赤
「お風呂あがったから次どうぞ」
リビングにいるお母さんに声をかけて部屋へいそいで戻る。掛け布団をめくって隅々まで目をこらして見たけれど、血の跡はひとつもなかった。
何かがおかしい。あれは夢だったのか。でもそれは無い。だって、私の手にはお父さんを刺した感触が残ってる。
とうとうその日、お父さんは私が眠るまで家に帰ってこなかった。
そうか、お父さんがいたこと自体が夢だったのか。そんな馬鹿なことを考えながらまぶたを閉じた。
「真理亜!今日は朝ごはん食べないの?」
お母さんの声で目が覚める。美味しそうな味噌汁の匂いがして、今日も起きてくると思ってご飯用意してくれたんだと眠くてぼんやりとした頭で思った。
「食べる。起きる。おはよう」
私は眠くて重い身体を無理矢理起こしてリビングへ向かった。
椅子に腰掛けようとして私は冷や汗が止まらなくなった。お父さんが私の向かいの椅子に座っていたからだ。途端にお母さんとも目が合わせられなくなって俯く。どうしたの?という問いかけにも答えられない。
お母さんはお父さんの頬に触れて笑う。
真理亜はお父さんだいすきだもんね?と。
なんでなんでなんで。
私は思わず包帯の上から傷を押さえた。むず痒い傷口が私を笑う。
「それじゃあ、お母さん仕事行ってくるね。洗い物しておいてね。戸締り確認して、外には出ないように!」
「...わかった。行ってらっしゃい」
お父さんとふたりきり。
なんでなんでなんで。
掻きむしった傷口が包帯をじんわりと赤に染めていくのをぼんやりと眺めて、声を殺して泣いた。




