第11話
前回のあらすじ。
(`・ω・´)つ翠色の髪をはやした男の子がルキアに告白したっ!!
「…え~っと…。」
…とまぁ、今回はその続きから始まるのだが、ルキアがさっきから咲闇をちらっちらっと目を向けてくる。それを咲闇は明後日の方を向いて受け流す。
「あ~そうそう、自己紹介がまだだったね。僕の名前はラーシヤ、よろしく。」
軽く前髪を払い、その手をルキアの前に差し出す。
それが握手を求めていると気付いたルキアは少々遠慮がちに握手に応じる。
「なに、そんなに照れる事はないさ。もっとがっつりと握ってくれたまえ。」
ラーシヤの握る力が強まったのが分かったと同時に「ヒッ!」と顔を引きつらせ、赤髪をぞわぞわと逆立たせるルキア。ウルフカット特有のあのつんつんが二つほど頭の天辺に増えた気がしたが、気のせいだろう。
ナルシスト。
そんな単語が咲闇の頭の中に浮かび上がる。
ルキアの目が咲闇に訴える。助けてっ!…と。
そんな訴えなど咲闇が答えるはずもなく、逆に暖かい視線を送る。頑張れよと、エールをのせて。
「フフ、なんてすべすべなお肌なんだ…。それにとても柔らかい…。」
いつの間にか片手から両手でルキアの右手を握っていた…いや、撫で回していたラーシヤ。その手捌きには迷いがなく、まるで別の生き物みたいに指がうねっていた。
ルキアが嫌がっているのは誰がどう見ても明らかだ。その証拠に目頭に涙を溜め込んで、今にでも泣き出しそうだ。
流石にその光景を見てルキアに同情を覚えた咲闇が止めに入ろうと思った時だ。
「…おい小僧。悪いことは言わねえ、そいつは止めときな。」
不意にそんな言葉がラーシヤに向かって飛んできた。
ぴたりと動きを止めたラーシヤはその声の方向へ顔を向ける。ちなみに指が止まった事によりサッとルキアが自分の手を引っ込めたのは言うまでもない。
「なんですか?何か僕に用事があるのかな?」
さりげなく爪先立ちを解除して(カウンターの高さは約145cm)体もそちらに向ける。その先には180cmはあるのではないかと思われる男が立っていた。剣士なのだろう、強靭な肉体と動くのに支障がないように装備された防具に、背中に背負われている両刃の大剣。
こんなのを目の前にしたら普通の子供なら泣くところだろう。
しかし、ラーシヤはその男を前にしても臆する事なく余裕を持って向き合う。
「あなたもアレみたいになりたいんですかね?」
この場合のアレとは、そこの長椅子に寝かされているカイの事だろう。
そんな挑発的な言動を発するが、
「そいつはごめん蒙りたいね。…もう一度言うぞ、そいつは止めとけ。お前が実力を持ってるのは分かった。その実力があるのならもっといい女と巡り会えると思うんだが。」
「…そんなに殺られたいか?」
敵意をぶつけるように男を睨み付けるラーシヤ。
「一応、忠告はしたからな。…それとそこの嬢ちゃんもあんまりそいつと関わらない方がいいぞ。」
前者はラーシヤに、後者は咲闇に向けて言葉を向けると男はエブン達の中に消えていった。
それを見送った咲闇はもぞもぞと頭をいじっているルキアに目を向ける…が、それと同時に手を引っ込めた。
ルキアからはどこかそわそわと落ち着かない様子が見て窺えたが、すぐに視線を外して横にあるクエストボードに目線を移す。
クエストボードは壁沿いに設置されており、カウンターから近い順にF,Eと区切られており最もカウンターから遠くにあるのがAになっている。ちなみに高ランクのJ,Q,K,Gは発行される事があまり無いため、クエストボードには張られていない。受ける場合はカウンターにいる、受付嬢にスクエア・メンバーズ・カードを提出し、ランクが条件を満たしている事を確認させるのだ。
