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世界征服で理想郷

大学祭のサークル内の文芸誌用に書いたものです。


 ヒーローとヴィランは数年前、世界中にて大戦争を引き起こしていた。正義と悪、その熾烈極まる戦いは一応ヒーローの勝利で終わった。両者ともに大きな被害を受け、互いにその戦いの火蓋は鎮火していった。世間からはヒーローが勝利したと認識されているが、結果は引き分けといった方が近い。ヒーロー、ヴィランの多くはともに大勢が命を落とし、互いに活動はなりを潜めていった。

 しかし今でもなお、活動している面々もいるのだ。

 そして、この物語は日本にいる悪の秘密結社の物語である。




 日本。関東エリア某所。私有地に建てられた六階建てアパートの庭にて、アパートの住人全員が朝のラジオ体操をしていた。管理人である青年が先頭に立ち、皆の方向を向いて身体を動かしている。彼の傍に立つ五、六歳ほどの少女が眠たそうに体操している。そしてそんな二人に向かい合うように体操を行っている住人たち。二十代ほどに見える女性は普通である。

 問題はその後ろだ。その女性以外全員が覆面を被っていた。服装は普通であるが、男女問わず黒地に赤目の覆面を被っていた。

 傍から見れば異様である。しかし、彼らにとってはそれが普通、日常なのだ。覆面着用は秘密結社戦闘員の義務、というよりお約束である。彼らは秘密結社。世界征服を目指す秘密結社〈ユートピア〉である。


「よーし、それじゃ今日の任務について話す」

 体操を終えた〈ユートピア〉の面々はアパート(住居兼アジト)の食堂へと移動して朝食を摂っていた。そこで最高幹部兼管理人の青年がホワイトボードを持ってきて、黒いペンを走らせていく。

「今日はスーパーで卵一パック五十円の安売りだ。今回はそのスーパーを占拠して、卵を買い占めろ。今晩のおかずだから」

 青年が口にした任務内容。それに対し、戦闘員面々は口々に言い出す。

「え~卵っすか~」「あたしお肉食べたーい」「俺もすき焼き食いたいでーす」「わたし焼肉」「僕はジンギスカン」「お米食べろ!」


「うるせぇぇっ! おれだって食いてぇよ肉! でも仕方ないでしょうが! 資金不足な上に戦闘員全員養ってんだから! 学費だって高ぇんだぞクラァッ!」


 戦闘員たちの好き勝手な物言いに怒る最高幹部。しかし誰も焦らない。なぜならいつものことであり、すぐに納まるからだ。

「ふ、ふぇ……」

 そう。青年の傍らにいた少女――総統によってすぐ納まるのだ。

「あ、ちょ、理想? 怒ってないよ? 怒ってないから泣かな」

「ふぇぇぇ……」

 妹でもある総統の涙に滅法弱い最高幹部である。泣かせまいと焦るが努力むなしく、総統の目からは涙が溢れ出す。

「泣ーかした泣ーかした」

「いーけないんだ、いけないんだ」

 その様子に悪乗りする戦闘員たちもまたいつものことである。

「……ごちそうさま」

 そんな戦闘員の中、朝食を終えた一人が食器を片付ける。そのまま自室に戻り学校の制服に着替え(当然覆面は取る)、騒がしい食堂へと戻る。総統はすでに泣き止み、最高幹部は鬼の笑顔で戦闘員たちに食器を洗わせていた。

