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プレイッ!!◇笹浦二高女子ソフトボール部の物語◆  作者: 田村優覬
二回◇すれ違いからの因縁へ――vs釘裂(くぎざけ)高校◆
82/118

シャワールームの温度

本日の練習を終えた笹浦二高女子ソフトボール部は、勉強会を前にシャワーを浴びていた。

すると女子用では、凛の身に危険が迫っていると感じたメイが叫んで助けようとしており、落ち着かない空間となっていた。

また一方で、男子用のシャワールームでは唯たち三人が利用していたが、そこでは女子用とはまた別の空気が流れていた。



 笹浦第二高等学校に設立されたシャワールームはもちろん男女で別れており、体育館の一階に存在する。普段では館内練習をメインとする部活動の生徒たちが使用するもので、中に入れるとまずは着替え室が見えてくる。広さは約八畳ほどの湿り気に包まれた空間で、着替えを仕舞う篭が置かれた棚と、その隣には掃除器具が入った灰色のロッカーが立っている。そして更に奥へと伝うドアを開ければそこがシャワールームであり、それぞれ一人だけが入ることができる個室が十室ほど設備されている。そこでは、本日の練習でかいた汗を流して清潔さを保つことを始め、今日の自分自身と向き合ってこれからどうしようかと、心の悩みを暖かなシャワーで解かしてくれることもできる。特に男子と比べて女子率が高い笹浦二高では、女子シャワールームは毎日のように扱われており、その中にある換気扇から外へと向かう湯気が途絶えたことがないほど利用されている。

 そして本日はゴールデンウィークの二節目の初日。生徒がいないはずの校内でも、シャワールームは今日も稼働していた。

 外で降っている雨は徐々に弱まってきているなか、笹浦二高女子ソフトボール部員たちがそれぞれの個室に入って利用していた。

 入って奥の方では二年生である清水(しみず)夏蓮(かれん)舞園(まいぞの)(あずさ)篠原(しのはら)柚月(ゆづき)も含めて中島(なかじま)(えみ)、そして月島(つきしま)叶恵(かなえ)ら五人が隣り合わせで身体を洗いながら賑やかに会話をしている。

 また間二部屋を開けて、一年生の三人も同じようにシャワーを浴びており、一人の少女は蛇口を(ひね)る。

「やったぁー!!シャワーですよ!日本のシャワーですよ!!ヒャッハァー!!」

「子どもみたいにはしゃがないで……」

 シャワールームの一番手前にある個室からメイ・C・アルファードは高らかな歓喜が上げると、その隣の個室でシャワーを浴びている菱川(ひしかわ)(りん)から、氷のように冷たい突っ込みを送られてしまう。

「だってぇ~気持ちいんですもん!!九死に一生を得るとは、(まさ)しくこのことですね!!」

「あなたは割りと平気だった方じゃない……?」

 凛からは簡単に言い返されてしまったメイだが、本日の練習内容はそれなりに大変なものだと感じていた。アメリカの小学校は五年間で中学校は三年間、そして高校が四年間のカリキュラムとなる地域で育ったメイは、始業式が秋から始まるため高校一年生を半年間過ごした訳だが、その半年の間と比べても日本の練習内容は目新しい日々である。毎日のように長々とした時間を部活動に時間に割くことは、アメリカにはない一つの文化であると思われた。

 アメリカでの高校生が行うスポーツ活動は精々長くやっても、クラブの仲間たちと行う全体練習は午前中のみの半日練習が基本で、その後の内容は個人練習や学校の勉強などに確保できる、言わば自由時間に値するのだ。

 また日本とアメリカの大きな違いは、スポーツの大会制度にもあることを忘れてはいけない。

 日本では主に夏の全国予選大会―インターハイ予選―を最後にして引退する部員が多く存在している。一日でも長く部活をやるためには無論勝利してトーナメントを上っていくことが求められ、競争心を煽られる残酷な仕組みとなっている。そんな窮地に立たされている部員たちはそのたった一つの大会に備えるために、一年間ほとんど休まず一つの種目に固執して取り組む習慣があるのだ。一見バカバカしくも思えるだろうが、その努力の先には汗を流した分だけの感動が待っているもので、決して侮ってはいけないドラマチックな一面を用意されてるのである。

 一方でアメリカの場合は、部員というよりも生徒と言った方が適切かもしれない。生徒のスポーツ活動は通年で考えると、日本と違ってシーズン制度を採っているアメリカでは様々な種目に触れられるシステムとなっている。例えば、秋の季節では野球や陸上にサッカー、冬であればバスケットボール、春になれば水泳やゴルフなど、夏の季節は休校であるため、この三つのシーズンに分けられて季節ごとのスポーツに参加するすることができる。要するに、一人の生徒が一年間で様々なスポーツに触れて楽しむことができる構造となっているのだ。

