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くだらな短編集

有名税ってヤツです

 よく分からない、勢いだけで書いてみた短編です。

 よかったら、読んでいってください。

 今俺は、とんでもない状況に巻き込まれている。

 目の前には、何故だか駅のホームで泣いている女子高生。

 隣には、腕をガッチリ掴んでる男子高生。

 後ろには、駅員。こいつがヤバい。手錠持ってる。何で持ってんだ。しかも鍵のとこだけ俺にちょいちょい当ててくる。驚異的に恐怖心を煽りやがるこいつ。ニヤニヤしやがって。


「お兄さん、逃げられると思わないでくださいよ」

 腕を掴んでる男子高生が、満面の笑みで囁く。何キャラなんだお前は。腕がめちゃくちゃ痛いんだが。

 こいつの腕もどうなってんだ。確実に関節じゃないとこが曲がってるようにしか見えねえ。そいで関節っぽい感触が腕に三か所当たってる。化け物なのかこいつは。


「ほらほらぁ、捕まえちゃうぜぇ~? 捕まりたくねえだろぉ~?」

 駅員もまた、満面の笑みである。目の奥まで笑ってるじゃないか。なんて楽しそうに恐怖を植え付ける女なんだ。俺の恐怖心は今や某ホラゲでいうと画面が赤くなる程度に高まっている。


「うっうっ……何で、何で……」

 前の女子高生も、もちろん理解不能である。なぜ泣き続けているのか。俺の顔を見た途端泣き出したからなあ。あれショックだわ。

 そんで俺が声かけたら泣き崩れたじゃん? あれもショックだわ。それから顔、ずっと抑えたまんまだし。たまに目だけちらって見せてまた泣きに戻るし。


 もう何なんだ。怖い。ひたすら怖い。後ろから心理的圧迫、隣から物理的圧迫、目の前によく分からない圧迫。今俺の心臓絶対数センチ縮んでる。深海ぐらいには圧が凄まじいと感じる。

「………………あの」

「おおっと何だい? 捕まりたいかい? 冷たいぜ? 金属って冷たいんだぜ? 冷たくて……気持ちいいぜ?」

「あんたは俺をどうしたいんですか」

「そうだな……強いて言えば、捕まえたい」

「まずは手錠をしまってください」


 関わるんじゃなかった。不可能だったが。何だこの女。駅員なのかすら疑わしくなってきた。

 そして何故締め付ける強さを強くする男子高生よ。てかずっと前から疑問だったんだが何でお前捕まえとくのに腕を絡ませてくるんだ。完全にそういう仲にしか見られないじゃないか。

 せめて両腕はやめろ。俺も誤解される。されていると思う。そういう視線もガンガン感じてる。

「……君」

「はい? 何でしょうお兄さん。僕は決して腕の力を緩めたりしませんよ」

 なんだその返し。ある程度こちらの意図をくみ取るあたりすごいなこのDK。最近のDKすごいな。

 そして何か誤解が解けなさそうな返し。俺も誤解しそうな返し。

「いや、あの……何で腕をさ、絡めてくるのかってね?」

「だって、逃がすわけにいかないじゃないですか。あなたを逃がすなんて、僕には考えられません」

「君の言葉のチョイスは何故そんなに際どいんだ?」

「あなたへの思い故です」

「もう際どいラインをぶち破った感があるが」

「そんなのを気にしてちゃ、明日は見えてきませんよ」

「急に話題がフワッとしたね君は」

 

