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プレイッ!!◇笹浦二高女子ソフトボール部の物語◆  作者: 田村優覬
二回◇すれ違いからの因縁へ――vs釘裂(くぎざけ)高校◆
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悲しい過去たち

気に入っていたグローブをボロボロにされた唯は、釘裂高校の生徒たちを憎みながらも、グローブに対する悲壮感を抱いていた。

今はお金がないが、このグローブを後日買ってあげよう。

唯はそう思い店員に予約しようとした矢先、経済的に苦しい彼女にはある大きな手が差し出される。

 今から約一ヶ月前のこと。

 それは笹浦二高女子ソフトボールが誕生したばかりのことである。今ではキャプテンを務める清水(しみず)夏蓮(かれん)、皆からは鬼マネージャーと言われている篠原(しのはら)柚月(ゆづき)のもとに、左ピッチャーの経験者でありチームの隊長的存在、月島(つきしま)叶恵(かなえ)が入部決定した日である。

 早速、夏蓮は叶恵に引っ張られるようにして、グランドを走り回ってたり、早速キャッチボールを始めることとなっていた頃、別の場所では問題が起ころうとしていた。

 その舞台となるのが、学校から少し離れたところに設置されたゲームセンター『ニャプコン』である。このゲームセンターには、メダルゲームはもちろん、ユーフォーキャッチャーやデータカードゲーム、通信対戦ができるボードゲームや音楽に合わせて動く体感型ゲームなど、幅広い種類のゲーム機を取り入れており、ゲーム好きにとっては楽園そのものである。

 中でも珍しいのは、そんなゲーム環境が広がる一方で、室内の端にバッティングセンターが設けられていることである。一回十五球を百円で行えるこのバッティングコーナーでは、高校野球に努力する人間が毎日のように通っていたり、中学の野球部、野球少年団に所属している小学生たちも足を運んでいる。

 しかし、この日はいつもと違い、バッティングコーナーは無人のエリアとなっていた。貸切状態となっているこの設備内では、野球投手の立体映像が見える裏からの機械音だけが響き渡っており、一種の工場のような現場になっていた。

 バッターボックス付近にはいくつものボールが傾斜に沿って、ピッチングマシーンへと吸い込まれるようにして転がっていくなか、このコーナーの扉が勢いよく開けられる。

「貸切りじゃねぇか!」

「一人もいないっすね!!」

「やりたい放題にゃあ!!」

 ガラスの扉から現れたのは、笹浦二高に通っている女子生徒の三人、現在とは名字が異なる二年生、貝塚(かいづか)(ゆい)を先頭にして、次に一年生の星川(ほしかわ)美鈴(みすず)が足を踏み入れ、そして唯と同級生の植本(うえもと)きららが扉を閉めた。

 本日学校を無断欠席している三人は指定制服を着ながら出現し、ここが無人の空間であると知って喜ばしく思っている。

 テンションを高めに維持している彼女たちは早速それぞれの打席へと入ると、まずは美鈴が、続けるようにしてきららが百円を投入する。

『プレイボール』

 男性の機械アナウンスが流れると、ピッチャー映像には実在するプロ野球選手が映し出される。

 左バッターボックスで少し緊張の面たちを見せる美鈴と、反対に自信に満ち溢れた顔で右打席に入ったきららたちは、それぞれ向かい合うようにして構え始めると、『18.44』と書かれた建物から、映像の動きと共にボールが投げ込まれる。


「にゃあー!!」

 ブルン……

「フッ!!」

 カキーン!!


 何球も大きく空振りをしてしまうきららとは反面、美鈴は何度もバットに当てていると、終盤で金属バットの芯へボールを見事に衝突させており、高々と打球を上げて天井へと当てていた。

「やるなぁ美鈴!」

「いえ、マグレっすよ。ウチができるなら、唯先輩だって当てられますよ」

 苦笑いを浮かべた美鈴から言われた唯は、ストレス解消程度にしか思っていないバッティングをやろうと、意気込んで百円を投入する。

「さぁ来やがれー!!」

 右打席でバットの先を投手に向けた唯は、気合い充分でバットを構え始める。

 棒立ちに近い彼女だが、するとピッチャーは足を上げて腕を徐々に動かしていき、リリースされると同時に投球口から白球が飛び出す。


 コーン……

「いってぇ~」


 バットには当てた唯だが、インコースへと投げられたボールをバットの根本に直撃させてしまい、大きな痺れが手を襲っていた。

「唯、大丈夫にゃあ?」

「唯先輩!!お怪我はッ!?」

「平気平気。このぐらい、どうってことねぇよ」

 驚くきららと美鈴の前で得意気に笑顔を見せた唯は、再び繰り出されていく投球へと立ち向かっていった。

 すでにバッティングを終えた美鈴ときららは、打席から抜け出して唯のバッターボックスのネット裏へと向かった。すると、唯の方も次で最後の投球となっており、ラストボールが二人にも向かって投げられる。


