第20話 誰もが認める国王になる
よろしくお願いいたします(#^.^#)
その夜――。
夕食後に、夜の中庭を散歩したいと護衛に付いていたクリスティーン嬢に俺は伝える。そう伝えれば、かなりの確率で彼女は俺に付いてくるはずだということは予想していたからだ。
「承知致しました」
予想通り、普段と何の変りもなく、澄ました表情で返事が返ってきた。その声を聞き、緊張しつつも、俺の心臓は静かに脈打つ。
俺はずっとクリスティーン嬢への想いを心に秘めていた。
クリスティーン嬢がクラウスと婚約していた頃から、恋い慕っていた。けれど、王太子の婚約者という立場だった彼女には伝えることが叶わなかった。だが、今はあの頃とは違う。俺の立場が変わった。自分の口から言葉にしても良い立場になったのだ。
継承式が終わったら、自分の想いをクリスティーン嬢に伝えようと、俺はそう考えていた。
そうだ。今夜、彼女に伝えよう。
部屋から出ると、やはり彼女も後から付いてきた。長い廊下を抜ければ、中庭に出る。レンガタイルが敷かれている道は靴音だけが聴こえた。静穏の中、俺の後ろを彼女が背筋を伸ばし歩いてくる。周りの所々には、ぼんやりとオレンジ色の光が灯されて、幻想的な空間のように見えた。
そして、静かで少しひんやりとした澄んだ空気はとても心地よく、晴れた夜空を見上げれば、空一面に無数の小さな星が美しく輝いている。それはまるで、二人だけしか存在しない世界のようだった。
少し開けた場所で俺はゆっくりと振り返った。紫のクリスティーン嬢の瞳と合う。微風に彼女の綺麗なシルバーブロンドの髪が僅かに靡いた。
「クリスティーン嬢」
俺は彼女の前で跪いた。
「こ、国王陛下!?」
当然、彼女は慌てる。流石にあまり表情を変えない彼女も、この瞬間は躊躇うほど驚いていた。
そんな彼女の前で俺は更に頭を垂らし、主君に忠誠を誓う騎士のような姿勢をする。
「陛下! 何を!? 陛下がこんなところで――!」
更に慌てるクリスティーン嬢の手を取り、顔を上げた。彼女のアメジストのような瞳の奥には俺が映って見える。
「クリスティーン嬢。継承式の後に話したいことがあると伝えていただろう」
彼女の瞳は更に見開く。
「俺は貴女と共に、この国を守りたい。俺に、貴女の剣となり盾となることを誓いたい……誓う。貴女を守らせてほしい。だから、これからもずっと俺の横にいてくれないか? いや、いてほしい……いずれ、俺の妻となってほしいのだ」
最後まで言い切った俺は、やっと言えたと安堵した。けれど、クリスティーン嬢を見ると、目を見開いたまま石の如く固まっていた。
息をしているのか?
大丈夫なのか?
息をしていないのではと思う程、ビクリとも動かない。そんなに驚く程、衝撃的だったのか。
俺はもう一度、彼女の名前を呼ぼうとしたとき、掠れるような声が遅れて聞えてきた。
「…………え?」
未だに唖然としてこちらを見ている。思考が追い付いていないのか、これはもう一度言わないといけないのかと不安になってきた。
「妻になってほしい……? そ、そんな事になったら、私は騎士になれません」
眉間に僅かに皺が寄り、渋面をされた。
「クリスティーン嬢はどうして騎士になりたいんだ?」
ずっと疑問に思っていたことだ。騎士になりたいと思わなければ、あれだけの剣術も必要なかっただろう。学園にいた時も勉学だけではなく、剣術にも彼女は力を入れていた。他の令嬢を見れば、彼女が少し異常だと誰しもが思う。
クリスティーン嬢は少し躊躇いながらも、ゆっくりと言葉を選ぶように話を始めた。
「私は……。母は私を産んで、間もなく亡くなりました……。母の記憶はありません。私は父の姿しか見てきておりません。そして、私は父のような騎士になりたい。父のようにこの国を守れる騎士になりたい」
クリスティーン嬢の言葉と共に、徐々に紫の瞳から強い意志を感じた。それだけ、父親のロッソ公爵の影響が大きいのだろう。母親が生きていれば、また彼女も違った生き方ができたのでは、と考えてしまう。
彼女の思うようにさせてあげることが、彼女のためになるのだろうか。
彼女の望み通りに――と言う自分がいたが、「そんな事はダメだ」と引き留めるもう一人の自分がいた。今の俺にはクリスティーン嬢にとって何が正しいのか分らない。けれどこのままでは、クリスティーン嬢の婚姻が他国との政略結婚にされてしまう可能性だってある。
他国に、ましてやアールムには行かせたくない。
その気持ちが俺の中では、一番強かった。これが彼女を守る方法だった。俺は立ち上がり取っていた彼女の手を両手で包む。
