159話 セレスティアの魔術理論
「やはり、単一の魔術を一度かけてから、次に新たな魔術をかけるとなると、バランスが崩れて術が勝手に崩壊を始めてしまいますね」
魔術は一つの効果を発揮させると、術式自体の効果はそこで完結するため、引くことも足すことも本来至難の業となる。
今回やろうとしているのは足す複合魔術。
効果を維持しながら上乗せする、と表現してもいい。
ここでセレスティアが以前レルゲンがやっていた火に風を混ぜることでブルーフレイムを作っていたことを思い出す。
「レルゲン。あなたが以前やっていた、ファイアボールにウィンドカットを織り交ぜて作っていた、ブルーフレイムはどうやって維持していたのですか?」
「俺は火が丁度よく風を送り込むと火が青く光る現象を知っていたからできたに過ぎないんだ。だから俺から伝えられるのは一つだけ。現実にあると『仮定できる』イメージが大事だと思っているよ」
「現実にあると仮定できるイメージ……」
レルゲンが言っていることは、実際に起こり得る現象を魔術で再現しているということで、セレスティアがやろうとしていることとは一見関係がなさそうにも見える。
しかし、ナイトとの戦いで初めてマルチ・シャインジャベリンを無詠唱で発動できたとき――魔術はできると思うことが、成功への一番の近道であると高らかに宣言していたナイトは、皮肉にも正しいと感じる場面が今までに何度も体験することがあった。
大事なのはできた後の結果を引き寄せること。
セレスティアが顎に手を触れて考え込むと、ウルカ先生が少しからかう。
「セレスティアは魔術の才能はあるけど、ちょっと頭が固いと思うの。もっと考えるんじゃなくて、それくらいできる。自分ならできて当然くらいの傲慢さがあなたには必要よ」
「わかっています。しかしここまで私が成長してきたのは考えあってこそ。魔術理論は捨てるのではなく、応用できるものと考えたいのです。その方が私に合っていると思いますので」
「うん。突き進むのも大事。自分にはこれが合っているという実感があるなら、やっぱりセレスティアはまだ伸びるはずよ。頑張って!」
「はい。ありがとうございます」
――レルゲンとウルカ様もできるものとして魔術の複合を捉えている。私の理論では魔術は発動したらそこで考えを切り離している。恐らくここが改善するべき点。魔術は一度発動すればそれで工程が終了するのは教科書の考え方。でも実際に見てきたものは、それで工程を終わらせるのではなく、そこからが始まり。ならば、私がやるべきことは単純な足し算ではなく、工程が完了している時点をゼロとして考えること。つまり、擬態によって姿を変えた状態をスタートとするならば、隠蔽魔術は変化した後の姿を全て覆い隠すこと! ……やってみますか。
「ふぅ……」
高速回転させていた思考を一度リセットするために、大きく息を吐き出す。
レルゲンを実験台にして、神杖を構えて意識を集中する。
「行きます……!」
エルフの耳を生やした状態での隠蔽魔術の発動は、セレスティアの理論通りに発動し、魔術同士が複雑に絡み合って自壊することなく維持し続けていた。
「や、やった! やりました……! レルゲン! ウルカ様!」
「さすがセレスだ。魔術適正Sは伊達じゃないな」
「私やレル君は考え方を教えただけよ。それを自分なりに解釈できたセレスティアの応用力が光ったわね」
――この考え方をもっと実戦向けに活かすことができれば私はきっと、もっと先に行ける!
「楽しそうだな」
「はい。やはり魔術はできたときの達成感が忘れられませんね」
「今日はこれくらいにしておくか?」
「いいえ、今はかなり調子がいいので、できるうちに成功体験を積んでおきたいです。これはまだ二つの魔術の複合ですし、ウルカ様が仰っていた三つ以上の複合魔術に少しでも近づきたいのです」
「わかった。警戒はこっちでやるから、セレスは集中して鍛錬に励んでくれ。ここなら街からかなり離れているし、今のセレスなら敵が隠蔽魔術で近づいてきても簡単に気づけそうだ」
「ありがとうございます」
神杖を握り直し、思いついた複合魔術を片っ端から試してゆく。
二つの魔術がストレスなく発動できるようになれば、今度は目標にしていた三つ以上の複合魔術の鍛錬に入れる。合わせれば合わせるほど、魔術はその術師だけが扱えるユニーク魔術へと近づいてゆく。
それこそ、レルゲンやナイトとはまた違った道を進んでいくセレスティアは、どんな魔術師になってゆくのか。
レルゲンも楽しみにしていることには変わりないが、遥か昔にもこうして魔術の手解きをしていたウルカは、遠い昔を懐かしむような温かい表情をしていた。
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