2-2 承:ケイン、そいつに優しくしていいのか?
トラスダンとターバンズを結ぶ街道に降り立つ三人。
ターバンズに向かう村人に馬車で送ってもらったので、村を出て数刻しか経っていない。
「このあたりね、村長が話してくれた行商人が襲われたっていう場所は」
森を見ながら呟くハスエル。
周囲に異常がないか注意深く観察するガット。
「特に危険はなさそうだな」
森を横断する街道ではない、森を迂回しているため街道の反対側は手付かずの草原だ。
すぐに密林ではなく木々もまばら、草もそれほど茂ってはいない。
「じゃ、ここから森へ入りましょうか」
なかなか動かないケインを見る二人。
「え、なに、俺?」
「ハスエルを先頭で歩かせたいのか?」
「いや、そんな訳では……」
森を指さすハスエルが、
「ツベコベ言わずにサッサと行く!」
しぶしぶ重い腰を上げるケインを先頭に、続くハスエル、ガットは殿をつとめた。
「とりあえず、けもの道を探そうか」
ガットの提案に、林道に詳しくないハスエルが、
「けもの道って?」
「大型の獣が利用する道だ。行商人を襲ったっていう大狼も使った可能性が高い」
「へぇー」
「踏み固められて草が減っているから、背の高いケインなら見つけやすい」
「わかった」と、先頭を歩くケインが振り返らずに答えた。
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森に入り数刻が過ぎる。
「それにしても初めてね、三人で遠出するなんて」
「遊びじゃないんだぞー」
にこやかに微笑むハスエルに冗談っぽくツッコミを入れるケイン。
「わかってるわよ。でもね、なんだか嬉しいの」
「なにがさ」
「村でね、平和な暮らしも好きよ。――でもたまには変化があってもいいじゃない」
「変化はいいけど、危険は嫌だなあ」
「まあ、そりゃね。――ガットはどう?」
黙って最後尾を歩いていた彼が、
「俺は生きていければいいよ」
――そうだ、生きてさえいればいい、何もせず死ぬなんてゴメンだ。
「意外……。私ねガットは村に長居しないと思ってた」
「どうして?」、ケインはけもの道を探す目を休ませずに質問する。
「うまく言えないのだけれどね、雰囲気がね、皆と違うの」
「仮面のせいじゃないか?」
「関係ないとは言い切れないけれど、そうじゃないの」
「なら?」
「――ゴメン、やっぱり上手く言えないや」
ガットが警戒している。
――ハスエルに助力している精霊が俺を魔人だと囁いているのか? マズイな。
この世界に神や悪魔、天使はいない。だが信仰対象としての神はいる。
ハスエルは回復魔法を使えるが、僧侶や神官といった職業ではない。
回復魔法は精霊の力を借りて発動するため神や宗教とは無縁なのだ。
「言い出した本人がわからないってなんだよ。――ガット、けもの道ってコレか?」
「そうだ、この道を辿り森の奥へ進もう。獣と遭遇するかもしれない、警戒して進もう」
「わかった」
周囲を警戒しつつ獣道を進む一行。
昼を過ぎた頃に昼食休憩をはさみ、鋭気を回復させたのち探索を継続していた。
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森に入り結構な時間が経過していた。
木々の本数も増え、大木も混ざり始めている。
頭上を覆う木の枝が濃さを増し、地上から太陽の光を奪う。
時折鳥の鳴き声が聞こえるが姿は見えない。
「今のところ特に気になるような変化ってないよね」
ハスエルの問いかけにガットが答える。
「そうだな、大狼の餌になるような動物も何回か見かけた」
「じゃあ、食糧不足で街道に出たわけじゃないのか」、ため息混じりにつぶやくケイン。
「ケイン、停止」、緊張感のある声。
「何だ?」
「獣の気配だ」
警戒を厳重にしつつ先へ進む一行。
「もう少し先……。ゆっくり……。」
「いた、大狼だ」
この世界に生息する狼の一種で体が大きいのが特徴。
大きい個体は、成人男性の胸あたりに顔がくるサイズである。
どう猛な性格で、集団で行う狩りを得意とする。
「狼種が単独行動するのは珍しい、一匹狼かもしれないが追跡してみよう。俺が見え隠れするぐらい離れて後を追ってくれ」
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二人を残し気配を消しつつ大狼を追跡するガット。
「王子よ」、爺が話しかけてきた。
「なんだ」
「ずいぶんと積極的ではないか」
「聞いていただろ、少なからず恩があるからな」
「恩のぅ、――まあ、情に流されて剣が鈍らんようにな」
「ああ、わかっているつもりだ」
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その頃、ガットを追尾する二人。
「ガット、一人で大丈夫かな」
先行するガットを心配するハスエルを元気付けるようにケインが答える。
「ああ見えて森に入って一人で特訓してるんだぜ」
「平和な村なのに何に備えて特訓してるのよ?」
「さあ、それは俺にもわからない。仮面の件にしたって何か訳ありだろ」
「それはそうだけど……」
「心配……なのか?」
「そりゃね。大人に守られて当然の年齢なのに、それを拒絶して……」
「一人で村に来たんだ。住んでいた村が襲われたか、親に捨てられたか、あいつなりに強く生きようとしてるんじゃないか」
「うん、そうね」
「大丈夫さ、俺たちがついていてやればいい」
「そうよね、がんばろう!」
振り向いてハスエルと話をしていたケインは後方で動く大狼を発見した。
「ハスエル、後ろから大狼だ、ガットと合流しよう」
「うん」
足早に移動する二人。