 それぞれ特定された季節で種目を選ぶことができるのだが、そのシーズンを過ぎてしまうと来年まで活動はしないのが現状で、日本のように一つの種目を通年でやることはほとんどない。よくアメリカ出身のプロアスリート選手は学生時代、様々なスポーツ業界から声を掛けられたという話があり、一人の選手に対して複数のドラフトがかかるのが主流なのだ。

 そんなアメリカと日本の違いを、この小さな身体で体験してきたメイは慣れない環境のなか一生懸命だった。今ごろアメリカにいれば、背が小さくても活躍できそうな水泳をやっているだろうと思うときが多々あるが、大好きなソフトボールをこうしていつも行うことに(わだかま)りは全くない。寧ろもっと長く、ずっとソフトボールをやりたいという思いが強く、日本に来てからの毎日が楽しくて仕方ないのが本音だった。

「やっぱり、ソフトボールはサイコーですッ!!」

 身体での泡をシャワーで落としているメイが嬉しそうに叫ぶと、その声は隣で髪の毛を洗う凛にもしっかり聞こえていた。

「いきなりどうしたの?」

「楽しいことを素直に楽しいって言っただけですよ!!そういえば、凛はどうしてソフトボールをやろうと思ったのですか?」

 シャワールームのそれぞれの個室を隔てる壁に、メイと凛は顔を向けながら会話のキャッチボールを開始する。

「わたしは、(すみれ)がいるから……一人だったら絶対にやっていないと思う」

「なるほど!!これぞ愛の形ですね~」

「バカにしてる?」

「いえいえ~、ニッヒヒィ~」

「絶対してる……」

 メイの怪しい笑みは凛へとしっかり届いてしまい、隣の彼女をムッとした顔をさせていた。菫と凛が共に入部したことは、彼女たちと同じタイミングで入った自分も知っている。当初から二人はいつも隣同士でいることがほとんどで、まるで姉妹や家族のようにも見えてしまうほど仲の良さが見受けられる。


 ―そんな菫と凛が、とても羨ましい―


 下を向きながらシャワーを頭に浴びせるメイは少しの間黙っていると、再び笑顔を上げて凛へと言葉を投げる。

「ねぇ凛!?どうしてと同じ個室に入らなかったのですか!?」

「え?だって、一人用だもの」

 凛からは不思議に思う返答を受けたが、メイは相変わらずニッコリと笑いながらシャンプーを手のひらに載せて泡を立てる。

「二人はいつもいっしょだから、シャワーもいっしょだと思ったんですけどね!」

 決して嫉妬心など持たない明るい声を放ったメイは自身の地毛である金髪に泡を載せていくと、シャンプーを洗い流した凛を少し微笑えますことができた。

「それは以前の話だよ。確か小学生のときに、水がある場所には幽霊が出るってテレビで言ってたときがあってね。それからしばらくは、いっしょに入っていたよ……」

 彼女の小さく優しい声を聞き届けたメイには、凛がたいへん嬉しい思いであるのだと感じていた。二人は小学生のときからずっと仲良しなのだろう。それは今でも続いており、周囲を驚かすほど密接な関係になっている気がする。

「そうなんですか!?じゃあ、今はもう平気なんですか!?」

 大量の泡で金髪を固めたメイはさらにテンションを上げて叫ぶと、自身の短めの髪の毛をタオルで拭う凛は静かに頷く。

「だって、菫は立派なお姉ち……」


 バン!!バン!!ガチャ!!

「きゃ……」


 刹那、凛の声は途中で止められてしまった。

 ドアを開ける音が二回続いた後に施錠する音が聞こえたメイは、最後に凛の悲鳴らしきか細い声が耳に入ってしまい驚く。

「り、凛!?どうしたのですか!?大丈夫なのですか!?」

 持っていたシャワーを床に落としたメイは必死のまま、隣に凛がいる個室の壁を何度も叩いていた。一体どうしたのだろうか。

 しかし凛からの応答が全く返ってこなく、より心配になったメイは壁に耳を当てて様子を伺っていた。

「……」

 僅かながら、凛の声ではない(うめ)き声が聴こえる。もしかしたら、誰かが侵入してきたのだろうか。だとすれば……


『……凛が、危ない!!』


 バン!!


 自分の低身長では壁をよじ登ることができないと判断したメイはすぐに自室のドア開け、大きなバスタオルを纏いながら凛の個室の前に立つ。

「あ、あれ!?開かない……」

 ドアの部を何度も(ひね)ってみるが、どうやら内側から施錠されてるようで開けることができない。

 一度舌打ちを起こして悔しさを表すメイは頭を床に着けて、個室のドアと床の間から中の様子を伺おうとした。シャワールームはトイレのドアのように少し浮いていることから、足元だけなら観察できる。

 目を尖らせて真剣な顔のまま覗きこんだメイだったが、嫌な予感が当たってしまい息を飲む。

「足が、四本ある……」

 メイに見えてしまったのは、恐らくは凛のものであるか細い足が二本と、そのすぐそばには凛の足と比べて一回り大きな別の足が二本床に着いていた。このままでは、凛が襲われてしまう。

