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第4話

 『あぁ、勇者として異世界に召喚されたい…。』


 まだ、咲闇が森の中をさまよっていた頃。

 ボーッとベッドに背中を預けて、今日初めて目にする天井を眺めている白髪の少女、心道 光咲。

 ふと、光咲の頭の中に男子の声が響く。

 幼なじみの男子の声だ。

 名前を田中 良男と言い、耳の上で切り揃えられた黒髪とぐるぐる模様が描かれたメガネが特徴的な男子だ。


 光咲はセーラー服の胸ポケットから白色の長方形にタッチパネルができる携帯、俗に言うスマ○ォを取り出し、電源を入れる。

 メール受信に移動し、そこにある『勇者良男の異世界召喚記』と書かれたフォルダーをタッチ。

 開とそこには、件名に「第壱話」や「第弐話」などと書かれたメールが保管されていた。

 これは幼なじみである、良男が書いた小説だ。

 内容はよくある異世界召喚モノ。主人公である田中良男が学校の下校中、異世界に勇者として召喚されるところから始まる。


 「魔王を倒して、この世界を救ってはくれぬか?勇者よ。」


 良男は自分しかこの世界を救えないと知ると、快く引き受けた。

 そして、様々な『女の子』と出会い、仲間になった。

 魔王の住む、魔王城に着いた良男達は、「絶対に生きて帰ろうな。」と、仲間と約束を交わし、最終決戦が繰り広げられた。

 激しい攻防戦の末、遂に魔王を倒す事に成功する。

 その後の良男達は「魔王を倒した英雄」と称えられ、良男はその仲間であった『女の子』達と幸せな家庭を築いた。


 …て、感じのハーレムエンドの話だ。


 「…ごめん、良男君。私、勇者として召喚されちゃった。」


 光咲はぽつりと呟く。


 光咲がここが『異世界』で自分が『勇者』として召喚されたと知ったのは、今からほんの30分程度前の事だ───。





 「こちらです。」

 「…。」


 ローブを羽織った老人がある扉の前で止まる。

 非常に大きな扉だ。軽く5mはあるだろう。それに、細やかな彫刻が彫られている。かなり手が込んでいるというのは一目でわかる。


 「この先に、この国の国王が待っております。」


 どうやらこの扉の向こうには国王がいるらしい。

 いつも思うのだが、この手の話って必ず王様が座って待ってるよね。


 「では、こちらへ。」


 老人はそう言うと扉にそっと手を触れる。


 ブォン…


 扉は淡い光を発してゆっくりと開く。


 数秒後、完全に開ききった扉。老人はゆっくりと足を進めだした。

 光咲もそれに合わせて進み出す。


 (すご……。)


 扉の先には金色の空間。天井に床、壁や装飾品などが全部、金色。それを分断するように敷かれた真っ赤な絨毯の上を光咲と老人は歩いていた。ちなみに一緒にいた騎士達は、この部屋に入ると同時に壁側にそって並んだ騎士達の中に戻っていった。


 「……ピーチクよ、その者は。」


 ぴたりと歩みを止めた老人と光咲の目の前の、数段高いところに設置されている王座に腰を下ろした三人の内の一人、多分見た目からして王様だろうと思われる人物が老人に声をかける。


