第2話 忠誠を誓う
昨日に引き続きの投稿です。
読んでくださるとうれしいです。
俺はこの国の第二王子として生まれた。父はこの国王。母は側妃だった。正妃の子、クラウスが王太子になる。自由気ままに育ったクラウスに対し、俺はありとあらゆるものを習得してきた。せっかく王族として生まれたからには、学べるものは学ぶべきだと思った。優秀な教師も付けてもらい教わった。何しろお金の心配をしなくても良いのだから。
お陰で、学園で学べるものの成績は全てトップだった。ちなみに僅差で次席はクリスティーン嬢、彼女であった。俺は彼女の隣を歩くことは出来ない。だから成績だけでも順位を並べられることに幸福を感じた。
そして令嬢でありながら剣術も秀でていた。王太子のクラウスよりもだ。
一度手合わせをお願いしたことがあった。剣筋も悪くない。とても有意義で幸せな時間だった。
「僕は王太子だ。守られる立場だ。そんな物騒な剣術は必要としない!」とクラウスはいつも強がりを言っていた。
そのクラウスに婚約破棄を言い渡された彼女は、読めない表情で凛としてホールの真ん中に一人で立っていた。
「これで、私は失礼します」
もう話すのもウンザリだと言うように、また彼女は出て行こうとする。
「待て! クリス!」
クラウスは女々しく彼女を引き留める。だが、まだ愛称で呼ぶクラウスを彼女は鋭い眼差しで睨みつけた。クラウスは怯みながらも叫ぶ。
「こ、こここのあとの貴様の処遇が気にならないのか!?」
今度は軽く溜息を吐き、彼女は「馬鹿馬鹿しい」と呟いた。
その言葉が聞こえたようで、今度はクラウスが彼女を睨み付け「何だと!」と叫ぶ。
「このあとの処遇を気になさらなければならないのは王太子殿下でございます。まあ、私も国王陛下がどう対処されるか、気にはなりますが……」
凛とした彼女の声に、呆気に取られているクラウスをよそに、彼女は美しいシルバーブロンドの髪を靡かせホールを後にする。途中、彼女の紫水晶のような瞳と目が合った。その美しさに俺は見とれていたが、彼女は口角を上げ微笑んだ。まるで天使が、否、女神が微笑んでいるように見えた。そして堂々と静かにホールを出ていく。
俺はその姿に暫く見惚れていたが、ホールから出て彼女を慌てて捜しに行った。
もしかしたら先程のクラウスとのやり取りは強がりで、今は落ち込んで泣いているのではないかと心配になった。
ホールを出て彼女の後を追う。
ホールのパーティーの賑やかさとは逆に静まり返った廊下をコツン、コツンと硬質な靴音がゆっくりと聞こえた。
クリスティーン嬢だろうか?
