第1話~気が付いたら…~
前話は一人称でしたが今回は三人称の視点で。
「ここは…。」
とある森の中。呟くように発した、やや高めの中性的な声。声の主は、森の中で立っている高校指定のYシャツに長ズボン、それにブレザーを腰に巻き、肩から斜めに大きめのファスナーが付けられたバッグを掛けた心道咲闇だ。
太股辺りまで伸ばされた、癖のある髪は、新月の夜を連想させる闇色。例えるなら黒曜石がしっくりとくる、少しつり目よりの双眸。
十人に見せたら、その十人が全員口をそろえて「男装した、お胸がとても貧相な女の子」と言うだろう。
しかし、残念ながら「彼」は「男」。きちんと男の勲章である、息子様だっておられる。
何故こんな所にいるのか、ん〜と腕を組んで考えていると
「…あ、そう言えば変な穴に落っこちたんだっけ。」
ポンと手のひらを軽く叩く。
と、なるともしかしてここって異世界…とか?。などと思いながら周りを見渡してみる。
ここで新たな疑問が浮かんだ。……一緒に落ちてきたハズの妹、心道 光咲はいったいどこにいるのか。
少なくとも咲闇の近くにはいないという事は周りを見渡せばわかる。
「…ま、いっか。完璧超人的な奴だし、どうせ勇者様として召喚されたとかだろう…ここが異世界だったらの話だけど。それに、あの円陣みたいのは光咲の足下に現れたし。」
少々、と言うよりはかなりラノベを好んで読んでいる咲闇は思う。
それに、いつまでもここにいても拉致があかない。
そう判断した咲闇は、意外にもこの状況を楽しんでいる自分を感じつつ、森の中に足を運んで行ったのであった。
(`・ω・´)〈光咲!!
「ここは…。」
やはり兄妹か…。第一声がかぶるとどうしてもそう感じてしまう。
石畳だろう。ひんやりとした床が、うつ伏せで倒れている光咲の頬を冷やす。
だが、光咲はすぐに片方の膝と手を床に付かせるような態勢になる。
……最悪だ。
光咲は心の中で悪態を吐く。
周りは真っ暗。今、どこにいるのか、どうゆう状況なのかは目からはわからない。……だが、右に三人、左に三人。後方にも三人に前方には一人の計十人に囲まれているということは気配でわかった。
しかし、今の光咲にとってはそんな事どうでもいい事。
では、何に対して悪態ついたのか。それは……自分の大切な、それはとても大切な唯一の肉親である兄妹、心道 咲闇がいないということだ。
はっきり言おう、死活問題だ。
いったいどこに?
床につけていた手で口元を隠しながら、ありとあらゆる思考回路を駆使して様々な可能性を脳内にあげていく。
ボゥ、ボゥ、ボゥ、ボゥ。
いきなり、真っ暗闇の中から四方に火が灯り、正方形の形をした部屋を照らす。
光咲の思った通り、部屋には計十人いた。
九人は全員、左胸に国の紋章らしきモノが描かれている銀色の洋風騎士のような甲冑を身に付けており、前方に杖をついて立っている老人と思われる人物は、ファンタジー系でよくいそうな淡い紺色のローブを纏っている。
老人は数歩ほど、光咲に近づき
「お主が勇sy「うるさい、黙ってて。」…。」
何かテンプレ的な台詞を吐こうとしたが、光咲によって妨げられる。
「お兄ちゃんは…」「いや、そんな事は…」など、ブツブツと呟く光咲。
いきなりの妨げに呆気をとられた騎士達は「貴様!」とよくありそうな台詞を言うタイミングを逃してしまい、なんとも言えない気持ちになる。
ごほん!と一つ、咳払いし、もう一度老人が口を開く。
「わ、ワシはお主をこの世界に【勇者】として召喚した者じゃ。」
ピクリと光咲の眉が動く。
お?反応ありかのぅ?
光咲の様子を見て老人は思った。
「…あなたが私を召喚した?」
手を口元から離し、ゆっくりと立ち上がる。
ブワッ!
部屋が一瞬にして殺気で満たされる。
カタカタと、甲冑が震えている…いや、その中にいる人が恐怖で震えていると言った方が正確だろう。
老人は少し驚いた顔をするが特に動じることもなく続ける。
「そうじゃ。理由はこの国の王様が説明してくれるらしいからのぅ、付いてきてくれんか?」
しばらくジーッと鋭い目つきで老人を睨むが、無言で頷いた。
それを見た老人は「こちらへ」と一言言い、光咲をこの国の国王の下へ連れて行ったのであった。
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