十一球目②歌鋭子→穂乃パート 「いくぞォォ!!」
◇キャスト◆
宇都木歌鋭子
田村信次
月島叶恵
花咲穂乃
清水夏蓮
梟崎雪菜
錦戸嶺里
呉沼葦枝
主将の花咲穂乃を筆頭にし、レフトで筑海高校一二年生のウォーミングアップが始まった頃。長年監督業を務める宇都木歌鋭子も、橙をメインとしたユニフォームを纏い、ソフトボール場に赴いた。春風に靡く短髪は肩にも掛からず、監督指定背番号の“30”の数字が立体的に浮き立つ。幼き現役時代に覚えた礼儀を弁え、驕ることなく尖った表情でグランドに一礼すると、少しの間景色に耽ることになっていた。
『笹浦総合公園……懐かしいな……』
面には決して顕にしなかったが、歌鋭子は笹浦総合公園ソフトボール場に来訪できたことに、躍り昂る歓喜が胸中に生まれていた。
『変わった箇所もいくらかある……。だが、変わっていないモノだって、たくさんある』
丁寧に整えられた外野の緑芝生に、上空の陽に照らされた内野の赤土。
質素な丸太のベンチに、バックネット隣に立つ錆び付きスコアボード。
そしてグランド敷地外の風車や湖にも渡らせ、すでに三十五を越えながらも若々しく細い瞳には、追懐の情まで浮かんでいた。
『――あれからもう、二十五年近くが経つのか……』
「宇都木監督ー!! おはようございます!!」
「……? これはこれは、田村監督」
歌鋭子が現在に帰すると、石灰で鼻先を白く染めた笹浦二高顧問――田村信次が駆け寄ってきた。良い意味で大人らしからぬ明るさを放ちながら、初めての対面を迎える。
「本日は御忙しい中来ていただき、誠ににありがとうございますッ!!」
「いえいえ、こちらこそ。半年後の、チーム運営の参考にもなりますし。こちらとしても、今日はよろしくお願いします」
額に“T”のチームロゴが記されたサンバイザーを取り、歌鋭子も信次に御辞儀を見せた。歳が離れた若男性とはいえ、敬うべき相手監督に変わりない。
「それにしても、筑海高校はスゴいですね! あんなに部員がいて!」
信次の視線につられた歌鋭子も、レフトでキャッチボールを行う筑海選手たちを眺める。
「今日は一二年だけの十八名。三年も含めたら、三十人近くにはなります」
「そ、そんなにいるんですか!?」
「……まぁ、練習が辛くて辞めた者もいますがね。今後どうなるかは、生徒らの気持ち次第です」
マイナースポーツのソフトボール故に、遊び半分で入部する生徒がほとんどだった。今日の季節では“思っていた部と違う”とよく言われ、退部者もすぐ現れたことも儚き現実である。一方で諦めず残った部員でも、高校から始めた未経験者が多く、経験者と呼べる選手は、三年生まで含めても指折り数えられるほどだ。茨城県県南地域に小中学生のソフトボールクラブが少ないことも、一つの要因なのかもしれない。
「そ、そうなんですか……」
「レクリエーションで終わらせたくないので……。うちの娘らには、楽しさを越えた愉しさを教えたいんです」
チームスローガンの“初心忘るルべからず”を脳裏に浮かべつつ、歌鋭子は練習に励む部員たちに眼光を飛ばした。出した声が上擦り、どこかオドオドとした消極的態度がよく垣間見えるが、手を抜いて甘やかすつもりなど断じて皆無である。一期一会とはいえ、せっかくソフトボールとも出会った彼女らには知ってほしいからだ。極めた者にしか味わえない、ソフトボールの愉しさを。
『――卒業後、五年先、十年先……それ以降でも、ソフトボールをやって良かったと思ってもらえれば、いいんだけどな……』
それこそ、宇都木歌鋭子の正義である。
「さすがですね! ……アハハ、ボクら笹二とは大違いです」
ふと苦笑いを浮かべた信次が響くと、次は打って代わり、歌鋭子の視界に笹二ソフト部が映される。現在はキャッチボールに入る頃で、各々のペアと共にライト芝へ出向いていた。