 もう話せない。どっちが主導権を握ろうが無視して世間体のライフをガンガン削ってくるじゃないか。

 このDKは、どうなんだ。俺に恋してるのだろうか。普通なら寒いと自分でも引くこの予測が、ひどく現実感たっぷりにのしかかる。

 いや、やっぱ寒い。引くわ。引いたうえで現実感たっぷりとかいう地獄だわ。

 もう二人を相手にしてライフがマイナスだよ。誰か俺を褒めたうえで助けてくれ。


「……で、あの、君……」

「うぅぅぅ……なにゆえ……なにゆえに……」

「うん、なんか変わってる。突っ込みづらいよ」

「なにゆえ…………なのじゃ……」

「いよいよ何者なんだい君」

 ダメだ。話が出来ない。危険度は低いと思ってたが、案外この子がラスボスかもしれない。

 それを悟った俺も押し黙る。何故か駅員とDKも口を閉じる。そして場には、JKのすすり泣く声だけが響く。

「…………」

「…………」

「…………」

「……ひっく、うぅ……」


 ラスボスって何だ。

 何故今俺は、この三人を処理しなければならない敵として認識したんだ。

 思い返すと、何故俺から話しかけたんだ。何故自分だけで何とかしようと思えたんだ。

 まず誰だ。


 あっ、なんかこの疑問が頭に浮かんだの久しぶりだ。おかえり、根本的疑問。

 さて、もうそれは考えるのをよそう。めんどくさい事この上ない。次のステップに進もう。

 何で俺はこんな状況に巻き込まれたのか、だ。これだけは全く分からない。いや何一つわかってることなど無いんだけど。


 聞こう。聞こうよもう。さすがに理由もなく俺という一個人に群がるド暇人ではないだろう。

「あのー……」

「何だぁい? いよいよ金属の冷たさを求めちゃうのかいぃ?」

「どうしました? くどいようですが、僕は緩めたりしませんからね」

「……うう……な、何でしょうか……」


 あ、くじけそう。ダメだ、気をしっかり持たないと。

「あの、何で、俺にこんな群がってるんですか? え、何で群がってるんですか?」

 聞いた。聞いてやった。俺の勝ちだ。今脳内でファンファーレ鳴ってる。大合奏してる。


「はあ?」

「えっ?」

「……え?」

 一様に驚いている。強烈におかしいと思えないのは、数秒前まで囲まれていた恐怖からだろうか。

「いやいやいや、何言ってんの? 分かるでしょ?」

「え、まさか、何も分からないままこの状況を受け入れてたんですか? うわぁ……マジですか……」

「…………ええ?」


 何か引かれた。JKも涙引っ込んでる。え、俺がおかしいのだろうか。

「いやあの、理由をね? 教えていただきたいなーと」

 すると駅員が深いため息をつき、話し出す。

「いや、だってアンタ、あの有名カラオケマンのyou-dieっしょ? ユーダイ。実に28もの曲で全国一位をキープしてる、通称”音程の魔術師”の。音程はほぼ全ての曲でパーフェクトなんだもんね。アタシマジで好きなんだよ」

 DKも続く。

「やっぱそうですよね。僕もホント、好きなんですよ。現在はこぶしとビブラートによる加点を練習していて、苦手なフォールも今は取り組んでるんですよね? カラオケ好きな僕としては尊敬に値しますよ」

 そして泣き虫JKも。

「私も……本当に好きで……力強く伸びのある高音とか、どんな鬼畜早口曲も一切の淀みなく歌いきる鬼滑舌とか、歌い終わりに右手で地を、左手で天を指すパフォーマンスとか……」

 

 顔が熱い。お忘れかもしれないが、ここは駅である。

 あれは……ただのストレス発散なんだ。休日の俺を蒸し返さないでくれ。ちょっと良い点連発したから、調子にのって動画投稿してみただけなんだ……。


「まあ、そんな訳で。アタシはアンタだってわかって、ついついテンション上がっちゃって。気付いたら、手錠をね?」

「僕も似たような理由ですよ。尊敬するyou-dieさんがすぐそばにいるってなって、ついついわーってなって、でこれですよ。ええ。混じりっ気のない気持ちが、この腕に表れています」

「わ、私もそうです。顔見た瞬間に気付いて、そしたら急に涙が溢れてきちゃって……なんで居るんですか? って聞こうと思ったけど、言葉にならなくて」


「はい……そいつは、どうも……ありがとうございます…………」

 もう、電車は次の便が発車したところである。

「いや、それにしても、あんなのはちょっと……」

 食って掛かる。

 

 すると三人とも気まずそうに、しかし「仕方ないでしょ」とでも言う風に、顔を見合わせる。

「いや、確かにそうだけど、それは……」

「ねぇ……」

「やっぱり……」

 

 そして、声を揃える。

「「「有名税ってヤツですよ」」」

 いかがでしたでしょうか。

 最近はインターネットを通じて一般人も有名になるので、こんな事もあるんじゃないかと。

 読んで頂きありがとうございました。

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