「あ、カツミー」

 総統が制服を着た戦闘員へと駆け寄っていく。

「ガッコーいくの?」

「うん、行ってくる」

「じゃあ、いってらっしゃい」

「行ってきます」

 総統は満面の笑みで言った。それに「マジ天使」などと反応する戦闘員がいたが、最高幹部に音速で尻を蹴られ、悶絶しながら洗い物を再開する。

 制服を着た戦闘員はアパートから出て、学校へと向かう。彼の名は名梨克己ななしカツミ。〈ユートピア〉の戦闘員774であり、現役高校生である。



 私立琥銀こしろがね高校。克己の通う高校であり、それなりに進学校であったりする。制服は学ランとセーラー服。土曜日には半日授業あり。

「ふぅ」

 克己は自身の属する教室、2‐Aに入り一息ついた。そんな彼に話しかける者が三人。

「よう克己」

「おっはよー!」

「おはようございます克己くん」

 話しかけてきたのは克己の友人である男子一人に女子二人である。

 男子の名は黒舟表くろふねオモテ。物腰柔らかであるが人相がだいぶ悪い。

 女子の一人は短髪でセーラー服の上にジャージの上着を着用している。彼女は黄嶋菜々きじまナナオ。見た目通り、活発でボーイッシュな女子である。

 もう一人は長髪で清楚な雰囲気を醸し出している。名は桃花由利ももばなユウリ。お淑やかであるが怒ると怖い。即顔面パンチの刑である。

 この三人はよく一緒にいることが多い。本人たち曰く「昔馴染み」らしい。琥銀高校に入学してから、その三人の中に克己が混じるようになったのである。

「おはよーさん。しかし相変わらず両手に花だな、表」

「はは、やめてよ克己。こいつとは友達だけど、そんな関係じゃないよ。鳥肌が立っちゃうじゃないか」

「そうですよ克己くん。わたしたち、こんなのタイプじゃないですし」

「……克己、オレ泣いてもいいよな」

 幼馴染二人の毒舌に表は泣きそうになる。もっともこれもまたいつもの光景なのだが。

「ねぇねぇ、ところで克己。今朝のニュース見た?」

「ん? いや見てないけど」

 奈々緒の言葉に克己はノーと返す。すると奈々緒は活き活きと話しはじめる。

「あのね、あのね! スカイ6が知事から功績を認められて、表彰されることが決まったんだよ」

 スカイ6とは克己の住む町で活動しているヒーローである。ヒーローという立場上、当然〈ユートピア〉と対立しており、毎度相対することになるため、克己はよく知っていた。

 奈々緒の話しによると、今までのヒーロー活動が認められたらしい。だが、克己はふと思うことがあった。

「でもよぉ、秘密結社とあった時の被害って、ヒーローのせいなのが多いよな」

「「「…………」」」

 克己の言葉に奈々緒は黙り、表と由利の二人も固まった。

 実際、克己の言う通りなのだ。スカイ6と〈ユートピア〉の戦いでは、町の被害はそこまで酷くないが多くはヒーローが、というかリーダーであるレッドのせいである。スカイ6のリーダーはノリとテンションで動くような男なので、ぶっちゃけ被害に関してあまり考えていない。早い話、アホなのである。

 それで何故そのことを口にして三人が固まるのかは克己はわからなかった。ファンなのだろうか、という風に結論付けている。



 放課後。克己が帰路を歩いていると、携帯電話ガラパゴスが振動する。開いて画面を確認すると『蛇腹 凪』と名前が出ていた。

「はい。もしもし」

『もしもーし! スーパーヴィラン美しょ――』

 ピッ、と迷わずに通話を切る克己。その直後、再度振動が起こる。

「はい」

『ちょっとぉ! 決まり文句前に切るって――』

 再度切る。そしてまた着信。

『うん、いや、とりあえず話を』

「コノ電話番号ハオ客様ノゴ都合ニヨリ、現在使ワレテオリマセン」

『いや、さすがに怒るよ?』

「放課後で疲れてんのに、あんたのアホ、じゃなくて常套句聞くと余計疲れるんですよ」

『アホって言おうとしたよね? わたし立場上上司だよ? 幹部だよ?』

 電話の相手は〈ユートピア〉幹部メドゥーサこと蛇腹凪じゃばらナギ。総統の家庭教師も務めている。基本的にテンションが高く、基本的にテンション低めの克己とは毎度の如く漫才のようなやりとりをしている。

