第9話 出来レース?
今年もよろしくお願いいたします。
「クリスティーン嬢……俺のこの決断が無ければ、貴女はどうなっていたのか、教えてくれないか?」
バクバクと俺の動悸が激しくなる。彼女の最悪な未来でなければ良い、と思い訊いたが――。
彼女の表情は少し強張った。
「父に……父に何か聞かされたのですか?」
俺は何も答えられなかった。
彼女の父、ロッソ公爵から彼女をアールムに嫁がせる考えを聞かされたなどと言えなかった。しかし、彼女の何の感情も読み取れないほどの冷めた瞳に、そのような『夢』を、未来を見ていたようにも感じられた。背筋にゾワリときた。
「いや……そのことは、やっぱり訊かない事にする……俺は王になる。その決断をしたのだから、貴方の未来は変わるはずだ」
彼女の表情から、見たであろう『夢』がとても幸せだったとは考えられなかった。彼女の見た最悪の未来を変えたいという想いが、静かに沸き上がる。
実際、変わるかどうかなんて俺には分からない。だけど、変えたい、そして共に同じ道を歩みたい。そう心から思った。
俺の後ろ盾になってくれるのはロッソ公爵だけではないはずだ。どれくらいの貴族が味方に付いてくれるのだろうか。それも、明日になればわかる。
いずれ、彼女を伴侶と迎えられるように、皆に認められる国王になる。
「国民のために、そして貴女のために俺は王になりたい」
クリスティーン嬢は少し緊張した面持ちで俺を見つめ、ぎこちない硬い口調になった。
「ジルベール殿下には……辛い想いをさせてしまうかもしれません。もしかすると現国王と王妃、クラウス王太子殿下の命も奪わせてしまう可能性もあります。出来れば、それだけは避けたいと私は思っておりますが……それでも、国民を、国を背負って頂けますか?」
俺がクラウスを王位継承第一位から引きずり下ろすという事は、そういう事態もあるということだ。
俺は軽く目を瞑り、一国の王となるには必要な覚悟だと、心の中で言い聞かせた。この後、彼らがどうなろうと、自分が国を背負わなければならない。
「ああ、力を尽くすと誓おう」
俺は目をゆっくり開き、彼女に意志を伝える。
クリスティーン嬢は強張った肩の力が抜け、ホッとした表情になった。
力を尽くすとクリスティーン嬢と誓った翌日午前中に、ロッソ公爵と共に応接室に向かった。昨日ほどでは無かったが、屋敷の中はざわついていた。俺は黙って公爵の後を付いていく。
公爵は一つの部屋の扉を鳴らさずに開けた。扉を開けると、部屋の中にいた顔ぶれに俺は驚いた。
ロッソ公爵の他に、ブル公爵、ヴェルデ公爵とこの国の三大公爵当主が揃う。何故か、国王より威厳がある公爵たちだ。
一人の公爵に会うだけでも、かなりの緊張をする。それなのに、三人揃うと蛇に睨まれた蛙のようだ。威圧するような雰囲気を感じる。
「ロッソ公爵殿、いくら自分の屋敷だからと、ノックをせずに扉を開けるのはどうかと思うぞ」
呆れてロッソ公爵に注意したのは、彼と同い歳ぐらいだと聞いているブル公爵だ。歳のわりには若く見えるのは、鍛えられた体のせいだろうか。騎士団を抱えている公爵家からか、当主自身も鍛えていると聞いたことがある。
そしてその三人の他に、赤色の騎士服を着たクリスティーン嬢と昨日のカールとかいう騎士もいた。しかもお互い、肩が触れるか触れないかぐらい離れて並んでいる。まあ、肩と言っても身長差があるから、肩同士ではないんだが。それにしても、やっぱり、あの男は気に入らない。
「ジルベール殿下。我々が貴方様のお力になりますが、何かご不満でもおありでしょうか?」
そう俺に声を掛けたのは、背中まである花の藤の色に似た紫の髪色に長い睫毛で女性かと思わせるほどの色気を醸し出しているヴェルデ公爵だ。
「何も不満はないが? 三つある公爵家が全て俺に協力してくれるというのに」
ヴェルデ公爵の質問の意味が掴めず、俺は正直に答えた。
