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プレイッ!!◇笹浦二高女子ソフトボール部の物語◆  作者: 田村優覬
二回◇すれ違いからの因縁へ――vs釘裂(くぎざけ)高校◆
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37話 ④清水夏蓮パート「――!? え、咲ちゃん……」

 月の明かりが鮮明となった午後十時。

 外は月によって闇が少しばかり晴れており、音のない安らかで幻想的な世界が拡がっていた。また笹浦二高の電気も全て消えており、もはや誰もいない建物と化しながらそびえ立っている。

 そのなか、長き合宿の初日を乗り越えることができた女子ソフトボール部員は現在、体育館に敷かれた布団の中で横になっており、誰も話さすことから眠りに就いているのが窺われる。しかし決して静かだとは言えないもので、咲の意味不明な寝言やメイと美鈴の大きなイビキが館内中を轟かせていた。



「……ダメだ、寝れない……」



 すると一人、キャプテンの夏蓮はゆっくりと起き上がると、騒音主の少女たちにため息を漏らしていた。一人っ子の自分にとって他者と眠る機会はあまりないが、まさかこんなに眠りに就けないとは。

「……咲ちゃん」

 きっと体育館という場慣れしない緊張もあることだろう。だがそれ以上に、頭を割るようなノイズ音に襲われており、その張本人であるオデコ娘に目をやっていた。


「エヘ、エヘヘ……いっしょだよ~……」


 嬉しそうに寝言を放つ咲に、夏蓮は困った顔でジーっと見つめる。さっきから変なことばかり呟いており、気になって眠れたものではない。どうかイビキ止まりになってほしいと、切に願ってしまうほどだった。

「……でも、嬉しそうだなぁ」

 咲の安らかな寝顔からは、彼女はきっと幸せな夢でも見ているに違いない。

 夏蓮は、恐らくは仲の良い泉田(いずみだ)涼子(りょうこ)先輩といっしょにいる夢を見てるのだろうと思いながら、(よだれ)を垂らしている眠り姫に呆れて微笑してしまった。

 涼子が素敵な人だということは、夏蓮も小学生当時に同じソフトボールクラブに所属していた者として知ってる。学年一つしか違わないのに、その姿は同性でありながらもかっこよく見え、また優しいお姉さんのような風格さえ垣間見える存在だ。

 元女子バレーボール部だった咲にとっては、言うまでもなく憧れの先輩なのだろう。ソフト部に転部してからも二人の交流は滞ることないらしく、まるで姉妹関係にも感じられる。

「エヘヘ、いこう……いっしょに……」

 鳴り止まぬ寝言のボリュームは下がることなく続いており、夏蓮は羨ましい思いすら生まれてきていた。涼子先輩とどっかに行くのかな? と少し興味を持ち始めると、嬉しそうなままに声が鳴らされる。



「――ソフト部で、インターハイ……夏蓮……」



「――!? え、咲ちゃん……」

 一度驚いた夏蓮だが困った表情が消え、代わって優しい微笑みを浮かべることができた。今のは決して聞き間違いではないと信じながら、(うるさ)いと感じていた寝言を心から受け入れ、温かな眼差しで見つめる。




『――咲ちゃんの夢、(わたし)たちの夢だったんだね』




 自分が予想していたものとは違ったが、それが反って喜ばしいものだと感じた夏蓮。すると、咲から温かな視線を放して寝静まる部員たち一人一人の顔を眺める。合宿の初日だけあって、みんなは相当疲れているからすぐに寝つけたのだろう。それは経験者だって同じことが言えるが、それと近い人数の未経験者だっていることを考えると、本当にみんなはよく頑張ってくれている。

 努力を怠らない。

 こんな素晴らしいメンバーに自分は囲まれているのだと、改めて実感して頬を緩ませていた。


「これからも、よろしくね。みんな……」


 自身の気持ちを素直に声で表した夏蓮だが、今この思いはきっと、眠っているみんなには届いていないだろう。しかし、それで良かったと思っている。いつもなら恥ずかしさが先立ってなかなか言えない言葉を、こんな形ではあるが発することができて、内心ホッとしていた。



「さてと……ちょっとだけ、行ってこよう」



 みんなを起こさないように小さく呟いた夏蓮は布団から立ち上がり、寝間着の上に笹浦二高の指定ジャージを纏う。自分としてもかなりの疲労を感じているが、今はむしろ努力しようという気持ちに満たされており、少し身体に軽さを覚えていた。

 至って前向きな姿勢のまま体育館の出口へと向かうと、玄関脇に置かれていたソフトボール用バットを手に取って見つめていた。

「一日、二百本かぁ……できるかな?」

 それは、柚月から課せられた多くの回数。

 苦笑いを浮かべていた夏蓮の手のひらには、本日の練習だけで何本もの素振りをしたことから、すでに血豆のようなものまで出来上がっていた。最初に見かけたときよりも膨らみが増しており、今にも中身の赤い液体が飛び散りそうな状況である。

 ヒリヒリとした痛覚さえ感じていたが、夏蓮はバットを両手で握ると苦笑いを()めて、磨かれたバットから自分が素直に微笑んでいる顔が浮かび上がった。




「――でも、やらなきゃ。キャプテンとして、(わたし)として……」




 キャプテンとして、チームが勝てるようにもっと上手くなりたい。


 何よりも(わたし)として、もっとみんなの能力に追い付けるように頑張りたい。


 夏蓮の心にはこの二つの揺るがない思いが存在しており、彼女の足を誰もいないはずのグランドへと(いざな)った。

「あれ……?」

 だが、体育館から出た夏蓮はふと立ち止まり、月の明かりにライトアップされたグランドを不思議と眺める。夜中で見辛いが、視界には確かに人気を感じさせる雰囲気と(くう)を切る音が顕在だった。

「もしかして……」

 目を凝らしてよく観察してみると、やは一つの人影が動いていた。普通なら気味悪く後退りをしてしまうところだが、夏蓮はその環境がすぐに喜ばしいものだと気づく。




「――やっぱり!」



 月に照らされた表情はより頬の緩みを強調させ、疲弊仕切ったはずの足を走らせることさえできた。なぜなら夏蓮の向かった先には、もう一人影ながら努力する者がいたからである。

皆様、新年明けまして、おめでとうございます。

どうかこれからも末長く、よろしくお願いいたします。

さて、なかなか唯の心に近づけない菫がかわいそうですね。二人の関係は今後も注目してあげてください。

書いてて思ったのですが、皆様はご飯を『よそう』と『よそる』のどちらを使いますか?

私は『よそる』の方でしたが後々調べてみると、どうやら『よそう』が一般的な言葉で、『よそる』は茨城県や他県でも使われる方言の一つらしいです。

茨城県出身の柚月には、『よそる』の方を使わせていただきました。私が普段平気で話している言葉が、実は方言だったりするようですね。日々勉強です!

来週は合宿二日目です。雨も止んで外の活動が始まるので、どうぞよろしくお願いいたします。

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