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プレイッ!!◇笹浦二高女子ソフトボール部の物語◆  作者: 田村優覬
一回表◇最高の絆で結ばれた、仲間集め――創部活動編◆
32/118

六球目 ⑤菫→凛「へ? 椿……?」

◇キャスト◆

東條菫

菱川凛

東條椿


りん!! そっちはどうだった?」

「ハァ……ダメ、すみれ。親戚の……おばさんにも聞いたけど、ハァ、見てないって……」

「そんな……」


 日没が過ぎた、笹浦市内のとある十字路。息を荒げて小柄な背を丸めた菱川ひしかわりんの目前で、東條とうじょうすみれ焦燥しょうそうによる汗を止められず、しかめた顔を夜空に放つ。デネボラとスピカ、そしてアークトゥルスによる春の大三角が観察できるが、すでに月光をさえぎった黒い雲に覆われようとしていた。



椿つばき……お願いだから、早く出てきてよ……』



 小学五年生の弟――東條とうじょう椿つばきの捜索を始めてから早一時間。夕方の四時に買い出しのため近くのスーパーに向かったらしいが、依然として椿の姿がどこにも見当たらない。自宅で留守番を頼んだ二人の妹たち――小学二年生の東條とうじょうさくらと、幼稚園年中児の東條とうじょう百合ゆりからも電話の知らせが送られず、七時を迎える今になっても帰宅していないのだ。


 一体、椿は今どこを出歩いているのだろう?

 いや、どうか出歩いたままでいてほしい。


 そればかりが菫の心を満たし、疑問よりも危険性の不安が占めていた。



『――交通事故なんて、もう嫌だから……』



「……探す範囲、もっと拡げてみるね。凛は無理しないでいいから」

「大、丈夫。ハァ、わたしだって、椿のこと、心配だから」

「凛……わかった、ありがと。でもホントに無理だけはしないでね? ……じゃあ、あたしはこっち。凛はスーパーの方をお願い」


 元から体力事が苦手な凛だが、額の汗を制服袖で拭って頷き、スーパーへ続く道路へ向かった。

 残った菫もすぐに走行を再開し、凛とは真逆の道を突き進む。わずかな外灯と家々からのびかりのみが照らす道はとても見辛く、もはや暗路と言った方が相応ふさわしい。

 しかし、おくする余裕もないほどに菫は目を凝らし、周囲をうかがいながら駆け進んでいった。


 目の前で延々と続く、静寂とした道路――人一人いない。

 右に顔を向け、車一台分の幅を保った暗く細い抜け道――下を向いた野良猫が一匹歩いているだけ。

 左に振り向いき、家々の垣根かきねによって生まれた闇の隙間――ごみ袋のようないびつな球体二つが塞いでいた。


『――? 袋……もしかして』


 途端に菫は急ブレーキを掛け、何とか一人分入れそうな隙間の入口に戻る。暗さで慣れた目で球体の正体がビニール袋であることがわかり、どちらにも“KATSUMI”と、自身がよく通い今日も行ってきたスーパーの名が印字されていた。中身を覗けば様々な食品が所狭しと入っており、さらに奥を注視するとカレールーが目に映る。