「で、何の用ですか?」

『ん、あのさ。りっちゃんがプリン食べたいって言ってたから買ってきて。あとわたしの分でババロアも』

「はいはい。総統にプリンと凪さんにハバネロですね」

『うん、お願――ちょい待ち。それ近いけど遠いものじゃ』

 言い切る前に切った。プリンは買うがハバネロとババロアはどちらを買おうかと考える。怒られるので素直にババロアにしておこう、と克己は近くのスーパーへと向かった。



「お、克己じゃないか」

「あ、先輩」

 スーパーで買い物をしていると克己はバイト先の先輩である青井六月あおいジュンと鉢合わせた。六月は髪の長いクールビューティーであり、武道を嗜んだりしている。

「買い物か?」

「ええ。先輩もですか?」

「ああ。卵が安売りだからな」

 雑談をしながらデザートコーナーへと向かう。

「何だ、甘いもの好きだったのか?」

「いえ、これは頼まれたもんですよ」

「ん~? 彼女か? 彼女に頼まれたか?」

「違いますよ。てか、いないんで」

「……ほほぅ、そうかそうか。いないのか……」

「?」

 彼女不在を聞いた六月は何やら嬉しそうである。克己には何故かは分からないが。

 しばらく雑談をしつつ、話題はヒーローとヴィランに関するものとなった。

「なぁ、最近は平和ボケしていると思わないか?」

「……どういうことです?」

「ヒーローとヴィラン、前までは世界中で血みどろの戦いをやっていた。というのに今では、どちらも軽い空気の中で動いていると私は思うんだ……。まるで前の緊迫したものを忘れているかのように」

「……」

「だから思うんだ、平和ボケしていると。それでは今のヒーローとヴィランは先人に失礼なんじゃないかと。彼らの苦しみを無にしているんじゃないかって……」

 六月の言葉は先の者たちへの敬意があった。この現在はその者たちがいたから出来上がったもの。苦しみと血などによって訪れた今が平和ボケなどしていたら、それは失望されるようなものなのではないか。

「……すまん、買い物中に話す内容じゃなかったな」

 克己が黙っていると気を悪くしてしまったと思ったのか、六月は謝った。克己はそんな彼女に首を横に振った。

「いいんじゃないですか? 平和ボケ」

「え?」

「ヴィランがどうだったかは知りませんけど、ヒーローは平和になることを願ってたんでしょ? じゃあ、いいでしょ。平和ボケであっても、平和ではあるんですから」

「……」

 平和ボケでも平和。だったらそれでいいではないか。争いよりはよっぽどマシだ。克己はそう思っている。少なくとも、彼は今が好きなのだ。

「そう、か。そうだな……」

 克己の言葉に六月はいくらか気が楽になったようである。安心したように微笑んだ。

(まぁ、それでも俺は世界征服を目指すけどな。争いがあっても、それが〈ユートピア〉の生きる目的なんだから)



 プリンとババロア、あと念のために卵を一パック買い、克己はアジトへと帰った。そして現在彼はというと。

「よーし! これから作戦を始めるぞゴラァ!」

 先ほどのスーパーの裏にいた。

 指揮を執っているのは獅子型怪人エレクトロ・レオ。本名は獅子尾孔太郎ししおコウタロウ、愛称コーさん。〈ユートピア〉の数少ない怪人の一人である。彼は克己含む〈ユートピア〉戦闘員二十数名を率いて『安売り卵買占め作戦』を実行しようとしていた。