「部員は十人……でも見たところ、選手は九人ですか。ギリギリの人数で、苦しい環境ですね。これじゃあ“DP”や“FP”も使用できませんし……」
ベンチでメンバー表を作成中の篠原柚月も考慮した歌鋭子だが、筑海とは対照的背景だと称せられる人数の少なさに、悩ましいコメントを溢した。出場可能選手はポジション数と同等の九人で、一人欠けるだけで勝負が決まってしまう状況下だ。また打撃専門の“Designated Player”と守備専門の“Flex Player”も使用できないため、選択肢の狭さが随所に顕だったが。
「いや、実はもう一人、選手がいるんですよ。今日はまだ来ていないんですけど……スゴいピッチャーなんです!」
自陣を喜ばしげに見つめながら放った信次。しかし彼の後頭部には、歌鋭子の更に細まった鋭い瞳が差し込む。
「……叱るべき選手には、ちゃんと注意した方が良いのでは? 監督としても教員としても、一人の大人として……」
正直呆れてしまったのだ。まるで遅刻を平気で許す監督姿に見えてならなかったからである。ソフトボール部の傍ら、校内生徒指導も受け持つ歌鋭子にとっては、信次の配慮があるまじき行為だと聞き取っていた。
新生笹二ソフト部の顧問には、改めて不審な思いが募り始めてしまう。しかし、信次は肩を返すことなく、じっと笹浦二高の選手らを見守りながら紡ぐ。
「実は、その生徒はまだ、正式に入部してない一人なんです」
「……」
「でも、ソフトボールが大好きで、しかも仲間思いで、強い責任感を抱いた娘なんです……。今日の練習試合に、みんなで何度も誘ったんです。だからきっと、来ると思います」
「……」
歌鋭子が静かに睨む年下新任教諭の背からは、どうも頼りない若々しさが窺えた。綺麗事ばかりを並べ、波乱の教職上では叶いそうにないドラマに憧れる姿勢だ。が、次の瞬間に振り向いた信次と改めて目が交差する。微笑む童顔の未熟さが否定できないが、ただひたすらに前を見つめる、一意専心の瞳と。
「――生徒である彼女を信じたいんです! 監督でもあり教員でもある、一人の大人として!」
「っ……」
僅かにも開いた歌鋭子には、自信と希望に満ち溢れた信次の笑顔が映った。眺めるこちらまで不意に笑ってしまいそうな、明るく朗らかな表情で。
「……田村、監督は、笹浦二高というチームをどんなチームにしたいのですか?」
「えっ? ……う、うん~……」
己の筑海高校の場合は、広大な景色を愉しむ高嶺の花を目指した、熱意と努力に富んだチームにしたい。ならば一方の笹浦二高はどうなのかと、指揮官の歌鋭子は同じ監督の立場である信次に尋ねてみたが。
「正直、考えたことがないんです!」
「はぁあ……?」
思わず口が開いてしまった。この男は正気なのかと疑る観念さえ生まれ、もはや敬意など完全に失せてしまう。
「目標とかも、無いと……?」
「いや、目標はあります!! 全国大会たる、インターハイ出場ですっ!」
「は、はぁ……」
きらびやかな夢だけ見つめ、ただ辛い現実に背くような、精神年齢の低い妄想にしか聞こえなかった。非現実的な目標だと、言い返しそうにもなっている胸中も事実である。
『新生笹二ソフト部は、どうやら愛好会レベルに陥落したようだな……』
去年対戦した相手としては、甚だしく残念だった。後に切磋琢磨のライバル関係も望んでいただけに、目線がそっぽに向かってしまうところだったが。
「この目標は、もちろん未経験者のボクではなく、部員たちが決めたんです! なんせ笹二ソフト部は、生徒たちが創った部なんで!」
すると歌鋭子は再び信次の背が向けられ、視線先でキャッチボールを行う笹二ソフト部員まで視界に溶け込む。