 ――「お前も迷子か? それじゃ、おれと同じだな……」



「――っ! この声、やっぱり……」

 突如闇の奥から鳴らされた一声に、菫は視線をうながされる。幼さ伝わる高い声で、女子か男子か判断しづらい音色だった。

 しかし声主を悟った菫は迷わず隙間へ進入し、真っ暗闇にの中に溶け込んでいく。

 足元は何とか見えるが、数メートル先は黒一色に染まっている狭き空間。すると菫は、突然射し始めた月明かりで、ふと小さな背中が視界に入り息を飲む。



「――つ、椿……?」



「――ッ!! ね、姉ちゃん!?」

 恐る恐る囁き立ち止まった菫には、やはり弟の椿本人が振り向いた。見つかってしまったと言わんばかりに驚いている様子が伝わり、少年の瞳が開ききった状態が続く。

 だが菫はふと視線を足下に落とし、両手をギュッと握り締めて拳を作る。


「……探したんだよ……? 凛といっしょに、ずっと」

「その……帰り道、途中でわからなくなっちゃって……」

「いつも言ってるよね? 勝手なことはするなって……危険なことは、絶対にダメだって……」

「うん……ご、ゴメン……」

「……」


 幼い椿からは珍しい申し訳無さが伝わるが、菫は一向に視線を落としたままだった。

 折角舞い降りた月光も、今の二人の雰囲気までは照らせなかったようだ。妹たちや親友の凛、また近所のおばさんにも心配を掛けた弟を、姉として叱らなければいけないところだ。いつも言うことを聞かないやんちゃ者なら、家族を護ると誓ったしっかり者が怒鳴って理解させるのが道理だろう。

 椿までも俯き、冷たい沈黙が漂う二人の闇狭間やみはざま

 が、菫はふと両拳をき、全身の力が抜けたように崩れ落ちる。スカート丈下の膝頭だけでなく内股も地に着け、自然と出てしまったため息と共に声を鳴らす。



「――よかったぁ~……」



 それは、安堵のため息だった。椿が無事であったこと、弟が――東條とうじょういちごと同じ運命を辿らずに済んだこと、そして恐れていた未来が実現されずに終わったがゆえに。

 安心により表情に弛みが戻った菫は目線を上げ、ハの字な眉と共に椿と目を合わせる。


「ね、姉ちゃん……」

「もぉホンッッッットに心配したんだからね? わかってる?」

「ゴメン……ホントに悪かったって、思ってる……」

「ハァ~……だけど、ホントに良かった。椿が無事でさ」


 何よりもそれが菫をホッとさせていた。ただ椿が、当たり前のように言葉を話していることが。

 思わず涙が出そうにもなった菫だが、今は泣いている場合ではないと立ち上がる。家には幼い妹たち、また仕事で疲れた父母たちも帰宅する頃だ、早急に帰って夕食を作らなくてはいけない。


「……? ところで椿。どうしてこんなところにいたの? ここじゃ誰にも見つけてもらえないし……ッ!! こ、怖く、ないの……?」

「あ、それがさ……てか、姉ちゃん近いんだけど……」


 咄嗟に寄り添われた椿に引目を向けられたが、それでも菫はめず身震いを示していた。



 ――「ニャア……」



 すると椿の背後から、小さくか細い鳴き声が空気を揺らした。

 思わずビクッと背筋を凍らせれた菫だが、声主が足元に来たところで震えが消え、椿の前で脚を畳む。


「わぁ~猫ちゃんだぁ。しかもまだ赤ちゃんなんじゃない?」


 生まれたばかりとまではいかないが、幼精とまで思わせる、両手に乗りそうなサイズの三毛みけ猫だった。

 菫は手のひらで子猫の頭を優しくでていると、悲しげな椿が頷く。


「こいつ、おれと同じ迷子なんだ。親猫とはぐれちゃったみたいでさ。しかもお腹空かしてたみたいだから、買ってきた食べ物をあげてたんだよ」


 椿の言葉を聞いた菫は、先ほど三毛猫がいたところに茨城県産の白子しらすがあることに気づく。蓋が開いた平たい容器に盛られ、中央だけが大きくくぼんでいる辺りは、子猫が本当に空腹だったのだと受け取れる。


「そっか、かわいそうに……」

「だから放っとく訳にもいかなくてさ。ここの町内じゃあ野良猫のエサやりって禁止されてるから、見つからないようにあげてたんだ」


 野良猫の増加がとどこおる様子がない笹浦市。またその一つの町に住まう菫たち近辺にも多く存在している。一度エサを与えてしまうと再び貰おうと集まるのが動物の習性で、多くの町内で禁止されているのが現実だ。


