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プレイッ!!◇笹浦二高女子ソフトボール部の物語◆  作者: 田村優覬
二回◇すれ違いからの因縁へ――vs釘裂(くぎざけ)高校◆
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37話 ②東條菫パート「ありがと、凛。それと、ごめん……」

「大丈夫、きっと大丈夫だ……」


 菫は自分にそう言い聞かせながら徐々に唯たちへと近づいていくが、やはりこのような行動をとったのは初めてで大きな緊張感に襲われていた。しかし、これも同学年である美鈴ともっと仲良くなりたい、先輩らしくない一面も持つきららとももっとお(はなし)したい、そして唯ともっと心の距離を縮めたい。

 千里の道も一歩から――むしろ三遊間というポジションで隣り合う唯とは、練習やこの前の練習試合によく声を掛けられているのだ。すでに何歩か進んでいるに違いない。

 期待と不安を兼ね備えた菫を先頭に、後ろに凛がひっそりと、そして再びお皿に山盛りのカレーライスを装ったメイが笑顔でいながら、三人はついに和やかなムードに包まれた唯グループのテーブル前に立ち止まる。きららのテキトークで盛り上がっているなか、武者震いを見せる菫は勇気を出して一声放つ。

「う、牛島先輩!!」

「あん?」

 声に反応した唯は突如として笑顔を消し、鋭く睨みつけるようにしていた。

「なんだよ?」

「あ、あの……」

 彼女が部内でも恐い先輩の一人であることはわかっていた菫だが、相変わらずこの視線には慣れておらず口を開けづらい。このままでは、ただの怪しい後輩となるし、それに先輩である唯にも失礼極まりないことだ。だが、何と伝えればよいのだろうか。



「菫、自分らしく……」



「凛……?」

 ふと後ろから手のひらの感触を覚えた菫は振り向くと、背後にいた凛とすぐに目が会う。凛の言う通りだ。自分が思ったことを素直に伝えるだけで良いのだ。こんな簡単なことなのに、何を戸惑っていたのだろう。

「ありがとう、凛……」

 微笑んだ菫は凛からも安らかな笑みを返されると、そのまま唯へと笑顔を向けて口を開ける。

「牛島先輩、相席してもよろしいですか?」

 明るく前向きに答えた菫に対し、唯は意外そうな表情を浮かべながら視線を左右に反らしていた。

「オレは、別に……美鈴ときららは……?」

「う、うちは唯先輩が良いなら、大丈夫っす!」

 まずは美鈴が緊張を抱いてる様子で伝えると、反対側のきららは二度三度と頷いていた。

「大勢でのご飯はもっと美味しいご飯になるにゃあ。それに、きららはスミスやリンリン、それにメイシーともお喋りしたいにゃあ」

 名前の如くきらびやかな表情で囁いたきららは菫を始め凛とメイたちにも顔を向けており、彼女が一年生三人組をとても歓迎していることが感じられた。

「あ、ありがとうございます!」

「うわぁ~い!! きららちゃん先輩の前で食~べよっと!!」

 一礼した菫に続いてメイが嬉しそうに叫ぶなか、一年生三人組はそれぞれ唯グループ三人と向かい合うようにして着席していく。メイは言葉通りきららの前で、凛は何も喋らず無表情のまま美鈴の前で、そして菫は二人に挟まれる形で座り、唯の前でカレーライスをテーブルに置く。すると、待っていたかのようにマネージャーの柚月から六人それぞれにサラダを取るための小皿を分けられ、彼女がすぐに立ち去るとついに合同食事会がスタートした。

「きららちゃん先輩!! ズバリ! Ladyの秘訣とはなんなのですか!?」

 まずは菫の隣で、きららの前に座った明るいメイが流暢な英語と共に声を鳴らすと、すかさずジャージのポケットから小さなメモ帳とシャープペンシルを取り出していた。菫は常々思っていたことがあるが、それは彼女のポケットが練習中も膨らみを見せていたことである。だが今回、この二つのアイテムを常備しているのだと、苦笑い共に理解した。

