何の関係もないことに労力など使いたくはないぞ。
「そ、そうですわね。貴方たち、もう無駄な抵抗はお止めなさい」
俺は遠めにルールーを見ている。影に囚われたものは逃れることは不可能だ。
「くっ、くそっ」
「な、何したんだよっ!?」
「ほどけよっ」
素直な反応だことで。
「別にわたくしはあなたがたを捕まえたいわけではありませんでしてよ。まずは落ち着きなさい」
落ち着けと言われて落ち着く悪がきなどいやしない。
「とにかく、まずはこれは法廷が没収します。これは先ほど盗んだものですわね?」
ルールーが明らかな女物のカバンを奪う。
「か、返せよっ!」
「それは俺たちのだぞっ」
「そ、そうだっ! 泥棒か、お前っ!」
ガキ共の叫びも、俺には珍しくルールーは反応しなかった。てっきり口うるさく言い返すものだとばかり思っていたが、そこまで子供ではないと言うことなのか?
「これのどこがあなた方のものだと言うのです? これはガクラ居住証書ですわ。氏名にはユリア・アイスベルンとありますわ。この姓は女性のものではありませんでして?」
ルールーの言葉にガキ共が沈黙する。こういう仕事は出来るのか。多少感心した。しかし、本人の承諾も成しにカバンの中身を漁るのは法廷の人間としてはいかがだかな。ララミンもやりかねねなさそうだが、
「本来であらば、これは窃盗として社会奉仕活動の義務が課せられます。たとえ軽犯罪であっても、あなたたちの犯したことは罪ですわ」
壁に寄りかかり、事が終わるのを待つ。ガキ共に説教した所で通用するとは思えんが、俺の関与すべき事象ではないな。
「しかし、罪で裁くにはあなたがたは年齢が十五歳に達していないでしょう。ならば、あなたたちの保護監督責任者へ連責代替義務が課せられることになるでしょう。あなたたちの名前と、保護監督責任者の所在と氏名を明かしなさい。これは法廷としての命令です。指示に従わない場合は、強制義務執行とし、あなたたちにはガクラ法廷支部監督所にて二十日間の留置処置となりますのですわ」
さて、よく分からん言葉が随分と出てきたな。ガキ共も俺と同じだろう。表情が呆然としている。
「ルールー、それは何だ?」
聞いていて損はないだろう。俺にはまぁ恐らく既に遅い事柄でしかないのだろうが。
「……そうですわね。あなたたちに話したところで分からないのでしょう」
ガキ共の反応に吐息を漏らし、話し出す。こいつは基本的に話すことが好きなのだろう。
「連責代替義務と言うのは、犯罪を犯した人間の年齢が法廷が義務執行を定める年齢が十五歳未満の少年少女の場合に、その保護監督責任者……つまりは保護者ならびに、親族関係者、ガクラにおいては、あなた方はストリートチャイルドの一人なのですわね?」
ガキ共は反応しない。認めようとはしないか。俺も同じことをするだろうな。
「まぁ、良いですわ。その風体を見れば瞭然ですわ。保護者のいない、あなたたちの場合は、あなたたちを率いるリーダー的存在の人物に対して、貴方たちの犯した罪の代替執行及び、監督責任としての義務を課しますのですわ。これは強制執行を有効としますので、拒否した場合は通称Cランクの義務監督官指導による特別義務が課せられるのですわ」
Cランクか。随分と下級だな。所詮は強制労働程度か。懐かしいぞ。その程度に終わる義務なんて。今の義務は果てしなく先の見えないものだからな。変えられるものならそれで済ませたい気分だ。
「なるほど。なら、ガクラの法廷支部と言うのは?」
「簡単ですわ。スズライにも支部はありますわ。ハウンと貴方がスズライを出てからハウンの要請にてスズライの選挙管理委員会と共に町の立て直しに取り掛かっているのですわ」
あぁ、ララミンの言っていた、町を破壊する為の力は恐らくそこから出るものだったのか。だから、あの時ハウンしか動かなかった。そう言うわけか。
