第12話
誤字などがありましたら指摘よろしくお願いします!
ガラガラガラガラガラ…
(ん~、乗り心地は悪くはないけど…あまり良くないな~。お尻に振動が…。)
流石は異世界。馬車に揺られながらそう思い、自分の周りを見渡す咲闇。
木製、とは言ってもなかなか良さげな木材を使用しているのだろうと思われる馬車。作りも凝ってるようで、馬車内の木目がてきとうに並べられてると思いきや、その不規則に組み立てられた木材を見てると不思議なことに飽きないのだ。抽象画と言うべきだろうか。
しかし、残念ながら今の咲闇の瞳に映っているのはその木目だけではない。鉄の鎧を纏った騎士が目の前に三人座っている。さらに、咲闇を挟んで二人の騎士が左右に座っている。
あれ?なんかやらかした?俺なんかやらかした?と思いながら頭の中でぐるぐると原因を駆け巡らせる。
☆
「君、ちょっと待ってくれ。」
ほんの十数分前のことだ。咲闇がスクエアから依頼を受けて北門から外に出ようと、門をくぐっている時だ。そこに立っていた門番だろうと思われる騎士が不意に声を掛けて来たのだ。
「え?」
声を掛けられるとは思っていなかった咲闇は驚きながらも足を止めて騎士と向き合う。
「あの~どうしました?」
少々キョドりながらも問いかける。
「すまないがそのフードを外してもらえないだろうか。」
何故?と思ったのは一瞬でその後はライドの言葉が頭をよぎった。
『この国の第二王女が黒髪黒眼の少女を探しているらしいぞ』
黒髪黒眼の少女。
咲闇は黒髪黒眼の男子。少女ではない。なら何故、今この言葉がよぎったのか。それは…女顔負けの女顔であるからだ。そしてその本人である咲闇は自分が女顔であることを自覚している。
今ここでフードを脱いだら…。そう思った瞬間、走った。
「降ろせ!!」
しかし、それよりも騎士の行動が早かった。そう声を張り上げ、門内に木霊させると外に繋がる方向の出入り口にまるで檻のような物がガラガラガシャン!と咲闇の進行を阻む為に現れる。
外に出ることは無理と判断した咲闇は逆方向に走り出そうとしたが、既に内側の出入り口も同じように塞がれていた。
「さぁ、フードを脱いでもらおうか。」
近付いてきた騎士が強要する。
咲闇は抵抗する事もなく、素直にフードを外す。
「おぉ…」と咲闇を見た騎士が目を丸くする。
「ん?騎士さん、どうかしましたか?」
「あ、いやなんでもない。こちらに付いて来てくれ。」
騎士は咲闇をエスコートするように咲闇の歩幅に合わせて連れて行った。
★
「着いたぞ。」
ぴたりと揺れが治まると隣に座っている騎士がそう教えてくれた。
「降りてくれ。」
最初に馬車から降りた二人の騎士の片方に言われて馬車から降りる咲闇。それに続くように残りの三人も降りる。
「…こ、これは。」
「なんだ、見るのは初めてか?」
騎士の問いに目の前に聳え立つ建物を見上げながらこくりと頷く咲闇。
「これは亜人族の進行を阻む為に最前線に建てられた、迎撃要塞“フェアタイディグング”。今までの亜人族の進行を全て防いだ難攻不落の要塞。我々普人族の技術と魔術の結晶の一つです。
まぁ、要塞とは言っても普段はただのお城ですがね。」
フェアタイディグング…なんて呼びづらい名前なんだ。
そう咲闇が思ってしまうのは仕方のないことだろう。
「国王が待っています、そちらの剣は私が持ちましょう。さぁ、こちらへ。」
「は、はぁ…どうも。」
咲闇から布に巻かれたロングソードを受け取った騎士が咲闇の右手をとり、その甲に軽く口付けをする。それを受けた咲闇は苦笑いを浮かべるしかなかった。
◆○◆○◆○◆○◆○
「こちらの扉の向こうに、このチェロヴェーク王国を統治しておられる、ラウベルク・ラル・チェロヴェーク王がいらっしゃいます。」
そう説明した騎士はその扉に向き合うと三回、ノックをする。
「入れ。」
一言、扉越しに聞こえる男の声。
「では」と言い、騎士がその扉をゆっくりと開けた…瞬間。
グオウ!
