第十七回.グリ の 少女
「生きていたのか?」
光を辿って来てみれば、ララミンが眼下にいた。いきなりババが飛ぶからびびったが、ババなりに急いだんだろうな。着地の衝撃で少しばかり浮いた気がしたが。
「死んでなくて残念だった?」
ララミンが呑気に笑っている。だが、何故か俺の心が安堵に染まった。
「そうだな。お前を殺すのは俺だ」
ララミンの前に青く光る泉と、そこから何かが揺らめき立っている。一体何が起きているのかは分からんが、始まってはないのだろう。ララミンが無傷と言うのが証拠だ。
「泉、あったんだ。こんなところにも・・・・・・」
ババから降りたリノアが、町では枯れた水が滾々と青く光っている様子に呆然としている。
「あれは何だ?」
「あれが水狼。完全体に戻ろうとしてるだけ。ま、もう少し待ったげて」
見えていないはずだが、感覚で感じているのか、ララミンが杖で指す。光の無い泉のはずだが青く包まれその中心部から水が盛り上がっている。水狼とは狼ではなく、水の精のようなものだろうか?
「で、それ誰?」
ララミンがリノアに振り返る。
「何で一緒にいるの?」
「少しばかり世話になった奴だ。母親の死場の確認についてきただけだ」
「ふーん、じゃあやっぱり生贄ってあったんだ。ご愁傷様。悲しいんだろうけど、いい加減立ち直らないと何も出来ないよ、お姉さん?」
「え? あ、うん。あ、あの、ガスイさん、あの子は・・・・・・?」
抑揚の無いララミンの励ましなのか貶しなのか良く分からない言葉に、リノアが困惑している。
「あれが俺の監督官だ」
「え? だって、子供・・・・・・」
「ん? 何? 子供だから悪い? 偏見で物言わないでくれる? 年上だからって能力の無い人に言われる筋合いはないんだけど? それとも私に物言えるだけの能力でもあるのかな? あるようには見えないんだけど?」
容赦ないな。相手は一般市民だぞ。リノアがそう思うのは分かるが、そこまで言う理由が分からん。
「ご、ごめんなさい」
「気にするな。こいつはこういう奴だ。いちいち反応してたら精神を破壊されるぞ」
「よく分かってるね。でも来るの遅すぎ」
《愚かなる人間たちよ。今こそ我が力の前にその命を捧げよ》
忘れていたが、水狼を探しに来たんだったな。
「今、姿を見せたんだろ? お前こそこれまで何をしていた?」
「私の不自由分かってて言ってる? ガスイこそ初めから私についてきてればもっと早くことは終わってたんだからね」
あの時置いて行ったのはどっちだ。人が苦労して言ったり来たりをしている間にここまで着てるとはな。
「あ、あの、その前に、あれって・・・・・・」
ババに隠れるように水面に立つ荘厳な出で立ちの獣を視線で指す。
「やっと姿見せたね、水狼」
「あれは水か? それとも狼なのか?」
俺たちの視線の先、渦を巻きように水流を司る水狼。先ほどの光とリノアの親父が見た青の光の正体はこれか。しかし正体がいまいちはっきりしてないな。模りは狼だが全身が水と化して光を透過している。青の能力は見たことがあるが、獣の青と言うのは初見だ。どれほどの能力なのか警戒してしまう。
「狼。でも法廷の不出来品だから統一した成形を維持出来ないわけ。つまり、普段は水に同化するしか生命を維持出来ないの。この光だって森に住む狼の力を収益してるだけ。これがないとその体を維持出来ないから、大したことのない狼。可哀想な姿だよね・・・・・・」
「こいつは、法廷が作ったのか」
つまりは神ではないと。予想は当たったが、原形を失う対価を支払った成れの果てと言うのはなかなかに衝撃的でもあるな。
「失敗作だからちょっと暴走してるの。私が整形させるから、水狼の攻撃はガスイが飲み込んで」
「初めからそのつもりだったのか?」
俺が水狼に興味を持てば、必ずここに来ると踏んでいたからララミンは待っていたと言うことか。所詮は俺は掌のピエロみたいなものか。
「初めから大人しく私について来てれば、水狼の皮に阻まれることもなかったのに。面倒な手間掛けさせるんだから」
水狼の皮? それはあの俺を拒絶していた空間の壁のことか?
