いつもどおり
美味しそうな匂いと共に私はお母さんに起こされた。優しい声でご飯ができたよ、と。
寝起きのふわふわした感じが心地よかった。それと同時に血の気が引いた。お父さんの死体が消えていたのだ。
驚いてお母さんの顔を見つめた。お母さんは首を傾げてどうしたの?と問う。私はなんでもないと呟いてリビングに小走りで向かった。
テーブルに頬杖をつきながら何故、何故と考える。そういえば死体は消えていたけれど血はどうだったろうか。
布団にシミになっているはずだ。なのにお母さんは何も言わなかった。でも、ふわふわしていた思考の中で血の赤を見たような気がする。
それならお母さんは何かしらの反応を見せるはずだ。死体はどこに?血の染みはもしかしたら掛け布団で隠れていてお母さんは気付かなかっただけかもしれない。ご飯のあとに確認してみよう。
ぼんやりと考えながら冷や汗が止まらなかった。掃除機をかける音が聞こえてお母さんがリビングにやってきて、私の様子を伺っている。そんなお母さんに気がつかないフリをして遠くを見つめる。
ご飯をお母さんがよそって目の前に置いていく。私は身動きをとらないように気を付けて、お母さんが椅子に座るのを待った。
「いただきます」
震える声を誤魔化すために小さな声で呟いて箸をとった。いつもどおりご飯は美味しくて、リクエストした肉じゃがはとても美味しくて、安堵した。
肉じゃがが美味しいと伝えるとお母さんはそう?なんて言って笑った。
よかった。いつもどおりだ。
きっと血の赤にお母さんは気付いていない。お父さんが死んだことにも気付いていない。このままお父さんがいないことにお母さんが気が付かなければいい。そうしたら幸せに暮らしていける。
ご飯を食べ終わって薬を飲んで、お風呂に向かう。お風呂に浸かりながら、お母さんとどこに行こうかなとかこれで部屋に閉じ込められないかなとか色々な未来を想像して思わず笑い声が出た。
お父さんから解放される。お父さんに怯えないで生活ができる。なんて素敵なことだろう。




