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7-6 波紋

モンフォワ籠城戦の初日。

(モンフォワ 約三千 VS 魔王軍 約六千)


偵察隊の連絡で魔王軍に動きがあったと作戦本部に連絡が入る。

ルーベルガは結局有効な案が出なかったと結果を警備隊隊長に告げた。

そんな彼らを責めることなく、持てる力を貸して欲しいと警備隊隊長のジョナードは答えたのだった。


城壁の上は戦士が待機しており、投石用の石、登ってきた敵にかけるための熱湯、矢の束などが所狭しと並んでいた。


ルーベルガが、

「おめーら、今回は射手と盾持ちの二人一組で行動しろよ、盾持ちは防御に徹しろ、射手は狙いに集中しろ、いいな!」と、団員たちに声をかける。


「ういーっす」


「ケインとじょうちゃん、あまり壁から離れると山なりに飛んできた流れ矢に当たるぞ」

城壁の下をうろちょろとしている二人にも声をかける。


「はーい」、明るく笑顔で手を振るハスエル。


数刻すると遠くから魔王軍が姿を現した。

モンフォワの四方を囲むだけの戦力は無いようで、西門と南門の前に隊列が組まれた。


馬人ケンタウロス、馬の胴体と四肢それに人間の胴体が生えた獣人、兜、鎧、四肢には脛当てを付けている。長い槍を手に持ち突撃を今かと待っている。

狼人ウェアウルフ、二足歩行する狼の姿をした獣人、木製の盾と長剣を持ち馬人ケンタウロスの背に乗っている。

狼人ウェアウルフは狼男ではないので、人間に変身する力は持ち合わせていない。


ラッパの音が高らかに響き渡り、合図を待っていた魔王軍が一斉に突撃を開始した。


馬の駆ける音が戦場を揺るがす。

土煙を巻き上げ横一線に並んだ魔王軍が乱れること無くモンフォワの町との距離を縮めてくる。


とその時、先頭を走る馬人ケンタウロスが目の前から消える。

彼らの足下が崩れ落ち、堀とその下に生えた丸太の杭が姿を現す。


水が滝壺に落ちる音に似た響きが戦場にこだまする。

堀に落ちた兵士の断末魔も混ざり耳を塞ぎたくなる合成音になっていた。


「ほう、こりゃ凄えなあ」、眉間にしわを寄せながら呟くルーベルガ。


そんな彼の横で厳しい顔をした魔法師隊隊長のストフレッド。

「前もって用意してありました。突進防止と攻城兵器を近寄れなくするための対策です。しかしこの手が使えるのは一度きりでしょうから……」


「なるほどな。……敵が退くな、穴を渡る用意が無いのか……」


「敵が地上部隊だけで幸運でしたね」


堀に落ちた兵士を置き去りにし魔王軍は来た道を引き返していった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


