第二話
「……………」
「……………」
よぉ、流だ。
今俺は、新学期早々遅刻の罪で廊下に立たされている。
え?なんで無言が二つあるのかって?そりゃもう一人遅刻がいるからだ。
え?なんでお前は両手にバケツ持ってるのかって?
まあ少し回想させてもらうとだな。
『キーンコーンカーンコーン……(チャイム鳴り終わり)』
『よーしみんな席に着け〜』
着席後20秒経過。
『ガラガラガラ!(ドアを開ける音)おはようございます!』
『白峰ェ!チャイム鳴って20秒経ってるぞ!遅刻罪で廊下に立ってろ!』
『そんなぁ、先生これには事情が…』
『問 答 無 用 だ!』
さらに15秒後。
(あいつ立たされてるじゃねーか、ハハハ!それがお前の業だ!)
『スルスルスル…(ドアを開ける音)そ〜〜…(怪しげな効果音)
『氷渡……よもや遅刻を免れようとは思ってないな?』
『あ…バレてました?(冷や汗)』
『廊下行ってこい。バケツに水汲んでな。』
というプロセスを経て今に至るワケだ。
何?格好悪いって?言うな、傷つくから。
「…流のせいだからね。これ。」
「お前がバッグぶん回してたのが問題だろ。」
「いや、流が寝坊したのが悪い。あたしいつものところで待ってたのに。
一緒に行ってれば遅刻はしなかったと思うね、あたしは。」
「一緒に行こうと頼んだ覚えはねーし、頼まれて承諾した覚えもねーぞ俺は。
つか名前で呼ぶのはやめろって何度も言ってるだろが。」
「なんで?流を流って呼ぶことの何がいけないの?」
「馴れ馴れしい!」
いつのまにか責任のなすりつけ合いから会話が飛んでやがるな。(飛ばしたのは俺だが)
結局この状況は改善されないワケだ。
「キーンコーンカーンコーン……」
! 解放の時間だ!
すぐさまバケツの水を捨てに行った俺の耳に、
「氷渡、白峰、お前らは放課後残って教室掃除をしていけ。」
担任の無情な言葉が飛び込んできた。勘弁してくれよ……。
この学校における遅刻はそこまで罪が重いのか?
「え〜!」
「何か言いたいことがあるのか?」
「いえ、なんでもないです。」
白峰の非難も、一言で虚しい抵抗に変わってるしな。
くそっ、こいつと二人で残り掃除か。監視が居るんじゃごまかせねぇな。
「はぁ…」
俺は恐らく今日何回もするだろう、大きなため息をついた。
その日の放課後。
「どっちが雑巾やるかジャンケンしない?」
「自ら負け確定の勝負を挑むとは愚かだな。」
「そういうのは勝ってから言ってよね。いくよ!ジャンケン!」
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「あ〜もう、面倒くさいなぁ〜。」
「言ってる暇があったら手と足動かせ。もうすぐ終わりだろ?」
なんで俺より早くお前がダレ気味になってんだ。
まあ箒より雑巾の方が疲れるとは思うけどな。
勝負に負けた奴が悪い。
「女の子に水仕事をさせるなんて!酷すぎじゃない!?」
「ジャンケンで決めるっつったのはお前だろ。」
「それにしたってわざと負けてくれるとか、そういう心遣いないの?」
「んな生温かそうなもんは持ち合わせてねーよ…ってもう終わりじゃねーか。」
「あ、じゃああたしもう帰るね!」
「おい!後片付け」
「よろしく〜!」
最後まで言わせねぇ内に脱出しやがった。
しかも雑巾放り投げて埃散らかしてったしな。
これだから女子は困る。なんでもかんでもやり方がずさんなんだよな。あ、偏見か?
「ちっ…しゃーねーな。」
俺は埃まみれになった一部の床を掃くと、箒と雑巾を掃除用具入れに投げ入れ、
教室を後にした。