「テメェラァ! この作戦は何のためだぁ?」

『夕飯の為であります!』

「安売りを狙うのは何でだ?」

『活動費が足りないからであります!』

「よーし! てめーら! これは小さな一歩だが成功させることに大きな一歩がある!」

『オー!』「イー!」

「誰だ今違う掛け声をした奴ァ!」

 と、路地裏で騒ぐ面々。こうやって皆のテンションを上げてから行動に移すのがレオのやり方である。無駄に熱い男なのだ。

「何の為に世界征服をする?」

「総統が喜ぶからであります!」「総統の為であります!」「総統がかわいいからであります!」

「このロリコンどもがぁぁぁぁっ!」

『ギニァァァァァァァァッ!』

 戦闘員たちの発言にレオは電撃による制裁を与えた。克己はそれを見ながら、呆れの溜息を吐いた。



「グワァーハッハッハ! このスーパーは我々〈ユートピア〉が占拠したー!」

 突入後、スーパーの占拠はすぐであった。店員数名を人質に、客を外に出して立てこもる。ここまでは完璧なのだが。

「あらやだ。このハムうま」

「ねぇちゃん、この試食もうちょいもらっていいかい?」

「あ~懐かしい駄菓子があるわ」「お、このシール集めてたなぁ」

「……おまえら遠足前の園児気分かゴラァァァッ!」

 やる気満々なレオに対し、戦闘員たちはフリーダムである。人質を離さない点は立派であるが、克己としても同僚(年上が多いが)のこれはどうかと思っている。

「コーさん、このハムうまいですよ」

「じゃかあしい! んなことよりも……あ、マジだ。うまいじゃん」

「食うな」

 流され始めたレオに克己はボディブローを入れた。

「ごぶふぉ!? ちょ、774……俺立場上上司……」

「じゃあ、流されないでちゃんと指揮してくださいよ。というか、お前らもちゃんと仕事しろよ」

 と克己は拳を鳴らす。

『い、イエスマム!』

 それに対し、戦闘員たちもすぐさま配列する。

「もうお前が指揮執ればいいんじゃねぇかな……」

 レオは腹部を摩りながら、そう言った。

「……卵よりこっちのハム買い占めたらいいんじゃ――」

「お前も食ってんじゃあねえかああああ!」



 〈ユートピア〉の面々が店内にてコントのようなことをやっている中、店の外では野次馬ができていた。そこへヒーローたちが到着する。

「スカイ6見参!」

 と、リーダーであるレッドがファインティングポーズをとるが、他のメンバーしない。

「リーダー。アホみたいですよ」

「うるせぇ! やらなきゃなんかしっくり来ねぇんだよ!」

 グリーンの発言にレッドは返す。野次馬からも「遅ぇよ」「とっとと何とかしろよー」「レッド帰れー」などと野次が飛ぶ。

「くぅ~……今に見てろよ民衆どもォ……」

「台詞が完全に悪役だぞ」

 ブルーの言うとおり、ドスがきいてる上に赤いマスクの下ではレッドは悪人面になっている。

「リーダー早くしましょうよ」

「こっちは学校の課題もあるんですよ~」

「高校生って忙しいんですからね」

「うるさいわ! てか、知るか!」

 ブラック、イエロー、ピンクの若いメンバーの言葉にそっけなく返す。が、それに対して返ってきたのはピンクの毒舌だ。

「あ、リーダー中卒ですから知らなくて当然ですよね」

「」

(うわぁ……)

(言ってしまったよコイツ)

(リーダー固まっちまったぞ、おい)

(由利……それ禁句だよ)

 固まるレッドに四人はどう慰めるか否か考える。

「ちっくしょおおお! いいよ、もおおおお! 行けばいいんだろうが行けばバーカ、バーカ!」

 マスクの下を涙で濡らしながらレッドは店へと突入した。その様を見たメンバーと野次馬は同時にこう思った。

――子供かよ……。



 一方店内。〈ユートピア〉は安売り卵の会計を着々と済ませていた。

「合計五〇〇点で2万5千円となります」

「いや、すみませんね。お騒がせして」

「ん、あ~いえ。買ってくださるなら店に大した損はございませんので」

 レジの店員に一応謝罪の言葉を述べつつ、克己は会計を済ませる。ちなみにレオや他の面々は試食に行った。

「いやぁ、こっちも任務で生活が懸っているもので」

「お互い大変ですよね。まぁ、もし特撮でよくある爆発とかで来られたら困りましたけど――」


――ドカァァァァンッ!