モンフォワ籠城戦、二日目の昼。

モンフォワの西方に位置する魔王軍の陣。

一時撤退した魔王軍は次の攻略の準備に取りかかっていた。


「ようこそおいで下さいました」と、モンフォワ攻略の指揮官が頭を下げる。


そこへ、テントの入り口から魔王の第二王子であるクリスターが現れ、

「昨日、モンフォワに仕掛けたそうだな、戦果は?」と、問う。


彼はテスケーノの町にいたがモンフォワ攻略の進捗が思わしくないので自ら前線に出向いてきたのだ。


「敵は堀を用意し巧に隠蔽いんぺいしておりまして、その……突撃した兵士約六百を失いました」


「要するに落とし穴に落ちたと」、鋭い目線で指揮官を見る。


「誠に遺憾いかんながら……」、脂汗を額から流している。


「戦に犠牲は付きものだ、町を落とせば挽回できる」


「有り難きお言葉、我が身を犠牲にしてでもモンフォワを落としてご覧に入れます」


「うむ、励むが良い。そうだな……近隣から牛をできるだけ集めるがよい」


「牛ですか?」


王子の思惑が理解できない指揮官は首を傾げるのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


モンフォワ籠城戦、二日目の夜。

魔王軍が襲ってこなかったためモンフォワも次の襲撃の準備をする時間を確保できた。

新たに落とし穴を掘り先の尖った丸太の杭を埋め込む、掘り出した土は古い落とし穴に入れ敵の遺体ごと埋めたのだった。


モンフォワの町の中心には広場があり、そこには噴水が作られていた。

石で作られた囲いにソフィーが座っていた。一人静かに夜風を楽しんでいるようだ。


「今晩は、ソフィーロニアさん」、ランプを手にしたエルフのストフレッドが挨拶をする。


「あら、ストフレッドさん……、でしたよね」


「名前を覚えて貰えて光栄です。美しい女性が夜分に出歩くのは危険ですよ」と、笑顔で囁く。


「お上手なのね、私なんて誰も見向きもしませんわ」と、ソフィーも笑顔で応えた。


「貴方こそ謙遜けんそんがお上手ですよ。……どうされたのですか、お仲間はご一緒では?」


「……仲間ではありませんわ。無理を言って付いてきているだけなの」

眉毛を曲げ苦笑いをする。


「そうだったのですか。何か理由でも?」


「私、里から出たことが無くて。外の世界を見てみたかったの」


「それは良いですね、世界は広がりましたか?」


「そうね……広かったわ。けれど、私の世界は変化しなかったみたい。狭かったのは里じゃなくて私だったのかも」

目線を落とし水面を見つめるソフィー。表情が少し寂しそうだった。


「私も里を出たときは同じようなことを考えたものです。でも多くの人と交流することで世界が広がりました。きっとソフィーロニアさんもこれから広がってゆくと思いますよ」

なるべく軽い声を出し彼女を元気づけようとする。


「ストフレッドさん……」

里を出てから人に優しい言葉をかれられたのは初めてかも知れない。


「もちろん、その交流には私も含まれているのですよ」

そう言いながら軽くウインクした。


「え……」


「ここブールジュ国はエルフに対して寛容です、きっと気に入って貰えると思いますよ。できれば貴方とは長く交流してゆきたいですね」


「……」、少し驚いた表情をしたまま固まってしまったソフィー。


「返事は急ぎませんよ。私たちには永遠に近い時があるのですからね。ではお休みなさい、早くお戻りになってくださいね」


彼は軽く会釈すると夜の警邏に戻りその場を去って行く。


彼女の手元にある水面には噴水の水滴が作り出した波紋が幾重にも広がっていた、そしてソフィーの心にも少なからず波紋ができているようだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


モンフォワ籠城戦、三日目の昼。

(モンフォワ 約三千 VS 魔王軍 約五千三百)


