第19話 認めたくない
よろしくお願いいたします(#^.^#)
儀式が終了し、俺はいつもの自室に戻ってくるものだと思っていた。
しかし、ロッソ公爵に導かれ案内された部屋は、今まで滅多に入ることのなかった天井の高い広い豪奢な部屋だった。部屋中のありとあらゆるもの全てが華奢な装飾が施されていた。
俺はこの部屋を知っている。ここは国王が使う部屋だ。父、前国王も使っていた。けれど俺に興味がなかった国王は、自分をこの部屋に呼ぶことは少なかった。
そしてこの部屋は、今まで使ってきていた部屋とはまるで違う。ここまで、華やかにする必要がなかったのではと感じた。花の活けていない陶器の花瓶一つでも精緻な物で高価そうに見えた。
数える程度しか来たことのない部屋は、殆ど変わらず煌びやかだった。
煌びやかすぎて、落ち着かない――。
今までが質素な部屋だったからだろう。必要最低限な物しか置いてなかった。今までの差に、感嘆な声より呆れた溜息が出る。
「国王陛下、お疲れさまでした」
いつの間にか、部屋を退出をしたロッソ公爵と入れ替わりに入って来たのは、護衛騎士のカールとクリスティーン嬢だった。彼女が聞きなれない呼び名で労いの言葉をかけてくれた。
国王陛下――か。
まだ実感もないし、どうもしっくりこない。名前で呼んでもらえない事にふと、寂しさを感じた。
国王になりたかったわけでもない。それでも自分が立ち上がらないといけないのだと思った。それに多分……多分だが……思い過ごしかもしれないが、三大公爵家が俺に期待をしてくれていると感じていた。
無表情で立っている彼女にちらりと見て、我儘なお願いを言ってみる。
「クリスティーン嬢。その……名前で呼んでもらえないだろうか。ジルベールと」
「無理でございます」
真顔ではっきりと断られる。しかし俺はもう一度訊いてみた。
「では、ジルベール国王陛下と呼んでくれないか?」
「無理でございます。長くて舌を噛みます」
彼女は先程と殆ど変わらない表情だ。流石に噛むほど言い難いとは思えない。笑いを取ろうして言っているのか、本当に真面目に答えているのか。こういう所は父親のロッソ公爵と似ているなと思う。
「では、ジル国王――」
「無理でございます」
最後まで言い切る前に、あっさりと断られる。俺はガクリと肩を落とした。カールは少し肩を揺らしながら顔を下に向けていた。きっと笑いを堪えているに違いない。
しかし、カールは直ぐに「護衛の件ですが」と真っすぐに俺の顔を見直す。
話があるから、この部屋に来たことは分かっていたが、流石と言うべきか、男爵とは言え、将来公爵の後継者ともなれば、振る舞いの切り替えが早かった。
「本日からカール・エバンスとクリスティーン・ロッソが正式に陛下の護衛を担当させていただくことになりました」
「……は?」
カールはともかく、彼女がいくら剣に秀でているとは言え、公爵令嬢だ。臨時での護衛ならば、仕方なく妥協はするが、正式にとは、そんな事を認めることは出来ない。
「何故だ? 何故、彼女まで俺の護衛に付かせる!?」
「彼女のたっての希望です」
俺は彼女の方を見た。澄ました顔で彼女は立っていた。
危ないから護衛は辞めてほしいと訴えても、きっと今は何を言っても無駄だろうなと思った。なんだか彼女の性格が段々分かってきたような気がする。信念が強いのだろう。要は頑固者だ。
以前、カールと彼女が鍛錬をしている様子を見ていた時に、実践さながらのようだった。あそこまで激しいと、彼女は騎士を目指しているのではと思った事を思い出す。
「それでも、クリスティーン嬢はまだ騎士でもないはずだ」
そうだ、ロッソ公爵の騎士団の制服を着ているが、彼女はまだ正式に騎士ではない。カールが着ている制服には、騎士だという証の金のモール紐が左肩から胸にかけて付いていた。
我が国の騎士には、このモール紐が三色あり、実力や階級、その他のもろもろな理由によって白、銀、金と分かれる。そのモール紐がクリスティーン嬢の肩には付いていなかった。
そして、この国の騎士団は所属の公爵家当主から、正式に騎士として認めてもらえないと紐が貰えない。これはロッソ公爵が彼女をまだ正式な騎士扱いに差せていないという事だ。
「陛下は彼女が正式に騎士になれば、護衛としてお認めなさるのですか?」