「スカイ6! レッド! 見参!」

 店の入り口にてマイケル・ベイのような爆発が起こった。

「「…………」」


「なんじゃああ!」

 爆発とともに戦闘員の大半が吹っ飛んだ。同時に店の入り口も吹っ飛んだ。

「〈ユートピア〉! 貴様ら、何しようとしたが知らんがとりあえず成敗してやる!」

「何なのコイツ!」「しかも入り口壊しやがった!」「ああ! 死ぬな戦闘員753!」「あ、あぁ……死んだ婆ちゃんが見える……」

 かなりの大惨事である。克己も何事かと様子を見に来る。

「うわ、何だこりゃ」

 倒壊した入り口にほとんどの戦闘員が戦闘不能状態。見れば赤いマスクに赤いヒーローコスチュームと、よく見慣れた格好のヒーローがいた。

「いくぞオラァッ!」

 レッドが両手を合わせ、開く。一見するとかめ○め波のようである。このヒーロー、あろうことか初っ端から必殺技を放つつもりである。

「スーパーノ――」

「はいドーン」

「ごぶべぇっ!?」

 レッドのある種やってはいけないことを克己はドロップキックで阻止した。レッドは派手に吹っ飛ぶ。

「テメ、いきなり何す――」

「正座」

「は? 何を」

「正座ァッ!」

「はいぃっ!」

 戦闘員に正座するヒーローという何とも珍妙な光景が出来上がった。

「何初っ端から必殺技撃とうとしてんの? ヒーローだろうがお前よぉ。それにどれだけ苦労したよ? こちとら色々と訓練とかしてる上に財政難なんだよバカ。それを何一瞬で無にしようとしてんの? そんなんだからネットで叩かれるんだよ。大体この前も――」

「……すんません、反省してます」

(まぁ、必殺技出し惜しみするヒーローもおかしいっちゃおかしいけどな)

 克己の愚痴に近い言葉を聞かされるレッドを見ながら、レオはそう思った。実際口に出したら何か色々と駄目になりそうなので黙っているが。

 そこへ他のヒーローたちも到着する。

「嗚呼」「またか……」「いつもの戦闘員に怒られてるね……」「使えないですねリーダー」「由r、ピンク、お前……」

 正座しているリーダーの姿に皆口々に声を漏らす。

「じゃ、役者も揃ったしコーさん。戦闘しましょう」

「え? いやもう退散してよくね?」

 レオの言う通り、もうすでに卵は買い占めたので退散しても良いのだ。しかし克己は続ける。

「いや、だいぶ人員減らされた上であんな大量に運ぶとなると、ねぇ。それに絶対ヒーロー邪魔するし」

「何こそこそ話してやがる!」

 と、どうやら再び突入時のテンションに戻ったレッドがビシィッ、と鋭く指差す。

「なぁ、ここの卵買ったものだからそのまま帰っていい?」

「んなもん知るか! 悪党のものは正義のもの! お前らコテンパンにして卵を掻っ攫ってやらぁ!」

「……な?」

「うん、あいつよくヒーローになれたな」

 ジャイアニズムを体現したような男、それがスカイ6のリーダー・レッドであった。他のメンバーはというとグリーン以外肩を竦めている。

 そんなレッドの身勝手な台詞に〈ユートピア〉の戦闘員たちは文句を言い始める。

「ふざけんなー!」「サイテー!」「この腐れジャイアンもどきが!」「家に帰れ!」「バーカバーカ!」「ネット炎上まっしぐらマン!」「てめーのブログとツイッター荒らしてやるからなぁ!」

「こ、こいつらぁぁっ……」

「いや、リーダー。リーダーも悪いからね」

 戦闘員たちに好き勝手言われ、震えるレッド。おそらくイエローの忠告も耳に入っていないのだろう。怒りに震え、というか言われっぱなしで泣くのを堪えている彼に対し、戦闘員たちはもっとも言ってはいけない禁句を言ってしまう。

「お前絶対モテねぇだろ!」

「っ」

――あ、これはまずい。

 スカイ6の面々は同時にそう思いレッドから距離をとる。

「あ、黙った。図星なんだろー!」「アタシだったら絶対ムリ」「やーいやーい非モテヒーロー」「アーホアーホ!」「つぶやいてやるからな! レッドは非モテだって!」

 戦闘員たちの言葉に震えることなく佇むレッド。しかしそれは嵐の前の静けさのようである。そしてその静けさを破るきっかけは――

「……まぁ、言動以前に雰囲気からしてモテそうにないよな」

 克己であった。軽く同情混ざりに聞こえる言葉である。それに対する答えは一つ。


「うぅぅぅぅぅぅるせぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 レッドの大絶叫であった。おまけに大号泣している。マスクの目の部位から滝のごとく、涙が流れている。