 ゴン……

「チッ、最後は先っぽかよ~」


 力強いスイングを見せ続けていた唯だったが、最後はボテボテのゴロとなってしまいゲームセットを迎えていた。あまり納得していない顔を見せる唯は、再び舌打ちをして、バックネットに転がったボールを拾い投げる。

 勢いよく投げられたボールは、映像に残るピッチャーの顔へと直行していくが、ネットに遮られてしまいカサッと小さな音を立てて地面に落ちてしまう。

「うぅ~、なんかモヤモヤすんな~」

「でも、唯先輩スゴいっすよ。ウチは、唯先輩みたいにたくさん当てられませんでしたもん」

「そうにゃあ。きららなんか一球も当てることできなかったにゃあ~」

「それ、絶対損じゃねぇか?」

 唯を中心に笑い合う三人の声は、このバッティングコーナーの機械だらけな空間を染めており、人間の温かさが広がっていた。

「ヨシッ!もういっちょ、やってみっか!」

 制服のポケットから財布を取り出した唯は、もう一度バッティングを楽しもうと百円玉を取り出す。今度は、美鈴ときららから直に見られながらやるのか……少し緊張すっけど、(わり)い気分じゃねぇ。今度は絶対快音鳴らしてやる!

 美鈴ときららの前ではにかんだ唯は、バットを持ちながら百円玉を強く握りしめて、コインの投入口へと入れようとしたときだった。


「ムダムダー、止めときなってー」


 突如、三人には聞き覚えのない声が耳に届く。相手を蔑むようにしたその音に三人は同じ方向へと顔を向ける。すると、三人は先ほど入ってきた入り口の扉を見ており、そこで他校の制服を纏う二人の女子高校生と目が会ってしまう。

 まず身長の大きい一人は、背中まで伸びきった髪の毛を赤色に染めており、愉快そうな笑みを浮かべていた。そしてもう一人の小さい方は、男のように短い髪の毛を暗い青となっており、口を白の大きなマスクで隠していた。