「…………」
カールの言葉に俺は黙ってしまった。騎士であろうがなかろうが、危険な事をしてほしくないという気持ちがあるからだ。
急に、カールはクリスティーン嬢にお茶を用意するように伝える。彼女の表情がムスッとした。不満を感じている様子だった。
多分、あれだな。そんな事は、侍女に任せれば良いと思っているのだろう。
けれど、カールにもう一度「お茶を用意しなさい」と言われると、渋々部屋から退出していった。
「陛下……。先ほどの話です。クリスティーンが騎士になれば、護衛としてお認めになるのですか? 騎士でなければ護衛に付くことは出来ないとおっしゃるのであれば、ロッソ公爵に願い出てみます。きっと彼女の実力なら、直ぐに騎士の称号を頂けるはずです」
「そんな事は……望んでいない」
「陛下が望んでいなくても、当の本人は望んでおります」
「何故、クリスティーン嬢は騎士になる事を望んでいる?」
「それは、本人からお聞きになってください。しかし、ロッソ公爵も簡単には娘を騎士にさせたくないようです。騎士になれば、もっと危険な事もしないといけない。争いごとがあれば、真っ先に出なければならなくなります。このまま陛下の護衛をしていれば、私が彼女も一緒に守れます。陛下の身はご自身で守れますよね?」
この話をするために、カールはクリスティーン嬢を部屋の外に出したのだろう。
確かに、俺だって彼女以上には剣を振れる。なんだって学園では実技でも首席で卒業をした。王子時代は護衛も殆ど付かなかった。だから、自分の身は自分で守って来た。護衛が付いたからと言って、護衛に頼りぱっなしな事はしない。
自分の身は自分で守る――が、『私が彼女も一緒に守れます』というカールの言葉が気に入らなかった。
だったら俺だって、彼女を傍に置いて守ってやろうじゃないかという気になって来た。
そうだよな。俺が守られるんじゃなくて、守ればいいんだ。
「陛下。ご理解いただけたようですね。ですが、もしも何かあれば、私は彼女より陛下を選ばなければなりません。ですので、しっかりと鍛えておいてください」
どうやら、俺は顔に出ていたらしい。
自身の身も守れ、彼女も守れる力が欲しい。鍛錬は必要だろう。先日、クリスティーン嬢と一緒に鍛錬をしているのを見ていたからカールの腕前は分かっていた。少し悔しい気持ちはあるが、自分の相手には申し分なかった。彼の方が上だと感じたからだ。
「カール、これから俺の剣術の相手をしてくれないか? 大切なものはしっかりと守っていきたい」
カールは嫌な顔をせずに、少し口角を上げた。
「承知いたしました。手加減はいたしませんよ」
「当たり前だ。手を抜かれては鍛錬にならない」
よろしく頼むと、頭を軽く下げたところで、コンコンコンと扉が鳴った。カールが扉を開けると、感情を露わさないようにしているクリスティーン嬢が立っていた。
「お茶をお持ちしました」
ワゴンに乗せ、押して入って来た彼女は手際よくカップにお茶を入れていく。
洗練された所作で、見ているだけで感嘆な溜息が出そうだった。
「何のお話をされていたのですか? どうせ、私に聞かせたくない話をされていたのでしょう。そうですよね、カール兄様」
クリスティーン嬢の所作に見惚れていると、一通りの作業が終わったのか、彼女は少し上目遣いに睨むようにカールに訊ねる。けれど、その表情には緊張感が漂っていた。
察しの良いクリスティーン嬢は、何故自分がお茶の用意を頼まれたのかを理解していたのだ。
「いいや、そんな事はない。陛下の護衛に貴女を付かせる許可を貰っていただけだ。許可は頂いた。そのまま、陛下の護衛に付いてくれ」
カールはそんな彼女の態度にも動じず、何事も無かったようにそう答えると、彼女は安堵の笑みを浮かべた。
そんなにもクリスティーン嬢は護衛に付きたいのかと。本当は彼女が護衛をすることを認めたくないが、何故、そこまで頑なにこだわるのか不思議だった。
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次回更新は3月21日前後あたりの更新予定をしております。
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