大好きだったから
俺には自慢の彼女がいる。
そして、その彼女が今学校の屋上から飛び降りようとしてるのは何故だろう。
「バカ……っ! 早く降りてこい!!」
「ふふ、才兎でもそんな顔するんだね。いつもクールだからなあ」
なんであんなに楽しそうに笑っているんだろう、あいつは。あと数歩後ろに下がったら死ぬんだぞ?
そんな俺の思惑など知る由もないあいつは、相変わらずフェンスの向こう側でにこにこしてやがる。普段なら手に取るように分かるあいつの気持ちが、今はちっとも理解できなかった。
昨日まで、何事もなく一緒に帰っていたじゃないか。あいつは一体何をしたいんだ。
「ねえ才兎、私才兎のこと大好きだったよ。でも才兎ってモテるから彼女って目付けられちゃうんだ」
「は? お前、何を……」
「私も才兎のこと好きだから耐えてたんだけどね、もう限界かなって」
効果音をつけるなら“にっこり”がぴったりであろう笑顔を浮かべるあいつは、今から自殺するような人間には見えない。まるで俺を遊んでるみたいだがそうじゃないことは確かだ。普段のあいつは割と大人しい方で、そもそも笑顔なんか滅多に拝めない。
こいつ、壊れやがったんだ。
こいつはそんなに精神面が強いわけじゃない。ごく普通の女子生徒だ。
それなのに必死に我慢して我慢して我慢して――
俺が知らない間に、こいつはどれだけ泣いたんだろう。どれだけ耐えたんだろう。
誰も、俺さえも知らない中、独りで。
「才兎とすっぱり別れるか死ぬか選べって言われたから、死ぬって言っちゃった」
「バカ! そんなん無視すりゃいいだろうが!」
「でもね才兎、才兎のこと嫌いになるか好きなまま死ぬかって考えたら、死んだ方がマシじゃない?」
言葉が詰まる。俺はあいつと同じ選択を迫られた時、きっぱりあいつを捨てられるだろうか。
答えは、きっと否だ。
お互いがお互いに依存していたから、片方がいなくなるなんて考えられない。
でもな、それはお前だけじゃないんだよ。
「じゃあね才兎。大好きだったよ」
「っ、おい……!!」
今更手を伸ばしたって間に合わない。そんなことは百も承知だ。
それでも、手を伸ばしたら。あいつは掴んでくれる気がしたんだ。
そ ん な の 気 の せ い で し か な い と い う の に