「凛!!待っててください!!今すぐに助けますから!!」

 メイの緊急事態を表す声は辺りに響き渡ると、彼女は目の前のドアから少し後退りをして身構える。鍵を閉められたのならば体当たりをしてこじ開ければ良いという、アメリカのポリスドラマを観たことがあるメイは正に今がその時だと確信し、次の瞬間ドアへと走り出して体当たりをかます。

「ウギャッ!!」

 しかしながら、身体が小さいメイは簡単に跳ね返されて床へと倒れ込んでしまい、閉ざされたドアをびくともさせることができなかった。


「め、メイちゃん!?どうしたの!?」

「あ、夏蓮ちゃん先輩!!」


 倒れてしまったメイのもとに、キャプテンの夏蓮がバスタオルを巻きながら心配そうに訪れると、続けて梓や柚月も個室の扉を開ける。

「どうしたの?」

「ずいぶんと騒がしいわね?」

 身体にバスタオルを巻く梓と柚月は長い髪の毛をまとめるタオルも頭に巻きながら、不審な顔つきで現れると、遅れて咲と叶恵も退出して姿を現す。

「なになに~!?アタシも参加したい!!」

「どう見ても楽しい空気じゃないでしょうが?てかアンタ!タオル巻きなさいよ!!」

 どこか愉快な一面を見せる咲に対して、怒号をぶつけた叶恵は急いで頭に巻いていた長いタオルを外して、すぐに咲の身体を隠すようにしていた。

 咲の能天気さでシャワールームに明るみが増しそうだったが、メイはそれどころではなく悲愴な表情を続けていた。

「た、たいへんなんです!!凛が、凛がエマージェンシーなんです!!」

「え!?凛ちゃんが危険なの!?」

 夏蓮にも危機感が乗り移ったところで、二人は凛が入っている個室のドアに視線を送る。

 他の二年生たちも視線を一致させると、メイは再び立ち上がってドアの前で構える。

「凛!!絶対に助けますからね!!」

 声を大にして叫んだメイは再び扉に突き進んでいくが、案の定容易く跳ね返されてしまい倒れ込む。

「メイちゃん!!大丈夫!?」

 突然の緊急事態に落ち着かない様子の夏蓮は、仰向けに倒れた少女を起こすようにして支えていると、メイは悔しさを全面に出しながら閉ざされたドアを睨んでいた。どうやら、自分の力ではこの扉をこじ開けることはできないようだ。どうして身体が小さいことで、こんなにもハンデを負わなくてはいけないのだろうか。神様は残酷な御方だ。

 自身の無力さを痛感しているメイは再度舌打ちをすると、自分よりも遥かに大きく見える二年生たちへと顔を向ける。

「誰か、お力を貸してください!!凛のためにも、お願いです!!」

 凛を助けるために。

 ただそれだけを思いながら嘆願するメイだった。

 しかし、どうも夏蓮を除く二年生たちが落ち着いている様子でいることに、メイは驚きながら疑問を沸き起こさせる。みんなはどうして、こんな事態のなか平気な顔をしていられるのか。