「不満げな顔をしているぞ。大方、違うものに不満を持っていたのだろう」
別の事で不満げな顔をしていたのをヴェルデ公爵は自分たちに不満なのかと、勘違いしたらしい。
ロッソ公爵が俺を見下すように横目で見つめ、フンと鼻で笑う。
不満げな顔になっていた理由をロッソ公爵にはお見通しだったようで、俺は心の中で、チッと舌打ちする。態度に出せないのが心苦しい。立場的に公爵の上に立つのは俺だが、今はまだお飾りでしかないだろう。表情と態度には気を付けないといけないと自分に言い聞かせた。
「公爵家が俺の力になってくれることは心強い。皆の期待に応えられる王になると誓おう」
三公爵家の当主たちの目の前で、俺は偉そうに言い切った。しかし、態度とは裏腹に、バクバクと心臓を打つ。実際、今まで俺は公爵家当主三人が揃って会う事なんてなかったのだ。
「馬鹿な事をしなければ、我々はジルベール殿下を見放すことは無い。学園での成績は首席だと聞いたが、クラウス殿下よりはマシなんだろ?」
上から目線で少し棘のあるような言い方をしたのが、ブル公爵だ。
「多分な」
相も変わらず見下すように俺を見ながら、そう答えたのはロッソ公爵だ。本当にこの公爵たちは俺を王にするつもりがあるのだろうかと疑ってしまう。
「さて、ここに貴方様の味方になる貴族たちの名簿です。一度ご覧ください」
ヴェルデ公爵から名前の書かれたリストの紙を数枚、受け取る。その紙にはズラリと名前があった。
「こ、こんなに?」
公爵家から始まり、侯爵、伯爵、子爵、男爵と名が連なる。その男爵の中にカールの名前もあった。しかし、よく見ると、この国の殆どの貴族たちの名前が載っていた。
「ほとんどの貴族の名前があるのでは?」
「それだけ、皆、王家に不満を持っていたという事だ。あれだけ無謀にも税金を取り上げればそうなる。ここまでとは予想していなかったが」
ロッソ公爵は冷めた声で淡々と言うと溜息を漏らす。
貴族の名前を見て自分がどれだけ国に対してあまり関心を持っていなかったのかを思い知らされていた。今の王家に味方をする者は、殆どいないのだ。
それに、この国の三大公爵家が謀反を起こすと言えば、王家側に就くのは自殺行為に等しい。なぜなら、この国の四つある騎士団のうち三つは公爵家が管理しているからだ。残りは王家直属の騎士団だ。これも貴族や平民から成り立っている。貴族たちの殆どがこちら側に味方に付くのだから、王家の騎士の数もグッと減る事になる。残りは平民だが、逃げ出すものもいるかもしれない。
王家の騎士といえど、俺だって無暗に国民を傷つける事はしたくない。
「さて、明日からでも動きますか?」
「は?」
俺はヴェルデ公爵の一言に驚いた。
明日から? そんなに早くに? 作戦とか練らなくても良いのかよ。
「ああ、良いだろう」
「は?」
今度はブル公爵の一言だ。
何が良いんだ?
俺が戸惑っていると、クリスティーン嬢が俺の傍に来て説明をしてくれた。
「ジルベール殿下。先ほどの名簿をご覧になられましたよね? 私たちは、せいぜい半分こちら側に付けば良い方だろうと考えていたのです。それが、殆どの貴族が殿下側に付きました。どこまで現国王が抵抗してくるか分かりませんが、落ちるのも時間の問題だと思われます」
「そ、そうなのか?」
俺に付いたと言うより、三大公爵側に付いたんだろ? もう、出来レースやん。
「殿下には生半可な覚悟で気持ちで国王になられても困りますからね。少し発破をかけました」
ヴェルデ公爵がにっこりと微笑む。
もう少しどころではない。腹黒三人公爵に俺は頭を抱え込んだ。
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次回更新は来年1月10日更新予定です。
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