 対してきららは素直な笑みを絶やさぬまま上の空で考えており、綺麗な茶髪を垂らしながら白くスベスベな頬に人差し指を着けていた。

「ん~……やっぱり、規則正しい生活かにゃあ。ちゃんとした時間に食事と睡眠を摂って……ときには、エステにも通ったりするけどにゃあ……」

「えぇ!? きららちゃん先輩、エステ行ってるんですか!?」

 あまりに驚いてしまい席を立ったメイは大声を響かせ、すぐに自前のメモ帳に『規則正しい生活+エステ』と書き記していた。規則正しい生活はもちろんだが、メイが一番気にしているのは恐らく自身の低身長のことだろう。エステに行ったとしても、彼女の小学生のような可愛らしい身長が伸びることはないと思うのだが。

 番記者の如く張り切ってメモを録るメイが少し心配になったが、きららからのアドバイスを書く彼女の直向きさを止めたくはないと思い、ここは黙って娘を見つめるような視線を送ることにした。

 ともあれ、どうやらきららとメイは仲良くやっているようだ。もともと明るい性格の二人だから、きっとタイプが合って居心地が良いのだろう。

 メイのマシンガン質問が止まらず、それに対してきららが次々に答えていくなか、菫は安心して目を離して、今度は反対側の凛と美鈴の二人に目を向けた。だがこちらのサイドはうって代わり、同い年の二人は口が開かない様子だった。

「……」

 無表情の凛から見つめられている美鈴は手が止まってしまい、強張った顔を見せていた。

「……あの、そんなじっと見られても……食べずらいっす……」

「……ゴメン……」

「いや、べ、別に謝らなくても……」

 ギクシャクしたやり取りが否めない二人だが、菫にとっては、この二人も似たような一面があることを知っている。美鈴は先輩である唯の、凛は昔からの仲である自分の、それぞれのそばで常にいてくれることから、二人は性格の悪い女の子ではない。それぞれの心には相手への確かな愛を秘めており、それは決してバカにしてはいけない真心である。今はこんな感じだが、同学年で似た者同士の二人がいつか仲良くなってもらえればいい。

 凛と美鈴の環境に心残りがあるなか、菫は親友である凛を信じて目を背けて、ついに目の前で黙々とカレーライスを口に運ぶ唯へと移した。まずはどんな話題を振ろうかと悩んでいたが、菫は再びよしっと勇気の呪文を唱えて喉を鳴らす。

「牛島先輩って、中学校どこだったんですか?」

 菫は微笑みを向けて質問を投げたが、唯は顔を向けず食べ続けながら解答する。

「オレは、四中……」

「えっ? 四中って、笹浦四中ですか!?」

「そうだけど……」

「そ、そうなんですか! あたしも同じですよ」

 早くも唯と小さな共通点を見つけることができた。

 菫は嬉しい思いが募り、素直に笑うことができていた。

「四中って、結構厳しい先生ばかりでしたよね。あたしの担任なんか、授業中ウトウトしてる生徒見つけたら机蹴る人だったんで、すっごく恐い先生でした」

「そうだったな……」

 菫は苦笑いで頭を掻きながら話したが、唯はいっこうに目を会わせずにサラダを小皿に盛っていた。あまり唯からの応答が返って来ないのが気がかりだったが、菫は諦めずに続ける。

「でも、みんな生徒のために必死で、いい人ばかりでした。卒業式の日に担任の先生へ、生徒みんなで歌をプレゼントしたら、先生ったら大泣きしちゃいまして。親たちの前で最後のホームルームだったなのに、まともに話せなくなっちゃったんですよね」