「み、みなさん!?聞いてますか!?凛が危ないんですよ!?」

「そ、そうだよみんな!!早く助けなきゃ!!」

 メイに続いて夏蓮も必死な表情で叫んでいたが、まず初めに叶恵から呆れたようなため息を漏らされてしまう。

「バカバカしい。(アタシ)はもう出るから。アンタたちのお遊びには付き合ってらんないわ」

 すると叶恵はシャワールームの出口へと歩き始めてしまい、着替え室へと真っ直ぐ向かっていく。

「か、叶恵ちゃん先輩!どうしてですか!?アナタは慈愛の心を持っていないのですか!?」

 叶恵の小さな背中に叫ぶメイだったが、それは無駄に終わってしまい彼女の姿はシャワールームから消えてしまった。

 なんて酷い先輩なんだとメイは思っていると、叶恵をきっかけに次々と二年生たちが動き出す。

「叶恵の言う通りね。ほら、梓も行くわよ?」

「あ、待ってよ柚月」

 あっけらかんとした様子で柚月と梓も出口へと向かってしまい、メイはまるで見捨てられた気持ちにすらなりかけていた。

「そんなぁ……柚月ちゃん先輩に梓ちゃん先輩まで……」

 先輩たちを尊敬している分、失望感を強く感じてしまうメイは今にも泣き出しそうな顔をしながら梓たちの見えなくなった出口を眺めており、サファイアの瞳を潤ませていた。

「はぁ~なるほどねぇ。やっとわかった」

 ふと呟いた咲もこの場から立ち去ろうとしていたが、メイは直ぐ様起き上がって彼女の退出をくい止める。

「め、メイちゃん?」

「咲ちゃん先輩!!もうアナタだけが頼りです!!どうか凛を助けてください!!」

「そうだよ咲ちゃん!!」

 メイの嘆きに困った顔をしていた咲は、追い討ちをかけるように今度は夏蓮からも嘆願されてしまい、より一層の困惑を表情に出していた。

(わたし)は力がないから無理だけど、咲ちゃんならドアを開けられるはず!!だからお願い!!」

「お願いします!!」

 夏蓮の後にメイも頭を下げており、力がある咲に心からお願いを申し上げていた。きっと咲先輩なら大丈夫だと信じながら、最後に両手のひらを合わせていた。

 だが、キャプテンと共に二人の合掌を見せたメイは顔を上げると、咲が叶恵から渡されたタオルを抱きながらウンザリとした様子が伺われてしまい、嫌な予感が脳裏に浮かぶ。もしかして、咲先輩も助けてくれないのか。後輩である自分たちを簡単に見捨ててしまう非人道的な人間なのか。

 クールジャパンとはこういうことなのかとも感じていたメイは徐々に不信感が募るなか、戸惑いながら咲を眺めていた。

 すると咲はタオルを抱いていない片腕をゆっくりと上げていき、とある方向へと指を差す。

「だって、あれ見ればわかるじゃん!」

 あの咲からすらも呆れた表情を見せられたメイと夏蓮は、彼女に差された方向へとすぐに顔を向ける。するとそこは凛の隣である個室の扉が半開きとなっており、中には誰もいない様子が見てわかる。

「あそこは、確か……」

 ……ガチャ

 少し落ち着きを取り戻したメイが呟こうとした刹那、施錠された扉が開けられる音がした。どうやら凛がいるドアからの音のようだと思って振り返り、メイは固唾を飲んで見守っていると、徐々に開けられていくドアの後ろからは平然としながら立つ凛と、彼女に後ろから抱きついているもう一人の女子が、いっしょにタオルで巻かれている姿を捉える。

「え!?」

「ねぇ?」

 早速驚いた夏蓮に咲が後押しすると、メイも緊張から解かれて僅かに喉を鳴らす。


「す、菫……?」


 力が一気に抜けてしまったメイに見えたのは、小さな凛にしがみつきながら強く目を閉じて震えている、凛のお姉さん的存在でもある東條(とうじょう)(すみれ)だった。

「なんかゴメンなさい……突然菫が入り込んできて……」

 苦笑いを見せる凛から申し訳なさそうな言葉が返ってくると、メイは珍しく彼女に冷たい視線を送っていた。凛の話からすると、恐らく菫が自室から突如飛び出して中に侵入してきたのだろう。いくらなんでも、親友である相手がいきなり入ってきたら、それは驚くのも無理はない。

「……どうして、菫は入り込んできたのですか……?」

 目を細めたメイはどこか怯えているようにも見える菫に問うと、彼女から強張った表情を向けられる。

「だって、凛がオバケの話するから」

「はぁ?」

 つい声を鳴らしたメイだったが、思い返せば凛とそのような内容を話していたことを思い出す。

「あぁ~、水がある場所に……」

「……やめて!!言わないで!!」

 あっという間に菫によって言葉尻を被せられたメイは黙ってしまい、恐怖している彼女をジーっと見ていた。自分はてっきり凛が不審者にでも遭遇したのかと思っていたが、まさか菫がその正体だとは思っていなかった。彼女がオバケ嫌いなことはついこの前のミーティングで知ったが、まさかこんなときにも発揮されてしまうとは。

「ほら、菫?まだ髪の毛洗ってないんでしょ?早くシャンプーしなきゃ」

 背後から強く抱き締められている凛は首を曲げて囁くが、菫は苦い顔を左右に振る。

「もう一人は嫌だよ~。凛、洗って?」

「えぇ?」

「お願いだからさぁ……」

 恐怖を全面に出しながらなかなか離れてくれない菫に、凛は困り果てた表情でため息を漏らしていた。

「わかったから、とりあえず一回離れて?」

「どこかに行ったりしない?おいてけぼりにしない?」

「大丈夫、大丈夫だから……」

 さすがの凛も呆れている様子が伺えるなか、怯える菫はやっと小さな彼女を解放すると背を向けて踞る。このまま頭を洗ってくれというサインなのであろうが、やはり一人では無理のようだ。

 そんな後輩たちが可愛らしく見えた咲は笑顔で立ち去り、凛が危険に遭遇していなかったことへ安堵のため息をつくキャプテンの夏蓮もシャワールームの出口に向かい始め、ついにこの空間には一年生の三人だけが取り残される形となってしまう。

 菫の頭にシャワーを掛ける凛からも背を向けられたメイは静かに黙り、仲良しで羨ましいとさえ思えた二人に冷たい視線を送っていた。さっきまでの自分の努力は一体何だったのであろうか。変に扉を破壊しないで済んで本当に良かった。

 同じ一年生である菫は自分や凛、そして星川(ほしかわ)美鈴(みすず)よりも一回り大きな背をしていて、いつも優しく面倒見の良いお姉ちゃんのように感じていた。しかし今だけは、彼女の姿は部内で最低身長選手権優勝候補である自分よりも遥かに小さく見えていた。