初日と同じように西門と南門に魔王軍が陣形を構築していた。


「おうおう、懲りもせずまた来やがったぜ」と、ルーベルガがせせら笑う。


「……あれは」、敵陣に妙な動きを察知した魔法師隊隊長のストフレッドが呟く。


「どうしたよ、エルフ隊長」


「やられました、彼ら牛を用意しています」


「牛がどうした?」


「恐らく牛を一斉に放つのでしょう、それで軍隊に被害を出さず落とし穴を探させるのです」


「なるほどな、そりゃヤバイな」


敵陣の前に牛が連れてこられる。


「放て!」、かけ声とともに牛に鞭が入れられほぼ横一線に走りだす。


牛が偽装していた堀に身を投げる、さらに第二陣の牛が用意され鞭が入る。

四回ほど同じ光景が繰り返されると全ての堀が姿を見せてしまった。


牛の突撃が終わると、馬人ケンタウロスが丸太に綱を張り引いてくる。

何本もの丸太が運ばれ堀に橋が作られてしまった。


戦場にラッパが鳴り響き本格的な攻城戦が始まった。


「撃て! 撃て!」、城壁の上で号令をかける戦士たち。


矢がすれ違うように飛び交い、双方に被害者が出始める。

ルーベルガは投げ槍で何体もの突進してくる敵を串刺しにしていた。


狼人ウェアウルフを背に乗せた馬人ケンタウロスが矢を回避しつつ突進してくる。

塀の前で馬の背を蹴り高く飛び上がる狼。軽々と塀の上まで到達する。

塀の上の至る所で近接戦闘が開始される。



堀の内側ではハスエルによって怪我人の治療がおこなわれていた。


「やっぱり俺も上にいたほうが……」

手持ち無沙汰のケインがウロウロしていた。


「ルーベルガさんに下を守れって言われたでしょ、持ち場を守るのも大事だと思うわ」

ハスエルが鬱陶しそうにケインに注意する。


「ケインの仕事はハスエルを守ることだろ」

側にいたガットも釘を刺す。


「そうだな……、ガット上!」、彼の【先読み】が発動した。


狼人ウェアウルフが塀を越えて落下してきた。


「【加速】っ!」


ハスエルの真上で狼人ウェアウルフに体当たりし、なんとか軌道をそらす。

そのまま壁に激突しふらついている敵に留めを刺す。


爺に付いた血を降り飛ばしながらガットが、

「ふぅー、ケインがいなかったら危なかったよ」と。


「まぐれだよ」


「それにしても……、越えてくる敵が出始めた、これはヤバイな」


双方の被害は恐らく互角だろう。

その後も数体か塀を越えたが城門を開くまでには至らず、その日はなんとか持ち堪えた。

町を守ったというのに兵士たちの顔には疲労の色が濃く出始めていた。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


モンフォワ籠城戦、四日目の昼。

魔王軍の陣では。


「クリスター様、昨日はあと一歩まで追い詰めることができました。これもクリスター様のお知恵があればこそです」と、指揮官が話す。


「無理に世辞を言う必要はない。被害状況を報告しろ」


椅子に腰掛け手元の書類から目を離さずに話しを続ける第二王子のクリスター。


「およそ四百の兵が死亡および負傷により戦闘不能です」


「敵の損害は」


「ほぼ同数と思われます」


「そうか……、明日の手筈はどうなっている」


「ハハッ、ご命令通り醜巨人グレンデルを呼び寄せてあります」


「ふむ……まだ足りぬな。テスケーノへ使いを出す、連絡係を呼べ」


第二王子のクリスターは手紙を書くと連絡係へ渡したのだった。


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


モンフォワ籠城戦、四日目の夜。

女性陣は男性とは別に宿が用意されていた。


「どうしたのソフィー、最近暗いわよ、何か考え事?」

窓の外をぼんやりと眺めるソフィーに声をかけるハスエル。


「うん……。ねぇ私が旅に同行した理由って覚えてる?」


「結婚相手を見つけるんでしょ……あ、あのエルフさん?」


「そうなの、この前ね告白っぽいこと言われたの」


「告白! 詳しく聞かせてください」

二人の話に耳を傾けていたトニエが食いついた。


「そんなに素敵な話じゃないわよー、この国はエルフが住みやすいからどうですかってだーけ」


「いいじゃないですか! 遠まわしの告白ですよ!」


「なーにをチャラチャラした事言ってんだ、今は戦争してんだぜ」

剣を磨きながら小人族ホビツのフェルネが嫌味を言う。


「戦闘狂のチビは黙ってなさいよ!」


「なんだとデカ女!」、睨み合う二人。


「まあまあ二人とも熱くならないで。それでソフィーは何て答えたの?」

ハスエルが話しの続きを聞き出そうとする。


「特には……、私の勘違いかもしれないし」


「そうー」


「ソフィーはその人のこと、どう思っているのですか?」と、トニエが問う。


「それがね……良くわからないのよ。里から出て初めて会ったエルフだから特別に見えてるだけかもしれないのよ」


「気にはなるけど、それほど好きじゃないってこと?」、首を傾けたハスエルが聞く。


「今のところそうかなー」


「ならもっと話してみたら? モヤモヤがスッキリするかもしれないでしょ」


「そう……そうね。話してみようかな」


珍しく女子会らしい話題はその後も少しだけ続いた。

その間、面白くなさそうに道具の手入れをするフェルネだった。

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