「そっか……」

 再度一言でかたずけてしまう冷たさを示す唯だが、ふと菫は自分のことしか話していないことに気づいて、今度は逆にこちらから聞いてみようと考える。

「ち、ちなみに、牛島先輩の担任だった先生って、一体誰だったんですか?」

「覚えてねぇ……」

「そ、そうですか……」

 サラダを口にする唯の一言で、菫は言葉が止まってしまい眉間に皺を寄せていた。もしかしたら、学校の話題は嫌だったのだろうか。微笑みを消した菫はそう思ったが、だったら今度は学校以外のことを聞いてみようと前向きに捉える。

「牛島先輩は、好きなこととか趣味とかございますか?」

「特にねぇな~……今は家事で忙しいからよ……」

「家事、ですか?」

 カレーライスをもう少しで食べ終わりそうな唯が口をモゴモゴとしているなか、菫は再び先輩である彼女との共通点を見つけて瞳を輝かせていた。


「牛島先輩! 家事するんですね!」


 先ほどのメイと同じように、菫は嬉しさのあまり立ち上がってしまい唯を驚かせていた。なぜならそれは、思いもしなかった大きな共通点であり、自分にとっては欠かせぬ大切な習慣だからである。

「えっ? あぁ、まぁ……」

 スプーンを口に加えたまま固まった唯とやっと目を会わせることができ、更に頬を緩めながらニッコリと笑っていた。



『牛島先輩も、あたしみたいに、家族のためにするんだなぁ』



 五人姉妹兄弟で七人家族の長女である菫にとっては、家事という言葉をこよなく好んでいた。弟妹(ていまい)たちの世話を始め、家の掃除や買い出し、食事作りや洗濯など、正直言えば面倒事がたくさんあるのが家事である。特に学生にとっては多くの時間が割かれてしまい、非常に忙しい日常を強いられることだろう。しかし、そこには家族に対する大きな愛が必然的に生まれるもので、家族を愛し大切にする菫にとって、家事とは欠かせない日課であり自分自身を表す存在意義とも呼べるものだ。

 そんな願ってもいなかった期待を叶えることができた菫はたいそう快い気持ちであり、驚きで目を開く唯に満面の笑みを放っていた。

「実はあたしも毎日、家事をやってます!」

「そ、そうか」

「はい! 家事ってたいへんですけど、チビたちのため、親のためだと思ったら、やった甲斐があったって感じていいですよね!」

「そ、そうだ、な」

 さっきまで冷徹染みていた唯の表情には頬の明るみが戻っており、それを確認できた菫は喜ばしくて仕方なかった。

「牛島先輩は料理もするんですか!?」

「あぁ……御袋がパートで忙しいから、オレが作ってるんだけど」

「そうなんですか! 得意料理とかはあるんですか!?」

「さ、最近覚えた、肉じゃが、かな?」

「本当ですか!? それ、あたしも得意です!」

 困った表情で受け答えする唯だが、菫はテンションが上がる一方であり、もはや立っていることも忘れながら大きな声を出していた。

 もう一つのテーブルでは夏蓮を中心とした先輩たちが和気あいあいと話で盛り上がっているなか、菫は隣でメイときららのオシャレトークにも負けず、戸惑っている様子の唯に眩しい笑顔を見せていた。

「牛島先輩が家事が得意だったなんて、あたし知らなかったです! 今度、いろいろ教えてくださいね!」

「いや、オレは最近始めた身だから……ずっとやってそうな東條の方が、よっぽど賢いと思うけど?」

 ポニーテールをフワリと動かす後輩に困り顔で呟く唯だが、菫は首を左右に振って更にまとまった黒髪を揺らしていた。

「牛島先輩なら、あたしの知らないことだって知ってると思います! だから今度、時間があるときにでも勉強させてください!」

「オレはお前の講師かよ……?」

 唯の小さな突っ込みも無力となり、菫は今日一番の笑顔を見せて歓喜していた。こんなことになるとは思いもしていなかった。まさか、先輩とこんなに素晴らしい共通点があったとは。自分としてはすでに近づいていると感じているが、これで心の距離がもっと縮まれば最高だ。