 ◇◇◇



 女子シャワールームの騒動が落ち着く頃、壁を隔てた反対側には男子用のシャワールームも併設されている。女子の部屋と比べて少し暗くも見える男子用でも個室は十部屋とあり、同じ収容人数であることが見てとれる。この男子用ではあまり使用されていないことが日常的で、清掃員として勤務する労働者にとっては簡単な掃除で済む極楽スポットとも呼ばれているほどだ。

 しかし、男子生徒など一人も学校にいない雨天の本日、男子シャワールームは久しぶりの湯水がきれいな床を流れていた。笹浦二高女子ソフトボール部の選手たちがシャワーを浴びていたのはこちらの男子側でも同じで、十部屋中三部屋の個室の扉が続けて閉められている。

 すると、閉ざされていたドアの一つが開けられると、普段は髪の毛を短いツインテールでまとめている美鈴が、今は濡れた髪の毛を下ろした状態で出現する。自身を簡単に巻くバスタオルを纏いながら、どこか焦っている表情を浮かべる彼女はすぐに隣にある個室の扉前で立ち止まり、足踏みをしながら声を鳴らす。

「あ、あのぉ~(ゆい)先輩?」

「ん?」

 個室の中からはシャワーが床を叩く音と、現在その部屋で利用している牛島(うしじま)(ゆい)の声が鳴らされる。

 突然どうしたのだろうと、頭にシャワーを浴びながら振り返る唯は扉越しで美鈴の方へと向くと、ドアの下から見える彼女の小さな足から忙しない様子が伺えた。

「美鈴、どうした?」

「その、ちょっと……トイレ行きたくなっちゃったんで、先に上がってるっす!!」

 最後には声を大にしてしまった美鈴の足元は、唯の前から姿を颯爽と消えてしまうと、彼女が出口に向かっていったのがわかる。

「美鈴!?こんなところで走んなよ!あぶねぇぞ!?」

「きっと、おしっこしたくなっちゃったんだにゃあ。ミスズンはやっぱりかわいい女の子にゃあ」

 扉は開けていなかったが、唯はトイレへと猛ダッシュしていく彼女に注意を促すと、美鈴とは反対側である隣の部屋から植本(うえもと)きららの高らかな声が鳴らされた。

「ったく……転んだりしたらどうすんだよ……」

 美鈴の慌てぶりが見なくても実感した唯はため息をついて呆れていた。ただでさえ湿り気を含む床で危険だというのに、何とも危なっかしい。それに、わざわざ自分に報告しなくても良いのに。あの様子だと、自分に気を遣っていたのか我慢していたのだろう。だが、その美鈴の律儀な態度にはいつも好感を持てるのが本音だ。

 大切な後輩である美鈴を思いながら、ふと頬を緩ませた唯はシャワーの蛇口を捻って停めると、そばにある小さなタオルで長い髪の毛の水分を拭き取っていた。

「唯?さっき、メイシーの声が聞こえてたけど、何だと思うにゃあ?」

「さあ……どうせお遊びだろ?大したことないんじゃないか?」

 あくまで自分は気にしていないと発言した唯ではあったが、内心とは反対の言葉だった。

 つい先ほどまで、壁の奥からはメイの叫び声が確かに届いていた。今はどうやら落ち着いたようだが、唯にとってはあまりにも突然のことだったため女子シャワールームに向かおうとした。

 しかし、躊躇(ちゅうちょ)してしまったのだ。

 これでは自分が男子用を利用している意味が無くなってしまうと思ったからだ。折角続けてきた努力が水の泡になって、無音で弾けて静かに消えて無くなる。


『俺は、結構冷たい人間なのかもな……』


 後輩である部員の危険よりも、自分の立場を優先してしまった唯はあっという間に俯き顔になっていた。とりあえずは収まったようで何事もなく済んだのだが、仮にこれが本当に急を要する事件だったらどうしたことだろう。きっと取り返しのつかないものであり、一生後悔するものとなっていたに違いない。

 自分の行いに腹すら立てかけている唯は小さく舌打ちを鳴らすと、頭にタオルを置いたまま固まってしまう。別にこうやってみんなと距離を置いていることも、やりたくてやっている訳ではない。叶うなら、自分だってもっとみんなの近くにいたいという思いがある。しかしこれも、大切な仲間たちのためを思ってやってる行動なのだ。たとえ何を言われようとも、この行いを()めたくはない。いや、()めてはいけないのだ。


『見られる訳にはいかねぇだろ……この姿をよぉ……』


 自分には周囲の一般人には無い、見苦しいものがある。それは周りに嫌な空気をもたらすものであり、公にできるような代物ではない。でもそれは自分の手で握られるものではなく、決して捨てることすらできない、曖昧のくせにはっきりと見えてしまうものだ。


『だからこそ、俺は……』

 ……ガチャ


 唯が重々しく考え込んでいた刹那、ふと彼女の個室扉が開けられる。驚いてすぐに振り返ると、そこには身体に高価なバスタオルを巻いた、艶やかな茶髪を下げるきららが心配そうな表情で立っていた。