「ねぇ風吹輝(ふぶき)、あの制服ってどこの高校?」

「笹ニじゃね?美李茅(びいち)の頭じゃ絶対いけない高校だよ」

「なんだよ~、わたしそんなにアホじゃないも~ん。この前の因数分解の単元テスト、八十点とったんだからねぇ~だ!」

「単元テストで、かい……しかも因数分解って、中三で習ったやつじゃん。アタシらもう高二なんだけど……」

 二人の会話と様子を見る限り、先ほどの声を放ったのは赤い髪の毛の方だと感じた唯は、笑顔を消して睨むようにして視線を向ける。

 カラララ~ン……

「おい、なんだよ?」

「ゆ、唯……」

 持っていたバットをコンクリートの地面に叩きつけた唯は、ネットを潜って美李茅たちのもとへと向かおうとする。が、すぐに心配した様子のきららに手を掴まれて立ち止まる。

 鋭い視線を美李茅と風吹輝に送り続ける唯だったが、二人はさっきから話をしており、こちらに全く気づいていない様子でじゃれあっていた。

「おいッ!!聞いてんのかッ!?」

 唯はついに大声を張り上げてしまうと、赤髪と青髪の二人はハッと気がついたように話を止めて振り向く。

「あーゴメンねゴメンねー。つい、風吹輝との話に夢中になっちゃってー!」

 あくまで飄々と答えた美李茅に、唯は更に怒りがこみ上げ始め、美鈴ときららのそばで舌打ちをしてしまう。

「テメェだよな?止めろって言ったのは」

「うん!そうだけど、なんでそんなにキレてんの?」

 首を傾げて人差し指をくわえた美李茅に、怒れる唯はきららの手を振りほどいて近づいていく。

 残り約一メートルにまで迫った唯を、きららは今度は彼女の両肩を掴んで歩みを止めるが、相変わらずの火花が散っているのが否めなかった。

「ゆ、唯。落ち着いて」

「なんで俺らが止めなきゃいけねぇんだよ?」

 後ろのきららに見向きもしない唯は、前方の美李茅へと言葉をぶつけると、赤髪の女子高校生は思い出したように目を開けて微笑みを見せる。

「だってぇー、目障りなんだもん」

「あ゛あ゛?」

 片頬をピクピクと動かす唯の前で、美李茅は一度ため息をついて微笑む顔を下に向ける。

「身体が開きすぎて打撃フォームは成ってないし、ボールを捉える瞬間にだって目を離しているんだもん。正直、話にならないよ~」

「テメェ……その制服、釘裂(くぎざけ)のだよな?」

「唯、ストップストップ!」

 最後に再びため息を吐いた釘裂高校生の美李茅に、前傾姿勢になって今にも飛び出しそうな唯だったが、辛うじてきららが停止させている。

「こっちはこっちで、楽しくやってんだよ!どいつだか知らねぇけど、口出しすんじゃねぇよ!」

「まぁまぁ。気持ちはわかるよ。でもさ、口出しでもしないと……」

 歯軋りを見せる唯の前で、両手のひらと共に苦笑いを向けている美李茅は、突如その顔を不敵な笑みへと変貌させる。


「……見苦しくて、見てるこっちが辛いんだよね~」


「て、テメェッ!!」

「唯ッ!!やめてッ!!」

 きららによって羽交い締めされている唯は暴れながら美李茅へと近づこうとしている。

 両手を拳に変えて、今にも殴りかかろうとするその姿は、とても野蛮で恐ろしく見えるが、美李茅は怯むことなく、相手を蔑む視線を送り続けていた。

「あッ!!唯ッ!!」

 ついにきららから放たれてしまった唯は、鬼のように鋭い顔つきで歩み出してしまい、すぐに美李茅の目の前にたどり着く。すぐに彼女の胸ぐらを掴んで、利き手である右の拳を弾いた、そのときだった。


「コラッ!!待ちなさいッ!!」


 聞きなれない男性の声が、このバッティングコーナー内に響き渡る。

 怒りを抑えられずにいた唯も含め、皆は声がした方へと顔を向けると、先ほど釘裂高校生の二人が入ってきた入り口とは反対側の、別の扉の前にこのゲームセンターの男性店員と巡回中の男性警察官が、両者厳しい顔つきをしながらこちらを眺めていた。

 我に返った唯の力は徐々に失っていき、いつの間にか美李茅の胸ぐらを放してしまう。

「お~っと!風吹輝、逃げるよー!」

「はぁ……マジだりぃんだけど……」

 制服の胸元を整えて笑う美李茅は、大きなマスクからでも聞こえるため息を放った風吹輝の手を掴み、最初に入ってきたバッティングコーナーの入り口へと駆けていく。

「お、おいッ!?待ちやがれ!!」

 絶対に逃がさないと思い追いかけようとした唯だったが、その足はすぐに停められてしまう。

「君たち、三対ニとは、ずいぶんズルい喧嘩だね」

 声を放った店員の男が、後ろにいた美鈴ときららの肩をそれぞれ掴んでいるのがガラスの反射で見えた唯は、大切な後輩と親友である彼女らに踵を返して向かっていく。

「はぁ!?美鈴ときららは関係ねぇだろうがッ!!」

「ちょっと君」

「んだよ!?放せ!!」

 暴れ狂う唯の正面からは警察官の男が、彼女の両腕を掴んで身動きをとらせないように押さえていた。

「話を聴かせてもらおうか?」

「おかしいだろうがッ!!喧嘩売ってきたのはアッチだぞ!?」

「いいから……その制服は笹浦二高だね?連絡させてもらうよ」

「ふ、ふざけんな!!放せ!!放せよー!!」

 なんで俺たちが悪いみたいになってんだよ?こっちは被害者なのに……

 戸惑いを怒号でしか表せなかった唯は何度も叫び続けたが、その努力も水の泡となり、三人はこうして取り押さえられてしまい学校へと通報されることとなった。


 ◆◆◆


 当時、唯たち三人を迎えに行った田村(たむら)信次(しんじ)は、今いるこのスポーツ用品店、『虹色スポーツ』の屋根の下で、悲しげに俯く唯を見ている。

「そうだったのか……何も知らなくて、本当に申し訳ない」

 当時の内容をそれほど知らなかった信次は、改めて唯の口から聞かされたことで真実を知り、彼女に頭を下げて謝罪した。だが、そんな信次には、唯から鼻で笑った声が当てられる。

「オメェは悪くねぇだろ……むしろ、その後はいろいろ助けられて、ある意味感謝してんだからよ……」

 その後に唯を家庭内暴力から救った信次ではあったが、今は彼女に頭が上がらない思いでいっぱいてあり、得意の笑顔を消していた。

「……釘裂のヤツらはあんなイカれた連中ばっかりだ。いくら練習試合をしたいって言われても、俺は仲間たちのことを思って反対するぜ」

 唯の静かな言葉に返さなかった信次は、普段あまり見せない悩ましい顔をして、彼女の背中を見ていた。

 冗談じゃねぇ。俺の仲間たちを、あんなヤツらに傷つけられてたまるか……

 しんみりとした空気が漂うこの空間、閉店間際となっている店内できららが歩き始める。唯と信次の横を通り過ぎた茶髪の彼女は、釘裂高校生に投げ捨てられたグローブたちのもとへと寄る。

 つられるようにして唯もきららのそばに近寄ると、地面には美李茅が使っていた黒のオールラウンド用グローブ、そして風吹輝が使用していた黄色の外野用グローブが転がっており、どちらも痛々しい踏みつけられた跡が残っていた。

「こんなの、かわいそうだよ……」

「そうだな……」

 泣き出しそうな顔をするきららは黄色のグローブを、そして唯はこの店内で気に入っていた黒のグローブをそれぞれ拾い上げて眺めていた。踏みつけられたせいでグローブの指は少し折れており、新品なのに所々の革が剥げてしまっていたのが目に映る。


