第一話
「流〜、そろそろ起きたほうがいいんじゃない?」
母さんか…でもまだ起きたくねぇな。
「もう8時20分前よ〜。学校、遅刻したいの?」
ちょっ…8時20分?それはマズイぞ!始業式は8時30分からだ!
「朝ごはんは?」
「食ってる暇無いっての!」
(もうちょっと早く声かけてくれたっていいじゃねーかよ…)
母さん…良子はちょっと暢気すぎるところがある。
ついこの間も、天ぷら鍋が炎を上げはじめたってのに、
「アツアツで美味しそうね〜♪」とか言ってたしな。つかこの家後何年保つんだ?
超スピードで支度を終え、靴を履くと、母さんの「いってらっしゃ〜い」という間の抜けた声を背で受け、ドアを蹴り開けて表に飛び出した。
此処から学校まで徒歩約15分。走ればなんとか間に合うかもしれねーな。
「和也さんと真は遅刻なんてしないのにね〜」
息子を見送った良子はそんなことを呟きながら、家の掃除を開始した。
「っしゃ!この時間なら…!!」
俺は通学路を疾走しながら、残りの距離と今の速さから間に合うかどうかを計算していた。
(アクシデントでも発生しない限りは間に合う…)
とか考えてるときばっか、アクシデントは起こる。
案の定、学校前の最後の曲がり角でそれは起こりやがった。
しかも想像しえない形で、だ。
突然視界内に現れたのは、目の前でバッグを振り回しながら歩いている女子生徒。
とっさに避けようとはしたが、人間の反射神経にも限界はある。
「ふぎゃっ!」
猫みたいな声をあげると、俺はその場にひっくり返った。
「あ、ゴッメ〜ン。当たっちゃった。(笑)」
「(笑)じゃねぇぇぇ!!」
ふざけた謝り方をした女子生徒…白峰 楓は、
「あはは、あたし新学期早々遅刻って嫌だから、先行くね〜」
笑いながら校門へと走っていっちまった。
「白峰のヤロー…って急げ急げー!」
あいつへの制裁の前に、差し迫る事態を避けねぇとな。
俺は校舎へと、夢の無遅刻を賭けたラストスパートをかけた。