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赤の色彩  作者: ロースト
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遅刻者の景品

 カサついた様子が何故か気になって、いつの間にかその唇の動くのをなんとはなしに見つめていた。

「……聞いてない、ようだな」

 男のような乱雑な口調を最後に、それは動きを止めた。斜め下に下がっていた視線を上げ、顔をまっすぐ見た。対面するその人はそんなケイスケの視線を受け止めようとして居心地悪さに視線を逸らした。ケイスケとその人は対面に座っている。本来ならば教師であるその人が校則違反をしたケイスケに注意を促す場面だ。しかし性差もあって座り合ったその視線の位置は相手の方が低かった。背丈は女性であることを考えると低い方、けれど上背は多少の範囲ながら高かった。見下ろされることにも、まっすぐ見詰められることにも慣れないかのように逸らした視線はけれどすぐさまこの場にいる意味を思い出した。口紅の塗られてもいない薄化粧の女の唇が動く。

「――余り、話すのが得意じゃないんだけどね、教師なんて職を長くやってると一回は生活指導に当てられるもんだよ。その最たる例として私がいるというのは幸か不幸か、君が決めるべきだけれど。――無口だね、君。わりかし、私もそうなんだけど」

 とても、そうとは思えない。

 確かに饒舌とはいえないが口から飛び出すのは、文章量としてはかなりのものだと思われる。相当ストレスを溜め込んでいたか、沈黙の空気に耐えられないのか。

(俺は無口ではない)

 ただ、必要以上のことをするのが嫌いなだけだ。

 ただ、周囲の人は己の性質と逆によく話をするタイプばかりが集まる。

 家庭環境のせいだ。自分から話さなくても、相手が推察し、行動し、もしくは押さえ込む。

 だから無駄なのだ、自分から行動することも。人に指示された方が、楽。


 圧倒的に熱意のこもらない声音で、まるで文面でも読むように定型な注意をひとしきりすると、女は壁掛けの時計を一瞥した。ふいに曝された首筋を何気なく見つめる。白い肌だった。艶があるわけでもセクシャルさを見出せるわけでもない首は、けれど細く、目に明るい白。

「もう帰っていいよ」

 促し、椅子を引き下げながら己も立ち上がる女。色気もなにも感じさせない、シックなパンツスーツに立ち上がる。

(あ)

 背、小さい。

 正面に立った背が思ったよりも低く、見下ろす。かなり高い部類に入るようなヒール靴を履いてもまだ小さい背丈は本来のままならば同性の中でも見失ってしまうだろう。特徴のなさは平凡さに値する。

「名前、何」

 それがこの部屋で本日ケイスケの発した、最初で最後の言葉だった。


「……そうか。あまり関わりがないから名前も知らなかったのか」

 一人で呟くような声音だが、すぐ近くだから聞えた。扉を開き、後ろを向いたまま、答えを待つ。

「セキ。ただ美しい赤、で唯美ゆいび せき

(変なセンコー。けど、赤か)

 ガラガラ、と音を立てて境界線を引くケイスケは雑踏の中に入っていく。

 見た覚えも無い赤色が瞼の裏に残ったまま。


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