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刺激の抜けた、甘ったるい一時

作者: 梶本俊貴

「君は何を思い悩んでいるんだい?」


「それが分からない事に悩み苦しんでいる。この鬱憤の正体が何なのか、私も知らない」


 噛み合わない歯車が動く事を拒んでいるように、もどかしさと苛つきが膝を細かく揺らす。深夜のファミレスで何を話しているのだ、という疑問にそんな年頃なんだろうと結論付けて氷の入っていないコーラを飲み干した。


 甘ったるい不快な香りが鼻から抜ける。加えて、騒いでいるクソガキの汚ならしい笑い声は耳を塞ぎたくなる。鋭い視線で八つ当たりをする為に立ち上がる途中で、静止の声が鼓膜を揺らした。


「おいおい、面倒は避けてくれよ」


「お前と話している事以上に面倒な事は無い。安心して私の憂さ晴らしを見守っていろ」茶色の髪を見下ろし、彼に告げた。「会計は頼む」


 別に金が無いわけではないし、財布の紐を固くしているわけでもないが、私には大いなる使命があるので行かなくてはならない。


「いや、まだ注文の品が来ていないよ」


 キラキラとした光が私の暗い激情を射る。コンタクト越しに見える彼の瞳には、輝かしい未来を幻想させるような眩い世界が広がっていた。反吐が出そうだ。先程、無理矢理にでも飲んでしまったコーラが逆流を始め、胸が焼けるような感覚に苛まれる。


「お前を見ていると体調が悪くなった。憂さ晴らしはまたの機会にしよう」


「思い止まってくれて良かった」清涼感溢れる笑顔を向け、砂糖を振り掛けたような声を発した。「で、話は最初に戻るけど」


「言っただろう、私自身にも理解出来ないのだ。だから苛々している。天才の悩みは凡人には分からんだろうがな」


「そうだね、天災の悩みは理解出来ないかな」


「そうだろう。凡人にしてはまともな言葉じゃないか。誉めてやるからありがたく思え」


 仕事終わりにアルコールを飲んだかのような充足感が満ちる。違和感が集まる毛玉を吐き出し、私は鼻を鳴らした。


「君は複雑な人間だよ」


「単純なお前が羨ましいと思わなくもない。凡人であるお前の美点は忌々しい程の単純さだ」


 早い話、馬鹿なのである。


「悪い気持ちにならない僕は、やはり君が言うように単純な人間なんだろうね」


「良かったじゃないか、一つ勉強になったな。天才の教えを受けたお前はまた一歩、人間として成長したぞ」


「嬉しいよ。じゃあ一つだけ、成長した僕からアドバイスをあげる」


「アドバイス? この私に? 良いだろう、言ってみろ。下らない内容だったら爆笑してやる」


 爽やかな笑みはそのままで、それでも綺麗な瞳には妖しい色が塗りつけられていた。


「もっとシンプルに考えたら、見えていなかったモノも見れるはず。今の視点で視認出来ないのなら、見方を変えてしまえば良い。認識一つで世界は変わるはずだよ。

観測していなくとも宇宙や星があるように、確かに存在するんだから」


 胸焼けが、表情を歪ませる。決して、彼の言葉が響いてしまったからではない。


「……笑えんぞ」


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