「親猫かぁ~……あっ! ねぇ椿! あたし、その親猫知ってるかも!」

「えっ! ホントに!?」

「うんっ! さっきあっちで見かけたんだ!」


 指差した菫の指示には、子猫を抱え始めた椿は素直に従い、姉弟してい共に右左を見てから道路へ出る。買い物袋も置き忘れたまま、先ほど過ぎた反対側の抜け道へと向かい、進入してさらに進もうとした。しかし、そこからは子猫の倍の大きさがある三毛猫が現れ、その見た目は椿を探していたときに見覚えのある猫と一致していた。


「やっぱり! あなたも探してたんだね」

「ニャア~」


 菫に返事を答えるかのように親猫が鳴くと、椿は子猫をそっと下ろして再会をほどこす。すぐにじゃれ合った二匹の三毛猫親子からは嬉しさが自然と伝わり、二人の姉弟も微笑みで迎えることができた。


「ゴメンな。お前たちを飼ってやりたいんだけど、おれたちの家はもう動物だらけだからさ」

「椿が言えたことじゃないでしょ?」

「なんだよ、姉ちゃんのイジワル~」


 最後に菫は面白おかしく笑ってしまったが、気づけば二匹の三毛猫はすでに背を向けて遠ざかっていた。寄り添い歩んでいく後ろ姿は理想的な家族絵としても窺えるが、ふと立ち止まった子猫が振り返る。


「ニャア~オ」


 そのたった一言を残し、子猫は親猫の跡を追っていく。先が見えない細い抜け道へと、ついに二人から見えなくなるまでに離れていった。が、椿といっしょに見送ることができた菫は頬を弛ませ、一人静かに頷き返す。



『――どう致しまして。元気でね、猫ちゃんたち』



「……さてと! あたしたちも帰るよ? あ、そうだ。凛と桜たちに見つかったって連絡し……」

「……あのさ、姉ちゃん?」

「ん?」


 スマートフォンを取り出した菫だが、椿の小さな囁きで動きが止まる。弟を見ればいつの間にか下を向いており、小さな手と口を強く締めていた。


「その……ホントにゴメン」

「ど、どうしたの? もう気にしてないからいいってば」

「おれ、ホントに役立たずだよね……だからゴメン……」

「椿……」


 暗いながら何度も謝る椿の声は、力みのせいか微動していた。自分自身の弱さに怒りを感じているようで、少年の悔しさが顕在に窺えてしまう。


「椿……あのさ、椿が役立たずだなんて、誰も思ってないよ。桜や百合に蓮華だって、それに凛だって、もちろんあたしだって」

「……」


 菫はなぐさめて元気を取り戻させようと語ったが、背の低い椿の顔は上がらなかった。ならば目を見て訴え掛けてみようと、今度は膝を地に着けて下から目線で覗く。


「あのさ、椿が今日みたいに家事を手伝ってくれるの、あたしとっても嬉しいんだ」

「でもおれ、姉ちゃんに迷惑ばっか掛けてる……」

「迷惑だなんて、あたしは全く感じてな……」

「……迷惑ばっか掛けて、姉ちゃんに無理させてるし」

「無理? あ、あたしが……?」


 言葉尻まで被せてきた椿の思わぬ一言に、菫は口が止まりじっと見つめてしまった。無理などした覚えはないだけに、弟の発言意図が想像も着かなかったのだ。


「だからまずは、おれが姉ちゃんを助けなきゃって、思ったからさ……まぁ、足引っ張ってるだけだけど……」


 目を合わせようとしても、全く合わせてくれない陰鬱いんうつ気味な弟。俯いた姿勢は今でも変わらず、嫌でも悲哀を感じてしまう。

 しかし姉の菫は微笑を灯し続け、諦めずに静かなエールを送る。


「あたし、とっても幸せだよ。椿があたしのこと、心配してくれてたんだって知ってさ」

「……」


 今度は椿の口が閉じてしまったが、菫は温厚な瞳を輝かす。


「確かに今回は、椿にとっては苦い経験ばかりだったと思う。いろいろ失敗しちゃったもんね……でも、幼いときのあたしも同じだったよ」

「……」

「初めは家事たった一つこなすのに、スッゴい時間掛かっちゃってさ~。それに比べて椿はスゴいよ! 初日から朝ごはんと晩ごはん、それに買い出しとか百合と蓮華の送迎もやってくれたんだからさ」