最初はその音がとても切な気に響いて聞こえていた。
しかし、後を追いかけているうちに、段々とココン、ココンと弾むようなテンポで早くなり楽し気に聞こえてくる。俺はその音の方向に急ぐ。そして次第に、楽し気な靴音と共に鼻歌が聞こえて来た。薄暗い廊下にスキップしている深紅のドレスを着た令嬢が見えた。彼女だ――。
「クリスティーン嬢! お待ちください!」
俺の声が廊下に響き渡る。
彼女はくるりと振り向く。やはり先程の態度は強がりで何でもなかった。何事も無かったような表情をされていた。
「ジルベール殿下」
「クリスティーン嬢。このあとはどうされるのですか?」
「家に帰るだけですけど――?」
彼女は愛らしく首をこてん、と傾げる。
その仕草に俺は一瞬、見とれてしまった。
「あ、いや、そうではありません……。王太子殿下と婚約が破棄された事で……」
クラウスには彼女は勿体ない。確かにそうなのだ。だが、次期王妃には彼女が相応しい。
「国民は、決して誰もあなたが次期王妃には相応しくない、とは思っていないはずです。誰しもが、貴方が王妃に相応しい、と」
国中がそう思っている。思っていないのは、クラウスと将来の側近だ。
「ありがとうございます。ジルベール殿下。慰めてくれているのですね」
申し訳なさそうに彼女は微笑む。お礼を言われ、俺の顔は、ぽっと赤らんだ。
「い、いえ。事実です!」
そうだ、事実だ。慰めでもなく紛れもなく事実。彼女なしでは、あの馬鹿クラウスもこの国の国政など出来ないだろう。
「私は、次期国王はジルベール殿下が相応しいと思っておりますのよ」
彼女にそう思って頂けているだけで俺の重苦しい心が少し軽やかになった。けれど俺は側妃の子だ。母は子爵令嬢で侍女として王宮に働きに来ていた。そこに国王の目に止まった。そんな身分の子がどう願っても国王に慣れない。その事は彼女もご存じのはずだ。
彼女は「うーん」と首をまた傾げ考えているようだった。そして「あっ」と何か閃いたようで、俺にニッコリと笑いかけ、そっと耳元で囁く。
「ジルベール殿下。もし私が手を貸して頂きたいと申し上げたら、貸して頂けますか?」
心地よい愛らしい声で俺の顔を覗き込み、まるで誘惑するような口調で囁かれ、俺の頬は、またもや薄っすらと赤らむ。大好きなクリスティーン嬢の頼みならば、俺の手で良いのならいくらでも貸すつもりだ。
「はい、この国を敵に回してもクリスティーン嬢には忠誠を誓います」
俺は片膝をつき、主君に忠誠を誓う騎士のようなポーズをとる。その様子を見て彼女は目を丸くして驚いていた。
そりゃ、そうだ。
手を貸してほしいと言っているのに、何故、忠誠を誓うのだと驚くのは無理もない。だが、俺はそれほど彼女の力になりたかった。俺は本気だ。どうせ王位にはつけない。それだけ俺は自由の身だ。彼女が手を貸してほしいと言われれば、王家に背いてもお助けする覚悟がある。
「ふふふ。王子殿下ですのに、この国を敵に回すのですか? 本当に?」
「はい!」
今日はやけに微笑みを返してくれる。彼女は機嫌が良いのだろうか。この時は、ぼーっと彼女を見ていたが、覚悟はちゃんと持っていた。しかし、まさかあんな事になるとは思いもしなかった。
卒業パーティーの後にクラウスと俺は王に呼ばれた。ついでに王妃もその場にいた。
「大馬鹿者ーー!!」
王の執務室で大声を上げてクラウスに怒鳴っているのは、当然、国王陛下だった。
そりゃあ、怒りたくなるわな。
俺は実母から聞いて知っている。ロッソ公爵のクリスティーン嬢をクラウスの婚約者に取り付けるのに、どれだけ苦労したか。ロッソ公爵は、なかなか首を縦に振らなかったものを何とか振らせて彼女を婚約者にしたというのに。
ああ、俺なら絶対に手放さないのに。何故俺じゃないんだ――。
「陛下。そんなに大声で怒鳴らなくても良いでしょう? あんな愛想の無い可愛げもない令嬢を義理の娘になるのは、私も嫌ですわ」
王妃が口を挟んだ。
「父上、俺も嫌です!」
息子も息子なら母親も母親だ。馬鹿げている。この国ももうそろそろお終いか。
しかも、クリスティーン嬢を可愛げもない令嬢とは……。
あの二人の目は腐っているのではないのか?
「ジルベールよ。お前も一緒に居ながら、何をしていたのだ?」
「申し訳ございません」
何故、俺まで攻められないといけないのか。もう、呆れてしまってこの場所には居たくなかった俺は、適当に謝り、国王に退出の許可を貰って部屋をでた。
そして、クリスティーン嬢に先程言われたことを母に話すために部屋に向かった。
暫くは土曜、日曜で更新していこうかと思います。
出来なかったらすみません。m(__)m