開けられた扉から漏れ出す殺気。
「ヒッ!」
そう声をあげたのは扉を開けた騎士。さらに咲闇の後ろにいた四人の騎士が後ずさったり、尻餅を付いたりしていた。
しかし、騎士達が受けたのはほんの一部分。その殺気を全面的に受けた本人である咲闇はローブを靡かせ、顔を歪ませる。
「随分と華やかな出迎えですこと。」
殺気の波の中を進み、部屋に足を踏み入れる咲闇。
「せっかくのお客様だからな…手抜きの歓迎なんてしたくはないんでね。どうだ?気に入ってくれたかな?」
ちょっとおどけたような口調で言葉を発するのは、ソファーに横になっている金髪の男、ラウベルク・ラル・チェロヴェーク。
「逆にこんな出迎えで喜ぶ人がいるかどうかが気になるんですけど。」
「それもそうだな。おーい、お前ら下がっていいぞ。」
そう言うと同時に殺気が薄れていき、最終的には消えてなくなった。
騎士達はすぐに扉を閉め、その場から去っていった。
「さてと…って、おぉ?これはまたべっぴんさんだこと。まぁ、立ち話じゃなんだからそこに座ってくれ。」
上半身を起こしたラウベルクがちょんちょんと向かい側のソファーを指差す。
それに従い、指定されたソファーに腰を下ろす咲闇。
「…で、なにかご用事でもあるんでしょうか?王様。」
「おいおい、その王様ってのはやめてくれ。むず痒い。」
「そう言われましても他になんてお呼びしたらよろしいかわかりませんが。」
「あー、それもそうだな。…まぁ、ラウとでも呼んでくれ。」
「わかりました、ラウさん。」
「いや、さん付けしなくてもいいし、それと敬語も。」
「ではお言葉に甘えて…。とは言ってもある程度の敬語は許してくださいね?」
そんな咲闇の言葉に「あぁ、わかった。」と肯定するラウベルク。
…同じやり取りを最近やったような気がする…と咲闇は思ったが、そんなのは一瞬で消え、本題に移る。
「…で、何故俺はここに呼ばれたのでしょうか?…まさかとは思いますが第二王女様が関わってたりします?」
「お?なんだ知ってるのか。なら話が早い。
その通り、実はな第二王女…まぁ俺の娘なんだが、あいつがな黒髪黒眼の少女を探してくれって言うもんでな。…でた、俺の聞いた話によるとどうもその黒髪黒眼の少女に盗賊から助けてもらったらしい。だからお礼がしたいんだとさ。」
「へぇ~。」
興味なさそうに相槌をうつ。
そんな咲闇の態度に疑問を抱いたラウベルクは口を開く。
「お前じゃないのか?」
「…少なくともそんな大物を助けた覚えはないですね…。多分人違いでは?」
「そうなのか…。」
腕を組んで何かを考え出すラウベルク。
確かに咲闇は盗賊から女の子を助けた覚えはある…が、咲闇は男だ。黒髪黒眼の男子である咲闇は「少女」と出てきた時から人違いだと言うことに決めていたのだ。
フッフッフと軽く笑っていると不意に扉がノックされる。
「お父様。」
扉の向こうから女の子の声が聞こえる。
「いいぞ入れ。」と少々テンションが下がり気味の様子で応える。
「失礼します。」と聞こえると同時に扉が開き、そこから一人の少女が姿を現す。
セミロングの淡い金髪を揺らし、水色のドレスを纏った、碧眼の少女。
可愛らしい。まだ、幼い少女には美しいと言うよりはこちらの表現がピッタリだろう。しかし、どこか近付きがたい雰囲気を醸し出している。まるで、「私に近付かないで」と訴えているようだ。そのせいか、どこか寂しげな表情をしている。
せっかくの可愛らしいお顔が台無しだな~と少女を見てそう抱いた。
咲闇の視線に気が付いたのであろう、少女はちらりと咲闇の方に目線を向けた。それと同時に少女は目を丸くし、今まで纏っていた独特な雰囲気が一瞬でどこかに吹っ飛び、身体を硬直させた。
