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第六話

白峰にあの場所がバレちまってから二日後。

「今日もすぐ帰りたい気分じゃねーな…。」

俺は授業が終わると、家に帰らずにそこに向かった。


「ここを曲がれば、ってこいつは…。」

目的地目前の坂。そこに一人分の足跡がある。

嫌な予感が…。

「あ、流お先〜。」

「はぁ…。」

やっぱな。何故かしら俺が行くことを読まれてやがったか。

この前来たときに道順もしっかり覚えられたらしい。


「酷いな〜いきなり溜め息。」

「つきたくもなるっての…。」

こいつは帰れと言っても帰らないだろう。

仕方がねーな、多少うるさくはなるが我慢してやるか。

俺は白峰から少し離れたところに寝っころがる。


「よく寝るね〜、身長伸ばしたいの?」

「んなもん特に欲しいとも思わねーよ。寝てると楽なだけだ。」

近頃は楽でもねーけどな…迷惑な夢のせいで。

「楽か〜。…流ってさ、夢見る方?」

心読んだみてーなタイミングだな。

「あんま見ねーよ。寝つきが良いらしくてな。」

本当のことは言わねー。これだから俺は母さん達に「素直じゃない」って言われるんだけどな。


「そっか…あたしはさ、最近おんなじのをよく見るんだ。」

へぇ、こいつもか。奇遇だな。

「毎回同じ夢か?」

「うん。しかもそれがさ…。」

白峰は少し顔色を暗くした。

「…お姉ちゃんに呼ばれてる夢なんだよね。」

(お姉ちゃん?)

ちょっと待て、こいつの姉は…。

「お前の姉って…。」

「…死んじゃってるよ。3年前に。」


そうだ。こいつの姉は死んじまってる。

二十歳を越えたばかりで、何かの研究者だったらしい。

こいつの父親…宗太も働いている勤め先で起こった事故で死んだって聞いた。

俺も父さんと母さんと葬式に行ったんだ。

名前は…銀杏だったか?


「お姉ちゃんがさ、あたしを呼んでるの。おいで…ってさ。」

「……」

まるで幽霊みたいだな。なんてことを口に出すほど俺は空気の読めない奴じゃない。

とりあえず無言でやり過ごしてみる。

「あたしもその時のこと詳しくは聞いてないけどさ、怖かったから。でも夢に出て来るくらいだから、きっとすごく無念だったんだな〜って。」

「…で、寂しいからお前を呼んでるってか?」

あ、言っちまった。

「あはは、そうだとしてもあたしはまだ行きたくないな〜。」

少し笑いながら白峰は答えた。

そりゃ自ら望んで死ぬ奴なんて殆ど居ないだろうしな。


「…まあそんな夢。ごめんね、空気重くしちゃって。」

「謝らなくてもいいっての。それに、少しはお前も気が楽になっただろ?」

俺にしては気の利いたセリフのつもりだ。

「うん…結構楽になったと思う。少なくとも一人で考えてるときよりはずっと。」

ようやく白峰が顔色を明るくすると、微笑みながら俺にこう言った。


「ありがとう、流。」

「……」

不覚だ。一生の。俺は一瞬、その笑顔に見惚れちまった。

「やだな、注視しないでよね。」

「ち、注視なんかしてねーよ。」

照れ隠しに背を向けると、

「もう暗ぇからそろそろ帰るぞ!」と言って立ち上がる。

が、背後で白峰が立ち上がる気配が全くない。


「おい白峰…。」

多少イライラしながら振り返った、俺の目に映ったのは、

白峰がゆっくりと、草の上に倒れていくところだった。

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