廃れた掲示板にて
20XX.08.03
少女、母親惨殺事件
これは一部で有名な事件だと思う。
当時高校一年だった高倉真理亜は学友と上手くいかず不登校になった。高倉が中学二年のときに父親が亡くなってから精神病を患ったそうだ。
高倉はとても優しい子だったと高倉の従兄弟は言う。
幻覚を見た高倉真理亜は父親が母親を殺したのを見て、幻覚の父親を殺したのだそうだ。
高倉の言う父親とは誕生日に父親からプレゼントされたテディベアのことである。
高倉は当時、自傷行為が酷かったらしい。警察に捕まったあと、身体を調べたところ腕にはびっしりとリストカットの跡があったそうだ。
高倉曰く、父親が高倉の腕を切ったのだそうだ。これも幻覚の父親である。
テディベアと高倉自身は高倉の見る幻覚の父親だったのだ。そのことに高倉は今尚、気がついていない。
父親が死んだショックでその記憶に蓋をしてしまったらしい。
私じゃないと泣く。確かに高倉にとっては父親が母親を殺したのであって高倉は母親を殺していない。高倉が殺したのは父親である。
何度父親を殺しても生き返ったと高倉は証言している。それは母親が何度もボロボロになったテディベアに綿を詰めて似た布をあてがって直していたからだ。
逆に言えば母親がもうボロボロだからと捨てていればこの事件は起こらなかったであろう。
乾いてドス黒い色の床に綿が血をじゅうじゅうと吸って乾いていた。横たわる母親はバケモノを見たかのような表情をしており、その横にまるで天使のような子が母親に縋るように丸まっていた。
当時、殺人現場に立ち入った元警察官の証言だ。
この事件があった頃、ゲスい週刊誌の記者だった私が知っているのはここまで。他はみんなが知っているようなことしか知らない。
コメントがどんどん増えていくPCを閉じてぼんやりと思う。
さて、高倉の目には今何が映っているのだろうか。
私は高倉真理亜の従兄弟が真理亜の笑った顔が見たかっただけ、と言ったのと同じように、世の中のものを幻覚で恐怖に陥れたいだけ、なのだ。
高倉の見た父親も現実に”いた”のに誰の目から見ても”いなかった”
私は幻覚獣をひと撫でして、さて今度は誰の為に幻覚を見せてあげようかと笑った。
真夜中の部屋に薬缶のピーと甲高く鳴る音がした。