「とりあえず把握した。それで、お前は何をするつもりだ?」
「やれば分かるよ。前に私のこと聞いたでしょ? 一つだけ教えたげるから私の前に立たないで」
よく分からんが、とりあえず言う通りにしておく。
「あの、何をするつもりなの?」
リノアにしてみれば、視線の先で水で形作られている狼は、神と言う認識で見ているのだろう。先ほどから驚きに表情が固まったままだ。
「スズライの町に貧困と荒廃をもたらす根源を絶つだけ。ここに来ちゃった以上は、大法廷最終義務監督官として命令は遵守してもらうよ」
ララミンがリノアに顔を向ける。一発目の毒にまだ心が揺らいでいるのかリノアが息を呑んでいる。
「あなたはこれより起きる出来事を一切他言無用とし、この約を犯した場合は第二法廷義務を課すことを承諾して頂きます。これは法廷からの命令により、あなたに拒否を申告する権利はありません」
第二法廷義務。つまりはBランク級の中級犯罪者に対して課される義務。俺で言えば強制労働だったと思うが、それほどに課す必要があるのか分からん。
「は、はい」
よく理解してないようだが、とりあえずと言う感じだろう。だがララミンにとりあえずと言う態度は無意味だ。
「ならティドゥ、その子を遠ざけておいて」
「ワン」
ババが再びその背中にリノアを乗せてその場を離れる。一体何をしようとしているのか想像がつかん。
《どこへ往こうとも、我が配下。踏み入った愚かなる者よ。我が水槌を喰らうがよい》
「来るよ。ガスイ、森を傷つけないように消滅で水を飲み込んで」
ララミンの命を受けた瞬間、水面に立つ水狼が泉の水を龍がごとくに巻き上げ、俺たちに向かって咆哮する。
《踏み入ったことを後悔せよ》
「ディスパレートル」
向かってくる水龍に向かって夜闇を俺とララミンの前に展開させ、闇に飲み込み消滅させる。
「やるね?」
「やらないと俺たちが殺されるだろ」
あの勢いは確実に溺死させるつもりだったな。正体は分かったが何なんだ、あいつは。
「ガスイが闇を使役するのと同じで、青の力を取り込まされた狼は、限定的でしかないけど水と同化して自由に使えるの。だから、町へ流れるはずだったこの水源の水を独占してるわけ」
俺の心を読んだようにララミンが解説をする。その間も水狼が俺たちに水を叩きつけてくるが、すべて闇の中に葬る。
「森を支配してるとか言ってるけど、水狼はこの森に縛られているだけ。元々水流が安定してなかった地域に町を展開させたから、国からの要請で法廷が水流の安定供給の為に作ったのが水狼。能力によって安定供給が任務だったの。そのおかげでスズライは発展したけど、法廷から一つの条件が提示されたの」
「それは水狼への貢ぎか?」
ララミンが頷く。その間も水狼が咆哮を止めることなく水を操り、森の夜闇の中にその水が飲み込まれていく。人間ではない所詮は獣だからか、学習能力がない。
「そゆこと。両者の糧を一致させていれば問題ないんだけど、人間は本能の欲に溺れて、獣は本能に忠実に従う。その不一致がこの結果に繋がるわけ。人間は理性と順応性が高い分言葉で通じるけど、獣は一度箍が外れると体に教えるしかないの。狼は知能が高い分凶暴性があるから、怒らせると恐いんだよ?」
だろうな。同じ攻撃が次々と闇の中に消えていく。その咆哮は相変わらず激怒に染まっている。
「そろそろ始めようかな」
ララミンがあまり乗り気じゃないのか、はぁと息を吐く。俺にはその小さな背中しか見えないが、どこか水狼を哀れんでいるように思えた。
「ねぇガスイ」
「何だ?」
振り返ることなく、青く輝く泉に立つ水狼を見つめるように立つララミン。
「混色って知ってる?」
いきなり何だ?