『俺と、同じだな……』


 店内のアナウンスも止んでおり、静かな野球コーナーとなっているなか、決心を固めた唯は振り返って、『内海(うつみ)』の名札を着けた若い男性店員に顔を向ける。

「店員さん。このグローブ、買うよ」

 唯の言葉は美鈴や信次、そして他人である大和田(おおわだ)慶助(けいすけ)のことを驚かしていたが、そのなかでも眼鏡をかけた店員が一番目を開けていた。

「えっ!?し、しかし、見たところボロボロで汚れてしまいましたが、それでも良いのですか?」

 かけている眼鏡を少しずらしたが直そうとしない店員のあと、付け加えるように慶助が唯へと歩み寄る。

「内海の言う通りだ。今回の件は、別にお前らに責任はねぇんだ。弁償のことなんて、考えなくていいんだぞ?」

「へッ……オッサン、優しいんだな」

 ボロボロのグローブを眺めながら呟いた唯に対して、優しい言葉をかけられた慶助は顔を赤く染めてしまいそっぽを向く。

「ほ、ほら……他にだって、同じようなグローブはいくらでもあるだろ?だったら、綺麗な方を買えよ」

 取り乱している様子の慶助は、目の前にいる唯を横目でチラチラと見ながら話していたが、長い黒髪の彼女は首を横に振ることで靡かせていた。

「俺は、これがいいんだ。多少汚れてて、ボロボロの方が、なんか俺らしいしさ」

 優しく微笑んで答えた唯は、両手で握る黒のグローブと自分を照らし合わせていた。ボロボロにされて、傷だらけになって、それでもコイツだってグローブとして生まれてきたんだ。こんな姿じゃ、普通のヤツらには目も置かれねぇよな。だったら、責めて俺が……

「きららも買うにゃあ!」

「きらら?」

 ふと顔をグローブから反らした唯には、そばできららがいつもの笑顔を見せているのが映る。彼女は先ほど風吹輝が投げ捨てていった黄色のグローブを抱き締めており、そのグローブにも傷跡が残っていた。

「ほら、きららの『き』は、黄色の『き』といっしょだから、これにするにゃあ!」

「なんだよ、その理由は?」

 唯の突っ込みが入ると、二人は揃って笑い始める。静かな笑い声ではあるが、照明がいくらか消えて薄暗く無音であるこの店内では響き渡っており、この野球コーナーには明るく和やかな雰囲気が漂っていた。

 後輩の美鈴、顧問の信次からも優しく見守られるようにされている唯は、笑顔を残したまま眼鏡店員へと近寄る。

「じゃあ店員さん。これ、必ず買いに来るから、取っておいてもらっていいっすか?」

「は、はい。後日にご購入でよろしいでしょうか?」

(わり)い。今の俺の所持金、千円もねぇからさ。御袋にも協力してもらって、すぐに買いに来るよ」

 最後は苦笑いになってしまった唯は、黒のグローブを店員に渡そうと動き出す。今日は美鈴だけだ。若しくはきららもだけど、俺は次回に買おう。御袋、協力してくれるかな……今月、来月、その先の小遣いも前借りすればなんとかなるかな……ヤベェー、しばらくは貧乏高校生活になりそうだ。

 唯の両手に包まれたグローブが、店員の手に渡ろうとした、そのときだった。


「ほれ……買ってやんよ……」


 唯と店員の間に割り込むようにして現れた慶助は、黒のグローブをそっと掴んでいた。

「えッ!?なんでだよ!いくらなんでもそれは……」

「気にすんな。お前のこと見てると、なんか放っておけなくてよ」

「はぁ?」

 終始困った顔をしていた唯は、少し恥じらいを見せる慶助にグローブを取られてしまう。

 傷ついたグローブが慶助の手に渡ると、ヤクザのような恐い風貌の顔はきらら、そして美鈴にも向けられる。

「……折角だ。茶髪のお姉ちゃん、それに小さなお嬢ちゃんも、いっしょに買ってやんよ」

 決して偉そうに発言しなかった慶助には、周りから不思議がる視線が送られていた。

 また、自分の貯金で買いに来た美鈴は、持っている青と黒が混じるファーストミットを見ながら悩ましい顔をしている。こんな人に(おご)られるなんていいのかな。ヤクザみたいで恐い人だから、後で家に来て取り立ててこないか心配だなぁ……

「大丈夫にゃあ、ミスズン!」

「き、きらら先輩……」

 きららに後ろから肩を掴まれた美鈴は、首を曲げて顔を会わせる。

「このヤクザさんは、きっと悪い人じゃないにゃあ。ここは、御言葉に甘えようにゃあ」

「だからヤクザじゃねぇっつうの……」

 先日にも笹浦二高の三年女子生徒、泉田(いずみだ)涼子(りょうこ)からヤクザ呼ばわりされていた慶助がふてぶてしく呟くが、いつもの笑顔を取り戻したきららは悩める美鈴を説得していた。

