第10話
「あー、今後の予定について話し合いをしたいと思うんだが…なんだそれは。」
咲闇が借りてる05号室にて、今後の事について話し合いをしようとしたライドは朝食の時から気になっていた、ベッドに腰を下ろしている咲闇の膝に座ってる黒い毛玉、ルークを見て問い掛ける。
「あ、コレですか?これは昨日、依頼を受け森に入ってリーフの採集をしていたらなんかいましたんで拾ってきました。名前はルークって言うらしいです。」
「拾ってきましたって…。」
しれっと言う咲闇。
その様子に溜め息を吐くライド。
「まぁ、いいや。そんな事より今後についてだが…俺はこれからアンスロポス王国に向かおうと思ってる、今日中にな。」
「今日中にですか?」
咲闇の問いに「あぁ。」と頷くライド。
「…でだ、俺は今言った通り今日中にチェロヴェークから出て行くのだが、お前はどうする?別について来ても構わねぇぞ。」
そんな言葉を受けて考える咲闇。
今後の事を考えるとこっちの世界──ユグドラシルと言う──の事は全く知らない。転写である程度の知識は得る事が出来たが、その知識の中にはやはりライドから見た独断と偏見もある。
所詮は入れ知恵か。
自分が見て、触ってなどをしていない、要するに「知って」はいるが「わかって」はいないのだ。
そう考えると、この知識の持ち主であるライドに付いて行っても良い…と言うか、そっちの方が効率的だ。
しかし、逆にライドとはここで別れて、知った知識を自分のペースで理解していくのもいいだろう。…と言うか、咲闇の中では既に後者の方に向いている。
「いえ、せっかくですがお断りします。
俺はもう少しここに滞在して、稼ぐつもりです…一文無しなので。それに、付いていったとしてもライドさんにご迷惑をお掛けしてしまうかもしれないので。」
「別に迷惑にはならねぇんだけど…まぁ、お前がそう言うなら構わないが。…んじゃあ、ほれ。」
ごそごそと懐から何かを取り出したかと思うと、咲闇に向けてピーンと指で弾いて飛ばしてきた。
「なんですかこ…れぇ!?」
それをキャッチして見た咲闇は目を丸くした。
そんな咲闇の手のひらには一枚のコインが。しかも、それ一枚で10万Gの価値がある、銀貨だ。
ちなみにだ、この世界で使用されているお金はコイン型で全部で十の硬貨がある。
低い方から順に
砂貨1G
石貨10G
鉄貨100G
銅貨1000G
赤銅貨1万G
銀貨10万G
青銀貨100万G
金貨1000万G
白金貨1億G←ファッ!?
と言う感じだ。
ぶっちゃけると、砂貨と石貨、金貨と白金貨の需要は少ない。ほとんどの物が安くても鉄貨、高くても青銀貨なのだから。
「餞別だ、持っていけ。…あ~それと、そのローブもやるよ、どうせもう使うこともないし。使ってもらった方がそのローブも喜ぶはずだしな。」
そう言うとライドは椅子から腰を離してそのまま部屋の扉に向かう。
「あ~そうそう、昨日ちょっと耳にしたんだが、どうやらこの国の第二王女であるマリリルード・ルリ・チェロヴェーク様が黒髪黒眼の少女を探しているらしいぞ?w」
明らかにニヤニヤと、何かに対して楽しんでいるような顔付きで部屋を出て行ったライド。
「…あのー、ライドさ~ん?その、黒髪黒眼の少女って…。」
そんな咲闇の言葉はもちろん、ライドに届くことはなかった。
ヽ(´ρ`)ノ
「はぁ~、ライドさん逃げ足速すぎるよ…。」
とぼとぼとスクエアに向けて足を進める咲闇。
実はあの後すぐに咲闇は隣のライドが使用していた部屋に顔を出したのだが、既にライドの姿は無く、急いでバッグに眠そうにしているルークを詰め込み、宿を出た。
咲闇は迷うことなく、三日前にくぐった北側にある門に向かって建物と言う建物を飛び越えて行ったが、咲闇が北門に着いた頃には既にライドの姿はチェロヴェーク王国を囲うように生えている森の中に消えていく所であったのだ。
ライドが完全に見えなくなると、まだバッグの中にリーフがあることを思い出し、その足でスクエアに向かい始めたのだ。
「流石にバッグに入れっぱなしはまずかったかな…。」
植物であるリーフをバッグの中で放置してしまったので萎れていないか心配になった咲闇はバッグを開ける。
「きゅう!」
と、鳴いてバッグの中からルークが顔を出してきた。
あ、そういえばいたな~。と思いながらもバッグの中に手を突っ込んでリーフを一束掴み取る。
しかし、掴み取ったリーフは咲闇の予想を裏切り、枯れても萎れてもいなかったのだ。
試しに他のリーフも取り出して見てみるが、同じく採取した時と変わらない状態であった。
『どうしたの?ご主人さま~。』
リーフを眺めて考え込んでいる咲闇を不思議に思ったルークはそう声を掛ける。
「あぁ実はな、このリーフの状態が採取した時と全然変わってないんだ。枯れていないならまだしも、萎れてもいないってのにちょっと疑問に思ってね。」
そんな事を言う咲闇をきょとんとした顔で咲闇を見るルーク。
『なに言ってるの?ご主人さま。リーフがしおれるわけないよ?だって───』
「ぐはぁ…。」
ドスンとルークの言葉を遮るかのように横からがたいの良い男が吹っ飛んできた。
「おい大丈夫かカイ!」
その後すぐにローブを羽織った男と軽装の男が駆け寄ってきた。
カイ?…あれ、誰だっけ?