「お、お父様、こちらの方は…?」
「いや、黒髪黒眼の少女って条件で探しだしたんたが…どうやら人違いらしくてな…って、どうした?マリル。」
さっきからずっと咲闇を見つめて微動だにしない娘を見て問うラウベルク。
「あ、あの…私の事覚えていますか?」
咲闇の近くまでゆっくりと歩み寄り、そう聞いた第二王女、マリリルード・ルリ・チェロヴェーク。
そう問われた咲闇はしばらくの間マリリルードをじっと見ていた咲闇は何かを思い出したかのように手を叩く。
「あぁ、やっぱり君だったんだね。あの時、俺の事をお母さんって言った女の子だよ?忘れろって言う方が難しいよ。」
と立ち上がりながら言う。
「あれは…その…//」
お母さんと言ってしまったことを照れているのだろう。カアア…と顔を赤く染めて伏せてしまったマリリルード。
「ははは。…そんなことよりもあの後大丈夫だった?」
「?…あ、はい。お陰様でこの通り。あの時はありがとうございました。ろくにお礼も言えずに申し訳ありませんでした。」
あの後と言われて盗賊から逃がしてくれた後だと理解したマリリルードは咲闇に頭を下げる。
「いやいや、無事で何より。」
もう少し早く助けに行っていれば…。
そう、咲闇は思ってしまうが口には出さない。そんな事を言ったところで死んだ人達は戻ってこない。そもそもそんな事を言ってもただの自己満足でしかない。
1人しか助けられなかったじゃない、1人でも助けることが出来たのだから。
咲闇はぽんっとマリリルードの頭に手をのせる。
「いい加減頭あげなよ。」
「あの…え~っと…そのぅ…//」
頭を撫でられ恥ずかしいのか、また顔を赤くして伏せてしまった。
(あれがマリル?)
頭を撫でられて照れている自分の娘を見て驚きを隠せない様子のラウベルク。
それもそうだろう、何故ならそんな娘の様子を見たのは数年ぶりなのだから。今まであんなに表情豊かに見せることはあの時以来、皆無と言っていいぐらいになかったのだから。
(この者になら…。)
そう、何かを決心したラウベルクはスッと立ち上がる。
「お父様、どうかしました?」
急に立ち上がったラウベルクに顔を向けるマリリルード。しかし、マリリルードの問い掛けなど無かったかのようにスルーして咲闇に目を向ける。
「…そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はここ、チェロヴェーク王国を統べている王、ラウベルク・ラル・チェロヴェークだ。遅い自己紹介であることを許してほしい。」
いきなりの自己紹介に驚いているのか…いや、“王”としての威厳と風格を纏ったその堂々とした態度に驚いているのだろう…先程の殺気とは違う“王”であるべき者のプレッシャーに。咲闇はマリリルードから手を離し、“王”たる者に身体を向ける。失礼のないように…それでいて、決してその威圧に臆さない態度で。
「いえ、それはこちらも同じ事。今から名を名乗ることをお許し下さい。
私の名は、サクラ・シンドー。少々変わった名前でありますがどうかご理解を。」
バサリ…とローブを靡かせながら膝をつく咲闇。
「サクラか…良い、直れ。」
その言葉に反応し、スッと立ち上がる咲闇。
「サクラよ、お主に頼み事がある。…これは王としての命令でもなんでもない、ただの父親としての願いだ。」
「お願い、ですか?」
あぁ。と肯定したラウベルクは口をゆっくりと開いた。
「今そこにいる、マリリルード…いや、マリルの、護聖騎士をしてはくれないか?」
───と。