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好き

「あいつ最近いいよな」

 ある男子生徒が言う。それに応えて

「特別カワイイってわけじゃないんだけどな」

「でもなんかイイんだよな。ノリもイイ感じだしさ」


 女子のいない教室で、西高の二年四組の男子一同によるコソコソ女子品定め。

 話題の的になっているのは川島菜摘。


 これまでこれといった特徴もなかった彼女は人気が上昇しつつある。

 そのキッカケはバレンタインデー直後のケリ姫騒ぎ。



 男に振られて逆上して蹴った。



 決して名誉ではない噂を彼女は否定も肯定もせず聞き流していた。

 その甘んじて受け入れているような態度が、彼女は心が広い子なのだと無駄にアピールしてしまった。


 その後も先生にウケ狙いで用事を頼まれても腐らずに淡々とこなし、春休みの補習には自主的に参加し、補習が終われば級友と遊びにも行かずアルバイトにいそしむ。

 男子生徒相手の会話も媚びを売らず卑屈でもなく、ごく自然に受け答えしている。

 女生徒同士の会話も今まで同様にうるさすぎずに楽しげだ。


 外見も、顔の造作に特筆すべきことはなく、スタイルもこれといって目立つところもないのだが、不思議と人目を引くようになっていた。


 たとえるならば、今まで露店で売られていた泥つき野菜が、泥を落とされ化粧箱に入り、果物屋の安売りではない「きょうのオススメ!」に並んでいるような。

 化粧箱は桐の箱ではなく紙の箱。その親しみやすさがまた好感度アップに貢献している。



「なあ、田辺。そう思わね?」


「思うけど手遅れ」


「え? 川島フリーじゃないの?」

「学校でイチャついてる男いたっけ?」


 川島菜摘は男女かわらず同じ態度で接している。校内に特定の親しい男がいるという噂もきいたことがない。


「外の学校。あの蹴った相手」


「フラれて蹴ったって話だったぜ」

「だって、スゲーイケメンだったぞ。俺見たし」

「カーッ、結局川島もイケメンかよ」


 散々菜摘を持ち上げていた連中がやっかみの声を上げた。


 適当に聞き流しながら会話に混ざっていた田辺が改まって問いただす。


「だったら、おまえは川島さんが好きなわけ? ただ『彼女欲しー』と思ってるわけじゃなくて?」


「そりゃあ彼女は欲しいよ。で、川島だったらイイ感じに付き合えんじゃないかなーって」


「ああ、ダメダメ。そんなんじゃ絶対ダメ」


「イケメンから奪えるなんて思ってねえし。残念ってだけだよ」


「だから『その程度』なんだろ。あのイケメンは川島さんだから付き合ってんだよ。ちゃんと選んでんの。あんだけのイケメンが選んだ女を『誰でもいいや』で付き合えるわけねーだろが」


 田辺には未だ苦々しい記憶が残っている。

 彼女に未練はないけれど。もう諦めてしまったけれど。

 目の前で勝手なことを言っている男子連中と同じく「あわよくば」程度だったから。


 偶然に同じクラスになって、偶然に隣の席になって、何となくイイ雰囲気の子だな、と思っていた。

 何かのキッカケがあれば付き合えるかもしれない。付き合えたらいいな。


 自分でキッカケを作らずにキッカケを待っていたら、知らない間にかっさらわれてたという話。


 彼氏の煽るような言葉にむかっ腹は立ったけど、それだけだった。

 結局は、本当に好きだったわけじゃない。

 本当に好きじゃないのに付き合えるわけがないと今ならわかる。


 彼女欲しいと騒ぐ男友達を横目で見ながら、もし今度好きになる子が現れたら速攻アタックしようと思った。

 好きな子がいたら、何かせずにはいられないし、フラれたら辛い。

 それがきっと好きということだ。

 今はまだそんな子はいないけど。



*・*・*・*



 この頃、夏目は心配している。

 恋は盲目でどんな彼女も可愛く見えていたはずなのに、どうも客観的に可愛くなっているんじゃないかと。


 恋をしている女の子は可愛くなるという。

 そうであるならば彼女が可愛くなる原因は自分にあるわけで。

 自分で自分の不安のタネを作っているというスパイラル。


 彼女にそれとなく学校の様子をきいてみれば


「ないない、あるわけない」


 一笑に付される。


 可愛くないというならば、それはそれで不安。

 だって可愛くないのに好かれるということは、本気で好かれているということだから。


 どっちに転んでも夏目の心は穏やかではない。

 最後に勝つのは自分だとわかっているけれど。

 誰よりも彼女を好きなのは自分だから。

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