「きらら……」

「唯どうかしたの?さっきからずっと声掛けても返事しないから……」

 どうやらきららは、ボーッとしていた自分に話しかけていたらしい。

「あ、ああ、わりいわりい!ちょっと、考え事してたからよ……」

 苦笑いを浮かべながら述べた唯だが最後にはそっぽを向いてしまい、目の前にいる親友のきららと目を会わせることができずにいた。

「唯……もうそろそろ上がろう?」

「そ、そうだな!俺も、髪拭き終わったら上がるよ」

 中学生からの親友であるきららに対して、唯は踵を返して頭のタオルをそのまま押さえつける。できるだけきららの前では悩んでいる自分を見せたくない。そう思いながらタオルを急いで擦り付けていたが、そのときだった。


「ふッ!?」


 ふと、背中から温かな肌の温度を感じた唯は反って、全身に激しい熱が込み上げ始め動きを止めてしまう。赤く火照った頬を抱える強張った顔をゆっくり後ろへと旋回していくとすぐに、きららの瞳を閉じた微笑みが目に入り込んだ。

「き、きらら!?んな、なに……」

「……なに?考え事って……?」

 背後から抱き締められている唯が挙動不審にも発言したが、その言葉尻はきららの小さな囁きで覆われてしまう。 彼女の顔は自分の肩に置かれていたため、より耳に入りやすくなっていたからだろう。

 普段は(やかま)しいほど元気で落ち着きのないきららが、今はまるで別人格となったと思われる一つの個室、突如襲っていた力みと共にいる唯は彼女の質問を耳にして、静かに首をもとに戻して俯く。

「別に、言わなくてもいいじゃねぇか……てか、にゃあの語尾、忘れてんぞ?」

「いいじゃない?今は(わたくし)たち二人だけなのだから……」


 ―それは、久しぶりに聴いたきららの一人称だった。優美で上品な話し方をする彼女自身の、本来の話し方である―


 シャワーの音も無くなったこのシャワールーム、唯の自嘲気味な笑い声は辺りの空気を振動させて、僅かに弱々しくも響かせる。

 再び頬を緩ますことができた唯は、後ろから抱き締め包み込むようにしているきららの華奢な両腕に、自身の両手をそっと置いた。

「美鈴には、その姿見せねぇのかよ……?」

 顔を向けないまま唯は呟くと、背中に彼女の茶髪が何度か当てられることから、きららが首を左右に振っていることが理解できる。

「美鈴さんには、(わたくし)ではなく、きららを見せ続けていきたいの。決して突き放すつもりではないけれど、あの()には知られる必要はないからね……(わたくし)のことよりも、唯のことを気遣ってほしいから……」

「なんだよ、それ……結構冷てぇなぁ……」

 きららの穏やかな話し方に、唯は鼻で笑いながら返答する。気がつけば、ついさっき自分が思っていた言葉を彼女に言ってしまっていた。

 しかし、きららが本当に冷たい人間ではないことは、彼女の本当の姿を知る唯がよく知っている。なぜなら中学二年のとき、きららがこの笹浦市に来て初めて出会った人間は唯―当時は貝塚(かいづか)(ゆい)―であり、彼女が思い遣りのない人間ではなかったら、決して本来の自分自身を隠す真似などする必要がないと理解しているからだ。

 茶髪の美しい女子高校生から確かな温度を感じている唯が彼女の腕を優しく握ると、きららは変わらず目を閉じながら微笑んでいた。

「なあ、きらら……?」

「なに……?」

「昨日は、ごめんな。嫌な思い、させただろ?」

愛華(あいか)さんのこと?」

 ふと小さな瞳を開いたきららに、唯は鮫津(さめづ)愛華(あいか)の名を上げると共に、悲しげで静かに頷いてみせる。

「昔のこと思い出さちまったよな。まさか愛華に会うとは思ってなかったんだ……」

「昔と言っても、つい二三年前のことじゃない?別に(わたくし)は、無理などしてはいないわ……」

「ホントかよ……?」

 きららの安らかな声で唯は自嘲気味に笑ってしまうが、彼女にとってこの二三年は大きく変えたと感じている。いや、変えてしまったと言った方が適切だった。

 きららがこの笹浦市に初めて来たとき、彼女は今のように上品で、一言で言えばお嬢様のような人柄だった。しかしその姿は決して周囲の一般人を引き寄せない、不思議なオーラに包まれた存在でもあったのだ。

 だが、それも無理はない。きららの父親は植本財閥という、世に知れ渡る大企業の社長なのである。そのような社長令嬢ならば、自然と上品で丁寧な話し方なることは唯にだって想像がつく。

 しかし、多くの女性と契りを交わしてきた父親はたくさんの者と結婚してわ、すぐに離婚するという荒くれ者であった。女性は男性にとっての道具に過ぎないと、暗に意味しているような行動を取り続けてきたのである。

