第九話
久しぶりだな、流だ。とりあえず近況報告するぞ。
最近の俺は、ほぼ毎日図書館に通ってる。
目的は…言わなくても大体想像つくだろーけどよ。
"夢"について調べてる。意味や言論、手がかりになりそうなもん全部な。
つっても、あんまはかどっちゃいねーワケだが…。
「見つかんねーな…想定内だったけどよ。」
何しろ夢なんて不確かなもん調べてんだからな。多少のことはしょうがねー。
つか検索機能のついたPCぐらい置いとけよな。
「お…あったあった。」
ようやくそれっぽい本を見つけ、手を伸ばした瞬間。
「…!」視界にはいるもう一本の手。進む方向は俺と同じだ。
速度を速める俺と相手の手が、同時に終着点を掴む!
「…手を退かしてくれ。」
「アホ抜かせ、俺の方が早かっただろーが。」
「君の目は節穴なのか?氷渡。」
「生憎視力はAを飛び越えてSの域なんだよ、河中。」
この気に食わねー野郎は…同級生の河中治也だ。
何が気に食わねーって?雰囲気だよ雰囲気。
すげー暗さを感じさせる空気纏ってやがる。
後は身長だな。俺より5cmはデケェのが鼻につく。
何?ひがみっぽいって?べ、別に羨ましいなんて思ってねーぞ!
「離せ、本が避けるぜ?」
「そのままお返しするよ。君が譲ればすむ話じゃないか。」
「そのまま返す。」
ラチがあかねーな。こうなりゃ"アレ"で決めるしかねーか。
俺が空いている腕を構えると、河中も手を伸ばしてくる。
「…行くぜ?」
「…受けて立つよ。」
一瞬の沈黙。そして弾ける気合い。
「ジャンケン!」「あんたたちー!!!」
図書館外。
「はぁ…。」
本GETならず。負けたワケじゃねーけどな。
「うるさい!」って掃除のおばちゃんに追い出されちまった。しばらく出禁だなこりゃ。
後0.1秒で決着がついたってのに…嫌なタイミングだぜ。
しゃーねー。今日は大人しく帰ってとくか。
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「ガチャ、キィ…バタン。」
無言で家のドアを開け、そして閉める。
靴を脱ぎ、二階へと上がる僕にかかる声。
「治也…帰ったの?」
「うん、ただいま母さん。」
一度足を止め、振り返ると疲れたような母の顔。
「今日は晩御飯いらないから…。」
「そう…わかったわ。」
再び階段を上がり、自分の部屋に入ると、身を投げ出すようにベッドに倒れ込む。
「しくじったな…今日は。」
おばさんに注意されてしまった。
これから入りにくくなったな…あの図書館。
氷渡のせいで、僕まで被害を被ってしまった。
人の事も知らないで…まったく。
「僕は…"銀杏"を助ける…。」
決意を言葉にして確かめると、僕は眠りへと落ちていった……。