 確かに暴力的な一面を見せたが、まるで自分を反社会的人間として言われてる慶助は、この場でため息を漏らすと、ふと視線を感じて振り向く。するとすぐそばで唯と目が会い、彼女の顔が戸惑いで満ちていた。

「……本当にいいのかよ?せめて後で……」

「……だから気にすんなってぇ」

 唯の言葉尻を被せるようにして発言した慶助は、頬を少し緩ませて片腰に手を添える。

「でもよ……」

「いいんだよ。学生は、大人に甘えていい存在なんだから……ここは、俺にまかせろ」

 最後に親指を立てて得意気にポーズを見せた慶助は、白い歯を現して微笑んでいた。

「オッサン……」

「だから(ちげ)ぇよ。俺は、大和田慶助だ」

 驚きで目を大きく開けていた唯は、徐々に笑顔へと変えていき、優しく笑ってみせる。

「サンキュー……慶助」

「お、おう……」

 名前で呼ばれて再び顔を赤くした慶助は、優しく見えてしまった唯と目を会わせるのを止めてしまい、黒のグローブ、黄色のグローブ、そして青と黒で彩られたグローブを抱き抱えてレジへと向かっていった。


 ◇◇◆


「ろ、六万だとーーーーッ!?」

 人通りがほぼ無いこの野球コーナーでは、一人のフリーター男性の大声が辺りに広まる。

 レジ前で顔をひきつる慶助には、画面に『\57400』と表示それており、信次や唯たちに見られながら少しの間固まっていた。

「……打ち間違い、じゃねぇのか?」

「いえ、間違いないですよ。合計三点で、五万七千四百円です」

 レジを操作している店員の内海から簡単に返されてしまった慶助は、一度後ろを振り向いて唯たちとの距離を確認する。ふと真ん中にいた唯と目が会ってしまい、彼女の不思議に思った顔が目に映るが、すぐに顔を内海に戻して口許を近づける。

「なぁ内海。お前ボスに気に入られてんだから、少しマケてくれよ」

 口許に手を寄せてコソコソ話のようにして伝える慶助だが、内海の輝く眼鏡は左右に揺らされる。

「それはできないですよ。店長からは、勝手なことはしないようにって言われてますから。それにこのグローブたち、すでに割引もされてますから、これ以上は安くする仕様がありません」

「……ちょっと見せてみろ」

 突如三つのグローブの値札に目を通した慶助だが、確かに内海の言う通り、最初に売られていた値段には横線が二本引かれており、改めて販売価格が設定されていた。

 唯が選んだ黒のグローブには『\14800』、美鈴が選んだファーストミットには『\17800』、そして何よりも高かったのがきららの黄色の外野グローブであり、その値札には『\24800』と標されていた。あの茶髪女、とんでもねぇもの選びやがって……元値だって三万近くしてんじゃねぇか……

「……」

「せ、先輩?買いますか?それとも買いませんか?」

 狼狽える慶助に内海の言葉攻めが襲うなか、後方にいた唯たちにも困り具合が伝わっていた。

「無理だったらいいよ。俺ら、自分で払うから」

 唯の言葉を背中で受け止めた慶助は、辛そうにレジの台へ両手を着いていた。払いたくねぇ。払いたくねぇけど、あんな格好つけておいて、ここで払えないなんて言えるか……ダメだ、ここで払わなきゃ、男の名が廃る。

 覚悟を決めた慶助は次の瞬間顔を上げる。口許が痙攣を起こしているかのように震えているが、ゆっくり開けられていく。


「……か、買いますッ!!」

「「「「オオ~~……」」」」


 決意した慶助の後ろにいる四人からは、感心の声と共に静かな拍手が送られる。財布には偶然にも福沢諭吉が六人いたことから、現金で支払うことにして内海に渡した。はぁ、これで今月は絶望的だ……アパートの電気停められたら、どうしよう……

 渋々お金を支払った慶助は、最後に大きなため息をついて会計を済ませた。


 ◇◆◆


 夜の九時を過ぎたため、店員から退店願いを受けた信次、唯、きらら、美鈴の三人は、広く空いた駐車場で慶助を待っていた。お店の関係者の車だけが並ぶこのアスファルト上では、外灯もほとんど消されており夜空の星たちがよく見えるほどである。

