夜だけじゃなく昼にも会いたいのに
「あ~焼肉美味かったな。千尋、夜景でも見てくか」
「そうだね!新」
新は1つ上で新入社員の私よりも先輩。
私と新は違う部署。
部屋が離れているとはいえ、私は知っている新の本命が新と同じ部署の先輩だということを。
昨日なんて、金庫の前で新はその女の人の腰を両手で押さえていた。
そちらの部署の人には背後だから見えていないけど、ガラス張りだし私には見えていた。
なのに、私を誘って来る。
でも私は悔しくも彼が好きだ。好きな人の誘いに断れるわけがない!
理由は簡単。
だってここは車の中。密室。
私じゃなくても断れない。
いつも夜景の見える裏夜景に連れてくるんだもの。
「千尋のピアス、新調したの?赤い鶴だ。似合ってるよ。可愛いじゃん」
そう言いながら新は私の耳に触って来る。
罪な人。きっと体目当て。
だけど、それは重々承知だ。
新は助手席にいる私の前に身を乗り出し、唇を重ねてきた。
こんなの、ずるいよ。
私の気持ちに気付いてる癖に。
私が断らないのもわかってるんだね。
そうは思いながらも、顔を離した新の少し潤んだ優しい目つきを見ると好きだと再認識してしまう。
強引だけど、優しさも残す。
そんな高度なことができる人がこの世に存在するなんて。
「ずるいよ……」
声に出てしまった。
新は私を覗き込み今度はいたずらっ子のような笑顔を向けてくる。
「何が?俺のこと嫌いになった?」
「っ……そんなわけないじゃん」
それから私は新の沼に飲まれてしまった。
飴と鞭がしっかりしていて、私は新のてのひらの上で転がされている。
新が誰のことを好きだろうが、私に勝ち目がなかろうが、
諦めたくても諦められない人、それが新だ。




