第4章:戦場となった田んぼ(1)
壊れた宇宙船から放たれた青い光が、田畑の真ん中から真っ直ぐ空へと伸びていた。
空間全体がわずかに震える。
まるで、何かが今まさに目覚めようとしているかのように。
機械的な声が響いた。
「確認完了……指揮主体」
強い風が草原を吹き抜ける。
ヴァン・ティエンはその場に立ったまま動かなかった。
彼の身体を包んでいた淡い青い光は、まだ完全には消えていない。
その目の前で、黒い装甲に身を包んだ生物がゆっくりと立ち上がった。
赤い瞳が、ヴァン・ティエンをじっと見つめる。
「やはり……お前があの男か?」
ヴァン・ティエンは眉をひそめた。
「何を言ってる……誰のことだ?」
だが、生物は答えなかった。
その身体を低く沈める。
ドンッ!
地面が爆発した。
次の瞬間、そいつはヴァン・ティエンの目の前に現れていた。
まるで斧のような横蹴りが、彼の目の前を薙ぎ払う。
ドンッ!
ヴァン・ティエンの身体が吹き飛んだ。
そのまま田畑を横切り、地面へ激しく叩きつけられる。
何度も転がり、ようやく止まった。
「……ゴホッ」
彼は激しく咳き込んだ。
手を胸に当てる。
胸郭が千トンもの岩に押し潰されているような痛み。
喉の奥から、鉄臭い血の味が込み上げてくる。
「……本当に、痛いな……」
ヴァン・ティエンは何とか立ち上がろうとする。
黒い装甲の生物が、ゆっくりと歩いてくる。
一歩。
また一歩。
そいつが歩くたびに、大地には亀裂が走り、周囲の草木が枯れていく。
冷たい声が響いた。
「思っていたより……弱いな」
ヴァン・ティエンは拳を強く握りしめる。
「お前……一体、何なんだ?」
生物は答えなかった。
ただ、腕を掲げる。
次の瞬間、腕から赤いエネルギーの刃が伸びていく。
周囲の空気が一気に熱くなった。
「――粛清」
そう言うと、そいつは突っ込んできた。
ヒュッ!
エネルギーの剣が振り下ろされる。
ドォン!
ヴァン・ティエンは咄嗟に横へ飛び退いた。
その背後の地面が爆発し、長い溝が一直線に刻まれる。
彼はそのまま地面を転がり、何とか距離を取った。
歯を食いしばる。
「……くそっ!」
だが、そいつは止まらない。
次々と攻撃を繰り出してくる。
ドンッ! ドンッ! ドンッ!
無数の斬撃が大地へ叩きつけられる。
一瞬にして、稲穂の広がっていた田畑は破壊され、戦場へと変わっていった。
ヴァン・ティエンは荒い息を吐く。
身体中が痛み始めていた。
「……もう、無理だ……」
「俺じゃ……こいつには勝てない」
黒い装甲の生物が動きを止めた。
赤い瞳が、獲物を見るようにヴァン・ティエンを見つめる。
「お前は……その程度なのか?」
そいつは剣を掲げる。
そして、剣の先にエネルギーの球体を作り出した。
周囲の空気が激しく震え始める。
凄まじい圧力が大地へとのしかかる。
ヴァン・ティエンは目の前のエネルギー球を見つめた。
本能が告げている。
危険だ。
「……あれを受けたら……俺は死ぬ」
心臓が激しく鼓動する。
ドクン……ドクン……
その瞬間。
ヴァン・ティエンの頭の中に、突然、奇妙な映像が浮かんだ。
巨大な戦艦。
冷たい星々。
そして……
宇宙に果てしなく広がる艦隊。
そして、声が聞こえた。
「船長」
ヴァン・ティエンは頭を抱える。
「……あ……!」
黒い装甲の生物が、冷たく言った。
「死ね」
そして、エネルギー球を投げつける。
ドォォォン!!
その瞬間。
ヴァン・ティエンの首にかかっていた十字架のペンダントが、強烈な光を放った。
青いエネルギーのシールドが、彼の身体を包み込むように一気に展開される。
ドォォォォン!!!!
爆発が田畑全体を飲み込んだ。
大量の煙と土埃が空へ舞い上がる。
黒い装甲の生物は、その場に立っていた。
そして、笑った。
「……終わったな」
だが――
その笑みは、すぐに消えた。
煙の中から、強烈な風が吹き抜けた。
爆発によって生まれた巨大な穴。
その中心に――
ヴァン・ティエンは、まだ立っていた。
身体の周囲には、淡い青い光が漂っている。
その瞳も、かすかに青く輝いていた。
黒い装甲の生物が、動きを止める。
「……あり得ない……!」
ヴァン・ティエンはゆっくりと顔を上げた。
その眼差しは、先ほどまでとは完全に違っていた。
冷静で。
冷たく。
そして――
どこか遠い。
まるで別人のような眼差し。
ヴァン・ティエンは黒い装甲の男を見つめる。
そして、口にした。
自分でも、なぜその言葉が出てきたのか分からなかった。
「――反撃を開始する」
黒い装甲の生物が驚愕する。
「お前――」
しかし。
最後まで言葉を発することはできなかった。
ヴァン・ティエンの姿が消えた。
次の瞬間。
彼は黒い装甲の生物の目の前に立っていた。
拳が、真正面から叩き込まれる。
ドォン!
黒い装甲の生物の身体が吹き飛んだ。
地面を長い距離にわたって削りながら飛んでいき、そのまま大地へ叩き落とされる。
ドォォン!!!
地面が大きく揺れた。
だが――
煙が晴れた頃。
ヴァン・ティエンの身体が、ふらついた。
身体を包んでいた青い光が、ゆっくりと消えていく。
彼は自分の手を見つめた。
頭の中が激しく回る。
「……今のは……一体……」
次の瞬間。
彼の身体から力が抜けた。
その場に膝をつき――
そのまま崩れ落ちた。
一方。
遠く離れた巨大な穴の中で、黒い装甲の生物がゆっくりと立ち上がった。
その装甲には、大きな亀裂が走っている。
赤い瞳が、倒れたヴァン・ティエンを見つめる。
そして、低く呟いた。
「……やはり……お前があの男だ」
だが、そいつはヴァン・ティエンへ近づこうとはしなかった。
ただ、空を見上げる。
軌道上。
巨大な黒い戦艦が、静かに戦場を見下ろしていた。
その内部から、声が響く。
「確認したか?」
黒い装甲の生物は頭を下げる。
「……確認しました」
すると。
戦艦の中の声が、かすかに笑った。
「……実に、興味深い」
黒い装甲の生物は、倒れているヴァン・ティエンへ視線を戻す。
「今回は……見逃してやる」
「だが、次は……そうはいかない」
そう言い残すと。
その身体はロケットのように、一気に空へ飛び上がった。
数秒後。
空は再び静寂に包まれた。
風が、再び田畑を吹き抜けていく。
かつて一面に広がっていた稲田は、今や見る影もない。
戦場と化した大地の中心で――
ヴァン・ティエンは、意識を失ったまま倒れていた。
ありがとうございました。
また次回。




