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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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26話 黒龍の剣

 ピクっと驚いたようにドライドが跳ねる。

 するとニッと笑って見せ、窯の横に置いてある箱を数人がかりで机の上に置く。


 ドスンと重そうな音を出し、ドライドが箱を開ける。


「コイツは伝説の黒龍の遺跡で発掘された素材で作られた片手直剣だ。素材の時からかなりの重さで、使った砥石も通常使う分の倍以上ときたもんだ。それに、剣として成立した瞬間更に重さが増しやがった。コイツを扱える奴は、もう“魔族”と言っても良いだろう。お前さんに持てるかな?」


 漆黒の刀身に柄、鍔の装飾も質素な作りだが、底知れない闇を思わせる黒さがある。

 レルゲンが剣の柄を持つが、自身の筋力では到底持ち上げられない重さだと気付く。


「いや、無理だな……重すぎる」


「まぁそりゃそうか。こいつは騎士団長のベンジーですら持ち上げるのに精一杯だったんだ。落ち込むことはねぇよ」


「あぁ、だからこうする!」


 両手で持ち上がらなかった剣を、今度は片手のみで持ち上げて見せる。

 これにはドライド含め、他の職人達も驚きの声を上げた。


「……!! どんな手品だ!?」


「あぁ、実はレルゲンはね」


 他の職人には聞こえないように、マリーがドライドに耳打ちする。


「なるほどねぇ、そんな魔術があるのかい。他の奴らには秘密にしておく」


 レルゲンが黒龍の剣を確かめるように見つめながら値段を尋ねた。


「助かる。ところで、この剣は買うとしたらどれくらいかかる?」


「構わねぇさ。遺物的な価値はあるだろうが、誰も使ってやれねぇ代物だ。お代は取らん。ただ、見せて貰いたい。その剣が振られているところを」


「わかった。多分危ないから外で振らせてくれ」


「おう。裏に試し切り用の藁と薪がある。そいつで試してみてくれ」


 試し切りが出来る所まで階段を上がり地上に出ると、暑さが少しだけ和らいだ。


「そんなに遠くからで良いのか?」


「あぁ、多分このくらいで丁度良いはずだ」


 置かれた薪までの距離は剣の間合いではなく、魔術を発動する時のように広い。

 この剣は魔剣と呼ばれる代物だ。

 魔剣とは多かれ少なかれ、使用者の魔力を消費してその効力を発揮する。


 ほんの少しだけ魔力を剣に込め、念動魔術で上段へ構える。

 剣に魔力が込められ、刀身が漆黒から紫色へと変化し始める。


 念動魔術を使って軽く振るった黒龍の剣は、不可視の斬撃となり、丸太をまるでチーズでも切るかのように滑らかな切断面を残して両断した。


 それを見たドライドが一言呟き、涙を拭った。


「よかったなぁ、担い手が見つかって」


 ドライドの工房を後にし、二人は服を選びに服屋が立ち並ぶ通りにやってきた。


 付近には喫茶店やちょっとした軽食が取れるような、上品な店が集中している。

 むず痒い気分になりながらも、レルゲンはマリーの後を追った。


 マリーは王族で、街にはあまり来ていないはずだが、慣れた様子で人混みを抜けていく。


 街ゆく人々はマリーの変装とも言えないような格好でも、堂々と歩いていることから気づいていないようだ。


 マリーが歩みを止め、レルゲンの方を向いて宣言する。


「ここよ!」


 他の服屋とは比べ物にならないほど規模が大きい。店内を見ると、庶民的な服や、上流階級の宴用の服まで。

 幅広い客層に展開しているようだ。


「普段は私の部屋まで来てもらっているんだけど、今日は色々見られるわね」


 本来の目的はレルゲンの服選びだったはずだが、やはりお年頃と言うべきか、マリーの気分が上がっている様子が見て取れた。


「マリーの服から見ていくか?」


「ううん、あなたの服から見ていきましょう。

 そこで待っていて! これから店員に言って個室を用意してもらうわ。服はこっちで見繕うから、あなたには着せ替え人形になってもらおうかしら!」


「わかった」


「……? やけに素直じゃない」


「さすがにこの格好でこの街は歩けないと気づいたよ」


「そう、ならいいわ」


 一旦マリーが店員に説明するまでの間、改めて店内を見回す。


 華美な格好をしている貴族の女性が、レルゲンを見て小声で何か言っているが、自分の服装を見てげんなりする。

 場違いな服装を自覚しているレルゲンは、甘んじてこの痛い視線を受け入れた。


 マリーが店員に説明を終え、レルゲンの方へ戻ってくる。


「準備があるから先に個室で待っていて欲しいって」


「そうか、じゃあ行こう」


 お得意様専用のエリアに二人で消えていく姿を見た貴族の女性達が後ろでざわついていた。


 レルゲンの服選びは思っていたより時間がかかった。鍛えているだけあって、体の線が綺麗だからと色々と試される。


 庶民寄りでも貴族寄りでもない、程よく上品な服装が似合うとわかり、また着替え続ける。


 最終的には少し余裕のある白のシャツに、紺のジャケット。

 下は黄色と茶色を混ぜたような色で合わせ、靴は黒系の動きやすいものを選ぶことになった。


 それを見たマリーがうんうんと何度も頷く。


「結構良いんじゃない! それで行きましょう!

 あなたは整っている方なんだから、やっぱりちゃんとした方がいいわよ!」


「何だか妙な気分だが、ありがとう。お会計はどこですれば良い?」


「何言っているの? まだ一着選んだだけじゃない。あと二、三着は買うわよ」


「お、おう……」


 マリーの服は良いのだろうかと思っていると、

 やはりそろそろ我慢の限界なのか、自分の服を選び始める。


 店員を呼び、似たようなタイプであと二、三着分頼んで良いか?

 と頼むと、笑顔で承諾してくれた。


 一着目の値段をこっそり確認すると、全部で闘技大会の賞金が吹き飛ぶくらいの値段だったので、そっと見なかったことにする。


 ユニコーンの討伐報酬もあるから一着目は何とかなるが……と思いマリーに相談する。


「足りない分は次の給料から引かれておくように……うーん、やっぱりいいわよ。私も何着か買うし、今回は面倒見てあげる」


「何から何まですまない」


「良いのよ、今までのお礼と思ってちょうだい」


 レルゲンが初給料日に確認した金額の桁が予想よりも多過ぎて、マリーに確認しに行ったのはまた別のお話。


「休みなしで私の警護なんだから、そのくらいないと駄目よ」


 と言われて一蹴されてしまったのだった。

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