 弱々しくも必死で瞬いている星を四人が眺めていると、その場に一つの足音が近づいてくる。

「オッ!!来た来た!!」

 信次の嬉しそうな声と共に顔を向けた唯たちには、『虹色スポーツ』と描かれた大きなビニール袋を持って歩く慶助が見え、中身を取り出しながら向かってくる。

「どうぞ、お嬢さん方」

「あ、ありがとうございますっす……」

「お兄さん、カッコいいにゃあ!」

 美鈴、きららへと一人ずつに、メーカーと同じケースに包まれたグローブを手渡した慶助は、最後に唯へと授ける。

「ほら、お前さんも」

(わり)いな。この恩は、ぜってぇ忘れねぇ」

 優しく微笑む唯はケースを受けとると、グローブらしからぬ硬さを感じたため、気になって中身を覗く。

「あれ?これは?」

 唯が持つグローブケースの中身には、先ほど買ってもらった黒のグローブは勿論、いっしょに缶詰めのような円盤物が目に映った。

「ああ、グローブのオイルだよ。それ使って、ちゃんと手入れするんだぞ……はぁ、まさか連日オイルも奢ることになるとはなぁ」

 ふとため息を漏らした慶助だが、唯にはとても頼もしい存在のように感じながら笑顔を見せた。

「……ありがとな、慶助」

「うぅ……馴れ馴れしいなぁ……」

「大和田だと、なんか言いづれぇしさ。だからいいだろ?」

「……勝手にしろ……」

 再び顔を真っ赤にした慶助は、前方でグローブを眺めている唯を反らすように天を見上げていた。よく見える星たちだが、その姿は徐々に雲へと被されていく。ゆっくりと、ひっそりと消えていくその姿は、どこか儚さを覚えさせるものがあった。


「慶助!!」


 信次の元気な声に呼ばれた慶助が顔を向けると、笹浦二高の教師は笑顔で口を開ける。

「お願いなんだが、この子たちを家まで送ってあげてくれないかい?」

「またかよ……」

 以前に舞園(まいぞの)(あずさ)のことも家まで送り届けたことがある慶助は、信次の突拍子のない願いにため息を出していた。

「……わぁったよ。どうせお前のこと送るつもりだったしよ。じゃあお嬢さん方、あの車の後ろに乗ってくれ」

 すると慶助はズボンのポケットから鍵の束を取り出して、数メートル先にある『虹色スポーツ』と描かれた白の自動車へと向ける。車の鍵を指先で握り、側面に着いているボタンを押すと、ウィンカーの点滅と共に後部座席のドアは開けられ、最初に元気なきららが続いて唯、そして美鈴も車内へと足を踏み入れた。

 信次が助手席に乗り込んだことを確認した慶助は、運転席に入って早速エンジンをかける。普段からメンテナンスをしっかりしている分、車はハイブリットカーに近い静かな音で起動し、前方の暗路が白い光で照らされていた。

「後ろ、狭くねぇか?なんなら三列目もあるから、そこに座ってくれ」

 ふと後ろに顔を見せた慶助は、片側ドア車の窓側にきらら、真ん中に唯、ドアの隣に美鈴が座っていることを確認したが、三人が隙間なく並んでいるのが窮屈に見えてしまった。

「俺は大丈夫だけど、きららと美鈴は?」

  慶助の言葉を受けた唯は両隣の二人に首を振ると、きららは笑顔で、美鈴は少し強張った顔で頷く。

「大丈夫にゃあ。きららは唯の隣が、シートベルト着けるよりも安心感を感じるにゃあ」

「俺はボディーガードじゃねぇぞ。ちゃんと着けとけよ」

「了解にゃあ!」

 隣のきららがシートベルトを着用するのを見届けた唯は、今度は反対方向の美鈴へと身体を向ける。すると、短いツインテールの彼女はすでにシートベルトを着用していたが、目を会わせず緊張の面立ちをして背筋を伸ばしていた。

「美鈴?どうかしたか?」

「い、いえッ!!平気ですッ!!」

「そ、そうか?なら良いんどけどよ……」

 大声且つ早口で話した美鈴は依然として表情を変えず、座りながら気を付けをしているように固まっている。唯の視線が車の運転席へと向けられすぐに発車されると、美鈴は顔の位置を変えずに目だけを動かして、尊敬する先輩と接触している自分の腰付近を眺めていた。あ、当たってる……ウチ今、唯先輩と身体が触れ合ってる。しかも唯先輩のいい匂いを直に受けながら……ダメだ、これはダメだ。

 国道に合流した車がタクシーのように安定して走り出すなか、自我を失いそうになっている美鈴の表情は怪しい緩みを見せ始めており、口許から(よだれ)が垂れそうになっていた。

「美鈴……」

「は、はぁい……!?」

 次の瞬間、美鈴はにやけは消して目を覚ます。隣からは唯の左腕が美鈴の肩を包み込むようにしており、自我を取り戻したが逆に緊張感すら戻って震える一年生は、先輩の顔がすぐそばにあることを知って汗が吹き出してしまう。