 実際ヒーローになる以前にモテない男、それがスカイ6のレッドなのだ。

「どいつもこいつもモテねぇことを弄りやがってぇぇっ! モテるのが偉いのか? モテるのがすげぇのか? んなもん履歴書に書けんのかよぉぉ!」

「ヴァレンタインにチョコは貰えるぞ」

「じゃかあしわぁぁぁ! 黙れやこの戦闘員!」

 克己の一言にレッドは完全にブチ切れた。手を再び構える。


「悪よ滅べ! スーパーノヴァアタックァァァッ!」


 もはや涙と鼻水と汗でぐしょぐしょの顔を怒りに歪め、レッドは必殺技を放つ。

 スーパーノヴァ・アタック。早い話掌から太陽エネルギーの光線を発射する技である。一見赤い○めはめ波である。

 それが絶大な威力とモテない男の憤怒を持って、克己へと直進していく。それを克己は――。

「ほいっと」

 弾いた。というか叩いた。

「うっそーん!」

『アイツすげぇぇっ!?』

 レッドは素っ頓狂に驚き、〈ユートピア〉の面々とスカイ6の他の皆は声を上げた。

 ちなみに叩かれたスーパーノヴァ・アタックはそのまま直進していき、レジへと到達。

「あ」

 ――ちゅどぉぉぉぉんっ

 そして爆破。

「ぎにゃああああああっ!」

 レジにいた店員が悲鳴と共に弾け飛んでいった。ついでに大量の卵が一体化した黄身と白身も宙を舞い散っていく。

「……」『……』

 皆黙る。沈黙が続く中、克己とレオは目を合わせ、互いに頷く。

「退却ぅぅぅぅぅっ!」

 レオの掛け声に〈ユートピア〉の面々は皆一斉に裏口へと逃げて行った。克己はレジにいた店員に土下座して走り去っていった。

「……あ~、正義は勝つ! はぁーはははは!」

「完全に不戦勝だぞ」

 笑うレッドに対し、ブルーは冷たく言った。

 



「はぁ……」

 戦闘服から着替えた克己は缶コーヒーを飲みながら、夕焼け道を歩いていた。レオ含め他の皆はせっかくなので任務費用で飲みに行くとのこと(そんなことすれば最高幹部に怒られる)。克己は未成年なので先に帰ることにした。

 任務は失敗。はっきり言って世界征服とは関係ないものであったが失敗ということに変わりはない。しかも自分の判断のせいによるところが大きい。そこはかなりショックである。

「カツミ~」

 とぼとぼと歩いていると、道の先から総統が手を振りながら駆け寄ってきた。そのまま克己に抱きついてきた。

「……どうしたの?」

「迎えにきた~」

 克己に抱きついたまま見上げるようににこやかに笑う。克己はその頭を撫でる。

 そして手を繋ぎながら、アジトへと帰る。

「ごめんな、今日失敗した」

「え~……」

「ごめんな」

「……うん、ゆるす!」

「ありがとうな」

 会話をしながら二人は帰路を歩く。

「でも、いつかおとうさんのユメを叶えようね」

「あぁ、絶対世界征服しよう。それは絶対に」

 そう二人は誓った。総統は父の遺した夢を。克己は前総統への恩義のために。彼らは同じ目標へと、皆も共に目指していく。

 それは果たして、いつになるのか。


「そういや夕飯どうしよう」

「おにいちゃんがゴハン食べに行くって。カツミとナギもいっしょに」

「……コーさんたちは?」

「えっと、お仕置きされてたよ」

「……そっか(ばれたんだな)」


END






 一方ヒーロー。彼らはすでに基地へと帰り着いていた。レッドこと赤木流馬は一枚の紙を持っていた。

「何で俺が弁償することになってんの……?」

「まぁ、君の必殺技だし」

 そう返したのはグリーンこと緑河時朗。イケメンだが存在感が薄い。

「自業自得だ。もっと考えろ」

 そう言ったのはブルーこと青井六月。

「馬鹿ですねリーダー」

 ピンクこと桃花由利が毒を吐く。

「あの戦闘員の言うこと聞かないからだよ~」

 イエローこと黄嶋奈々緒はまさに他人事というように言う。

「じゃ、俺らは課題やりますんで」

 ブラックこと黒舟表は部屋に戻ろうとする。

 そんな彼らに流馬は助けを求めるように言った。

「な、なぁ、俺らチームだから」

「いやだよ」

「断る」

「丁重にお断りします」

「やだよー」

「断固拒否っす」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 なんだかんだで平和なのであった。


ギャフンEND


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