「あくまでボクは、彼女たちの応援者です。だからボク自身、どんなチームにしたいとかは、一切考えたことがないんですよ」
「……全て彼女らに任せるってこと、で?」
「はい!」
歌鋭子へ穏便な頷きを見せた信次。すると腕組みをしたことで背のユニフォームが横張り、笹浦二高の“30”が雄大にも公にされる。
「――部員以前に、彼女たちは健気な生徒。そんな生徒たちを信じて生きることが、ボクなので」
その一言こそ、笹浦二高女子ソフトボール部監督者の正義だった。それは筑海ソフト部の観念とは対照的で、善くも悪くも指揮官らしからぬ台詞だと捉えられる。しかし、未経験者故に宿る純粋さに、歌鋭子はほんの少しの笑みを溢す。
「なるほど、初心忘るルべからず、か……」
「は、はい……?」
「では田村先生?」
「はい!」
各チームの監督者の瞳が、もう一度合わさる。
「試合は一時間半後の、十時開始でお願いします。審判等はこちらがやりますので、一試合真剣勝負でお願いします」
「あ、はい!! 是非よろしくお願いします!!」
信次に御辞儀を受けた歌鋭子だが、すぐに背を向けて三塁ベンチへと去っていく。
『確かに笹二は、筑海とは大違いだ』
高校部活動顧問という種族は、大きく分けて二種の監督者に分類される。
まず一つは、チームをまとめ意識を高めるために鬼神を演じる、畏れ多い指揮官だ。精神的に辛いながらもごく一般的な監督姿で、大多数の指導者が抱く役柄に違いない。勝利を掴むことは決して容易いものでなく、また常日頃甘さを求める人間を統括せねばいけないのだから。
そしてもう一つは、正に歌鋭子が今眺めている、笹二ソフト部の監督者だ。競技知識が無い未経験者と言えども、意識ではなくヤル気を鼓舞する、なかなか類を見ない名脇役的立ち位置だ。
『選手を導く指揮官としてではなく、生徒を応援する先生として、か……』
三塁側のベンチ前で立つ歌鋭子は、いつしか相手校の練習風景ばかり見つめていた。
正直内心では、笹浦二高の現在が心配だったのだ。去年には創設されたはずが、当時の男性顧問――井村幸三の部費横領問題で消滅しているのだから。
そしてまた今年、しかも同じ時期に、剰え同じ男性顧問が選ばれ再誕した、笹浦二高女子ソフトボール部。だが、歌鋭子が観察する限りでは、去年とは大きく違ったチームだと認識していた。ストイックを煽る自身の筑海高校とは真逆で、選手に権利を委ねた、自由の概念が垣間見える。
『一歩間違えれば、愛好会程度に成り堕ち兼ねない。そんなリスクがあるから、ワタシはなりたくない……。だが……』
一か八かの顧問思想と感じられる。しかし、歌鋭子はすでに、笹二ソフト部が立派な部活動に成り得ると確信していた。小さな身形ながらも、飛び抜けた甲高い声を上げ続ける、一人の熱血少女が今年もいると理解できたが故に。
『また月島叶恵のソフトボール魂があるなら、笹二は大丈夫だろう』
去年の試合、二十点以上もの差をつけられても、最後まで必死で投げ抜いた少女――月島叶恵。ソフトボールの半分も満たない三回でコールドゲームとなり、それはそれは惨め極まりない一戦だった。それでも、当時の叶恵は諦めず、最終回の七回まで続行を打診し、勝利に貪欲な一選手だった。裏の無い真剣な面構えで嘆願してきたあの日の小顔は、昨日のことのように鮮明に焼き付いている。
『……フフ。おもしろそうじゃないか、笹浦二高女子ソフトボール部。こうして勝負り合うのは、一年ぶりと言ってやろう……』
あれから一年経つ、今日という運命的再会。安堵で頬を緩ませた歌鋭子は相手選手ながらも、自分と同じ熱い信念を抱く叶恵を密かに応援していた。すると力を込めた腕組みを放ち、迷いなき尖った瞳に切り換え、真正面より迎え撃つ。