 近づくだけに(とど)まらず、寧ろ寄り添いたいぐらいまでの心持ちとなった菫は未だにカレーライスに手を着けず、唯に対して何度もそうなんですか! と感心していた。

「そんな、嬉しいことか?」

「はい! だって、牛島先輩とあたしの共通点ですし、それに牛島先輩がスゴくいい人だってわかりますし!」

「ど、どこが、いい人なんだよ?」

「だって、先輩は……」

 大声で叫ばれるのに恥ずかしさを覚えたせいか、唯の顔は徐々に赤く染まっていたが、菫は太陽のような微笑みを消さぬまま続けてしまう。




「……家事をするってことは、お母さんのこと、お父さんのことも、大切にしてるってことですもん!」

「――!?」




 菫が言い切った刹那、唯は突然表情を氷付かせてしまい、黙りながらゆっくりと俯く。



「――おい、バカッ!?」

「――スミスぅ!?」



「え……?」

 すると唯の隣にいた美鈴から、メイとの話で盛り上がっていたきららからも怒号を浴びせられてしまう。美鈴からは怒った顔を、会話から突如離れたきららからは悲壮な顔を向けられたが、正直菫にはわからなかった。どうして、唯が突然暗くなってしまったのか。どうして、美鈴ときららがこんなにも嫌悪を示しているのか。



『あたし、何かいけないこと、言っちゃったってこと……?』




「東條……?」

「は、はい?」

 茫然と立ち竦んでいるなか、下を向いたままの唯から囁かれた菫は僅かに声を鳴らすと、目の前の先輩は静かに最後の一口をスプーンに載せる。

「篠原がせっかく作ったカレー、早く食べねぇと冷めちまうぜ……?」

「は、はい……」

 陰鬱な表情となってしまった唯からは目を向けられず、菫は静かにテーブルの椅子へと着席した。最初は、うるせぇとか黙ってろとか、強めの口調で怒鳴られるのかと思っていたのだが。

 身体全体から力が抜け落ちたが、何とか手だけを動かしてスプーンを握り、湯気が消えてしまったカレーライスに目を置く。隣でメイときららによるオシャレトークが再開して場に音が戻っていたが、この気まずい雰囲気を感じられずにはいられなかった。


「ゴチになります。美鈴、きらら、オレは先に出るからな?」

 嫌な空気が流れ出してからすぐに、前方の唯が一拝すると、菫は再び彼女のことを気になって見つめていた。もう行ってしまうのだろうか。それにまだ、次の勉強会までの時間が一時間以上あるのに、どこか出かけるつもりなのだろうか。

 不思議な思いに駆られる菫は黙りながら、前で立ち上がった唯の、左右にそれぞれ顔を向ける姿が目に映る。

「は、はいっす!! うちも、もう食べ終わります!!」

 すると美鈴はすぐに皿とスプーンを力強く握り、掻きこむようにして口に入れていく。

「残念にゃあ~。もっとメイシーとオシャトークしたかったんだけどにゃあ~」

「きららちゃん先輩! またお話聞かせてくださいね!」

 仕方なさそうにため息をつくきららはすでにカレーライスを食べ終わっており、メイからは笑顔で立ち上がる姿を見送られていた。

 ものすごいスピードで口に運んだ美鈴も食べ終わると、唯グループ三人はそれぞれのカレー皿とサラダを載せていた小皿を重ね持って、いっしょに並んでテーブルから立ち去っていく。

 まだ話し足りない思いの菫は三人の並ぶ背中を見続けていると、唯たちは夏蓮たちと同じテーブルに居座るマネージャーの柚月のもとに訪れていた。

「お、篠原、結構美味しかったぞ。皿、どこで洗ったらいい?」

「いや、水に浸けておいてもらえればいいわ。先生に洗わせるから。てか牛島さん、三人でどっか行くの?」

「ちょっと、そこの薬局に行ってくる。勉強会までには、ちゃんと帰ってくるからよ」

「あ、そう……わかったわ。時間厳守で、ね?」

「おぅ……」

 後ろから眺めていた菫には、唯の表情を直には見ることができなかったが、少なくとも会話の最後では、彼女の声のトーンは明るみを帯びていたのがわかる。どうやら、八つ当たりするほど機嫌を損ねていないようだ。

