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第二十三回.ルールーとガスイの義務の旅?

今月は本作と、フルキャストイーブン、saiを更新していきます。と言っても、恐らく時間的にファンタジー大賞にエントリーしている間の更新は、本作はこれが最後だと思います。


次回よりルールーとガスイを中心のストリートチャイルドの問題と、余裕があればハウンの別行動も加えます。

「犯罪者ガスイ。まずはあなたにこれをつけていただきますわ」

 店を出て早々、往来で犯罪者呼ばわりされる俺。間違いではないが、わざわざ口に出さずとも良いだろうと思うのは、今更なのだろうか。

「それは、バングルか?」

 ルールーの手の中にある白い装飾の施された輪。見覚えがあるな。スズライでララミンが見せたバングルと同じもの。奴のようにルールーは俺を自由にはしないつもりか。本気で俺の監督をやる気らしいな。

「当然ですわ。わたくしは、ハウンのような野放しなどしません。あなたは最悪の殺人者と言う自覚を持って行動するべきなのですわ」

 そんな自覚があれば、ララミンになど付き従うことはしないだろう。義務の旅においては、ルールーの方が実感がありそうだな。腕に嵌められるバングル。何か違和感を感じることはない。

「これは、何か聞いているのか?」

 痛みもなければ苦しみもない。―――ただのアクセサリー。その印象しかない。

「能力を使ってみれば分かることですわ」

 先に歩き出すルールー。その背中に向かって親指の傷跡を刺激して、俺の影に血を落とす。スズライで能力発動の為の血液を出しすぎたのか、親指の傷の治りは遅い。

「オンブル……うっ!?」

 その瞬間、腕に激痛が走り、前身に痛みがまわる。

「あっ……な、ん……だ?」

 痺れる感覚と痛覚の残留。腕が震えていた。

「それがバングルの効力ですわよ。法廷の作った白の腕輪には、他の色能者に対してのみ、働く効力を得た罰則枷なのですわ。能力を使役するたびに、その痛みは増幅しますわ」

 なるほど。白以外に反応するわけか。しかもこの痛みは増すときた。慣れるようには行かない作りとは、また手の混んだものを作ったものだな。

「元来、あなたのような重罪者においては、流浪の旅など言語道断なのですわ。どの犯罪者も逃れられない白の開闢を脱獄など、打つ手がない状態なのですわよ」

「なら、放任して欲しいところだがな」

「はっ、戯言ですわ。あなたの義務監督官であるハウンがいる以上、あなたには大法廷でも最も困難と言われている多重義務を課せられたのですわ。わたくしはあなたを懲らしめたいわけではありませんでしてよ」

 懲らしめたいからバングルをつけさせたんだろう。その上、往来で俺を犯罪者として呼ぶ。十分な羞恥。ガクラの町の人間の目が痛いぞ。

「わたくしが執り行うは、犯罪者に罪を認識させ、省みさせることですわ。そのためには、その危険な力を封じることから、民と同等の立場で世界を見るのですわ」

 先ほどまでの慌ただしい風体がない。むしろ俺を見下しているな。かと言って、能力を使おうにも、今の俺には厳しいな。全く、厄介だぞ、こいつに監督されるのは。

「フォックシス。来なさい」

「……まだ居たのか、お前たち」

 ルールーの視線を追うと、往来を封じて伏せている二匹の異常動物がいた。奇怪の目を向ける大人に混じり、子供たちには人気でもあるのか、撫でられていた。

「キュオォォン」

 ララミンは未だに情報でも収集しているのか、店から出てくる様子はない。出来ることなら、俺はララミンの方が楽なんだが、ババに食われる恐れが減るだけでもましと考えるべきなのだろうか。ガキたちをどうにかするという、俺にとっては嫌いなガキを相手にすることは頭が痛い。

「お前は乗っていくのか?」

「無論ですわ。フォックシスはわたくしの護衛獣ですわ。こうしているほうが身の安全というわけですわ。さぁ、行きますわよ」

 こいつもこいつで、我侭か。ララミンほどではないにしろ、どうも俺は我侭な監督者に憑かれやすい体質でもあるようだ。ともあれ、俺には選択肢などないということだけは、もう分かりきったことだ。マスクを被りなおし、前を行くルールーと、七本の尾を揺らめかせるフォックシスの後ろをついていく。