「そして、ガクラにも同様に大法廷支部が存在しますの。ガクラの支部はハーティス王国においては最大級の支部ですのよ。この町の保安所も支部敷地内にありますし、ナショナルガードたちもガクラに限っては支部傘下にありますの。その敷地内に義務執行を拒否、もしくは義務審議中の犯罪者を収容する施設がありまして、それが義務監督所なのですわ。その犯罪に応じて留置を受けた後、審議に掛けられ義務を課されるのが一般的ですわね。まぁ、ガスイ、貴方の場合は今更どのような犯罪を犯したところで、支部に収容されることはありませんわよ」
「白の開闢、か?」
「よくお分かりのようですわね」
想像は容易い。それ以外にたとえ収容された所で逃亡は容易いからな。
「とまぁ、そう言う具合に犯罪に応じて相応の義務を課せられることになることは、あなたたちにも適応されるのですわ。隠した所で法廷は全てを見破りますわよ。大人しくわたくしの指示に従うことこそが、もっとも最良で安全を保障される道なのですわ。軽犯罪ならば、執行猶予もつくことでしょうし」
「しっこーゆーよって、何だよ?」
そんなことも知らんのか。悪がきなら、それくらいのことは犯罪を犯す前に考えておけ。
「執行猶予とは、犯した犯罪に対する義務並びに更生措置を執行するまでに与えられる猶予期間のことですわ。簡単に言いますと、義務を課す判断を下されるまでは、その義務を課されることはありませんが、その間の生活は義務監督所に在する義務監督官の指示による監視がつき、成人であれば就業に対して資格制限と言う、就職することへの制限が課されるのですわ」
「じゃ、じゃあ、その間に、悪いことしなければ、義務は課されないのか?」
「ええ。仮に三年の執行猶予を受けたのであれば、その三年間は義務を課される効力は持続しますが、その猶予期間が終了した時点で再犯、それに繋がることの危惧される事がなければ、猶予の期限と同時に義務執行効力も消滅するので、義務は解消と言う形式になりますわ。ただ、執行猶予期間中に再犯、新たな罪を犯すことがあれば、同じ罪でも義務は重くなるのですわ」
ルールーの饒舌には、ガキ共も顔を見合わせるばかり。俺も言葉半分聞き流してはいた。子供相手にそんな話をしたところで理解するのは話三割程度だろう。そう言う配慮は足りなさそうだ。
「さぁ、お話なさい。法廷はあなたたちを虐めることはしませんわ。あなたたちを救済したいのですわ」
ルールーが諭すように歩み寄った。この辺りはララミンとは多少異なる点らしいな。
ガキ共も感化でもされたか、何度か小話を挟んだ後、小さく肯いた。
「ほ、ほんとう、だな?」
「ええ。法廷は嘘をついたりはしませんわ」
そうは言うが、俺には信用ならんな、その言葉は。口には出さんがスズライの件がどうも俺から法廷と言う組織を訝しむ事へ傾ける。
「じゃ、じゃあ、みんな、助けてくれるのかよ?」
「それはこちらで把握してからでないと何とも言えないのですわ。ただ、尽力はお約束出来ますわよ」
その点に関しては、そこまでは疑いはしない。白の紋章と監督官のおかげでここ最近は野宿と飢えからは遠のいている。ルールーにあの馬鹿小娘が監督を譲ってからは自由という自由を感じられないが。
「こ、これも解いてくれるの……?」
「こちらのお話をきちんと聞き入れて頂けるのでしたら、そうしてさしあげますわ」
勝手なことを言うが、俺にだって能力発動における疲労は溜まる。ガキだからこそ少ないが、長時間の拘束はそれなりに疲れる。
「じゃ、じゃあ……」
「で、でも、約束は守れよなっ」
「皆が助かるなら……」
しかしまぁ、何だ。ガキと言うものは単純だな。そう簡単に済む話ではないが、甘い蜜に弱いな。これも普通の子供の反応なのだろう。昔の俺ならこの時点で逃げるか能力発動かしか考えてはいない。
「ええ。わたくし、カデナ・ルールーは嘘は申しませんわ。お話くださいますわね?」
ルールーの強気な視線に、ガキ共は従うことを選んだらしい。余計な反抗は出来ないとあれば、それが賢明なのだろう。俺とフォックシスだけは、何も関与することなく、話し込むそいつらを遠まわしに見ているだけだった。
次の更新予定も記していますので、後はそれに従い更新をします。
それから、明日辺りには「とある事務所のテトテトテン」も少し更新してみようかと考えていますが、こちらは確かなものではないので、あしからずです。