 ついに家庭科調理室から唯たちの姿が消えてしまい、それらを最後まで見送った菫は眉をハの字にしながら、三人が出ていった教室のドアを黙って眺めていた。

「菫、どうかしましたかぁ?」

 ふと後方からメイの明るい声が聞こえ、菫は目を覚ましたかのように我に返る。

「ううん、ごめんごめん! わたしたちも、早く食べなきゃだよね!」

 苦笑いを浮かべながらメイと凛にそれぞれ視線を送っていたが、メイからは少し雲がかった表情を向けられる。

「菫、まだ全然手をつけてないですね? 顔色も悪いですけど、大丈夫ですか?」

「ぜ、全然! あたしはこの通り、元気だよ!」

「そうですか? なら、いいんですけど……じゃあ、ワタクシはもう一杯おかわりしてきますね!」

 すぐに笑顔に戻ったメイは急に席から皿を持って離れ、再び咲が君臨している炊飯器の場へと駆けていった。メイの様子を見る限り、彼女には嫌な空気になっていたことは気づかれていないようだ。

 折角いっしょにご飯を食べているメイに嫌な思いをさせていたらどうしようと、一人悩んでいた菫は安心することができ、地毛である金髪を可愛らしく揺らしながらご飯を装う彼女を、遠くからホッとしながら見つめていた。




「――気にするとこ、そこじゃないよ……」




 再び背後から静かな声で囁かれた菫は振り返ると、すぐに凛と目が会わされる。彼女の優しく穏やかな瞳からも言葉通りの励ましをされているようだった。

「凛……ごめん。嫌な思い、させちゃったよね……?」

 顔を下に向けた菫はやはりと思いながら落ち込んでしまう。メイは聞いていなかったようだが、自分と唯のやり取りが、隣の凛に聞こえない訳がない。凛には相当嫌な食事会に参加させてしまった気がする。

 菫は俯いた姿勢を()めなかったが、凛の小さな顎が左右に揺られていることだけが目に入る。

「わたしは気にしてないよ。きっと先輩には、触れて欲しくない、何かがあったんだよ。誰にだって触れられたくないものがあるのは、わたしもあるし、菫だって知ってるはずだよ? だから、菫が気にしなきゃいけないのは雰囲気じゃなくて、牛島先輩の心だよ?」

 ゆっくりとした優しい口調で言い聞かせてくる凛だが、菫は顔を上げることができず肩を落としたままだった。

「だとしても、あたしは牛島先輩を傷つけたかもしれない。それって、罪だよね……」

「やり直すことができるのが、ミスや罪の大切な部分だよ。だから、そんな顔しないで……?」

 柔らかな問いかけに、菫はわずかに視線を上げて目を会わせることができた。

「ありがと、凛。それと、ごめん……」

「まだ表情固いけど、許してあげる……」

 静まってしまった一つのテーブルでは、二人の女子高生による小さくか弱い会話に幕を閉じた。善かれと思って発言したことで、相手の心を傷つけてしまうことがこんなにも辛いものだと、菫は今日改めて学んでしまったのだっだ。

 おかわりのために席を離れていたメイも戻ってきて、テーブルは一年生三人組が占領する形となった訳だが、菫の表情には明るさが戻らぬままだった。




『――嫌われちゃったかな……あたし……』




 やっとスプーンを持ち始めて、柚月お手製のカレーライスを一口食べた菫だが、見た目通り温度は生ぬるいものとなっていた。しかしそれ以上に、菫自身の心には氷のような冷たい何かを感じており、このくらいの冷めたカレーライスなど気にもならなかった。



 

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