 そんな男の(むすめ)であるきららは、心の底から嘆き悲しんでいたのだ。唯と出会ったことで少しは晴れたようにも見えるが、きっとそれは今も変わらず心の中に隠しているに違いない。現在は笹浦二高の女子生徒となった、彼女の奥底に。

「確かに残念よ。愛華さんとも仲良くしたい気持ちはあったし、今なら美鈴さんも含めて四人でいっしょに過ごしたかった……でも、仕方ないわよね。だって、全ては(わたくし)が悪いんですもの……」

 きららの残念がる陰鬱な言葉は、唯の心にまでよく響き渡っていた。

 それは自分も同じ思いだったからである。きららと出会うまでは常に愛華と共に過ごしてきたのだが、それは入れ替わるようにして隣からいなくなっていた。気がつけばそれぞれ別々の高校へと進学することとなり、親友だった彼女がより疎遠な関係になってしまったのだ。

 ふと、唯は自分の肩に温度を保った雫が落ちてきたの感じる。耳を澄まさなくてもきららの吐息が激しくなっていることから、彼女がすぐそばで泣いているとわかると唯は、今度はきららの頭の上に手をそっと置いて微笑んだ。

「お前は悪くねぇだろ?お前は、お前のいたいようにすればいいんだって、あの日に言ったろ?」


 あの日―それは、唯ときららが初めて出会った日。


 全てはあの日から始まり、彼女をより苦しめる劇場の幕が上がってしまったのかもしれない。

 少なくとも唯はそう思っているが、きららは決して苦しんだ顔を出さなかった。いつも元気で、おちゃらけて、そして語尾に『にゃあ』をつけて。

 高校生ながらも大人らしい瞳から涙を溢したきららは、裸の腕で拭うと口を横に伸ばす。

「……ありがとう、唯。やはり貴女(あなた)は、(わたくし)にとって最愛たる存在です……」

「最愛とか、変なこと言うなよ……バカたれ……」

 彼女のゆっくりとした囁きに、唯は再び頬を赤く染めてしまうが、耳元からきららの笑い声が聞こえてくる。

「本当に、唯は優しいよね?」

「な、なんでだよ?」

「だって、自分自身の悩みよりも、(わたくし)のことを気遣ってくれるのだから。いつのまにか、(わたくし)が考え事を言ってるのですもの……」

 きららからよりきつく抱き締められた唯は俯いてしまい、暗い顔をシャワーと涙で濡れた床へと向ける。

「そうだな……俺も愛華のこと、練習中も気にしててさ……だって、昨日の今日だぜ?平気でいられる訳ねぇだろ……」

「ウフフ……」

 ふときららの優美な笑い声を聞かされた唯は不思議に思い、下に向けていた目をきららへと移し返す。

「何か変なこと言ったかよ?」

「ごめんなさい。つい、唯がおかしくて……」

「はぁ?」

 笑い()まないきららのことがより不審に思えた唯は、眉間に皺を寄せて彼女の様子を注視していた。真面目に言ったつもりなのに、一体どこがおかしいと思ったのかわからない。

 すると徐々に呼吸を整えていくきららは一つため息を置いて、自身の顔を唯へ更に近づける。


「違うでしょ?本当はこうやって、みんなと距離を置いていることを気にしてるんでしょ……?」


 目の前で優しく微笑むきららに、図星を突かれた思いになった唯はすぐにそっぽを向いてしまい、無意識に舌打ちを鳴らしてしまう。

「……別に、そんなこと思っちゃ……」

「……嘘よ。(わたくし)にはお見通しよ?何年いっしょにいると思ってるの?」

 きららによって言葉尻を被された唯は一度黙り込んでしまうが、すぐに緊張がほどけたように笑ってしまう。

「いっしょにいるつったって、二三年しかいねぇだろ?」

「二三年も、よ?(わたくし)にとってのこの期間は、今までの生涯の中で一番大切な時間だから。宝物と言っても差し支えないわ」

「宝物は言い過ぎだろ……?」

 小学生のときから転校を繰り返してきたきららを知っている唯は、そんな彼女が笹浦市に住み込んでから早二三年。現在は一等地に建てた豪邸宅に住んでいるが変わらず居てくれて、そして何よりも、きらら自身がここにいたいという思いが伝わってきたのが嬉しかった。


 ―ここにいたい。それは自分もこの笹二ソフト部に対しても同じ思いである―


「俺だってさ、美鈴だけじゃなくて、梓や夏蓮、もちろん他のみんなとも、もっと関わりてぇさ。きららとみてぇに、毎日はしゃいでいきたい。でもよぉ……」

「大丈夫。田村(たむら)先生を含めて、みんなはとても優しい方たちよ、貴女(あなた)のようにね。だからきっと、唯のことを受け入れてくれるわ」

「どうだろうなぁ……」

 僅かな笑みを溢しながら、唯は天井へと顔を上げていた。自分はどのような存在かと尋ねられたら、きっとこう答えるだろう。


『救い用のない動物』


 数々の悪行を起こしてきたこともあるし、それにこの姿は周囲に見せられたものではない。

 でも、自分はとても幸せだ。

 こんな隠し事をする自分自身を、一人の選手として認めてくれる顧問や部員たちがいるから。自分のことを知っていながらもそばにいてくれる美鈴もいるから。そして、自分の全てを知りつくし、肌にまで触れて僅かな温度を分けてくれるきららがいるのだから。