「クッ……」


 椿から噛み締めたまま口を開けた音が鳴らされた。やはり数々の失敗で、心は相当傷ついていたようだ。


「ホントに自慢の弟だよ、椿」

「……」

「でも、あたしだって椿に無理はしてほしくないんだ」

「……」

「だからさ、あたしはね……」


 椿の拳、口元、そして肩まで微動をあらわにする中、菫の想いは世に放たれる。



「椿がそう思ってくれている。それだけでも、あたしはとっても嬉しいんだ。だから、ありがとね」



 決して冗談などではない、嘘偽りが嫌いな者としての、素直で真っ直ぐな想い。それは弟妹ていまいたちの面倒見を任された姉ならではの心で、ほのかな暖かさを感じる尊い気持ちだ。


「……」

「さぁ、帰ろう椿。みんな、椿の帰りを待ってるから。それに今日はカレーだよ! 椿の大好きなカレーライスだ!」


 椿が沈黙したままで終わりを迎えると、菫は早速さっきの狭い路地裏へ戻り、弟が必死になって運んだでろう、二つの大きな買い物袋を軽々持ち上げる。今日はいつもより張り切って支度をしようと、無意識な早足で帰路を辿ろうとしたときだった。



 ――「意味ないじゃん、それじゃ……」



「へ? 椿……?」

 刹那的に呟いた椿が気になり、菫の足はピタリと停止する。自慢の弟からは再び全身の震えが見え、どうもさっきより増しているようだった。



『椿……どうして? 怒ってる、の……?』



 慰めるばかりを考えてた自分が何か気にさわることを言ってしまったかと、菫は固唾を飲み込んで椿の応答を待ち構える。


「全然意味ないよ……それに、どうしてお姉ちゃん嘘つくの……?」

「はっ? あたし嘘なんて……」

「……ついてるじゃんかよォ!!」


 ついに叫んだ椿は、やっと姉に目を合わせた。その瞳は菫の予想通り、怒濤どとうに満ちた鋭い尖りを放ち、威嚇いかくするまでに恐ろしく見える。

 しかし、菫は驚きよりも疑問を感じてならなかった。どうして椿が怒っているのかも気になるところだが、一番はそこではない。



『――椿、どうして泣いてるの……?』



 なぜなら椿の瞳から、数々の雫たちが頬を伝っていたからだ。感情的な状態とはいえ少年に秘められた、ただならぬ想いがあることを悟らされた。



 ◇支えられて……。◆



「ハァ、ハァ……」

 車の通りも無くなった暗い道中、凛はたった一人で椿の姿を探している。しかし夜のせいで視界がまともに拡がらず、人一人すら見つけられない状況が続いていた。


『椿……あなたの気持ちはわかるけど……』


「ハァ……ッハァハァ……」

 ついに呼吸の果てを迎えてしまった凛は停止し、苦しいあまり電柱にもたれ掛かる。意識も朦朧もうろう衰弱すいじゃくしそうで、今にも倒れてしまいそうだった。


 実のところ菱川凛とは、生まれつき喘息をわずらう、か弱き少女の一人なのだ。


 この事実に関しては、親にはもちろん、親友の菫も知っている内容である。だからこそ菫からはよく、無理しないでね? と優しく告げられることが多々あり、校内外問わず身体の配慮を受けている。