「そうですわね……」

 まだ何も意見も挟み口もしていないのだが、ルールーは独り言が絶えない。まぁ俺はついていくだけだが、どうにもフォックシスに集まる視線に俺も加わっているらしい。呆然と立ち尽くす町人の視線は気に食わん。

「とりあえず、現状把握が先ですわね。ストリートチャイルドのねぐらを探しますわ」

 俺に意見を求めては居ないな。ララミンと大して変わらんか。

「犯罪者ガスイ」

「その呼び方は止めろ」

 俺を呼ぶたびに犯罪者犯罪者と口うるさい。

「何を言っているのです? 現に罪人でしょう? どこに不当な点があるというのですの?」

 そう言われると―――ないわけだが、解しがたいことはこの上ない。

「せめて、名前だけにしてくれ」

 何故俺が頼まなければいけないのか。―――答えは簡単、か。

「ガスイですの? ……まぁ良いでしょう。その方が私としても呼びやすいですし」

 だが、ララミンと違うのは皮肉交じりに意見を飲むことがない辺りか。こいつは本当に法廷の人間らしい雰囲気がある。そう感じた。いや、ララミンだけがおかしいのか。

「ガスイ。あなたに質問ですわ」

「唐突だな……」

 黙って歩くことは出来ないのか、こいつは。

「更生に当たっての、社会生活の善正を学ぶ上で、現段階のあなたの認識力を問うのですわ」

 言っている意味がよく分からんが、大したことじゃないだろう。続きを待った。

「ガクラの町では、以前よりストリートチャイルドの問題が数多報告されているのですわ」

「だから何だ?」

「お黙りなさい。まだ話の途中ですわ。人の話は最後まで聞き、それから意見しなさい」

 いちいち煩い女だな。ララミンの真似か?

「良いですの? ストリートチャイルドが蔓延る町というものは、大抵、貧困に喘ぐスラム街を示しますの。ですが、何故このガクラの町でストリートチャイルドが多く居るのか、ご存知ですの?」

 隣に並び、ルールーは俺を見下ろしているが、俺が見上げた所で赤毛のフォックシスで視界が覆われる。思いっきり首を上げた所で間抜けな顔を呈するだけだ。視線を合わせることはしないことにした。

「この町も何だかんだで儲けがないんだろう? スズライも似たような感じだった」

「違いますわよ。どこをどう見れば貧困に見えるのですの? あなた、目、おかしいのではなくて?」

 さらっとイラつく奴だな。確かに街の雰囲気は明るい上に、賑やかだ。俺には明るすぎて煩いくらいだが、それでも繁栄はしている。横行するチャイルドの被害とは無縁、か。どうでも良いんだがな。

「色能者とは、何かしらおかしいものだ。それはルールー、お前とて知っていることだろう?」

 どうもこの町を歩き続けるのは不快だ。せめて、路地一本の影の中を歩かせて欲しい。

「確かにそうですわ。色能者は能力を得る代償として、心の一部を明け渡すことになり、その欠落したものが、大々的に日常生活へ影響を及ぼすものですわ。現にガスイ、あなたは殺人に対する罪悪感を覚えることがありまして?」

 あるわけがない。そんなものがあれば、いちいち人間を殺す手間を掛けることはしない。人を殺そうが、そんなものは所詮、虫けらを踏み潰す感覚しかない。それが俺の欠落したものなのかは、俺には分からん。

「黙秘ですの? 良いですわ。ガクラは地域交流に限らず、国交流の栄地として、スズライと共に多くのものが交差する町ですわ。ここまで言えば、ストリートチャイルドが数を成す理由も浮かぶのではなくて?」