 美鈴からは崇拝レベルで尊敬されている唯は、悩ましい顔をしながら、美鈴の耳元で口を動かす。


「恐い思いさせて、ゴメンな……」


「えっ……」

 唯の静かな囁きに驚き、素の状態に戻った美鈴からは震えが消えていた。

「唯先輩、どうして……」

「全部、俺がいけないんだ。関係ねぇ美鈴のことまで巻き込んじまって、本当に(わり)い」

 車の静かなエンジン音にも負けそうな唯の声は確かに美鈴へと届いていたが、大切な後輩である彼女からは心配そうな顔を向けられていた。

「唯……」

「きらら……」

 美鈴の反対方向に顔を向けた唯は、隣のきららが悲しげな顔をして右腕を抱き締めているのが目に映る。

 今にも泣き出しそうな顔で弱々しい声を出していた彼女は、顔を唯の肩に当てていた。

「……愛華(あいか)ちゃんがあんな風になったのって、私のせいだよね……」

 いつもと話し方が違うきららの口許は微動しており、目に潤みを浮かばせている。

「にゃあ、が付いてねぇぞ?」

「えっ?」

 きららの涙目を向けられた唯は優しさを込めた瞳をして返しており、掴まれていた右腕を動かして茶髪の頭へと載せる。

「バカ野郎。きららは何もしてねぇだろ?きららは、きらららしくいれば良いんだよ」

 優しく言い聞かせるように話した唯は、涙が落ちそうなきららの頭を撫でていた。慰めるようにしてそっと触れてる(たなごころ)は温かみを帯びており、茶髪の顔が縦に揺られる。愛華があんな風になったのは、決してきららのせいじゃない。むしろ責任は俺にあるんだ。アイツを独りにさせちまった、俺にさ……

 虹色スポーツで鮫津(さめづ)愛華(あいか)と遭遇した唯は、再び彼女のおぞましい顔を思い受かべながら、鼻をすするきららから手のひらを離す。きららが俺と出会った直後から、愛華はおかしくなっちまった。でもそれは、俺の隣にきららがいたからじゃない。アイツの場所を新しく作ってやれなかった、俺に問題にあったんだ。

 きららには笑顔を見せて顔を背けるが、最後は辛そうな表情を浮かべてしまい俯いていた。

 しんみりとした車内の暗さは、今夜の空よりも闇に包まれた様子であり、誰も話さないまま空いた道路を走っていった。


 ◆◆◆


「あ、ありがとう、田村……それに、慶助」

 車から退出した唯は助手席から信次、そして奥の運転席にいる慶助に顔と声をそれぞれ向けていた。

 先に美鈴ときららを無事に家まで送り届けた後、唯の自宅であるアパートにたどり着いた信次たちの車は、現在暗い駐車場で停まっている。夜の十時をすでに回ってしまった周囲では夜の静けさが広がっており、慶助が運転する車のエンジン音だけが響き渡っていた。

 本日グローブを買ってもらった唯は、両手でケースを強く握りしめながら立っていると、信次からは笑顔を当てられる。

「じゃあ牛島(うしじま)、また明日!しっかり早起きして、遅刻しないようにな!!」

 暗い夜に似つかわしくない明るい顔の信次を見ながら、唯は黙ったままコクリと頷く。

 すると車はゆっくりと車輪を回し始め、唯からは信次の顔が徐々に離れていく。狭い道路となっている路地に出た車が曲がり角で姿が見えなくなったところで、アパートにある自身の部屋へと向かっていった。

 一階の『101室』と表記された扉の前に立った唯は、ここまで遅くなる予定ではなかったため、母親になんと言い訳したらよいかを考えながらドアを開ける。

「た、ただいま~……」

「はッ!唯ちゃん!」

 ワンルーム八畳の、二人暮らしとしては少し狭い部屋の中からは、母親である牛島(うしじま)(めぐみ)の声が早速放たれる。戸惑いを面に出しながら近づいてきた母親に、唯はそっとドアを閉じて俯いてしまった。

「ゴメン……こんなに遅くなって……」

 下を向きながら唯が呟くと、目の前に立つ恵は頬を緩ませて笑顔を見せ始め、正面からゆっくりと抱き締める。

「お、お袋……」

「何事もなくて、良かった……」

 耳元で呟かれた唯は恵の顔を見ることができなかったが、母親の震えた声から涙ぐんでいるのを察していた。

「あれ?唯ちゃん、それは?」

 涙目のまま解放した恵は、唯の持つグローブケースを見ながら不思議そうに問う。

「あ、これさ……実は、グローブを奢ってもらったんだ」

 グローブケースを見ながら嬉しそうに言った唯だが、目の前の恵はスゴく驚いた表情をしていた。口を絆創膏だらけの手で覆い隠す母親はしばらく言葉が出せずにいると、眉間に皺を寄せたところでやっと口を開ける。