『――でも……今はそんなこと気にしていられない……椿の安否の方が、大切だから……』



 まるで実の弟のように椿を思う、見た目に合わず健気けなげな凛。もつれた短い髪は汗で湿っているが、走れなくとも何とか歩みを再開させた。

 スーパーへの道路を探し終えた現在は、東條家に帰る道を進んでいる。もしやすでに自宅の近くにいるのではないかと、僅かな希望を胸に秘めながら。


「ハァ……ハァ……あれ?」


 東條家周辺を歩いていた凛はふと立ち止まり、遠くに見えた二つの人影を観察する。一つはポニーテールが似合い両手に買い物袋を持つ女子、もう一方は頭一つ分小さく俯いた姿勢の短髪男子だと見て取れた。

 声は聞こえないが何やら話し込んでいる様子だが、凛は喘息気味のため息を安堵に変換し、傍の垣根に寄り掛かる。



『良かった。椿、見つかってたんだね。菫ったら、連絡してくれればいいのに……』



 人影の正体が菫と椿であることに凛は気づき、荒れ狂っていた呼吸を整えながら微笑む。本当に良かったと、今の今まで抱えていた心配もきれいさっぱり浄化され、ひたすらに少年の無事を喜んでいた。

 息を取り戻し次第、菫と椿のもとに向かおう。

 徐々に呼吸が治ってきた凛は壁から離れ、再会できた二人に近づいていく。三人で無事に帰宅すれば、きっと桜と百合、一歳満たない蓮華だってこころよく思ってくれるはずだと、二人の表情が見えてくるまでに歩み寄った。


『――? 椿、泣いてる……』


 しかし椿を見つめた凛は再び制止し、一人道中に立ち竦んでしまう。何かを叫んだ少年の体勢は前のめりで、まるで心の叫びを放った後のように身構え震えていた。

 月光で反射した、溢れんばかりの涙を落としながら。



『椿……そっか。ここは、わたしが行っちゃいけないところだね』



 すると凛は失った微笑みを取り戻し、きびすを返して菫たちから離れていく。椿の想いを尊重しようと、静かに夜の闇に消え入ろうと進んだのだ。

 見捨てた訳ではない。今は姉と弟二人きりの時間にするべきだと、陰ながら空気を読んだだけだ。家族ではない自分が介入する場面ではない。



『鈍感な菫に教えてあげてね、椿。今の椿と、あの日亡くなった苺お姉さんとの共通点を……』



 それは現在姉となった菫に投げた問いだが、無念にも理解してもらえなかった。性別の違いや歳の差まで広い二人の共通点が全く思い浮かばず、一日中悩ましいため息ばかり吐いていた姿を覚えている。

 しかし、椿と苺を知っている凛にはわかっていた。今の椿が何をしたいのか、小さな少年の胸に秘められた確かな想いを。



 ――そして、二人にはあって菫にはない、椿と苺の揺るぎない共通点を。



 歩く革靴の音すらも抑えながら、凛は制服胸ポケットからスマートフォンを取り出す。自分と似た小さな画面を点灯させると、早速立ち止まって菫宛にメールを作成した。歩きスマホは危険だと、菫によく注意されたこともある。


『椿が見つかったみたいで良かったね。百合には申し訳ないけど、今日は家に帰ります。七人の大切な家族たちの時間を、どうか楽しく過ごしてね……でいいかな』


 今日ぐらいは東條家だけで、屋根の下で愉快に過ごしてほしい。

 送信ボタンを押すとスマートフォンを仕舞った凛。すると夜空を見上げながら、胸に手を当てる。多少の雲も浮かべながら、うるわしい月の光が闇をいろどっていた。また春の大三角もしっかりと観察でき、獅子しし座のデネボラ、乙女おとめ座のスピカ、そして牛飼うしかい座のアークトゥルスら三つの星がそれぞれ輝いている。

 その中でも凛は、獅子座と乙女座を繋ぐ牛飼座を見つながら、今度は両手で胸を覆い、星に願いを放つ少女のように握り祈る。



『――あなたも、これでいいと思うよね、苺お姐さん?』



 凛は最後に自身の胸に目を向けると、手を下ろし祈願を終える。そして自身の家へ向かい始め、道中に訪れた東條家の横を静かに過ぎ去っていった。

 

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