「さっぱりだ」

 むしろ、初めから考えてなどいない。考えるだけ無駄だ。

「んなっ! ガスイ、あなた、それでも罪の認識がありましてっ?」

 無いと何度も言ったはずだが、どうやら人の話を聞いていないのは、ルールーも同じだな。

「ララミンが監督官だ。罪人意識のある奴が居ると思うか?」

 ルールーの口調が止まる。どうやらルールーから見てもララミンは問題児らしいな。

「……そうなのですわよ。第一、どうしてハウンごときが最高義務監督官なのですわ……監制を勤め上げてこその上位監督官であるはずなのに、どうしてこのわたくしがハウンよりも階級が下なのですの……? はっ、やはり血? 血統なのですの? ……どうせわたくしは市民選出の持ち上げ監制ですわ。でもっ、それでもっ、わたくしは努力致してますのよ。この座にあることだって、毎日十三時間もの猛勉強こそのけっかではありませんか……」

 独り言が始まったな。こう言う時はあれだったな、ララミン曰くの無視。フォックシスから気配を消しつつ、距離をとる。

「……キュォ」

「……お前も、忠実な(しもべ)か……」

 背中からぬくもり以上の熱のある何かに、それ以上の後退を停止された。体に撒きついくる毛並みと熱気。熱い。フォックシスの七本の尾の二本が体に巻きついた。意外と馬鹿かと思えば、馬鹿はルールーだけか。ババは言われれば噛み付いてくるが、こいつはどうやら噛み付く代わりに巻きつくらしいな。それも自己認識で。

「そうですわよね、ガスイ?」

 しかも見計らったように振り返り、見下ろすルールー。何がそうなのか、唐突な問いかけは止めろ。

「……って、何してますのよ?」

 上体を尾に巻かれ、強制的にフォックシスの後方を引きずられる。さすがに歩きはするが、視線が痛く、俺自身も多様の意味で痛い。

「気にするな」

「逃亡など考えているのでしたら無駄ですわよ。フォックシスは私の判断はおろか、自身の独断によって行動するよう躾てありますわ」

 だろうな。ババの間抜け面と違い、なかなか鋭い目で俺を見やがる。殺るなら買うつもりらしいな、この狐は。殺っても良いが、バングルがある以上分は常に悪い。馬鹿ではないからな、俺も。大人しくしておこう。いずれは尾も解けるだろう。

「それでなんだ? 何か言っていなかったか?」

「あ、そうですわ。ガスイ、あなたはわたくしとララミンのどちらが大法廷の人間として相応しいとお思いですの?」

 また唐突だな。

「どちらも相応しくないだろう。ララミンは勝手気まま。お前はうるさい。どこに厳粛で公正な法廷としての素質を見抜けと?」

「んなぁっ!?」

 図星か、その驚きは。自覚があることは良い事らしいからな、ララミン曰く。ともあれ、いい加減俺たちはどこまで歩けばいいんだか。一向についていく、もとい、ついていかされるだけだが、ストリートチャイルドらしき姿はない。至って繁華する町と人間の流れだけだ。

「……そ、そんなっ……わたくしまでもが不相応だと? な、何故ですの? わたくしは日々義務監督者の公正を監視してきましたのに……」

 ルールーが沈んでるな。まぁ独り言を吐く余裕があるなら、大したことではないのだろう。

「あっ、こらっ、まてっ、ど、泥棒―――っ」

 俺の意識を呼ぶ叫び声。振り返ろうとした時、俺の横をガキが走り去る。買い物バッグを盗んだらしいな。引ったくりと言うやつか。やることが小さすぎて下らない。

「へっ? ど、泥棒ですの? どこ? どこですの?」

「キュォオォォン」

「なっ―――っ!」

 瞬間、俺は空を飛んだ。むしろ、吊り上げられたと言うべきか。とつとつ二フォックシスが大地を蹴り、体が大きく前へ引かれる。こいつの脚力も相当だ。抗う気力も湧かぬうちに、俺は体を上空へ持ち上げられる。恐らくはババ同様に、フォックシスも尾で走力のバランスを取るようだな。おかげで俺は晒し者だが。フォックシスよ、お前もバングルが取れた時には、闇へ引きずり込んでやる。覚えていろ。