確認させた後に、カウンターで直接依頼書を渡され、その中から依頼を受注するのだ。
ちなみに上記で条件とあるが、この条件とは“Aランク以上である”ことだ。さらに、この場合のAランクとは「少なくともAランククエストをソロで十以上を達成」されていることが前提である。
それだけ、J以上は危険で過酷なモノなのだ。
「…これでいいか。」
咲闇はEランクの依頼書を一枚剥がし、ルキアの隣のカウンターの前に立つ。
流石は受付嬢。営業スマイルが上手い。
依頼を受注し、スクエアを出て行きながら咲闇は密かにそう感じたのであった。
そんな咲闇の背後を好感とは真逆の視線が見送った。…その中の二名ほどは周りと違う眼差しで。
(*・ω・)ノ●○●○●○●○●○●○●○●○●○
「黒髪の少女…か。」
ごろんとソファーに寝転んで天井を見上げている、金髪の男が呟く。
男のいる部屋を見渡すと広さは学校の教室一つ分とほぼ一緒であり、その床には赤をメインとし、黄土色できめ細やかに刺繍された絨毯が。
そして、左右の壁側には武器という武器が。もちろん、その一つ一つはレプリカなどではなく、職人が丁寧に鍛え上げた業物だ。
扉とは反対側にあるのは大きな窓。それをバッグに設置されているのは山と化した数多の書類をのせた木製の机にクッションのついた椅子。その横には甲冑を纏った盾と槍、または剣を持った人形が一体ずつ、堂々と構えている。
そんな部屋の中央には男が寝っ転がっているソファーともう一つ。さらに、その間に挟まれてガラス製のテーブルが設置されていた。
その様子からこの男が並大抵の人物ではないと理解できる。
男は黒髪の少女に早く会いたいと思っていた。男には二人の娘がいる。
ひとりは15歳の娘で、魔術の才能があり、魔気の量も一般的な平均と考えると何倍もの量を所持している。現在はこの大陸(全部で三つある大陸の一つ)の半分を普人族の土地として占めている国、王人国にある、王立ヘクサグラム高等学院の寮に住んでおり、最高学年であり成績優秀な娘だ。
もうひとりの方は12歳の娘。今年から王立ヘクサグラム高等学院に入学した一年生だ。
だが姉とは違い魔法と魔気は一般的で、これと言った才能がない。唯一、体術面で姉より優れているぐらいだ。それに人見知りが激しい…と言うか心を開かないのだ。肉親である、父や姉妹にもだ。
もちろん、姉から我が侭を言われることはあっても妹から言われたことは一度もなかったのだ。
だが、昨日の夜中の事だ。入学式を終えて王人国から帰省(入学生のみ、二十日間の休日が与えられる)した娘が父であるこの男の部屋に来て、初めての我が侭を言ってきたのだ。しかも、その内容が「人捜し」である。
その時の話をしていた娘は生き生きとしていた。
そんな娘を数年ぶりに見た父がその人物を気にならないわけがない。早速、今日の朝一番に伝達。今はその報告を待っている状態だ。
自分の中で黒髪の少女を思い描きながら、今か今かと待っている時だ。
不意に部屋の扉がノックされる。
「あぁ、いいぞ。」
きたか!とは思ったがあまりにも早過ぎる。伝達してまだ五時間と経ってない。確かにこの世界で黒髪は希少だが。
「はっ、失礼します!」
ガチャリと扉を開けて一人の騎士が入ってくる。
「報告します。先程、黒色の髪と瞳をした少女が見つかりました!今、こちらに向かわせている所です!」
「本当か!」
少女が見つかった。そんな報告を耳にした瞬間飛び起きる。男…いや、この国の王であるラウベルク・ラル・チェロヴェークは騎士を見ると、自分の顔に笑みを浮かべた。
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