『――さぁ、始めようじゃないか。情け容赦無しの、伝統の一戦を!』
こうして歌鋭子は、笹浦二高女子ソフトボール部を、愛好会ではなく部として認めた。
◇伝統の一戦、開幕ッ!!◆
試合開始まで、残り二十分前。
もうじきそれぞれのチームでフィールディングが始まる頃だが、その前に各主将を代表とした、先攻後攻を決めるメンバー表交換がある。
先に交換場のホームベース後方にたどり着いたのは、筑海高校主将の花咲穂乃だった。右側にオレンジリボンで束ねたサイドポニーテールを時おり触りつつ、自陣から出した一年生主審と共に笹二キャプテンを待つ。
「ほ、穂乃ちゃん……」
すると、蒼き笹浦二高の主将――清水夏蓮が、不安に押し潰されそうな面持ちで登場した。右手で握られたメンバー表もすでに皺付くほどで、多大な緊張に襲われている様子が簡単にわかる。
「お久しぶり、夏蓮」
「――っ!」
落ち着いてもらうべく、穏和な旋律を奏ではにかんでみた穂乃。すると夏蓮は眉の起き上がりに合わせ驚き、すぐにピタリと緊迫の振動が停止したようだ。
「穂乃、ちゃん……」
「スタガ以来だよね。今日はよろしく」
「う、うん……」
一体何事に不安を覚えていたのかはわからなかったが、学生主審の指示により、改めて両キャプテンの握手が行われる。
夏蓮とはかつて、共に笹浦スターガールズで励み合った旧友でもあり、学区外の彼女とこうして向かい合うのは約五年ぶりだ。
久方ぶりに再会した本日では、まだ友人らしい挨拶ができていなかったため、穂乃は夏蓮の小さな手のひらを握りながらホッとしていた。次に先攻後攻を決めるじゃん拳へと、移行しようとするが。
「ん? か、夏蓮?」
「穂乃ちゃん……」
茫然と見上げる同級生の少女から、放してもらえなかったのだ。それどころか、夏蓮の握力が徐々に強まる一方で、解放の余地が全く見当たらない。
「ね、ねぇ夏蓮……?」
「……私のこと、覚えててくれたん、だ……グズッ」
「え゛……?」
ふと言葉尻を被せられた穂乃は、思わず目が点と化してしまった。なぜなら、夏蓮の表情が途端に変化を始め、泳いでいたはずの瞳に地下水が込み上げていたからである。
「うぅ~よかったぁ~。グズッ、よかったよぉ~お~」
「な、なんで泣くの……」
空いた左腕で拭うが、夏蓮の涙は次々に溢れ出るばかりだった。確かに、お互い久しく連絡を断っていたため、感動の再会とは近似値になるだろう。しかし、情緒の振れ幅があまりにも大き過ぎる笹二の主将だと、受け取らざるを得ない。これから練習試合が始まるというのに。
「うぅ~……うるるぅ~るるぅ~」
「か、夏蓮……手ぇ痛いんだけど……」
「穂乃ちゃ~ん……グズッ、私のことなんか、忘れちゃってるのかなぁとも思っちゃって……」
どうやら夏蓮が抱いていた不安は、忘却されているかもしれないという心配だったらしい。
「忘れる訳ないよ。夏蓮たちは、恩恵ある大切な戦友なんだから」
「うぅ~穂乃ちゃん! ハグしていぃい?」
「こ、ここではちょっと……。後輩が見てるし……てかとりあえず、手ぇ放して?」
「ふぁい!」
夏蓮からは漸く解放してもらえたが、涙腺は未だに閉めることができていないようだ。反って今度は両手で目を擦り続けてしまい、穂乃の苦笑も止まらない。
「ねぇ夏蓮、落ち着こう? ほら、メンバー表クシャクシャになっちゃってるし……」
「うぅ~。だって、穂乃ちゃんが私のことを、大切だって言ったせいでぇ~えぇ!」
「……なんか、わたしが悪いみたいな言い方……。それに、大切なのは夏蓮だけじゃないよ? あのときいっしょに手伝ってくれた、柚月も咲も……っ! ……」