「ガスイは単色でしょ?」
「黒のことか?」
いきなり混色と言われても理解に悩んだが、つまりは色能者の持つ色のことだろうか。
「通常能力を持つ人間は、原則として単色にしか体が耐えられない。だから唯一の能力として相応なものが備わる。その対価は大きいけど、それが生活を支える大きな力にもなるの。ガスイの力はあんまり使いどころないし、使ってる様子もないから持ち腐れ以外の何物でもないけど」
「放っておけ。どう使おうが俺の勝手だ」
「だから第四次最高義務を背負ったわけだしね。それは良いとして、中には臨床段階として混色があるの」
混色と言うことは二種類以上の色を持つ人間か。聞いたことも見たこともないな。
「見たことないでしょ? それって単色は生活に大した支障は出ないの。ガスイは明るみが苦手だからそんな格好してるでしょ? 大概の単色系色能者はその程度なわけ。でも混色はそうはいかないの」
確かに俺は光が苦手だ。それは黒と言う闇を背負っている以上逆を受け入れないのは運命。
「混色系色能者は身体的不自由が特徴として生じるの。生涯背負い続けないといけないものとしてね」
次第に疲労から水流が衰えてくる水狼にララミンが泉の傍に歩み寄っていく。それに合わせて俺の闇を移動させる。
「それは、そういうことか?」
ララミンが全盲である理由と、その説明。
「どうだろうね? でも、私にだって色はあるんだよ」
楽観したような言い方は、事実を認めた照れ隠しだろう。
「その歳でデカイ対価だな」
「哀れみならいらない。これが私にとっての当然だから。だから見せてあげる。ガスイの闇がいかに明るいか。そして、本当に光のない世界ってものをね」
俺の闇が明るいだと? 随分な物言いだな。
「ガスイ、水狼と私の周りをオンブルで包み込んで。私の力は溢れると大変だから、絶対に溢れさせない闇で覆って」
そうは言っても、何をするかも聞かされてない今では、どの程度に引き込むべきなのかの判断がつかないんだが。
「お前と水狼で良いんだな?」
「うん。他の自然やティドゥたちは巻き込まないで」
命令であるなら従ってやろう。
「空間を覆いつくせ、影」
夜であるからこそ出来るオンブル。大地に広がる影ではなく空間そのものが影になる夜闇だからこそ、ララミンと水狼を取り巻く空間を俺の闇で包み込む。
「これで良いのか?」
その中に俺もいる。外界の様子は闇に包まれ、水狼の青い光しか光がない。目の前に立つララミンの姿さえ光の影でしか確認出来ない。
「ばっちり。水狼も混乱してるね」
空間を支配した俺のオンブル内では水狼の水龍も明後日の方向に吸い込まれていく。全てが全てを飲み込む闇ならば、この中で俺は無敵。青ごときに破れるものじゃないだろう。
「ララミン、お前の色は何だ?」
「善を謳う色が白だとしたら、常世に蠢く悪は黒。その正反対を併せ持つ人間は何色なんだろうね?」
白と黒を併せ持つだと? 正反対の色を持つ混色と言うものが存在するのか?
