第63話 視線を集める天才
前回のあらすじ
ヤミが騎士に助けられました。
「へ?」
目の前にいる予想外の人物に変な声が出る。
急に斬りかかってきたあの騎士に助けられた...?
圧倒的矛盾を目の当たりにして俺が困惑していると、騎士の方が頭を下げてきた。
「先程はすまなかった。あなたのような、少女に剣を振るって使ってしまって。反省している。」
申し訳なさそうな声で言われた。
これは...推測だが元々殺そうとしていたわけではないと、そういうことか。
頭もなかなか上げようとしないし、本当に反省しているのだろう。
嘘などついていないと思いたい。
それはそうと、こういう時ってなんて言ってあげれば良いんだ。
確か、
「頭を上げてください。」
これで良いんだよな?違うか?「顔を上げてください。」の方がよかったか?
少し不安だが言ってしまったことだし、もう遅い。
俺が声をかけてから待つこと数秒で騎士は頭を上げてくれた。
多分正しかったんだと思う。
一旦これでこの場は丸く収まった訳だが、疑問がいくつか残るな。
「あの、なんで俺に突然斬りかかったんですか?」
思いきって聞いてみることにした。
こちらから気概を加えた訳では無いし、馬車のこともまだバレていない。
攻撃される理由は見当たらないんだ。
「それはだな...。」
少し顔を暗くした。
暗くしつつも、周りを伺うようにチラチラと眼球を動かしている。
だが決心をしたようで、俺と目を合わせ口を開いた。
さあ、どんな理由で俺を攻撃したんだ...。
思えば、異世界に来てから命の危機に晒されたのは初めてだ。
ある意味異世界らしい経験だ。
殺人未遂第一号さんの殺人動機を確かめ...
「悪いがここでは言えない。」
ることことはできないようだ...。
殺人の動機をワクワクしながら待つっていうのは可笑しいかもしれないが、がっかりした。
そんな俺の気持ちを汲み取ってくれたのかは知らないが、騎士は慌てて弁解した。
「い、いや違うんだ。あくまで“ここ”では言えないだけだ。だ、だって...な。」
分かってくれよ。とばかりに言う。
一体全体なんだって言うんだ。
察しの悪い俺に騎士が視線で伝えてくれた。
騎士が周りを見たように俺も確認する。
絶句した。
周りにいる人という人が揃いも揃って俺達を注目していた。
軽い円になっているように、人に囲まれていた。
野次馬が集まっていた。
そりゃあ、さっきまで少女が四つん這いで息を切らしていた訳だし、人も集まるだろうな。
うん。言える訳ないな!
これだけ配慮してもらってやっと状況に気づくなんて。
自分でも嫌になるほどの察しの悪さだ。
仮にも相手は騎士だ。
騎士が攻撃された訳でも極悪人でもない、か弱い少女に暴力を加えようとしていたとなると、それを公にはしたくないだろう。
いつから俺はここまでの鈍感になったんだ。
「...やっと気づいたか。わかっただろう?悪いが、こんな人だかりじゃあ言えるもんも言えない。」
その通りだ。
察しが悪くてすみません。
「ほれ、掴まれ。」
騎士が手を差し出してくる。
????????????
え、なぜこの流れで俺が此奴の手を掴む展開になるんだ。
あれですか。また察しが悪いだけですか。
先程のすぐに状況を理解できなかったのがショックだったので、若干疑心暗鬼になりつつある。
これはアレだ。
多分俺が手を掴めばどうにかなるんだ。
そんな気がしてきた。
俺が鈍感なだけなんだ。
もう何が何だか分からなくなっていた俺は、差し出された手を素直に掴んだ。
「よし、掴んだな。『緊急脱出』。」
また慣れない単語を聞いて、スキルなのかな、と思っていたら一瞬で目の前が真っ暗になった。
と思いきや、見た事のある景色が目の前に出てきた。
えっと、ここは、冒険者ギルドか?
「どうした?冒険者ギルドを知らないなんてことはないだろ?ここなら、簡易的だが、個別の食事スペースがある。そこまで行こう。」
「えっ、ちょっと待っ」
俺の反応も聞かず、手を掴んだまま引っ張られていく騎士。
そこそこ強い握力で掴まれているので振り解けそうもない。
逃げても良いことがないし、素直についていくことにする。
しかし、周りの目が怖いな。
ギルド内の冒険者たちが俺の方に視線を向けている。
正確には俺を引っ張っている騎士のことを見ているんだろうが、こうも視線を集めていると恥ずかしくなる。
というか、傍から見たらこれ事案だよな。
少女の手を無理やり引っ張っているように見える騎士。
...なんだか気の毒になってきた。
そんなことを考えていると、個別スペースについた。
ファミリーレストランなどによくありがちなテーブル席だ。
詰めれば6人ほど座れる席に向かい合うように2人で座る。
俺が席に着いたのを見て、騎士が口を開いた。
「さっきの話だが、何故急に斬りかかったのか、という質問だったよな?」
「は、はい。」
「それはだな。まず、数日前に起きた森の中で騎士団の馬車が炎上したという事件を知っているか?」
あっ、これは非常にマズイ。
原因俺にあるパターンのやつだ...。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