ベンチから手を振る、残りの大切な戦友――篠原柚月と中島咲らを眺めながら、穂乃は夏蓮をあやしていた。が、とある特異点に気づいてしまい、目線を足下に反らしてしまう。
「そっか……そうだよね……」
「……ん? ほ、穂乃ちゃん?」
夏蓮にも不思議がられた穂乃は、少しの間沈黙に囚われていた。正直、今日はみんなと再会できると思っていただけに、公開された現実に苦味を覚えていたのだ。いつしか話し相手が足下の赤土に入れ替わり、一方的に言葉を与える一人言を連ねる。
「……でも、そうだよね……」
「ねぇ穂乃ちゃん、どうしたの?」
「……ううん、何でもない。ほら、早く先攻後攻決めよ?」
「う、うん……グズッ」
「まだ泣いてたんだ……」
しかし脳内を切り替えることで、穂乃は頬を緩ませてから面を上げる。未だに夏蓮の瞳が濡れた状態には失笑したが、漸く主将同士のじゃん拳に移行した。
「じゃあ、またあとでね夏蓮」
「うんっ! 試合が終わった後に、ゆっくりお話しようね」
先攻は笹浦二高で後攻が筑海高校と決まり、両者のメンバー表交換を終えると、それぞれのベンチへ退く。ちなみに、チョキを出した夏蓮に、穂乃がグーで勝った内容だ。
「後攻ォッ!! フィールディング準備ィッ!!」
――「「「「ハイッ!!!!」」」」――
後攻から始めるフィールディングを行うため、穂乃はメンバー表をマネージャーの梟崎雪菜に渡してから轟き放った。先発バッテリーの二人――捕手の錦戸嶺里と投手の呉沼葦枝も含め、一二年生全プレイヤーをベンチ前に整列させる。
「……」
「どうした花咲? 考え事か?」
「か、監督さん……いえ、別に何も……」
ノックバットを握った監督の歌鋭子に細目を向けられると、穂乃はすぐに顔を上げて否定してみせたが。
『言えないよ……少なくとも、筑海のみんなには……』
事なきを経て構え、ついに筑海高校のフィールディング劇が始まる間際。しかし、列先頭で前屈む穂乃だけは目線が下降し、外野の芝が視界に入っていなかった。
『それに夏蓮たちだって、気にしてるはず……。だから、気まずくなるのが怖くて、言えなかった……』
夏蓮と柚月に咲たちからは、小学生だった際に穂乃は大きな恩を頂いている。故に大切な戦友たちを忘れる訳がなく、今日まで感謝を持ち併せながらソフトボールに励んできた。
しかし、大切な戦友たち全てと再会できるまでには至っていなかったのだ。ただ、六年前の悲劇を直視しているためか、すぐに諦めが着き、もう一度だけ心で呟き蓋をすることにした。
『――梓は……やっぱりいないんだね、笹二ソフト部に……』
「時間だ、花咲。始めるぞ」
「はいっ!」
そばの歌鋭子に告げられたことで、穂乃はたくさんの空気を吸い込む。無味無臭の気体中には思い出という成分も含まれていたがが、次の瞬間、凛々しく眉を立ち上げ、空気で満たされた肺胞を気合いで叩く。
「いくぞォォ!!」
――「「「「オ゛オオォォォォオッ!!!!」」」」――
オレンジユニフォームがソフトボール場に散らばり、筑海高校の試合前フィールディングが始まる。穂乃も自身のポジションであるショートに向かい、相手チームへ決心の瞳を型どっていた。
『揺らいじゃダメ。今は試合なんだから……変えなきゃ、変わらなきゃ! 本物になるために!!』
◇筑海高等学校メンバー表◆
打順 位置 選手名 背番号
1 遊 花咲穂乃 6
2 中 北条 11
3 DP 小沢 15
4 捕 錦戸嶺里 2
5 一 君島 16
6 左 平沢 17
7 二 小和田 14
8 三 山口 20
9 右 菅間 19
FP 投 呉沼葦枝 18
控え選手名 背番号
水守 21
磯部 22
大貫 23
池田 24
田中 25
泉 26
前野 27
監督 背番号
宇都木歌鋭子 30
スコアラー 背番号
梟崎雪菜 28