「私は灰。それも極端に染められた暗黒と無垢の色。善と悪を併せ持つ法廷唯一の不純色」
「不純色? 対立する原色だからか?」
「そんなとこ。始めるよ。言うこと聞かない悪い子にはお仕置きしないと。死の暗闇」
死の暗黒? ララミンも何かしらの能力を駆使するのか。と言うことは混色系色能者であるということ。そう説明は受けたが、何だよこれ・・・・・・。
「お前、それは・・・・・・」
肌に感じるのは、闇の中の闇。見えないはずの闇の中でララミンから黒いものが蠢くように溢れている。俺の闇よりも遥かに深い黒が。
「ガスイの黒が闇なら、私はそれすらも飲み込む暗黒の黒。闇には光がある。でも暗黒には光すら射さない。だから私にはガスイの闇は通用しない。ティドゥの場合は白すぎてガスイ程度の闇じゃ飲み込めないだけ。ティドゥと私はそれぞれ別の色でガスイの闇を受け付けないの」
解説を交えながらだが、ララミンの顔から靄のように沸き立つ暗黒が水狼を包み込んでいく。それを避けるように水狼が青に輝く水龍をララミンの暗黒にぶつけるが、それすら易々と飲み込んでいく。
「私の暗黒が水狼を飲み込んだら、ガスイ、あれ持ってきたでしょ?」
「あれとは何だ?」
水狼が暗黒に包まれる。咆哮とは違う苦痛の叫び。そう言った方が相応しい水狼の鳴き声が闇に消える。
「ナイフ。ティドゥに渡したからここまで来れたでしょ?」
「これか。これは一体何なんだ?」
石碑に一度嵌めた時は何事も起きなかった。だが、二回目の時は水狼の皮とやらの壁が消えた。この殺傷能力の低いナイフにはどんな仕掛けが施されているの言うのだろうか。
「白のナイフ。身体的殺傷能力には没落してるけど、能力の殺傷には随一の切れ味があるの。水狼の皮を破るには白の血の助力が必要だけど、ティドゥ、狼と闘って怪我したでしょ?」
「ああ。手当てに毛を少しばかり刈ったな」
「それでナイフに血が付いたまま石碑に嵌めたから、皮が破れたんだよ。おかげで水狼は自分の体を形成する皮をなくして、あの姿でしか維持出来ないわけ。これでガスイを刺せば、ガスイの能力は衰えるよ?」
つまりは何だ? このナイフは法廷の製造物であり、肉体ではなく能力に対しての殺傷が可能であると言うことか? その上ナイフに白に属するものの血を含ませることで威力を増すのか。全く法廷とは一体何を生み出しているんだか。
「ほら、水狼に投げて。それで水狼の能力を抑えるの」
ララミンに急かされ、俺の闇よりも黒い暗黒に悶え苦しんでいる水狼に向かってナイフを投げた。
「キュアアアァァァ――――――ッ!」
闇を切り裂くように刃が青光に輝いた瞬間、水狼を形作る水にナイフが飲み込まれ、言葉に出来ない叫びが木霊するが、すぐに闇に飲まれる。苦痛に暴れまわっているが、その思考による語りも叫びに染まっている。
「痛いよね、ごめんね、水狼・・・・・・」
「ん? 何か言ったか?」
叫びにララミンの言葉が聞き取れなかった。
「なんでもない。そろそろ終わりかな」
暴れまわっていた水狼の動きが鈍くなり、叫びが途絶える。死んだのだろうか?
「殺したのか?」
「一時的にね。あの子はスズライの町の水源にとっては不可欠だから、暴走してた能力を削っただけ」
一時的? 一時的に殺すとは仮死のことか? 俺にはそんな半端な真似は出来ないんだが。
「もう私の後ろに立たなくて良いよ。後は水狼に能力の欠落した部分に息吹きを吹き込むだけだから、オンブルも解いて」
よく分からんが、俺のお役御免でオンブルを解く。それと同時にララミンの暗黒も消えた。
「あっ、ガスイさん」
「クゥゥン・・・・・・」
オンブルを解くとリノアとババが傍で様子を伺っていた。外の景色は相変わらずの薄暗さ。ランプの灯りが泉の水面に月明かりと共に柔らかく灯っている。
だが、おかしなものもある。水面に立っていたはずの水狼があれほどまでに輝かせていた青の光を弱々しく点滅している程度で、水流を纏う姿も横たわり、狼だと言う形が崩れ始めている。
「あれは、水狼様・・・・・・?」