「フォックシスッ! 追うのですわっ」

「キュォオォォン」

 そんなことを考える間もなく、俺はただ無抵抗にことがおわ丸野を待つしか出来ない、哀れな男でしかなかった。


「へぇ。じゃあ、トゥルーティアーって、気象現象ってわけじゃないんだね?」

「ああ。俺もガキの頃に見たことがある程度だけどな、そりゃもう、この世のものとは思えねぇ、眩さだったぜ」

 その頃、ハウンは未だに酒場のカウンターでマスターから情報を収集していた。

「それで? それって結局は何? どうやったら見れるの?」

 ハウンの問いかけに、マスターが顎鬚を掻き、店内に目を向ける。酔いの回った男たちが己の武勇伝を披露し、馬鹿笑いが響く。呑んだくれて豪快にいびきを掻く者もいる。女も女で、何人の男を落としただの、大した内容の無い会話に花を咲かせている。

「それがよ、そいつについては知られてねぇんだ。前に一度法廷の関係者ってのが来て、調査してるらしいんだけどよ、全く反応がねぇって噂だ」

 マスターの話に、ハウンの表情が若干、疑問を浮かべる。

「法廷からの調査? そんな話、聞いてないよ?」

「あん? そうなのか? まぁ俺は法廷の人間じゃねぇから、よく分かんねぇが、ミミルナントで何かしてるらしぜ。お嬢ちゃんも知らねぇってんなら、最近のことなんじゃねぇか?」

 ハウンの表情はやはり冴えない。何か疑心に思っているようだ。だが、それを口にすることは無かった。

「うん。まぁいっか。それだけ情報があれば十分だよ。ありがと、マスター」

 ハウンがゆっくりと立ち上がる。通路を探すように手を伸ばす姿を見て、マスターが店員の女を呼んだ。

「おい、監督官様を外まで案内してやれ」

「はいはーい」

「気が利くね?」

 前に出していた手を店員の女が取り、ハウンを外へと誘導する。

「気にするな。それよりも、例の件はよろしく頼むな。こっちも何度も被害受けて、風評が悪くなる一方でよ」

 マスターの気遣いは、ストリートチャイルドの件のささやかな見返りのようだ。

「大丈夫だよ。もう動いてるはずだから。それじゃあご馳走様」

 女に手を引かれて、ハウンが店を後にした。

「ワウッ!」

「うわ、何っ!?」

 二人の前に待ち構えていたようにティドゥが駆けてくる。その巨体に店員の女が一歩下がったが、ハウンはその時離れた手を、ティドゥを呼ぶように両手を広げた。

「クウゥゥ」

 そこにティドゥがそっと鼻を寄せる。それだけだが、ハウンの顔はティドゥの大きな顔に埋め尽くされる。

「え? あ、あの、その犬って、もしかして……」

「うん? この子はティドゥ・ババ。大法廷所属の法廷犬だよ」

 鼻を撫でられ、ティドゥは尻尾を振り、甘えている。その様子を驚愕の目で市民が見、女もまた同様に恐れを見せている。ハウンはその様子を見ることが出来ないため、人の吐息と声、足音に感じているようだが、気にしてはいなかった。

「あ、そうだった。ティドゥ。ちょっとまっててね」

 ハウンが何かを思い出したように女を呼ぶ。

「え? な、何?」

 声は驚きと共に怯えている。ティドゥを前にしては人は慄くことは不自然ではないのだろう。

「お水と何か果物とかお肉があればもらえない? この子のご飯に出来るものなら、特に制約はないんだけど」

「ワン」

 何でも食べると豪語するように顔を上げるティドゥに、女がまた一歩下がり、マスターに聞いてくると、店内に入った。

「しょうがないね、ティドゥはおっきいもんね」

「ワウ……」

 そのすばやさに逃げ帰ったように思えたのか、ティドゥはハウンの差し出す手に顔を低くして撫でられた。


「トゥルーティアーも気になるけど、調査団って言うのは何かおかしいよね?」

「ワウ?」

 店員のお姉さんが戻ってくるのが少し遅い。まぁそれは良いんだけど、気がかりは法廷の調査団がトゥルーティアーの事を探っている。明らかにおかしい。法廷は確かに調査団が存在して、事を調査することがある。でも、それは市民生活において何かしらの障害となりうる可能性、って名目の元に自分たちの不手際を消去するってこと。スズライの水狼に関しては知っていた。でも、トゥルーティアーについては法廷の関与すべき事項はないはず。