 正直、これでも充分だとは常々思っている。だが、もしも叶うならば……


『俺はもっと、みんなと仲良くしたい……』


 簡単には受け入れてくれないなんて、そんなことは入部したときから想定していたことだ。みんなと仲良くなりたいと思いながら、逆にこちらから距離を置くという、矛盾した行動を起こしている自分は怪しまれても文句は言えない。しかし、それでも自分はここにいたい。ただそれだけを願っている。


「唯?」

「ん?」


 悩ましい顔で考えていた唯を覚ますように、きららは依然抱き締めながら声を鳴らして振り向かす。

「もうそろそろ時間だわ。上がりましょ?」

「そうだな。このままでいると、風邪ひいちまうからな」

 校内では問題生徒として名高い唯だが、今はきららと共に優しさが籠る笑顔を交えることができた。

 バスタオルを巻いた二人はシャワールームから退出し、隣り合いながら着替え室へと向かう。すぐに新しい下着を身に付けて、学校指定のジャージを纏っていった。

「よしっ!次は勉強会だ」

「あれ?これって……」

 両頬を叩いて気合いを入れた唯の直後、きららが何やら不思議がる発言をして指を差していた。

 気になった唯はつられるようにして、きららの指先を辿っていくと、そこには棚に置かれた、持ち込んだ着替えを仕舞うための篭がある。その中身を覗いてみると、そこには黒いヘアゴムが二つ残されていた。

「たぶん、美鈴のじゃないか?あいつ、いつも二つ縛りだし」

「そうかもね。持っていってあげましょう」

 すると微笑むきららは篭から二つのヘアゴムを手に取り、二人いっしょに着替え室か出ようとする。

「きらら?」

「ん?」

 唯はふと立ち止まりきららへと声を投げた。

 きららも少し歩いたあとに立ち止まったところで、向かい合う形となった二人は互いの目を会わせると、まずは唯が微笑みながら口を開ける。


「これからも、よろしくな?」

「うん!もちろんにゃあ!!」

「戻った戻った!」


 二人の愉快な笑い声は着替え室から消えていき、徐々に体育館の出口へと向かっていく。本日の雨天とは関係ない明るさを保ちながら、二人は寄り添いながら歩いており、ついに体育館から姿も消したのだった。



 ◇◇◆



 こうして無音の空間へと変わった着替え室には、もはや誰もいない環境のように思えたが、ふと掃除器具が仕舞ってあるロッカーが内側から開けられる。ゆっくりと開かれたドアの中からは一人の、短めの髪の毛を垂らす小さな女子が姿を現す。まだ湿り気が残っている髪の毛に包まれた小顔はどこか強張ってるように見え、緊張を漂わせる表情をしていた。

 すると、御下げの少女はすぐに退出し、体育館の出口へと目を向けて、遠くなっていく唯ときららの背中を眺め始める。


「さっき、唯先輩の話していたのは、きらら先輩だったの……?」


 校内へと進入していく二人の背中が次第に見えなくなっていく。

 先程、突然の御手洗いから着替え室に戻っていた美鈴は、シャワールームから聞き慣れない声の女性と話していた唯を感じ、邪魔してはいけないと思って隠れていた。きっと自分も知らない唯先輩の友だちだろうと考えていたのだが、まさかその相手がきらら先輩だとは、あの声と話し方からでは想像できなかったのだ。

 唯ときららの後ろ姿が完全に見えなくなると、美鈴は一度固唾を飲んでから体育館の出口に駆けていった。

 館内には一つの足音が虚しく響いたところで、やっと誰もいない状態となった。

 

皆様、今回もありがとうございました。

今回は勉強会の予定でしたが、シャワー回など今後は有りそうもないため丸々書かせていただきました。

正直、今日のお話はこれからの伏線だらけとなった気がします。それはもちろん、きららと唯の出会い。忘れてはいけないのが、メイのアメリカでのソフトボール生活。主にこの二つですかね。

きららに関しては今後―新たな章ですが―しっかりと説明していきます。唯との出会いをきっかけに変わったきららをどうか見守ってあげてください。『にゃあ』の語尾の由来もちゃんと意味がありますから、よろしくお願いします。

そしてメイのことも。この子も結構かわいそうなキャラですからね。まぁ個人的には叶恵と菫がとてもかわいそうだと思っていますが……

長くなってしまいました。それではこれからも、よろしくお願いします。

ではまた来週!次回こそ勉強会!!ソフトボールの細かいルールまで書いていきます。



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