「この国を守るのは騎士だけじゃない。貴女は他の方法でも国を守れるはずだ。だから俺の傍に……護衛や騎士ではなく、俺の伴侶として傍にいてほしい」
長い間、兄クラウスの婚約者として王太子妃の教育も受けていたクリスティーン嬢なら、王妃になれる器がある。以前、俺が次期国王に相応しいと思っていると言ってくれたように、俺もクリスティーン嬢が王妃に相応しいと思っている。それは、俺が好意を寄せているから、そう思っているわけでもない。
本当はクリスティーン嬢の気持ちが俺に向いてくれてから、こういう話をしたかった。彼女の気持ちも優先したかったが、そうも言っていられなくなった。
「……その、俺の妻となるのは……嫌か?」
気持ちが焦ってしまって、情けない訊き方をしている自覚もあった。けれど、遠回しに訊いてもクリスティーン嬢に俺の気持ちは伝わらないだろう。
「少し……少し考えさせてください……」
少し俯き、今にも消えそうな震える声でクリスティーン嬢は言った。彼女の表情を見れば――無表情である。
「……分かった」
これ以上何も言えなかった。
それでも、その返事を聞いて少しほっとする自分がいた。完全に断られる確率も無きにしも非ずだったからだ。けれどクリスティーン嬢は、考えさせてほしいと言った。まだ望みがあると確信するが、ただ考えさせてほしいということに不安要素もあった。
きっと、クリスティーン嬢はロッソ公爵に今日の事を報告するだろう。
彼が娘を王妃にすること自体、どう思っているのか。
本当に娘の事を政治の道具として見ているのか。
そして、クリスティーン嬢はどんな未来の夢を見ていたのだろうか。
少しづつでもその夢が良い方向に変われば良い。変えていきたい。
翌朝、煌びやかな部屋の一室で俺は書類を眺めていた。
今日の護衛はカールだ。気のせいかもしれないが、カールから視線を感じる。けれど、睨まれているようなものではなかった。どちらかと言うと、探られているようなそんな視線だ。
もしかしたら、昨夜のことがカールの耳にも入ったのかもしれない。そんな事を思うと、一層、視線が気になり出す。
書類にペンを走らせていると、ガチャッと乱暴に部屋の扉が開いた。まあ、こういう入り方をするのは彼しかいない。いつもヴェルデ公爵に注意されているロッソ公爵だ。
「国王陛下。話がある」
上から目線の貫禄のある声だった。
この冷ややかな瞳にもかなり慣れてきたが、昨日の今日だ。悪いことはしていないが、後ろめたさを感じ、この瞳で背中に冷たいものが流れる。これでは、どちらが国王なのか分からない。
「何でしょうか?」
ここは「何だ」と聞くべきだったと、つくづく自分に呆れてしまう。この威厳の前では俺は蛇に睨まれた蛙だ。
「娘にプロポーズをされたようだが」
「プ、プロ、プロポーズ!?」
俺は素っ頓狂な声を出してしまった。いや、プロポーズをした覚えは……。昨夜の事を反芻する。いずれ、とは言った覚えがある。じわりじわりと、顔が熱くなった。
あれは、確かにプロポーズだ。
「したのか、してないのか、どっちだ」
「は、はい。しました!!」
慌てて答える俺を見て、ロッソ公爵は腕を組み、鼻で笑われた。まるで、お前ごときがよくそんな事を言えたもんだなと言われているような気がした。
「娘を王妃にして、この国の徳になることがあるのか?」
その言葉に俺は両手をぐっと握りしめた。カールも目を見開いて驚いている。カールにとってもこの言葉は予想外だったのかもしれない。
俺は、直ぐに「ある!」と断言した。
「クリスティーン嬢は優れた方です。国の為に王妃としての役割も果たす事ができるはずです」
ロッソ公爵は呆れを含んだ溜息を吐き出す。
俺は何か不味いことでも言ったのか?
「なら、娘に似合う国王になれ。誰もが認める国王に成れ」
目を見開いた俺をロッソ公爵は面白いものを見るかのように目を細めた。
いつも読んでくださって有難うございます。
ここで第一章を完結です。
思っていた以上に読んでくださる方がいらっしゃったので、書くことが出来ました。
ありがとうございます(#^.^#)
第2章は、少し書き溜めたいので、5月辺りから更新しようと思っております。
書き溜めれるように頑張ります。
来週からは他のサイトで更新しておりました作品を少し修正したものを
更新しようと思います。
そちらの方もまた、読んでくださると嬉しいです。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