リノアが先ほどまでは怯えていたはずが、脅威を感じられなくなった途端に前に出てくる。
「ティドゥ、こっちにおいで。その傷もついでだから治そ」
血の匂いでも感じたのか、ララミンがババを泉に呼ぶ。その声は俺が今まで同行した中では最も子供らしく、柔らかいものだった。
「あの子、何をするのかな?」
「俺に聞くな」
俺だってここへ来た時から何が何だかまるで理解出来てない。むしろ余計な疑問が増えた。
「白の息吹き」
ララミンが右目を押さえて唱えた。
「うっ・・・・・・」
「え? 眼が・・・・・・」
泉に浸かったババと淡い青に包まれた水狼に向かって、ララミンが先ほどは暗黒だったと言うのに、その左目が白を発している。眩しく輝く光に目が焼けそうになって視線を外した。
「・・・・・・混色とは、こう言う事なのか?」
俺のオンブルの中で見せた暗黒の黒と、泉にいる二体を包み込んでいる白の光。俺には眩しすぎる光。ララミンは対極の色を持つのか。故に灰色と言う混色。その対価による全盲。ようやく事を理解したが、なんと言うべきか・・・・・・。
「不気味だな」
目が光を発する子供と言うのは不気味だ。水狼の姿が元に戻り、ババも血の滲んでいた包帯が解け白い毛が傷を覆い隠していく。昼間のような明るみに手を翳してしまうがララミンの能力には驚くしかない。
「もう大丈夫だね」
「ワンッ」
ザパッとババが泉から飛び出る。確かに狼との小競り合いで負傷したはずの足も綺麗に治っている。その奥で横たわっていたはずの水狼が静かに立ち上がる。それでも姿はやはり水で形成されている。
「ごめんね、水狼。余計に力を使ってきたから皮膚組織まではもう回復させられなかった」
弱々しく点滅していた光が一定の落ち着いた青に留まり水狼を包み込む。先ほどのような敵意は失せているように思う。
《我が力を以ってせしとも小娘ごときを抑えられぬとは、やはりはハルビアーデの孫娘であるか》
水面に一歩を踏み出し、波紋を広がつつ、ララミンの元へ水狼が歩み寄ってくる。
「アスナとリーディル・アーデの混合造偽体だけどね」
アスナ? リーディル・アーデ? 混合造偽体? 一体何の話をしているんだ、ララミンと水狼は?
《それ故に持つ力、誠に見事である。死神の目を持つ神なる子よ》
「そお? ま、褒め言葉として受け取っとく。んでさ、勝負付いたから、分かってるよね?」
《この気高き水の司守である水狼、我より強し者への忠誠は誠の義なり。恩を返さずしての愚弄はせぬ》
よく分からんが、どうやら水狼はララミンに屈したということで良いのだろうか。
「うん。それでこそ水狼ね。明日の朝までには町への水の供給を再開しておきなさい」
《承知。だが、我からも提示。我が化身である狼への・・・・・・》
淡い光を纏う水狼が凛とした出で立ちで俺たちに青く光る瞳を向ける。神ではない法廷によって作られた存在であるが、それでもその放つ威厳には町の人間が神を崇拝していた名残とでも言うのだろうか、そのようなものを感じてしまった。
「分かってる。そのつもりでここに来たの。だから、森に入る人間を襲うのは禁止。破ったら次はないよ」
「え? 水が戻ってくるの?」
リノアがララミンの言葉に声を漏らす。驚きに瞳が大きく開いている。俺にはどうでも良かったことだが、どうやらララミンは初めからこのつもりでこの町を訪れていたのか。
「ちょっと待て」
それなら、俺がこの町に感じていたものを見せようとここを目指した理由などと言うものは。
「ララミン、お前は初めからだったのか?」
「そうだけど? もしかしてこの町が世界一素敵なものとでも思ってたわけ? 残念。私が求めるものはこんなものじゃないんだけど? それに私の義務を解消できた人がいないってことは、私はそれだけの数を巡ってきたんだよ? 残念だね、私が義務を課す人間が多ければ多いだけガスイは不利になるんだよ」
俺の目論みは初めから筒抜けと言うわけか。通りで初めから自由過ぎたわけだ。俺の行動を監視もしないのはこの町だからと言うわけもあったんだろうな。