「……それは御相手様に悪いことをさせてしまったわね……後で支払わなきゃ」

「いや、大丈夫だって。ちょっと強面な男に奢ってもらったんだけど、お金のことは気にしないでくれって言われたんだ」

「でも、とても高いんじゃない?」

「うん。まあ、俺も後で払うって言ったんだけど、いいって言われてさ」

「そ、そう……」

 悩ましい顔をしながら唯の持つグローブケースに目をやる恵は視線を上げ、嬉しく微笑む唯の目に向ける。

「……その人の名前は?もしかして、唯ちゃんの知り合い?」

「いや、俺は知らねぇけど……慶助っていう人なんだ」

「けい、すけ?」

「名字は確か~……そう、大和田だ。大和田慶助!」

「おおわだ、けいすけ……大和田、けいすけ……大和田、慶助……!!」

 頭の上で想像をしていた恵は突如、ハッと気づいたように目を大きく開ける。

 再び黙りこんで固まってしまった恵を見た唯は、不思議に思いながら言葉を送る。

「お袋、もしかして知ってる人?」

「……フフフ……」

「お、お袋?」

 唯が疑問を投げた刹那、恵は晴々しい笑顔を見せていた。聞いたのになかなか答えが返ってこないが、すると母親は笑顔を残したまま、首を傾げる唯と目を会わせる。


「……忘れちゃったみたい……」


 言葉とは裏腹の微笑みを見せる恵に、唯は更に首を曲げて不思議がっていた。忘れたのに、なんであんなに嬉しそうなんだ?訳わかんねぇなぁ……

 背中を見せて部屋へと戻っていく恵の後ろ姿を眺めていた唯は、母親の言動に不信感を抱いていた。すると、母の髪の毛が垂れ下がっていた背中はバッと入れ替わり、微笑ましい顔が向けられる。

「ほら、唯ちゃん!明日から合宿で、朝も早いんでしょ?早くご飯食べて寝なさい!」

「う、うん……」

 恵の嬉しい様子に納得できない唯は、渋い顔をしながら革靴を脱いで、少し暖かい黒っぽいフローリングへと足を踏み入れたのだった。


 ◇◇◆


 すでに十時を回った笹浦市の国道では、自動車の渋滞はほとんどなく、一台の車のエンジン音を遠くに轟かすことができる。制限速度を守らずに飛ばしていく車が数台見られる一方で、暗い道を走る『虹色スポーツ』と描かれた車は安全運転をしていた。

 先ほどまで女子高生を乗せていた慶助の運転は少し荒々しくなっていたが、それでも赤信号ではポンピングブレーキをかけて停まり、発車の際はアクセルをゆっくり押し込んで加速させる、初心者にはなかなかできない技術を見せつけていた。

 隣の助手席に信次と、荷台には様々な段ボールに包まれた用具を載せている慶助は黙々と車を走らせるが、なかなか集中することができずにいる。再び赤信号で停車させられてしまうと、慶助は自分の首もとから垂らす銀のネックレスを眺めていた。

「牛島、唯か……」

「気になる?」

「いや、別に……ただ、あの人に似てると思っただけで……」

「あの人?」

 信次が疑問を浮かべる顔つきをしていると、慶助はネックレスを片手でぎゅっと握り締める。

「お前だって、あの人のことは覚えてるだろ?共にボコボコにされた仲なんだからよ」

 横に顔を傾けた慶助が言うと、信次はふと嬉しそうな笑顔を見せる。

「さぁ、誰のことやら」

「チッ、つれねぇなぁ……」

 呆れたため息を漏らした慶助は、再び車の進行方向に顔を向けると、ネックレスから手を離してハンドルを両手で握る。牛島唯は、確かにあの人と似ている気がする。口調は異なるが、あの大人びた姿、長い黒の髪の毛、やっぱり過去のあの人と一致する点が多い。でも、名前が全く違った……偶然なのか、それとも……

「慶助、青だよ」

「お、おぅ。(わり)い」

 少しアクセルを強めに踏んでしまった慶助の車内は、身体を後ろに押し付けられる急発進の世界が巻き起こる。

 動揺が見られる慶助だったか、今度は彼から信次に向けて言葉をかける。

「それにしても、お前もお前だよ」

「ん?なにが?」

「どうして生徒のために、ここまで頑張るのか、正直俺にはわかんねぇな」

 ルームミラーに映りこんだ荷台の段ボールたちを見て慶助が言うと、信次は笑顔を絶やさず真っ暗な夜空へと視線を移す。

「僕だって、わからない」

「はぁ?」

「でも、僕はこれでいいと思う。理由があるとしたら、このぐらいかな……」

 雲で隠れてしまった星の代わりに、信次の両目は静かに輝きを夜空に見せつけていた。

 呆れてものも言えなくなった慶助は車を運転することのみ考えるようになると、次第に走行距離を増加させていく。

 明日からは笹二女子ソフトボール部の合宿。

 希望と疑問の心を背負った二人の男たちは、この静かな夜の道を走り去っていくのだった。

 

皆様こんにちは。

プレミアム12の日本が止まりません。とても嬉しく思います。来週からはいよいよトーナメントとなっていきますが、侍ジャパンにはこのまま王座の頂点を勝ち取っていただきたいものです。

さて、今回もありがとうございます。

唯の母を出したのは久しぶりだったので、もう一度性格を思い出して書いてました。

また、最近ちょくちょく出てくる大和田慶助ですが、彼は物語の裏的主人公だと思っていただけたらなと思います。あくまでこの物語の主人公は女子部員たちですので、これからも可愛がってあげてください。

それでは、また来週、いよいよ始まる初めての合宿でお会いしましょう。

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