 「勇者でございます、王様。」


 老人の言葉を聞くと王様と呼ばれた、白髭のおっさんが光咲に目を向ける。


 「…名前を伺ってもよろしいか、勇者よ。」


 しばらく、光咲を見つめていた国王が口を開いた。


 「普通、相手に名前を聞くときは、まず自分から名乗るのが礼儀なのでは?」

 「貴様!国王に向かってなんと言う口の効き方をしているのだ!!」


 光咲の発言に、壁側に並んでいた騎士の一人が声を上げると、腰の剣を握る。


 「やめんか!」


 王の一括。

 流石の騎士も自分より立場が圧倒的に高い国王に言われちゃ止めざるおえないらしい。まぁ、当然か。

 光咲はチラッと騎士を見るが、すぐに国王に目線を戻す。


 「すまなかった、勇者よ。」

 「いえ、大丈夫です。」


 どうやらこの国王は人ができてる模様。光咲は国王に対して好感を持てた様子。


 「儂はこのアンスロポス王国の十二代目国王、アンドリュー・アリュ・アンスロポスだ。

 そして、儂の右側に座っておるのが儂の妻、セシリア・セス・アンスロポス。儂の左側に座っておるのが儂の息子で次期国王、アドルフ・ドア・アンスロポスだ。」


 国王がそう紹介すると、王妃と王子が軽くお辞儀をする。


 「私は光咲。心道光咲と言います。こちら風で言うと、アリサ・シンドーになりますかね。」


 光咲もお辞儀をし、自己紹介を済ませる。


 「早速ですが、何故私はこのような所にいるのでしょうか?先程、私の事を「勇者」と申しておりましたが…。」


 大体は想像がついている光咲は、「まさか」と思いながら、自分の思い込みが間違ってないか念の為に尋ねてみる。


 「…実は、このアンスロポス王国に危機が迫っておるの───。」


 えー、簡潔的に言いますと、テンプレ展開。

 魔王が現れたので光咲を勇者として召喚した。

 とのこと。


 思っていた通りの内容を黙って聞いていた光咲は、国王が話を終えると疑問を口にした。


 「魔王を倒せって言われましても、私はどこにでもいるような普通の人間ですよ?そんな私が魔王を倒せる程の力を持っているとは到底思えないのですが。」


 その疑問を聞いた国王は「大丈夫だ。」と一言。


 「あの召喚魔法は不思議なものでな、それで召喚された者は皆、強力な魔気を所有すると言われておるのだ。…なに、心配であるなら確かめれば良いではないか。」


 国王がそう言うとパチンと指を鳴らす。


 すると、騎士達の中から一人のメイドさんが、なにやら大きな水晶玉を車輪の付いた台に乗せて光咲の目の前に持ってくる。


 「これは気晶玉と言い、その気晶玉に手の平を乗せると自分が保持している魔気の量を計ることができるのじゃ。」


 光咲の一歩引いた所にいた老人、ピーチクは光咲にそう説明した。


 「どうぞ、お乗せください。」


 光咲はしばらく気晶玉を眺めて、恐る恐る手のひらを乗せる…すると。


 ブォン…と淡い光を発したと思ったら、ピシッピシピシピシッ!…バリンっ!と粉々に粉砕した。


 おぉ!


 と、騎士達から声が漏れる。


 「…驚いた。まさか気晶玉が粉々になるなんて…。」


 国王も驚きを隠せない様子。


 「…弁償?」


 光咲がピーチクに尋ねる。

 正直、何が起こったのかわからない光咲は取りあえずそんな事を口にしたのだ。


 「いや、大丈夫じゃ。それよりもお主はすごいのぅ。まさか気晶玉を粉砕させてしまうとは。」


 んん?と首を傾げる光咲。どうやら何がすごいのかわかってない模様。


 「この気晶玉とゆうものはな、どんなに高いところから落としても、硬いもので殴っても割れないのじゃ。唯一、出来るのが“魔気”と呼ばれるものによる注入、もしくは魔気によって作られた“魔術”と呼ばれるものだけじゃな。ちなみに気晶玉を割るには最低でも、魔術師と呼ばれる普通の人よりも魔気を数倍も保持している者がざっと50人ぐらいで注入し続けてやっとってところじゃ。」


 ピーチクは軽い口調で説明しているが、それってヤバくない?と思う光咲。


 「こ、これでお主が勇者であると理解してもらえたか?」


 国王がちょっとキョドりながらも光咲に尋ねる。


 「…質問があります。」


 「質問とは?」


 「私達は元の世界に帰れますか?」


 当然の質問。

 当たり前だ。いきなり知らない世界に召喚されたのだから。

 私達と言われて、国王は疑問の色を浮かべるが少し間をあけて


 「…すまない、帰る手段は…ない。」


 「…そうですか。」


 この返答も予想内であったのだろう、光咲のあっさりとした声が響く。…ダジャレじゃないよ?


 「怒らんのか?」


 国王が光咲に問う。


 「怒って帰れるようになりますか?なれるならここで思いっきり怒鳴り散らしますよ?それに、どうやら私には魔気を大量に保持してるらしいのでついでにこの国も破壊しますよ?……でも、そんな事をしたって帰れないって事実は変えられませんから怒りません。」


 「…本当にすまなかった。」


 国王は椅子から腰を上げると光咲の目の前まで移動し、頭を下げた。


 「国王様!?」


 国王の行動に騎士の一人が声を上げる。

 よく見ると王妃と王子、それに騎士達全員が驚きを露わにしている。

 だが、その中で一番驚いているのは目の前で下げられた光咲だ。

 光咲の中の国王像は傲慢で自己中な人物だった。


 「頭をあげてください、国王。」


 光咲は思った。

 このような国王がいる国を、私が救えるのなら…救いたい…と。

 それに、お兄ちゃんなら絶対に助けると思う。だって、お兄ちゃんは私を───。


 「国王、その魔王の討伐、やります。私がこの国を救えるのなら、救わせて下さい。」


 「おぉ…本当か、勇者よ。」


 光咲の言葉に感激を覚える国王。


 「ですが、その前にお願いがあります。」


 「お願いとは?」


 光咲は一つ、間を置き、口を開いた。


 「お兄ちゃんを探して下さい。」



んん?なんか内容がそれたような気が…ま、いっか。

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