「何か臭うね、ティドゥ」

「ワン」

 とりあえず、ご飯のお礼のストリートチャイルドに関してはガスイとルールーが何とかしてくれるだろうから、任せておいて、情報収集にもう少し力を入れておく必要があるかな。スズライとは違って、今度は何か単発的な組織の臭いがする。ガスイと同類みたいな。

「あ、あの、マスターが裏の井戸に容易して下さいましたから、そっちにどうぞ」

「あ、はーい。ティドゥ、飛ぶよ」

「ワウッ」

 飛ぶって言っただけで伏せて私を乗せてくれる。もう命令の意味を理解している辺り、賢いね。毛に掴ると、ティドゥの背中にも力が入った。

「お姉さん、私たち先に裏に行くね」

「え? あ、はい……?」

 不思議そうに見てる声。犬が飛ぶなんて思わないからだろうけど、ティドゥはやっちゃう子なんだよ。

「ゴーッ」

「ワオォォンッ!」 

 ぐっと体がティドゥにひきつけられる。逆らわないでティドゥの背中に引っ付く。そうしないと落ちる時に離れちゃう。

「きゃぁっ!?」

 お姉さんの声が聞こえたけど、すぐに風が強くなった。どれくらいの高さまで飛び上がったのかは、分からない。でも、すぐに茶駆使する衝撃があったら、そんなに高くない。屋根に乗ったら後は降りるだけ。

「す、すご……」

 小さく声があちこちから聞こえるけど、良い見世物になったかな? 別に良いけど。

 ティドゥの体がまた落下する。どうやら裏についたみたい。私w取り巻く空間が狭くなった。感じられるものは、井戸、荷車、あとは四方の壁。少し花の匂いもするかな。

「ワンッ」

 そこに用意されたものがあるみたい。それなら頂いても良いのかな。

「ご馳走になろっか、ティドゥ」

「ワンッ」

 ティドゥの体が前に傾く。せめて私を卸してから食べようとか気遣いが出来ればもっとか可愛いのに、こう言う時に指示にしか従わないのは、ちょっと残念。背中に掴るように背中を傾ける。もふってした毛の中に体が包まれる。きっと私の目の前には空が広がっている。でも、それを見たことがない。当たり前にあるものを、当たり前に見ることが出来ないことに、哀しくなることがない。悲観に走ることも嘆くこともない。

「あ、あのぉ……あ、もう食べてたんだ……」

「うん。ここにあるもので良かったんだよね?」

「あ、うん。残り物とかしかないんだけど、それで良かったら」

「大丈夫。ティドゥは好き嫌いがないから」

 ティドゥの体が揺れてる。最近ちゃんとご飯らしいご飯をあげてなかったから、珍しくその量の多さには感謝しないといけないかも。大法廷に居る時は困らないけど、外に出るとティドゥが一番影響受けるもんね。

「それにしても、大きいんだね。どんなに食べたらこんなに大きくなるのかな?」

 私に聞いてるのか、ティドゥに聞いているのか、よく分からないから、適当に応えてあげよう。

「ティドゥは、動物じゃなくて、聖獣だから、見た目は犬でも、犬とは別種なの。だから、まだ大きくなるんだよ」

 あんまり驚いている様子は感じられない。気丈なのかどうなのか、どうでも良いけど、物好きな一般市民もいるもんだね。体を起こす。パチャパチャってティドゥがご飯を食べ終わったみたいで、水を飲んでるから、もうすぐ出ないと。

「すごいんだね、君。私、こんなの初めてみたから、びっくりしたけど、法廷にはそう言うのが居るの?」

 興味を持たれた? スズライのリノア姉妹みたいな子がここにもいるんだ。ちょっと面倒。

「いるよ。さっきもう一人の法廷者が居たでしょ? あれもティドゥと似たような聖獣を持ってるの。他にも居るけど、そう目にする機会はないから、いい経験が出来たと思った方が特だね」

「ワンッ」

 ティドゥがごちそうさま。さて、それじゃあ私もそろそろ本題に移ろうかな。ガスイに遅れを取ってたら、あの根暗にごちゃごちゃ言われるし。こっちがすごい成果を上げて、馬鹿にしてやらないと。

「あ、あの、一つ、良いですか?」

「ん? 何?」

 機を見計らったような一言。何となく何かをお願いされそうな予感。そんな暇はないんだけどなぁ。

「さっき、言っていたことなんですけど……」

 頭の中で過去を回想する。―――ストリートチャイルドのことかな?