ん~と悩んだ後、わからないと結論が出たので三人を無視し、男が吹っ飛んできた横の建物──スクエア内に入った。
スクエア内に入ってすぐに違和感を覚えた。何時もは騒がしいはずのスクエア内は見事にお通夜状態。人数はいる。基本的に放浪者達の朝は早い。朝早く起きてはスクエアで依頼を受けて昼から夕方、または夜にかけて依頼をこなして帰ってくる。これが基本だ。そうなると必然的に朝と夜がピーク時になる。今がそのピーク時である朝7時~9時の間なのだが…静かすぎる。
聞こえるのはカウンターで10歳前後辺りだと思われる翠髪の男の子を対応している女の人の声と筆記の音。
よく見ると、スクエア内にいる者全ての視線があの翠髪の男の子に集まっている。
「おい、見たか今の。」
「あぁ、見た。自分の一回りも二回りもデカい奴を、しかもあのカイを一撃で沈めやがった。」
などなど、所々にそんな言葉が密かに聞こえる。
今の状況をある程度理解した咲闇はその足をカウンターの右端に進める。
「おはようございます。」
「!?お、おはようございます!」
不意をうったつもりはない咲闇でも、ぼーっとしていたルキアにとっては不意打ちに近い感覚を覚えた。
反射的に大きな声で返事をしたせいか、スクエア内にいる半数近い者の注目を集めた…が、「またあいつかよ」と舌打ちが聞こえたと思ったら興味を無くしたかのように喋り出す者もいれば視線を男の子に戻す者もいる。
「これ、依頼されていたリーフ五束。」
カウンターの上に置かれたリーフを受け取り状態を確認する。
「た、確かにリーフ五束を確認しました…依頼達成おめでとうございます。こちらが報酬の2000Gです。」
「ありがとう…で、なにこの状況。なにがあったの?」
ルキアから二枚の銅貨を受け取りながら密かに尋ねる咲闇。
「え、え~とですね…どうやらあの男の子がエブンになりたいと言い出したらしく、それを聞いたカイさんがガキは帰りな!的な事を発言しまして…」
「それでちょっとカチンときた男の子がカイって奴を一撃で吹っ飛ばしたと…。」
それに頷いて肯定するルキア。
なんかテンプレだな~。と咲闇は思い、男の子の方を見る…が、すぐに視線を元に戻す。
何故だか知らないが男の子がこっちを見ているのだ。正確に言うと咲闇の目の前にいるルキアを見ているのだ。
「…ルキアさん、もしかして何かやらかしましたか?あの男の子がルキアさんを見つめているのですが。」
ぼそりとルキアにしか聞こえない程度の声量で呟かれ、「そんな事はない!」と言わんばかりに首を振る。
じゃあ何故?と思っていると、向こうから男の子がこっちに向かってきた。
咲闇はスッと一歩後退して前を空けてやる。
男の子はすぐにその間に入り、ルキアに向かって言葉を放った。
「ねぇ、君ってかわいいね…どう?僕と付き合わない?」
再びスクエア内に静寂を呼び寄した男の子であった。
 




