おとうさん
お父さんが私にいらない子だと、嫌いだと、生まれてこなきゃよかったと言う。気持ち悪い、不潔だ、そんなことをあまりに言われすぎて毎日布団に隠れて泣く。
お父さんがいなくなればいいのに。そうしたら部屋から自由に出られるし、お母さんとも出かけられるし、私は幸せになれるのだと思う。
お父さんを殺そう。
そんな考えが頭をよぎった。でもどうやって?私を切ろうとするお父さんからカッターを奪って切る?どこを?カッターじゃ殺せない。そもそも力の差があるからカッターを奪えない。
頸動脈ってどこだっけ。そうだ、人体図鑑があったはずだ。枕元に重ねられた本の山から探し出して調べる。
頸動脈って筋肉の下にあるんだ...。切れる?切れない?お父さんを動けなくして頑張って切れば切れるかもしれない。
でも、私に、できるの?本当に?
やってみるしかない。失敗したら私がまた切られるだけだ。
「お母さん、明日も仕事?」
「うん。明日は早番だよ。夕方には帰れるから食べたいもの考えておいてくれる?」
「わかった」
カッターじゃダメだ。それなら包丁を手に入れればいい。
お母さんが出かけるときに見送ると言えば部屋から出してもらえるだろう。朝ごはんを食べたいと言えば部屋から出してもらえるはずだ。
次の日、私はいつもよりも早めに起きてお母さんと朝ごはんを食べたいと言い、リビングに出た。
「いつも朝起きてこないからちゃんとしたご飯じゃないけどいい?」
そう言って私の前にトーストとコーヒーを置いた。
ご飯を食べ終え、二度寝はしなくて大丈夫?と問うお母さんにたまにはお母さん見送りたいと言って玄関に押しやった。
「夜ご飯、肉じゃががいい...」
「肉じゃがかー。じゃあお肉買ってこないと。戸締りしっかりね!外には出ちゃだめよ。どうしても出かけたかったらおばさんに連絡して一緒に出かけるのよ。」
曖昧な返事を返していってらっしゃいと手を振る。
台所にむかって包丁を震える手でとった。これでお父さんから解放されるのだと思うと涙が出た。
自分の部屋に戻り、お父さんが来るのを今か今かと待った。入ってきたらまず腕を、そして足を切って痛みで動けない間に首を狙うつもりだ。
そういえば朝の薬を飲んでいない。少し眠いから昼はご飯を食べずに寝てしまいそうだ。今のうちに朝と昼の薬を飲んでしまおう。飲まないとお母さんに咎められてしまうから。
お父さんが来ないのを確認してコップにミネラルウォーターを注ぐ。プチプチと薬を出して、水で一気に流し込んだ。
手に持っているまだ開けていないオレンジ色の錠剤がふにゃふにゃとゆがんで見えた。私はその薬たちを台所の隅に置いて部屋に戻る。ひたひたと足音が響いた。まだお父さんは来ていない。
2時間ほど気を張っていたと思う。身体が眠気でふわふわとしてきた頃、お父さんがやってきた。私を睨みつけるお父さんの腕に思いきり包丁を振り下ろして、腕に気をとられてる間に足を蹴る。倒れたところで馬乗りになって包丁を首に目掛けて下ろした。何度も何度も傷をつけた。
お父さんは叫び声をあげなかった。
お父さんが動かなくなって我に返る。ふと見ると辺り一面が真っ赤に染まっていた。私はお父さんが息をしていないのを確認して安堵した。
これで私は切られない。安心して眠ることができる。
ふらふらと包丁に付いた血を落として台所に戻した。部屋の片付けをしないといけないと思いつつ、我慢ができない眠気に負けて私はお父さんの横に倒れるように横たわって眠りについた。