「一つだけ、出来ればで良いんですけど、お願いがあるんです」

 少しだけ感傷的な、感情的な言葉。私の予感は的中。別に大したことじゃなければ良いんだけど。奉仕への謝礼になれば、法廷への信頼もより厚くなる。義務監督官の役目じゃないにしろ、恩を売ることは宣伝の一つ。

「私、弟が居るんです」

 ―――ピンと来た。もうそれ以上言わなくても分かった。

「何かしらの理由で弟とはぐれたか、弟がこの町でストリートチャイルドをしているかもしれない。だから、この町で働きに来て、貴女は弟を探している。だから、その現状を調査することになった私たちに、弟を探して欲しい。そういう訳?」

「え? ど、どうして……」

 はい、図星。大体さ、私は特別義務監督官なの。人探しじゃないんだけど。

「そう言うことなら、私たちじゃなくて、ガクラのナショナルガードとか、保安署に頼むべきじゃないの?」

 法廷は民の平穏を守る為の法務政治機関。人探しとか、そう言う事件は傘下の保安部の仕事。ぶっちゃけ雑用。私とは天と地の差のある地位の人間がやる仕事。なんだけど?

「あ、その、捜索願は、出してあります。でも、連絡はなくて……」

 見つかってないからでしょ? それかスズライの行政機関同様にガクラの保安が癒着してるかで機能してない。それはないか。国境の町なら法廷の人間も管轄区に居るはずだし。自分で探そうって気はこの人の頭の中にないのかな? ないんだろうね。ストリートチャイルドは意外と暴徒的だし。

《……まっ、待てっ、ど、泥棒っ!》

 空からそんな言葉が響いた。

《キュォオォォン》

 それから聞き覚えのある鳴き声。

「あ、また、かも」

「また? ストリートチャイルドの仕業?」

 またって言葉は特に気になるわけじゃないし、どうせ今の泥棒もがルールーが追いかけてるはず。ガスイはその隙に逃げようとするかもしれないけど、フォックシスに捕まってるかな。ルールーと違って、フォックシスは優秀だもんね。ババよりは下だけど。

「たぶんです。この町の犯罪チャイルドの子供たちがほとんどなので」

 それでナショナルガードも動かないってのは問題あり。動いてるんだろうけど、これだけ賑やかな町。子供たちの方がすばやさと展開力には優れてる。たぶんね。

「それに、ストリートチャイルドを支援する組織もあるって、あんまりいい噂じゃないんですけど、武装グループが子供を引き入れようとしてるとかで、最近、ストリートチャイルドの中でも、銃やナイフが出回ってるみたいなんです」

「武装組織?」

 法廷の監視下に入っているグループはこの辺りにはなかったはず。それに、子供を盾にするのは問題だけど、それ以上に何か繋がりも覚えるのは、悪寒?

「は、はい。詳しくは知らないんですけど、もしかしたら弟もそこに居るんじゃないかって……」

 弟だけが心配なんだ。他に孤児のことを心配するとか、子供が武器を持つことは、すなわち大人の盾にされることとか、どうでも良いんだ。所詮はその程度の人間ってことだね、あなたも。

「そっか。とりあえず、調べ者ついでに漁ってみるから、あなたの名前と、弟の名前と特徴、教えて」

 この人の話が事実だとすれば、ミミルナントの調査団との繋がりも、その組織に関連があるかも。なければないで無駄足だけど、とりあえずは調べてみようかな。あっ、どうせならルールーとガスイにも情報渡しておけば楽だったかも。こんな時に先走って行動するから、ルールーってダメダメだよね。ガスイは当然として。

「私は―――」


次回更新予定作はユースウォーカーズのあとがきにある通り、フルキャストイーブンです。


ただ、日時は23日か24日になります。


最後にsaiを、27日くらいに更新できればと思っていますので、アルファポリスファンタジー大賞への投票をよろしくお願いします。(正直な所、諦めムードで、別のラノベ賞への大幅な修正をしている段階なので、もしこれで賞とか取ると個人的にはかなり焦るんですけどね(^^;

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